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とある3年4組の卑怯者

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80 旅行

 
前書き
 今回からは藤木とリリィが旅行するエピソードです。そんな休み期間あるのかとは思いますが、正月休みの期間だとでも考えてくださればオーケーです。 

 
 とある日、藤木はボーっとしていた。休みの日だから、父も母も家にいた。その時、ドアのチャイムがなったのだった。藤木の母が出迎えると、リリィとその両親だった。
「あら、こんにちは。どうしたんですか」
「ちょっと、お誘いしたい事がありまして」
 藤木の母はリリィの家族を居間に通し、息子と父を呼んだ。
「茂、リリィさんとそのご両親が来たわよ。お話ししたいことがあるって」
「え?」
 藤木は居間に向かった。そして藤木家、ミルウッド家の面々と顔合わせとなった。
「で、いったい何でしょうか?」
 藤木の母が聞いた。
「私達、飛騨高山の方へ旅行に行く予定でいるんですが、友達も誘っていいと娘に言ったら、是非藤木君を誘いたいと言っていたんでっす。是非藤木さんも私達と一緒に旅行においでになりませんか?宿はこちらで予約しますので」
 リリィの母が要件を説明した。
(リリィと旅行だって!?どうしてよりによって僕なんかを誘ったんだろう・・・?でも、行けるなら嬉しいなあ・・・)
 運の悪い藤木にとっては喜ばしい出来事であった。しかし、それに対して藤木の父が返答する。
「飛騨高山・・・?まあ、お言葉は嬉しいのですが、ウチにはそんな余裕がないのです。家は借家ですし、私も家内も借金を返すために日々働いているのです。申し訳ありませんが、そんな余裕は・・・」
「イエイエ、その心配はありません」
 リリィの父が藤木の父の断りに待ったをかけた。
「お金なら私達も一部出しますのでご安心ください」
「ええ!?いいんですか!?」
 藤木の母が驚いた。
「はい、私達が藤木さん達の分を出して差し上げますのでご安心ください」
 リリィの母が気にしないという表情で言った。
「ですが、そちらにはとんでもないご迷惑でありませんか?」
 本当にいいのかと藤木の母は心配した。
「とんでもない。迷惑だなんて。ウチの子が茂君にいつもお世話になっていますし、息子さんにもいい思い出になると思います」
「そうですか・・・。茂、お前はどうする?」
 藤木の父が息子に聞いた。
「え?うん、僕は行きたいな!」
 藤木は堂々と言ったが、幼稚な言い方をした気がして恥ずかしく思った。リリィの顔を見る。しかし、リリィは嬉しいような反応をしていた。
「藤木君がそう言ってくれるなら私もますます行きたくなるわ!」
「リリィ・・・。ありがとう・・・」
「ははは、茂がそう言うならお言葉に甘えようかな・・・」
 こうして藤木の両親は誘いを承諾した。

 旅費についてだが、宿泊費はミルウッド家に出して貰ったが、交通費については藤木の両親はさすがにそこまでは甘えられないと感じて自腹で出した。

 藤木はリリィと旅行に行ける事がとても楽しみだった。彼女と共に出かけるのは、花輪家の別荘の隣にある彼女の別荘に連れていって貰って以来だった。
(あ~、楽しみだな・・・)


 そして、旅行の日は訪れた。お互いの家族は清水駅で待ち合わせた。静岡駅から新幹線に乗り、名古屋へと向かった。リリィは新幹線の乗車を非常に満喫しているらしく、車窓から見える静岡県の街や田畑、河川を新幹線の速さを実感しながら眺めていた。
「ところで茂」
 藤木の父が息子・茂に声をかけた。
「ん?」
「お前あの子と遊園地に行った時に会った笹山って子と一体どっちが好きなんだ?」
「え!?」
 藤木は返答に詰まった。確かに藤木はリリィが好きだが、笹山も好きだった。しかし、まだ決められなかった。
「う・・・、実はどっちも好きなんだ・・・。まだどっちにするか決められないんだ・・・」
「お前、さっさと決められないと、どっちも逃げられるぞ。どっちも好きでい続ける事なんてできないからな」
「うん、そんなの卑怯だってわかってるよ。でも、諦めきれなくて・・・」
 藤木は心が迫られたような感じがした。リリィは自分にも優しくしてくれてはいるが花輪の方が好きのようだし、笹山も自分の気持ちに気づいてからはどちらかにするか待ってはくれてはいるが、いつまでも決められないと痺れを切らして、自分に愛想を尽かすのかなと藤木は思った。

 名古屋に着き、一行は特急列車に乗り換える事になった。藤木はリリィと同じ列の席に座った。列車が走行している間、藤木はリリィになぜ自分を誘ったのか質問をしようと思い、彼女に話しかけた。
「あの、リリィ・・・」
「何?」
「えっと・・・、その・・・、どうして僕なんかを誘ったんだい?」
「それは、藤木君は友達だから・・・」
 リリィは恥ずかしげに答えた。
「でも、僕よりも同じ女子のさくらとか穂波とか、あと君が好きな花輪クンとかの方がよかったんじゃないのかい?」
 リリィは花輪の名前を出されて驚いたような反応を示した。
「うん、でも花輪クンならこっちから誘うより向こうけら誘われて行く方がなんか似合う気がしたの。それに藤木君には球技大会の事で藤木君は蹴球で頑張ってたし、私の応援もしてくれたし。でも、私は藤木君の応援に行けなくて、しかも打ち上げでも話す機会がなかったから記念に旅行に連れて行こうと思ったの・・・」
 リリィは球技大会の時は花輪の方を労っていた。4組の女子は男子の5組との試合を観戦しに行ってはいたが、リリィは捻挫と突き指をした前田を保健室に連れていっていた後、他のクラスのバレーの試合を見ていて、男子の応援に行かなかった。しかも、その時はたまえと5組の橿田ひろ子との仲を修復させることを考えていたため、藤木の事を忘れていた。打ち上げの時も藤木と話す機会がなく、笹山やケン太から人づてに藤木の活躍を聞いたのだった。
「そうか、いいよ、気にしてないよ!」
「そう、ありがとう!」
 藤木はリリィがこんなに自分を気にしてくれるのが嬉しかった。そして、もしかしたら花輪の事は勿論、自分にも気があるのかと疑っていた。

 列車が高山駅に着いた。一行は旅館へと向かって荷物を置き、街を歩き回る予定であった。 
 

 
後書き
次回:「飛騨高山」
 飛騨高山での旅行を満喫する藤木達。旅館の源泉の湯や料理、そしてロープウェイを楽しむ最中、そこで藤木達が出会ったのは・・・。

 一度消えた恋が蘇る時、物語は始まる・・・!! 
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