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ブラックウィドー

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第一章

                ブラックウィドー
 開拓地のある村では恐ろしい事件が起こっていた。何とだ。
 村人達が次々と死んでいっていったのだ。毎日一人か二人死んでいった。
 朝には元気だった者が夕方には死んでしまう、村人達はこの事態に戦慄を感じていた。
「流行り病か?」
「それとも呪いか?」
「誰かが井戸に毒を流したのか?」
「折角インディアンを追い払ったのに何でなんだ」
 彼等の村はインディアンの土地を奪ってそこに開いたものだ。アメリカの全ての土地がそうである様にこの村も然りだ。
 何はともあれインディアンはこの辺りにはいない、彼等にとっての外敵は既にいなくなっていた、しかしそれでもだった。
 村人達は次々に死んでいった。村は恐怖に震えていた。
 その話を聞いた州知事は奇妙なことを感じながらも事件の解決の必要性を感じた、それでだった。
 州に駐屯していた騎兵隊の指揮官ジェームス=カーチス大佐に事件の解決を依頼した。大佐はすぐに部下達を集めて言った。
「その村では毎日人が死んでいっている」
「謎の病気で、ですね」
「それでなのですね」
「いや、井戸に誰かが毒を流し込んだか」
 大佐は部下達にその可能性も話した。
「若しくはだ」
「インディアンはいませんよね」
「もうこの辺りの奴等は全員居留地に押し込みました」
「この州には奴等は一人もいません」
「だから害を為すこともないですね」
「それは有り得ない」
 大佐もその可能性は否定した。
「呪いという話もな」
「インディアンのシャーマンの呪いですかね」
 部下の一人が身振り、左手を軽く動かして冗談混じりに言った。
「それの可能性は」
「シャーマンか」
「はい、奴等の宗教は我々とは違います」 
 キリスト教ではなくアミニズムだ、ここにも彼等とアメリカの対立の要因があった。
「ですからそれも」
「科学的ではないがな」
 大佐はどちらかというと軍人らしく合理主義者でオカルトには否定的だった。だがそれはどちらかという程度で。
 そうした話を完全には否定しなかったし今の話も頭ごなしに馬鹿にはしなかった、それでこう言ったのである。
「有り得るな」
「そう思われますか」
「とはいっても伝染病の可能性もある」
 大佐は双方のケースを考えた。
「そして悪質な奴が井戸に毒を流したこともな」
「どの可能性もですね」
「そうだ、ある」
「ではここはどうされますか?」
「ことの解決にはそのことの詳細を知ることだ」
 そこから解決できるからだというのだ。知識はあらゆる解決への源だということだ。
「ここは調査班を送るか」
「では誰を」
「さて、誰にしようか」
 大佐はここから考えた。そしてだった。
 村に二人送られた、班の予定だったが騎兵隊自体が他の州への移動を命じられ急に人手がなくなった。それでだった。
 村に送られたのは二人だった。一人は若い牧師だった。
 ジョン=オーエル牧師だ。青い目と高い鼻を持っており如何にもこの前神学校を卒業した感じである。そしてもう一人は。
 年配の頭の禿げた医者だ。ウィリアム=ブラウン博士という。長い間軍医を務めていた人物だ。
 二人は馬で村に向かっていた。その時牧師は荒野を進みながら隣にいる博士に対してこんなことを言った。
「何だと思います」
「村のことだね」
「はい、それです」
「わからない」
 博士は馬に乗ったまま首を傾げさせて言う。
「正直なところな」
「そうですか」
「君はどう思う」
「私ですか」
「そうだ。君は何だと思う」
「呪いじゃないんですか?」
 牧師は首を傾げさせながら博士に答える。
「やっぱり」
「呪いか」
「はい、インディアンの」
「そうだな。私もだ」
「それだと思いますか?」
「あまり信じたくはないが軍にいれば色々とある」
 霊やそうした話が尽きないのも軍だ。これは何時の時代のどの軍隊でも同じことであり騎兵隊も例外ではないのだ。 
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