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魔法少女リリカルなのは~無限の可能性~

作者:かやちゃ
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第5章:幽世と魔導師
  第139話「少し違う転生者達」

 
前書き
信頼し合っていた(と思っている)相手に見限られ、好きな相手に嫌いと言われて精神的に追い詰められている神夜、さらに馬鹿をやらかす。
かくりよの門で味方してくれるのに、妖だからと悪路王に斬りかかったのは愚策以外のなんでもありません。完全に早とちりして空回っています。

帝の二人称が変わっているのであらかじめご了承を。(主に年上にはさん付け)
更生したので他人との接し方もだいぶ変わったんです。
 

 






       =帝side=





「はっ!」

「ギィィ……」

 適当に投影した剣で妖を切り裂き、近くの妖を全て殲滅する。
 目についた妖を片っ端から片づけていたから、あいつに追いつくのに時間がかかった。

「っ、いた……!」

 そして、ようやくあいつ…織崎を見つけた。
 ……って、あれは……。

「那美さん!?」

「え、み、帝君!?どうしてここに!?」

 なぜか、那美さんがそこにいた。
 それに、知らない人まで……。俺より年上だ。那美さんよりは下だろうけど。

「那美、また知り合い?」

「うん。彼と同い年で、魔導師」

「魔導師……あの、私がよく討伐していた悪霊と共通点があるんだけど……」

 …なんか、警戒されてる?後、久遠にも。
 久遠は…まぁ、警戒されるだけの事をやらかしたし…。
 正直、触らせてくれるだけだったのにモフりまくったのは反省してます…。

「王牙、お前、街の方は…!」

「妖なら殲滅してきた。……ってかなんだよそれ、俺に丸投げしておいてその言い草は」

「う……」

 単独行動は危険すぎるから追いかけてきたってのに…。
 ……まぁ、俺も以前は同じような事していたから、強くは言えないけどさ。

「……で、この状況は何ですか?」

「えっと……早とちりの結果…?」

「端的過ぎるわよ……。まぁ、妖を味方につけているからと、勘違いされたのよ」

 ……妖って味方につけられるのか……。
 勘違いしていた事に関しては、やらかしたんだろうとしか思っていない。
 “原作”と関係ないからか、思い込みが激しくなっているし。

「……簡単にお互いの事を話しましょう。どうせ、今の状況については知っているんでしょ?なら、情報は少しでも多い方がいいわ」

「……分かった」

 那美さんが信頼している相手なら、話しておいて損はないだろう。
 どの道、現地の人とは協力しないと対処できないからな。











       =鈴side=





「―――以上が、こっちでの動きだ」

「……そう」

 後から来た、王牙帝と言う少年に色々と事情を説明してもらった。
 やはり見た目では判断するべきではないのか、だいぶまともな奴だった。
 那美曰く、初めて会った時はもっとひどい性格だったらしいけど。

「管理局……ね。魔導師については少しだけ知っていたけど、数多の次元世界を観測する組織……また大きな存在が関わってきたわね……」

「万年人手不足だけどな」

「多数の世界を管理だなんて、一組織ができる訳ないでしょう」

 日本だけかと思っていたのに、まさか別の世界の住人まで関わって来るとはね…。
 マーリンから少しだけ聞いておいて良かったわ。まだ何とか理解できる。

「そちら側は連携を取りたいのよね?主に警察や自衛隊、現地の退魔士と」

「…ああ。警察と自衛隊は知り合いの伝手から事情を伝えられるらしいが、退魔士の方は…な」

「むしろその二つに伝手がある人物がどんなのか気になる所ね」

 余程の経歴持ちや、家系じゃないと無理よ。それ。

「けど、あんたが分家とは言え有名な退魔士の家系なら話は早い」

「一応、電話で家には伝えてあるわ。でも、私の発言力は低いの。昔ならともかく、今の土御門家の分家では、私のような存在は異端だから、あまり信じで貰えないわ」

「なんだそりゃ……」

「ただの差別意識よ。私が変に力を持ちすぎて、敬遠されているだけ」

「嫌な部分だけ残っているな」

「まったくよ」

 昔は身分とかもあって差別は仕方ない状態だったけど、まさかその悪い部分だけうちの分家が引き継いでいるとは思わなかった。
 そっちがそう来るならって事で、私も完全に無視してるけど。
 でも、ちゃんと世話をしてくれる召使の人達には悪いわね。

