| 携帯サイト  | 感想  | レビュー  | 縦書きで読む [PDF/明朝]版 / [PDF/ゴシック]版 | 全話表示 | 挿絵表示しない | 誤字脱字報告する | 誤字脱字報告一覧 | 

流星のロックマン STARDUST BEGINS

作者:Arcadia
しおりを利用するにはログインしてください。会員登録がまだの場合はこちらから。 ページ下へ移動
 

精神の奥底
  71 Revolt ~前編~

 
前書き
今回は熱斗、炎山サイドの話です。
ついにというか、ようやくというか反撃開始です! 

 
あれから僅か数分、歩いた距離にして1キロも無いというのに、自分がまるで別人になったような気がした。
自分とすれ違う人は皆、誰も自分のことを気に留めない。
気に留めたとしても軽く会釈をし、自分もそれに返す程度だ。
いつもならば、間違いなく注目の的となっていることだろう。
見た目が変わるだけでここまでも変わるものかと驚かずにはいられなかった。

『ロックマン、次の角を右です』
「了解。そっちもよろしく」

普通に無線機を使用しても、やはり誰も気には止めない。
仕事関係のやり取りをしているようにしか見えないのだ。
この時、改めてロックマンは人間の外見と身体を羨ましく思った。
思わず手に持った食事のトレーを強く握りしめてしまう。
ここまでの行動は全て普通に人間がやっていなければ不自然なものばかりだった。
いくらロックマンが人間に限りなく近い外見を持ち、人間と同じ心を持っていたとしても、ネットナビがやってしまえば、全て不自然に映ってしまう。
今はリサが作った実在の女性の3Dモデルのドレスアップデータと声紋データで本物そっくりになりすましているからこそできる芸当である。
本当は熱斗を救うために集中しなければならないはずが、不思議ともし自分が普通の人間として熱斗の側にいられたらとどんなにいいだろうと考えてしまう。

「……あっ」

しかし、そんなことを考えているうちに目的地のすぐ側までやってきていた。

『中には看守が1人、それも今、あなたがなりすましている女性局員の同僚です』
『可能な限り交わす言葉は少なくしつつ、怪しまれないようにするんだ』
『難しいと思うが、頑張ってくれ』

無線からはリサの他に炎山と祐一朗の声が聴こえる。
あと1人の報告があれば、すぐにでも目的地へと入る。

『ですから…その…あの……』

『おい!笹塚?そっちは?』

『この間はオレも心の準備ができてなかったっていうか……でもオレも……貴方のことは嫌いじゃないし……』
『…この間のことは忘れてちょうだい。別にちょっと酔ってただけだから…….』
『でも……』

『あの……笹塚さん、急いでもらえます?』

無線から聞こえてきたのは、今、ロックマンがなりすましている女性を足止めしている笹塚の声だった。
ロックマンが目的地に入れずにいるのは、作戦中に本物と鉢合わせしたら計画が一瞬で頓挫するからだ。
彼女がいる食堂からここまでの距離は決して近いわけではないが、走ればものの数分だ。
特にサテラポリスの訓練を受けている者ならば、想定よりも遙か早く着くのは想像に難くない。

『だからその……』

『笹塚くん、もうかっこいいことを言おうとか考えなくていいから、思ったままに言ってごらん!』

そこに祐一朗が助け舟を出した。
正確には半ば焦り過ぎて、祐一朗もやけくそ気味に言ったのだが、それが本当に笹塚にとっては大きな助けとなった。

『オレ!酔ってたとしても嬉しかったです…!こんなオレでも振り向いてくれたのが本当に嬉しかったッス!』
『笹塚くん……分かった。友達から…ね?』

『よし、行け!ロックマン!!』
「了解」

笹塚が足止めに成功したのを確認すると、炎山が指示を出した。
その合図と共にロックマンも留置所の扉のロックを開いた。
すると普通なら一生味わうことの無いであろう重く冷たい何かに襲い掛かってくる。

