少年は魔人になるようです

Side　ネギ

―――ドチャッ

「え………？」


呆気無く斬られ、血だまりに沈んだ愁磨さんを呆然と見る。

わざと攻撃を受けた？まだ追撃を用意していたのに・・・って、そうじゃなくて。

面倒になった？でもこのタイミングで、こんなエグイ真似しなくても。


「……………ぁ、………が…………。」

「明日菜さん？」


そこで、明日菜さんが震えている事に気付く。それより・・・様子がおかしい。


「違う、そんな、私が、するはずない、だって、守ってくれたんだもん、お礼しないと、

あれ、だって、違う、だって、シューマは、ガトーさんと一緒に……！」
ガラン！
「え、あ、明日菜？どうしたの！？」

「うーむ、上手くいったと言えばいったが……効き過ぎたか？」


構えていた"桜神楽"をとり落とし、頭を抱えて崩れた。

こんな事で取り乱すなんておかしい。上手く行った？効き過ぎ？それに愁磨さんを呼び捨て。

まさか、『黄昏の姫御子』の時の記憶を蘇らせたのか！？無力化する為か、他の思惑があって

か分からないけれど・・・どちらにしろ、暫くはあのままだろう。


「楓さん古さん、明日菜さんを―――」

「そんな心配をしている暇はないわよぉ？」
ドゴォン！！

戦えない明日菜さんを下がらせようとしたら、障壁内にいた筈のノワールさんが突っ込んで

来て、僕らを分断するように攻撃した。

いつの間に抜け出して来たのかと元居た場所を見ると、ノワールさんだけじゃない。待機して

いた全員が、各々動いていた。その代わりに、今度は愁磨さんが後ろに下がっている。


「第一形態が突破された魔王が、回復薬飲むまで待ってくれるとは思っていないだろうな？」

「たまーにいるんだけどな。仕切り直してからの第二回戦してくれるラスボス。」

「……残念ながら今回はそれに当て嵌まらん。」


少しバツが悪そうにそっぽを向くと、龍の翼が背中から生え、身体を包み込む。

バサッ！
「では第二形態『支援型魔王』と行こうか。」


数秒後に現れると、純白だった騎士服が変化していた。

黒が基調となり、龍を印章とした手足甲とモノクルが追加、腰布は翼で形成されている。

背中からは翼の代わりに龍腕が伸び、地上2ｍ程の所へ愁磨さんを持ち上げた。


「開演だ。"御許に仕えることを許したまえ　響け、壮麗たる歌声よ　『ホーリーソング』"！」
―――――――――――――――！！

禍々しい見た目とは裏腹に、敬虔な信徒の様に手を胸の前で握ると、周囲が薄暗くなり、

鳥の羽が辺りに舞った。ソングと言っても歌う訳ではないらしい。

当然の様に知らない広範囲魔法だ。触れてもダメージは無く、本当に『支援型』なんだろう。

問題は効果だ。


「攻撃・防御・属性耐性・異常耐性上昇、スタミナ・ＭＰ系統消費軽減……だったかしら？」

「………あまり心を簡単に読まないで欲しいんですけど。」

「つか普通にＭＰとかゆーなや、ゲームかっつの。せめて魔力とか気やろが。」

「フフフ、どっちも今更ねぇ。」


僕らのツッコミに悠然と応える。いつもの様に軽く構えるでもなく、ゆらゆらと立っている

所からも、それ程に支援効果が高いんだろうと推察出来る。

ただでさえ魔力総量もスタミナも向うが上で、更に"神気"まで温存されている。


「(のどかさん、愁磨さんとノワールさん以外の思考を同時中継出来ますか？)」

「(で、出来なくはないですけどー……大変ですよ？それに、真名が分からないヴァナミス

さんとデュナミスさんは読めないのでー……。)」

「(それはなんとかするので、早く！)」

「相談は終わったかい？」
ドウッ！
「まだだ、よぉ！」


"いどのえにっき"を使って貰う前に飛んで来た石柱を投げ返す。

傍観を決め込んでいたフェイトが僕にかかって来たので、のどかさんを巻き込まない様に

先手を取って、装填していた『終焉の咆哮』をブースターにして体当たりし、引き剥がす。

直ぐに『雷天大壮』を発動して、追撃に入る。


「随分遅いじゃないか。余裕がなくなったか、フェイト！？」

「なに、元々の取り決めでボクが君の相手に決まっていただけだよ。」

「何……！？」

「分断には成功した。全員ね。」


まさかと、皆の方を見ると―――


「く……！や、やめてよ、お姉ちゃん！」

「まだそんな事を言っているの、アーニャ。本気を出してくれないと困るわ。」


いつの間にか空間を区切る様に移動された障壁に、アーニャとお姉ちゃんが閉じ込められて

戦っていた。


「な、なんで私にエヴァンジェリンさんがー……！？」

「読心者相手に私を当てるのは妥当な所だと思うがな。」