「出来る事なら、本家の方と連絡がしたいけど……場所が京都なのよね」

「京都……そういや、あいつが現地の退魔士と接触してたっけ」

「…あら?」

「多分、連絡の必要はないかもしれん。京都にある門は大門以外は既に閉じてあるから、管理局員が説明を兼ねて協力を申し出に行ってるはずだ」

「それならそこは安心ね」

 大門以外は…か。さすがにまだ閉じれていない訳ね。
 管理局側にも式姫がいるおかげで、一から説明する必要がないのは助かるわ。

「じゃあ、これからどう行動するかだけど……」

「移動するなら、管理局の転送装置を使うか?船の魔力を使うから、体力的にもちょうどいいが…」

「……そうね。その方がいいわね。でも、今は周辺の妖を倒しているのでしょう?まずそちらから手伝う事にするわ」

「…助かる」

 本当に話が分かる相手で良かった。
 今まで出会ってきた悪霊と容姿の特徴が似ているけど、中身は全然違うわね。

「とりあえず、鵺の声で来て早とちりした事は水に流すわ。悪路王もあまり気にしていないみたいだし」

「……助かる」

 妖だから警戒するのも理解できるしね。

「じゃあ、さっさと街の方に戻るわよ。時間は待ってくれないんだから」

「ああ」

 門を一つ閉じたとはいえ、妖はまだまだ残っているからね。

「……あ?どういうことだ?」

「……?(何かしら…?)」

 突然独り言のように帝が呟く。
 ……これは、念話と言う奴かしら?伝心を傍から見た時と似ているし。

「…なぁ、一つ聞いていいか?」

「何かしら?」

「その剣のアクセサリー、どこで手に入れたんだ?」

「おい、いきなり何言ってるんだ王牙!」

 いきなり女性の装飾品について尋ねたと言う事から、織崎神夜と名乗った少年が咎めるように帝に言う。

「……デバイスだ。それは」

「っ……!?」

「えっ、鈴ちゃん、デバイスを持ってたの!?」

 マーリンについて指摘される。
 もしかして、さっき念話していた相手は彼のデバイスなのかしら?
 マーリン曰く、自分と同じように人工知能のあるデバイスもあるって言ってたし。

