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大阪の一反木綿

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第二章

「妖怪の話はあまりないかもね」
「残念ですね、とても楽しい街なのに」
 ナターシャは心からこう思った、この街にホームスティに来て独特の雰囲気と食べものに満足していたからだ。
「妖怪のお話が少ないのは」
「いることはいると思うけれどね」
「それでもなのですね」
「やっぱりそうした話は京都だろうね」
「あの街にも一度行きたいです」
「そうだね、ただあそこはね」 
 京都のことはこう話した裕介だった。
「冬寒いから」
「クルスクよりもですか」
 ナターシャの出身地だ、第二次世界大戦の時はここで大戦車戦が行われたがナターシャは大阪自体や文学に興味があるので戦争のことは話さない。
「寒いですか」
「いや、ロシアよりはましだよ」
「では私は平気です」
 クルスクよりもと聞いて明るく笑って言ったナターシャだった。
「それなら」
「まあロシアは特別だね」
 その寒さはというのだ。
「あそこと比べたら京都は暖かいね」
「じゃあ今度時間があったらね」
「案内して下さい」
「そうさせてもらうね、あとね」
 裕介はナターシャにさらに話した。
「お正月初詣行くかな」
「日本の神社にですね」
「うん、行くかな」
「はい、行きます」
 明るい笑顔でだ、ナターシャは裕介に答えた。
「日本の神様の場所も行きたいと思っていました」
「それじゃあね」
「それで何処の神社に行かれますか?」
「住吉もあるし」
 大阪を代表する大社であるそこにというのだ。
「あとはこの阿倍野にもね」
「あるんですね」
「うん、ナターシャの行きたいところにね」
「案内してくれますか」
「回ってもいいしね」
 複数の神社をというのだ。
「とにかくね」
「はい、初詣の時はですね」
「案内させてもらうよ」
 裕介はナターシャに笑って話した、そして彼女に自分の部屋で勉強すると言ってそのうえで自分の部屋に戻った。時代劇は丁度終わっていてナターシャも今度は日本についてさらに勉強する為に夏目漱石の本を読みだした。
 その正月だ、裕介は初詣に行く時のナターシャの姿を見て驚いて言った。
「振袖って」
「マーマさんが着せてくれました」
 裕介の母がというのだ、見れば桃の地に花が奇麗に描かれていて帯も白く輝いていて見事なものだ。当然足袋も履いている。
「全部」
「お袋着物の着付け出来たんだ」
「はい、ただです」
「ただ?」
「着物時下着は穿くのですね」
「脱がないよ」
 このことは裕介も知っていて言う。
「着物用の下着があるから」
「だから冷えないのですね」
「うん、冷えないからね」
 それでというのだ。
「安心してね」
「それにかなり厚い生地なので」
 上等の絹のそれである。
「重ね着もしていますし」
「そうだよね、だから冬はね」
「この着物で、ですね」
「暖かいよ、じゃあ防寒も出来てるし」
 裕介自身はジャケットを着た、頭にはニット帽を被るつもりだ。
「安心して行こうね、あとね」
「あと?」
「出店も多いから」
 初詣の時はというのだ。
「そこも楽しんでね」
「日本の出店ですか」
「そう、そこでも色々買って食べようね」
「そのことも楽しみにしてますね」
 笑顔で応えたナターシャだった、そうしてだった。 
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