「う……」

ロックマンは顔をしかめた。
これまで味わったことの無いタイプの負のオーラに満ち溢れたその空間は、いるだけで自分の中で何かドス黒い感情が湧き上がってくるようだった。
これまでにこれに近い経験があるとすれば、あの忌まわしいウラインターネットくらいのものだ。

「…熱斗」

しかしロックマンはすぐにそれを乗り越える。
これまでの経験で培われた忍耐力の強さがあったことは言うまでも無いが、それ以上に熱斗が、弟がこの空間にいると思うと怖気づいてはいられなかった。
弟の性格を知り尽くしているからこそ、これがどれほど辛いことか想像するのは難しくなかった。
改めて覚悟を決め、奥に奥へ進んでいく。

「お疲れ様です……」
「あっ……!?お疲れ様です。あれ?交代には早いですけど?」

奥のデスクにいた看守に声を掛ける。
居眠りしかかっていたのか、ガタッと音を立てて立ち上がり、驚かされた。
そしてやはりと言うべきか、シフト外の時間に現れたことを疑念を持たれた。
しかしそれも織り込み済みだった。
急場しのぎではあるが、計画の肝となる部分だけは時間を掛けている。
一字一句正確な台本など無く、大まかに何を言うか程度しか決めていなかったが、そこは持ち前の演技力でカバーした。

「ええ。でも、あの子たちのことが気になってね。もう丸一晩以上、まともなものを口にしてないし。見てられなくて」
「いいんですか?新課長の許可は……?」
「取ってない、100%私の独断。何かツッコまれたら、私に口止めされたってチクっていいから」
「あっ、はい…分かりました。でも口止めついでに今さっきまで居眠りしてたことは……」
「分かってるって」

ロックマン自身、女性口調で芝居をするなど初めての経験だったが、あっさりと成功した。
自分でも恐ろしい程、自然に役になりきっていた感覚がある。
今ならばあの響ミソラとでも共演できるのではないかと思えた程だ。
しかし次の瞬間には安堵感に包まれ、看守に背を向けた途端に顔に出た。
そして再び緊張感と共に足を進める。

「……あっ」

熱斗たちがいる牢はすぐに見つかった。
普通なら十分な空きがあるはずの留置所なのに、3人がまとめて同じ牢に入れられている。
明かり取りの窓以外に特徴の無い間取りで、布団、トイレ、テーブル、簡単な洗面台がそれぞれ1つずつという質素極まりない部屋だ。
当然ながらコンセントは疎か風呂も冷蔵庫もテレビも無い。
何十年も変わることのない典型的な留置所のスタイルだった。
ロックマンはゆっくりと3人を見る。

「やっと飯か…変なもの入っていないだろうな?」

最初に口を開いたのはマヤだった。
ジャケットを脱いで、床に大の字に寝転がり、退屈そうにトイレットペーパーを引き出して弄っている。
その光景たるや10歳そこらの少女としては余りにも悲惨だった。
それに対し、ヨイリーは落ち着いた様子で部屋の奥で正座している。
そして肝心の熱斗は入り口近くの壁に寄り掛かりながら、心神耗弱状態に陥っていた。
顔には殴られたような目立つ傷、鼻の周りには血を拭き取った痕がある。
力の入っていない目でゆっくりとロックマンを見上げるものの焦点が合っていない。

「あっ……メイル?」

あまりにも凄惨な現実を前に身体がこれ以上のダメージを受けまいとしているのかもしれない。
変装したロックマンが桜井メイルに見えているらしい。
確かに似ている部分が無いわけでは無いが、そうそう見間違うはずは無い。
ロックマンは熱斗のその痛ましい姿に一瞬だけ目を背ける。

「はい、これ」

牢屋越しにゆっくりと近づいてきたマヤに食事のトレイを渡す。
よほど腹が空いていたのか、マヤは早速ロースカツを一切れだけつまみ食いする。
しかしすぐに熱斗の方へ向かった。

