フルメタル・アクションヒーローズ
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第24話 古我知さん現る
「おやおやまぁ、みんな固まっちゃって。そんなに僕がここにいるのが驚き?」
にっくき悪の親玉――であるはずの古我知さんは何の悪びれもなく、窓際に座っていた俺の隣に腰掛けた。しれっと俺達の席に現れたこの男のふてぶてしい振る舞いに、この場の全員は絶句せざるを得なかった。
「あの強盗達に武器を与えたのは僕さ。樋稟ちゃんが龍太君を鍛えてるという情報を掴んで、どれほどのモノになってるのかが気になっちゃってね。『生身の人間は脅すだけ、手を出してはならない』っていう僕の言いつけを無視して、強盗達が変な気を起こした時はどうしてやろうかと思ったものだが……君の力は僕が思っていた以上だったようだね、龍太君」
――俺ん家に上がり込んでた時といい、なにを考えてんだコイツは!? 昨日言ってた「敵は『開放の先導者』だけじゃない」ってのは、こういうことだったのか……!
「こ、こ、この人ってアレやないん!? あのわるもんのおやだ――」
ガタリと席から立ち上がり、大声で叫ぼうとする矢村。そこから何を言おうとしているのかを察した俺と救芽井は、二人掛かりで彼女の口を完全バリケード封鎖した。こんな公共の場で滅多なことは叫ばないで頂きたい! 人に聞かれるから! 全部が水の泡になるから!
矢村は古我知さんとは初対面であるが、前もって救芽井から彼の助手時代の写真を見せてもらっていたため、人相を知っていた……のだそうだ。現にいきなりの親玉出現に、驚きと敵意を隠せずにいる。ヤムラボーブリッジ、封鎖出来ませんッ!
「むがむが!」と暴れる彼女をなんとか抑えつつ、俺達二人はジロリと古我知さんにガンを飛ばす。明らかに俺達全員に敵視されているにもかかわらず、当の本人は涼しい顔でわざとらしく肩を竦めていた。
「ひどいなぁ。僕はただ君達が楽しそうだったから、ちょっと混ぜてもらいたかっただけなのに」
「ふざけないで下さい。何のつもりですか剣一さん!」
未だに暴走を止めない矢村にチョークスリーパーを決めながら、救芽井が詰問する。おい、ちょっとは手加減してやれ。
「何のつもりって……お喋りしたくて来たに決まってるじゃないか。主に一煉寺君と」
「変態君に……!? 彼に何の用があるっていうんです?」
「う〜ん、樋稟ちゃんには口出しして欲しくないんだなぁ。これまで着鎧甲冑に関わって来なかった、『素人である龍太君と話す』ことに意味があるんだから」
そこで一旦言葉を切ると、「ねっ?」といいたげな表情でこっちに目を向けて来る。んなこと俺が知るかっつうの……。
救芽井は一瞬俺の方に視線を移すと、「こんな人に騙されちゃダメ!」と目で訴えてきた。こっちだって酷い目にあわされかけ――いや、既にあわされたことがあるんだから、いちいち言われなくたって言いなりにはならねーよ。
「さて、というわけでちょっと龍太君と二人で話がしたいんだ。悪いけど、お嬢さん二人には席を外してもらいたいんだ」
「いい加減にして下さい! あなたこそ、早く『呪詛の伝道者』を捨てて投降しなさい! 着鎧甲冑は、争いの火に油を注ぐために作られたわけではないんです!」
矢村ほどではないものの、かなりの音量で救芽井が怒声を上げている。おい、矢村を無茶苦茶して黙らせといて、それはないんじゃないか?
「僕はそれについて、客観的な意見を聞きたいんだよ。あくまで一般人でしかない、龍太君からね」
「彼を説き伏せて仲間にでもするつもりですか? 外部の人間を無理矢理巻き込むような所業は許しません!」
いいこと言ってる。いいこと言ってるけど……お前が言うな。お宅の都合で割を食ってる一人の受験生をお忘れか? まぁ俺のコトだけど。
それからしばらく、互いに一歩も譲らないやり取りが続いていた。いつまで張り合う気なんだコイツら……。
「だから、僕は彼に聞いてるんだってば」
「そんなこと許せないって、何度言えばわかるんですか!」
「――あぁもう、ラチがあかねぇ! おい古我知さん、話だけなら聞いてやる。男子トイレに行くぞ、席を外すのは俺達だ」
「ちょ、ちょっと変態君!?」
「このまんまじゃ、いつまで経っても平行線だろう。それに、こう熱く語り合ってちゃ、周りに聞かれかねん」
「でもっ……!」
俺に論破されつつ、なおも食い下がる救芽井。だぁぁぁもぅ! いっつもキツイ訓練のことばっか言うクセして、こんな時だけ心配性にシフトしてんじゃねーよ!
「寝返ったりしねーから安心しろよ。さっき教わった『敵情視察』ってヤツだ」
もう「刺殺」とは間違えないぞ。うん。
「……う、うん。わかった」
「納得してくれたようで、僕としては嬉しい限りだよ。だけど、なんで僕達が動かなきゃならないんだい?」
渋々ながらも了承した救芽井の反応を確認した古我知さんが、キョトンとした表情でこっちを覗き込んで来る。何もわかってない、っていう純粋過ぎる顔って、怒りづらい分相当ウザいな……。
「伸びてる奴を叩き起こして席を外せってのか? 鬼畜組織のボス殿は考えることが違うな」
わざと嫌味っぽく毒づいて、俺はチョークスリーパーで落とされていた矢村をチラリと見遣る。彼女は頭上にヒヨコを走らせつつ、ぐーるぐーると視線をスピニングしていた。
「あ、あはははは……」
やり過ぎちゃった、といわんばかりに救芽井は苦笑い。救芽井さん……冗談みたいに笑ってますけど、普通に殺人未遂ですからね? コレ。
「力加減が苦手で不器用なのは相変わらずだねぇ」
ついでに古我知さんも苦笑。なんで誰ひとりとして矢村の身を案じないの!? 「こんなの絶対おかしいよ」って感じてる俺がおかしいの!?
とにかく、今は矢村をそっと安静にしておきたい。俺は古我知さんの襟を引っつかみ、男子トイレまで強制連行した。
「やれやれ……腹を割って話すのに、これほどムードが湧かない場所ってないよね」
「グダグダとうるせぇな。いいからさっさと言いたいこと話せよ」
青くて臭いタイルに包囲されながら、俺達は一対一で相対する。
――悪の親玉と、男子トイレで一対一。なんつーシュールな状況なんだコレは……!
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