「これは他の次元世界からやってきた魔導師から奪った奴よ。前の持ち主が性根の腐った奴でね。マーリン…このデバイスもうんざりしてたわ」

「奪った…?ちなみに、その魔導師は……」

「殺したわ」

「っ……!?」

 あっさりと殺した事を告げると、皆驚く。
 ……まぁ、昔と違って殺し殺されの世界じゃないものね。

「なんで、そこまで……」

「言ったでしょ、性根の腐った奴だったって。被害者だった人達と同じ女性として、そいつは殺されても文句を言えない事をしていたのよ」

「それは一体……」

「マーリン曰く、言うのも憚れるような事らしいわ。詳細は分からないけど、その力を以って逆らう奴は殺すような、最低な事ばかりをしていたみたいね」

「それは……」

 理解は出来ても、納得はしきれないと言ったような顔だ。
 まぁ、目の前の人物が人を殺しただなんて、信じにくいのも分かるわ。

「なんで、そいつはそんな事を……」

「さぁ?どうせ、なんでも思い通りになると思ったんじゃない?貰い物の力なのに」

「貰い物の力……それってまさか転生者…?」

 その呟きを、私は聞き逃さなかった。那美は聞き逃したみたいだけど。
 …転生者を知っている…ね。もしかして…。

〈鈴、彼らもまた、転生者のようだね〉

「…しばらく黙っていたと思ったら、言う事がそれ?私も思っていたけど」

「……!」

 マーリンと私の言葉を聞いた瞬間、神夜は飛び退いて警戒した。
 帝は、驚いたけどそこまで大きな素振りは見せなかった。

「…まさか、お前も転生者なのか…!?」

「え、え?何!?」

「那美、混乱するのは分かるけど少し黙ってて」

「…どうなんだ!」

「……“転生者”かどうかと聞かれれば…分類上転生者ね」

 隠すつもりもないので正直に言う。

「…ねぇ、マーリン。私って、転生者に出会いやすい体質?」

〈否定しきれないねぇ。成り行きとはいえ、よく遭遇しているね〉

「……どう言う事だ?」

「私、よく悪霊になった転生者に会うのよ。大抵が家からの指令でだけど。ちなみに、その転生者たちは大抵が自滅で未練を残して悪霊になったものね」

「…馬鹿でもやらかしたのか?」

「そうね。ほとんどがオリ主?だとか、ハーレムだとか喚いていたわ。思念がそのまま来るんだから煩かったわね」

 そういうと、帝は大きな溜め息を吐いた。
 何と言うか、“自分はそうならなくて良かった”と言う安堵の溜め息っぽいけど。
 ……まぁ、彼には彼の事情があるのね。

「転生者と言う事は……特典はなんだ?」

「特典?そんなのないわ。強いて言うなら、生まれ変わった事で多くなった霊力って所ね。これのおかげで妖相手にも戦えるし、あの悪路王相手に一人で勝てたし」

「……ん……?」

 今度は首を傾げる帝。……何か変な事言ったかしら?

「“かくりよの門”を知っているのか?」

「…?まぁ、前世からね。…それで、なんで貴方はそんな警戒心を向けているのかしら?」

 どこか会話が噛み合わないような気がするけど…。
 それにしても、神夜はなぜここまで警戒心が強いのかしら?

「転生して、何をするつもりだったんだ?まさか、式姫たちと……」

「……なーんか、勘違いしてない?」

〈勘違いしているね、これは〉

 何をするつもりとか聞かれてもね。
 そして、マーリン曰くやっぱり勘違いされていたみたい。

「私は確かに転生者だけど、貴方達とは厳密には違うわ。那美にも言ったけど、私は江戸から…つまり、過去から転生してきたの。別世界から転生してきた貴方達とは違うわ」

「……やっぱりか」

「あら、帝は気づいていたのね」

「薄々とな。特典に対してそれが何かわかってなかった上で、妖や幽世の門についてある程度詳しいと来れば……かつて幽世の大門が開いていた時代の人間だろうって」

「中々の洞察力ね」

「半分は俺のデバイスのおかげだけどな」

 中々やるわねと思ったら、そう言う事……。
 ちょっと過大評価してたかしら…。

「なっ……!?は……!?」

「……そうだ、俺達の前世の世界には、“かくりよの門”と言うゲームがあったらしいが……もしかしたら、あんたもその登場人物かもな」

「…否定できないのがなんか嫌ね」

「まぁ、前世の名前を言ったらこいつが驚くかもな。俺はともかく、こいつはそのゲームを知っているようだし」

 ……那美にも言ったし、前世の名前くらいはいいわね。
 今更知られた程度であれだし。
 後、自分の名前だけじゃなくて交友関係も言えばわかるかしら?

「…前世の名前は、草柳鈴よ。同期に三善八重(みよしやえ)、師に吉備泉(きびのいずみ)がいるわ。…知っているかしら?」

「なっ……まさか、あの鵺に殺された…!?」

「……どうやら、登場していたみたいだな」

「そのようね」

 ……これが、一方的に知られているって事かぁ……。
 マーリンから聞いた、“なのは”って子も中々可哀想ね。
 見知らぬ相手に一方的に知られているなんて、結構気持ち悪いわ。

「那美、簡単に説明するわ。“転生者”と言うのは、簡単に言えば記憶を保持したまま生まれ変わった存在の事を言うわ。でも、その中でも種類があるみたいでね。帝と神夜。彼らは所謂物語の外からやってきたような存在なの」