「おい、アンタ。食わないと持たないぞ」
「オレは…いい。マヤちゃんとお婆ちゃんで食べなよ…」
「駄目よ。あなただけ昨晩から何も食べてないのよ?」

「!?」

このような状況に置かれた上、一番重傷であるにも関わらず、熱斗は2人を気遣って食事を摂っていなかった。
どんな状況に置かれ、心も身体がボロボロになろうとも、熱斗はその優しさを失っていなかったのだ。
そのいつも通りの健気な姿勢に熱斗についロックマンもいつも通りの口調で話してしまった。

「もうちょっとの我慢だよ……熱斗くん」
「え?」
「あっ、いや……」

ロックマンは焦ってすぐにその場を立ち去った。

「…とうとう幻聴まで聞こえるようになった」

熱斗は今の声がロックマンの声に聞こえていた。
その時の熱斗には今の自分が正気で無いせいにしか思えなかった。
そしてそのすぐ後にそれが幻聴でなかったとしることになるとは想像もできなった。

「終わったよ!」

ロックマンは留置所を出ると無線で研究室にいるリサたちに伝えた。

『よくやった。ロックマン』
『こっちも今、マヤたちと交信できました』

『待ってたぜ。姉ちゃんたち』

『熱斗、聞こえるか!?』

『パパ……?』

ロックマンが運んだ食事には仕掛けがしてあった。
大体が普通の食事だが、一部は食品サンプルなどを使って食事に偽装したガジェットだ。
牛乳パックはレーザー投影式のキーボード、キャベツの千切りのサンプルでカバーした小型の無線ヘッドセット、そして盆は最新型のSurface。
ロックマンが去った後、ヨイリーがいち早くこの仕掛に気づいたのだ。
そしてそれと同時にマヤも活気を取り戻した。

『マヤ、よく聞いて。今からあなたにやって欲しいことがあるの』
『うん!』
『今、あなた達のいる留置所のすぐ近くに木場課長のオフィスがある。そこのPCに侵入したい』
『待ってました。ヤローの鼻を明かしてやるんだな?』
『ええ。私たちのいる研究室からあなた達のいる留置所までのラインは既に繋いである』
『私はこの留置所とヤローのオフィスのネットワークを繋げばいいんだな?』
『そういうこと。私も手伝う』
『悪い魔法使いはさっさと退治しなくちゃな』

リサとマヤはすぐさま自分のコンソールに向かった。

Lisa@Laptop-CLT:~/Tools$ sudo su Hansel
[sudo] Lisa’s password:
Hansel@Laptop-CLT:/home/Lisa/Tools#


Maya@Tablet-CLT:~/Tools$ sudo su Gretel
[sudo] Maya’s password:
Gretel@Tablet-CLT:/home/Maya/Tools#


それぞれ自らの戦闘コンソールへと切り替える。
これから挑むのは、この組織の山頂。
ただ見下し続け、登ることすらも許さなかった山へ叛逆するのだ。
2人にとって自分たちを苦しめてきた者への報復は運命めいたものを感じずにはいられなかった。
ここまで自分たちを苦しめた者など滅多に現れるものではない。
失敗すれば捕まるリスクも相当高い。
だからこそ悔いが残らぬよう徹底的に、完膚無きまでに粉砕する。
一度、肩を回すを2人を同時にキーボードを叩き始めた。







 
 

 
後書き
前にも少し触れましたが、熱斗・炎山と彩斗、そしてシドウと視点が次々変わる展開になっていくのでこれから数話は比較的短めの話が多くなります。
あとそれに伴い今回は「前編」と銘打っていますが、視点が変わる為に別の話を挟むこともありますのでご了承ください。

今回はロックマンが女装?し、人間と同じ姿になって行動します。
彩斗のように人間としての体を持たないロックマンが、人間の姿になったときどうなるのかというのを試してみたかったというのもあるのですが、もし死なずに彩斗が生き続けて家族と暮らしていたら?という部分の補完的な表現も試してみたかったので、敢えて入れてみました。
 
ページ上へ戻る
ツイートする
 

感想を書く

この話の感想を書きましょう!




 
 
全て感想を見る:感想一覧