一方、先程まで僕がいた所。のどかさんにはエヴァンジェリンさんが宛がわれている。

戦っても無駄と双方理解しているのか、戦おうとしていないのが幸いだ。

他の皆も、自分の上位互換だったり不利なタイプを相手にさせられている。実力差もある上に

これは拙すぎる・・・さっきまでなら。


「上手い事嵌めたつもりかい？さっきとはルールが違うだろう、フェイト！」

「そう言うこった、俺らも遠慮なく参戦出来るんだぜ？」
ゴゥ！

僕の発言に合わせる様に、ラカンさんの援護が後ろから飛んで来る。

バシッ！
「ならば我々が参戦しても良いと言う事であろう？」

「な、誰だテメェ！？」


その拳を受け止めたのは、ラカンさんより更に一回り大きい金髪金眼の壮年の男。

目を引くのは、背中から生える、あまり似合わない純白の六枚の翼。

そしてこの、上から押しつぶされるような、"神気"の重圧。


「安心しろ、お前らの相手もキッチリ用意しているぞ。」

Side　out


Side　愁磨

「やれやれ、我々を簡単に呼び出されては困るんだがね。天使達では仕事に差し支える。」

「お前は普段から仕事などしておらぬだろう。」

「んっだ、そりゃぁ……！」


一対一の状況を作るのに面子が足りなくなり、予定通り、『神』の連中を召喚した。

"紅き翼(ｱﾗﾙﾌﾞﾗ)"と"大魔導士"に対応した奴らを送り出すと、新顔に向き直る。


「三人とは初めましてだな、いきなり呼びつけてすまない。」

「おぉお！私の様な者に何と勿体無いお言葉か！お噂はかねがね聞いております"魔人"よ！

我が名はファントム、"怪人"などと呼ばれております。」

「ふふふ、僕はトルメリア。君が倒した人の代わりに"雷"を受け継いだんだ。よろしく。」

「宜しく。お前さんらは待機しといてくれ。」


顔面を包帯でグルグル巻きにした、スーツにシルクハットとマントを装備した怪しい奴と、

茶髪で垂れた黒目の好青年っぽいのに挨拶を返し、旗を靡かせ、こちらを睨む甲冑を付けた

女にも一応の挨拶をする。


「と言う訳で、貴女は？」

「………我が軍の旗を見て察しがつきませんか、実力の割には勘が冴えないようで。

お仕事は熟しますので勝手にさせていただきます。」

「これは手厳しい。」


金髪ロングを三つ編みにした、印象としては外ハネショートボブっぽい碧眼の美少女。

王冠と剣を意匠化した特徴的な旗。見た目としてはジャンヌ・ダルクその人だが、若干

暗黒面入ってるのか、態度が刺々しい。

とは言え、（年代的にも）新人が裏切って職場での風当たりを強くする事はしないらしい。

安心出来た所で、戦線を確認する。


主戦力たるネギは『雷天大壮』状態でバフありフェイトと互角、"紅き翼"と"大魔導士"も

"神"がそれぞれタイマンで圧倒してくれている。

麻帆良組は連携さえなければ、イレギュラーが有り得るのは覚醒した明日菜だけだし、それが

覚醒したとしても、相手はノワール。魔法無効は無駄、全力の百倍出そうと格闘で掠らせる事

すら出来ない。つまり、今のこの状況は向うの"詰み"状態の筈だ。


「さぁ、誰がどう出る？」

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subSide　千雨

さて、どうしたもんかなと、パーティの状況を見て私は思案する。

逆立ちしても私らが勝てねぇ敵が更にバフを貰い、そいつらと非戦闘系までが一対一で各個

撃破され中。打開策としちゃ外的要因が一番可能性があるが、オッサン達や出鱈目魔法使いの

三人組を圧倒している・・・ありゃなんだろうな？鳥っぽい翼が六枚ある鳥人？

・・・いや、誤魔化せないか。ノワール先生とかアリアと同じ『天使』か。

当たりはつけてたし、もみじが魔王の時点で不思議じゃないと思っていたが・・・困った。

人が天使に勝つ？いやいや神話クラスの力持ってる訳ねーだろ。

それこそその上を行ってる愁磨さんと同じ、『創造』の力持ってないと、か。


「おうおう、難しい顔しとるの。考えている所悪いが、捕縛くらいはさせて貰うぞ。

お主が一番実力があやふやじゃからな。」


とは言え、あんま考えてる時間はないようだ。

武術も使えなけりゃ碌に魔法も使えない私の所にアリカ先生が来たのは、もう運命か。


「仕方ねぇ、そろそろ諦めるか。」

Side　out
―――――――――――――――――――――――――――――――――――

「何じゃ、つまらんのう。少しくらい足掻いてくれても良いんじゃが。」


どうやら、一番最初に決着がついたのは千雨とアリカ。と言うか諦めたか。