「物語の…外?」

「言うなれば、えっと…漫画とかの読み手側の事ね。で、私達はその漫画内の人物って感じよ」

「あー、そういう事……って、ええっ!?」

 帝が“これ言っちゃっていいのか?”とか言ってるけど、もう聞かれたものは仕方ないでしょう。私だって散々聞かされたし。

「まぁ、今は特に気にしない方がいいわ。…今は、幽世の門の事を気にした方がいい」

「……そうみたいだな」

 周囲に現れる妖。それらに対して私達は構える。

「次から次へと……休む暇はあまりないわね」

「……こちら側が襲い掛かった詫びだ」

 術式を練ろうとした私を制し、帝が手を翻す。
 途端に、大量の剣が宙に現れ、妖達を刺し殺した。

「雑魚は俺が片づける」

「……やるわね」

〈“無限の剣製”に“王の財宝”だね。両方を一遍に使う事で、消費魔力を抑えつつ展開数を増やしているんだね〉

「あのセイバーと同じ声でその口調は違和感があるな…」

〈設定上“アルトリア顔”らしい且つ、同じ中の人なんだ。大目に見て欲しいな〉

 帝の特典……異能の原典を言い当てたマーリンに、帝が反応する。
 その後、私には良く分からない会話がされたけど……まぁ、聞くのは後でいいわね。

「警察も動いているから、一通り倒したらアースラに戻ろう」

「そうね。門が閉じられたのなら、その影響下の妖は時間経過でどんどん力を失うわ。便利な移動手段があるなら、使わない手はないわ」

「よし、さっさと済ませるぞ!」

 私達は駆けだし、妖の殲滅に奔走した。















       =out side=





「きゃぁああああ!」

「だ、誰か助けてくれ!」

 まさに阿鼻叫喚と言った様子で、人々は逃げ惑う。

「はっ!」

「皆さん!早く警察の誘導に従って避難を!」

「優香!」

「ええ!」

 そこへ、九州地方を担当する事になった優輝の両親が救出に入る。
 また、他の管理局員も各地に展開しており、守護者以外の妖は淘汰されている。

「……私達の故郷に、こんな脅威があったなんてね」

「まったくだ。でも、だからこそ…!」

「絶対に解決しないとね……!」

 魔力にも惹かれるようになったからか、二人に妖が群がる。
 それを、背中合わせになりつつ対処する優香と光輝。

「優輝達に負けてられないからな!」

「ええ!親としての強さ、見せてあげる!」

 夫婦としてのコンビネーションを生かし、妖の包囲をものともせずに動く。
 その動きは、荒々しくも舞踏のようだった。











「……唸れ!光の奔流!」

   ―――“Lightning Judgment(ライトニング・ジャッジメント)

 司の言葉と共に、ジュエルシードから光が発せられる。
 その光は、周囲の妖達を消滅させ、眼前の巨大な妖をも貫いた。

「……さすがは海坊主。隠神刑部(いぬがみぎょうぶ)さんの言った通り、これじゃあ倒れないか……」

 司が担当するのは海坊主が現れる門。
 海坊主と戦う際に、四国を守り続けていた隠神刑部という妖に会っており、注意勧告を受けていたのだ。

「でも、シュラインとジュエルシードがあれば…!」

「オオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオ!!!」

 海坊主の咆哮と共に、津波が起きる。
 自分を守るだけなら、司にとって造作もない事だが、被害は陸にも出る。
 江戸の時とは違い、海近くにも住宅や避難していない人はいるので、必然的に司はジュエルシードを使って津波をせき止めていた。

「打ち倒せる!!」

 圧縮された魔力が放たれ、海坊主の顔面を吹き飛ばす。
 大きな体が持ち上がり、沖の方に落ちる。

「……手応えあった。……でも、なんだろう……」

 その一撃は、確かに致命打とも言える一撃だった。

「(……隠神刑部さんの言っていた注意……嫌な予感がする)」

 しかし、司は嫌な予感が拭えなかった。



   ―――そして、その嫌な予感は的中した。





「っ……!?」

   ―――“満ちる瘴気”
   ―――“大暴れ”

 瞬間、海坊主の頭が瞬く間に修復され、霊力を伴った拳の暴力が司に降りかかった。















「ふっ……!」

     ギィイイイン!!

 一方、奏のハンドソニックと妖の剣がぶつかり合う。
 相手の妖の名は両面宿儺。二面性を持つ妖である。

「っ、堅い……!」

 奏の機動力を以ってしても、攻めきれない強さ。
 堅実な守りが、彼女の刃を決して通さなかった。

「はっ……!」

     ギギギギィイイン!

   ―――“チェーンバインド”
   ―――“エンジェルフェザー”

 幾重もの剣戟を重ね、一瞬の隙を逃さず奏は攻撃を紙一重で躱す。
 同時に、魔法を行使し、バインドで両面宿儺を拘束。
 間髪入れずに羽のような魔力弾を展開し、炸裂させる。

「っ……!?」

 しかし、それすらも大したダメージにはならず、咄嗟に奏は身を捻るように跳ぶ。
 その瞬間、寸前までいた場所を大きな刀が薙ぎ払っていた。

「ふっ…!」

     ギィイイン!!

「ぐ、ぅっ……!?」

 すかさず追撃が繰り出され、奏はハンドソニックによる防御ごと吹き飛ばされる。
 体勢を何とか立て直し、地面を滑るように着地する。

「は、ぁっ!!」

〈“Delay(ディレイ)”〉

 さらに追撃が放たれるが、今度は躱す。
 背後に回り込み、奏は攻撃を放つ。

「甘い」

     ギィイン!

「………」

 だが、その攻撃も刀によって防がれる。
 二つの顔と四本の腕が、奏の機動力を上回る防御をこなしていた。

「(…仕切り直し…。倒すのは、一苦労ね……!)」

 どちらも戦法としては堅実な部類。
 故に、どうあっても長期戦になるしかなかった。

















「ぬぅうううううう!!」

「ザフィーラ!」

 巨大な龍の尾が、はやて達を庇うように立ったザフィーラを吹き飛ばす。
 はやて達を庇う事には成功したものの、大きなダメージは逃れられない。

「おいおい…あんなのをあたしらだけで抑えろっつーのかよ…!」

「だが、抑えなければ被害が拡大するだけだ」

 ザフィーラがたった一撃で吹き飛ばされた事に、ヴィータは戦慄する。
 だが、それでもやらねばならないとシグナムは構える。

『主よ!私の心配は無用です!それよりもあの龍を!』

「ザフィーラ…」

「私も同意見です。……一人一人の被害を気にしていては、勝てません」

 飛んできた念話に困惑するはやてだが、アインスの言葉もあり、立て直す。
 そこへ、龍…木曽龍神の尾が薙ぎ払うかのように振るわれた。

「っぶねー…さっきよりもやばかったぞ今の…」

「だが、あそこまで巨体であれば回避も困難なはずだ」

「だな!行くぞアイゼン!」

「二人共、サポートは任せて頂戴!」

 その一撃を躱したヴィータとシグナムは、攻撃を警戒しつつも接近する。
 そして、身動きを封じるように、木曽龍神に細い糸のようなものが絡みつく。
 シャマルのクラールヴィントによる拘束だ。

「ちっ、手応えはあるけど、タフな奴だ!」

「巨体に見合った、とんでもない体力だな。それに、傷の治りも早い」

「ちまちま攻撃しても回復されるだけってか?めんどくせぇ」

 レヴァンテインで斬り、グラーフアイゼンで叩くが、木曽龍神はびくともしない。
 僅かについた傷も、たちまち修復されてしまった。

「来よ、白銀の風、天よりそそぐ矢羽となれ!」

   ―――“Hraesvelgr(フレースヴェルグ)

 そこへ、さらに距離を取っていたはやてによる砲撃魔法が炸裂する。

『あ、あんまり効いてないですー!』

「っ、あの巨体やもんなぁ……」

 しかし、それすらも全然効いていない事に、リインとはやては戦慄する。

「日本中が妖だらけとなると、ここで大きく消費はしていられませんが……」

「そうゆーても、これやとなぁ…」

 力の出し惜しみをすれば、逆に消費が大きいと悟る。
 故に、全力で戦うべきだと、はやては腹を括った。

















「だいぶ進んだが……さて…」

 時刻は既に夜。人気のなくなった街を歩く鞍馬と葉月。

「………」

 まだ余裕そうな鞍馬に対し、葉月は疲労が溜まっていた。
 式姫と人間では、基礎的な体力が違うからだ。

「ふむ、騒ぎになっているから仕方ないものの、食料や寝床の考えもなしに出発は些か拙かったか?」

「……そう、ですね……」

 妖に慣れていた昔はともかく、今は阿鼻叫喚とも言える騒ぎになっている。
 そのような事態であれば、例え24時間営業の店でも閉まっている。

「既に誰もが逃げてしまった後とはいえ、勝手に使うのはいただけない。どうするべきか……」

「…大きな店は、そのまま避難場所になっている場合があります。そこに行けば…」

「それがあったな」

 食料と寝床の問題は体調管理の意味でも深刻だ。
 だからこそ、どうにかして休むべきなのだが……。

「……しかし、私達が妖を引き付けてしまいます」

「……そうだな」

「避難場所になっていない店を使いましょうか……」

 霊力を人並み以上に持つ二人では妖を引き寄せてしまう。
 故に、人気のある場所には行けなかった。

「幸い、お金なら持っています。食料分のお金は置いておけばいいでしょう。……寝床も、荒らされて使い物にならないものを使いましょう」

「緊急時故、仕方ないか」

 そうと決まれば、二人は休むための店を探した。





「……これだけあれば十分だろう」

「そうですね」

 拠点の店を決め、食料も確保した二人。
 なお、食料を確保した後、葉月が財布を見て表情を暗くしていたのは余談である。

「しかし、夜は妖の動きが活発になる。見張りは必要だ」

「はい」

 妖は夜に活発に動くため、無警戒に眠る事は出来ない。
 現に、二人は知らないとはいえ、避難場所でも常に見張りを付けるようにしていた。
 尤も、妖に限らず緊急時の夜は見張りを付けるものだが。

「三回に分けよう。三時間ごとに交代だ。まずは私からにしよう」

「けど、それでは鞍馬さんの負担が……」

「案ずることはない。式姫だからな」

「理由になってないです……」

 実際、天狗である鞍馬にとってそこまで負担ではなかった。
 しかし、それでも葉月は不安があったようだ。

「……分かりました。その通りで行きましょう」

「ああ」

 とにかく、休息は必要だった。
 心配はあるものの、葉月は鞍馬に見張りを任せ、一度眠りにつく事となった。







「昔より発展しているというのに、昔以上に切迫した状況になるとはな」

 日を跨ぎ、未だ深夜の時刻。
 予定通りに見張りを交代し、再び鞍馬が見張りに戻る。
 葉月がもう一度眠りについた事を確認した鞍馬は、ふとそのような事を呟く。

「便利になるだけでは、緊急時に対応できるとは限らない訳か」

 科学が昔より圧倒的に発展しているというのに、対処が追いついていない。
 平和になったからこそ、緊急時に混乱している。
 まだ妖怪が跋扈していた昔よりも、状況は切迫してしまっていた。

「以前は妖が当たり前だったからか。ままならないものだな」

 当たり前だったからこそ、対処が出来ていた。
 主に仕えていた時を思い出しながら、鞍馬は感慨に耽っていた。

「やはり、街は数が少なくて助かるな」

 鞍馬達は事前に、近くの幽世の門を閉じていた。
 よって、妖は比較的少なくなっていたため、危険も少なかった。

「っ……誰だ!」

 そこで、鞍馬は誰かの気配と霊力を感じ、声を上げる。
 すると、暗闇から何者かが現れる。

「……!生きていたのか…!」

 その相手を見て、鞍馬は驚く。
 だが、その驚きは違う驚愕によって塗りつぶされた。

「なっ……!?」

 咄嗟に体を傾けて攻撃を躱す鞍馬。
 頭があった場所には、レイピアが突き出されていた。

「っ、貴様、何者だ!?」

 鞍馬の知っている、“本来の相手”ではない事に気づく。
 しかし、その相手は何も答えず、攻撃を繰り返す。

「(まったく、こう言う時に限って安心はできないものだな…!)」

 攻撃を逃げ回るように避けながら、鞍馬はどうするべきか思考する。

「葉月!!」

「っ、は、はいっ!」

「今すぐ逃げろ!」

 突然大声で起こされ、一瞬慌てる葉月。

「な、何が…!」

「敵襲だ!ここは私に任せ、逃げ……っ!」

 追い立てられるように葉月のいる所まで来た鞍馬。
 葉月を逃がすために攻撃を引き付ける鞍馬だが、避けきれる程の相手じゃなかった。

「っ、その人は…!?どうして、私達を!?」

「こいつは、本来のものではない!どうなっているかは知らないが、敵だ!」

「……!」

 葉月も知っている存在故に、動揺する。
 しかし、その動揺が致命的だった。

「っぁ…!?」

「っ、させんぞ…!」

 鞍馬を無視するように、敵が葉月に迫る。
 咄嗟に、鞍馬は荒っぽいものの霊術で風を起こし、葉月を吹き飛ばす。

「ぅっ…!」

「すまない!……お前の相手は、私だ!」

 荒っぽすぎたためか、吹き飛ばされた先で葉月は気絶してしまう。
 だが、鞍馬はそれに構う暇はない。
 すぐに術を敵に飛ばし、注意を引き付ける。

「(…巻き込む訳にはいかない。勝てるとも限らない。……危険だが、ここは…)」

 そして、思考を巡らせ、実行に移した。
 それは、他の妖が来る危険を顧みず、敵をここから引き離す事だった。
 幸いと言うべきか、敵は鞍馬に集中しており、それを可能にした。















 
 

 
後書き
三善八重…前回も紹介した鈴の同期。かくりよの門の主人公の教師でもある。

吉備泉…かくりよの門に登場する学園の校長。主人公や鈴、八重の師でもある。術系のキャラで、ひねもす式姫(スマホアプリ)公開記念で実装。なお、かくりよの門のあるイベントで助っ人NPCとして参戦するが、未だにプレイヤーキャラでは到底追いつけないステータスを持っていた。生きた年の割には、若々しい姿だが…?詳細はかくりよの門をプレイしよう(ダイマ)。

Lightning Judgment(ライトニング・ジャッジメント)…光の奔流を以って敵を殲滅する魔法。分類上は砲撃魔法だが、広範囲にいくつも放てるため、実質殲滅魔法。ジュエルシードのバックアップもあるので、その威力は言うまでもない。

隠神刑部…化け狸。かくりよの門にも登場する。四国を守っているらしく、海坊主を倒しに来た司にちょっとした注意を促した。なお、その後は雑魚妖でも倒しに行ったのか、どこかへ去っていった。割とセクハラのように尻を叩いてくる事がある。(一応それでどういった者が読み取っているらしい)

海坊主…割と有名な妖怪。某デスタムーアのように頭と手でタゲが分かれている(実際は繋がっているけど)。ゲーム上、腕を一度も倒さずにHPを削るとHP全快からの高威力全体連発でムリゲー化する。

両面宿儺…これまた割と有名な妖怪。物理耐性と術耐性のモードを使い分ける。レイド版だと物理、術(火・水・風)、術(聖・呪)の三つになる。それぞれで弱点を突かなければ碌なダメージを与えられない。

木曽龍神…木曽三川と呼ばれる三つの川がそれぞれ龍神となった姿。木曽→揖斐→長良→木曽と体力低下でモードを変える。本編ではそれぞれのモードの長所短所を平均化した強さという設定。なお、ゲームではしっかり育てていないと野良レイドは禁物。

Hraesvelgr(フレースヴェルグ)…アニメ(sts)に登場。詳しくはwiki参照。


後半はサブタイトル詐欺になってますが、尺の都合です…。
各地を丸々一話は使って行きたいですからね。(活躍的な意味で)
なお、本編の時間帯はグループ行動からは夜です。まるで昼のように描写されていますが、これでも時間は刻々と過ぎています。 
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