まぁ、そう言う配置にしたんだ、そうなって貰わなければ―――


ドンッ！
「"遅延解放"―――」


困る、と思ったのと同時。初めて感じる『創造』と『魔力』の発露が、千雨から放たれる。

いや、その二つだけじゃない。アスナと同じ"王家の力・黄昏"まで使い、アリカの捕縛魔法を

消し飛ばした。

更には遅延させていた、俺とツェラメル用と思っていた、全属性の魔法の矢を放つ『魔法の

射手・神檄の十矢』を固定させた。


「私の最初で最後の本気だ！『掌握(ｺﾝﾌﾟﾚｸｼｵｰ)』！！」
ガキュンッ！！

本来、管理者以外はネギでさえ唱えられない魔法。

確かに威力・消費魔力自体は単属性魔法の十矢と大して変わらない。だが、それを唱えるのは

設定を違えるチートだ。その上、態々それを取り込むのは、最早設定された効果を知っている

としか思えん。・・・試したのか？あの千雨が？

ギシッ―――
「で、これにも小難しい名前付いてんのか？」


黒い影の姿となった千雨。その姿は暴走時のネギと似ているが、角などは無い、人の姿のまま。

体中に走る罅からは木漏れ日の様に光が差し、各属性が零れる様に時折顔を覗かせている。


「………いや、『究極の十(ﾃﾞ･ｱﾙﾃﾏｰﾄ)』だ。覚えやすいだろう？」

「究極って割にゃ、我ながら貧弱だけどな。」


『究極の十』、"全属性の特性を得る"と言う名前も効果も覚えやすい術式兵装だ。

正確にはこの兵装、全属性の魔法を軽減し、初めに『掌握』した魔法を無制限に使い続けられ、

更にはその総攻撃力以下の攻撃を無効にする。

『絶対魔法』を使える奴が使えばそれこそ無敵だが、千雨が取り込んだのは『魔法の矢』。

それも極々弱い、初等部並の威力。それが脅威になる理由が、あの黒い影の下。

ﾋ―――
「いくらあんたでも、油断出来ねぇだろ？」
ドドドドドドドドドッ！！

目の前にいたアリカは元より、その場の全員が動いた事を知覚する前に、全属性付き9連撃が

俺にヒットした。

ネギが文字通り光になりかけた光の"術式兵装"を他属性で覆ったのが、『究極の十』だ。

それでも尚流出を食い止め切る事は出来ないし、少しでも制御をミスれば内側から爆発四散

してしまう。本来なら管理者しか使えないのだからリスクはあって然るべきなのだ。

が、ネギの話を聞いた後にその危険を冒して自らがつかうとは。


「お前らしくないな、千雨。」

「らしくねぇのは分かってるけど、仕方ねぇんだ。こればっかりは自分の勝手だからな。」

「ほう？」


珍しく前向き？な事を言う千雨だが、こちらはそのせいで微妙な戦況だ。

効果を上乗せした『ホーリーソング』は被弾と同時に消滅し、追加に発動しようとしていた

『アシッドレイン』もキャンセルされてしまった。

余裕だった戦況は所々で拮抗し出している。アリカも来ているが、さてどうするか―――


「愁磨先生、私、あんたの事好きだったんだ。」

「……………………ふぇ？」

「あらあらあらぁ～？」


・・・・どうしよう。急な告白に固まってしまった。ノワールは監視よりもこっちに興味津々

だし、いや、ノワールだけじゃねーし！皆こっち見てるし！


「あ、や、確かに嫌いじゃないけど、尊敬してるって意味。」

「なーによその良くある煮え切らない感じ。つまらないわねぇ。」

「人の色恋をつまるつまらないで見るんじゃありません。」


ふぅと溜息をつくと、また明日菜の方に向き直る。それに合わせ、思い出した様に戦いが

再開された。


「コホン。そんな、私が尊敬したあんたが、バカみてーな事してんだ。止めたいってなったら、

自分が頑張るしかないと思うんだが？」

「まぁその積極性は買うがな。どれだけチート使おうが俺には勝てんぞ。」

「それはどうだろうな、それ以上武装を増やせなきゃワンチャンあると思うけどな！！」
ボッ！！

瞬間、先程の倍の攻撃が一瞬で飛んで来た。

修業する時間も無かっただろうに、十分な使い手になっている。『究極の十』の雷は、

『雷天双壮』の二つ目の『千の雷』同様、思考雷化するが、一般人の千雨はその思考に目が

追い付かず、それを克服しても移動と攻撃は光速。一朝一夕で御せる物じゃない。


「才能か？ふむ、だとしたら聞くべきか？『お前は一体何者だ？』って。」

「さぁ？今はあんたを止められればそれでいい！」


何とも真っ直ぐな事だ。だが―――

バシッ
「まさか光速になった程度で、俺を圧倒できると思ったか？」

「嘘だろ、マジ、かッ！？」
ドゥッ！

知覚出来ない速度で襲って来ていた拳を受け止め、そのままアリカの所に蹴り飛ばす。

確かにネギより速い。攻撃に付与される様々な追加効果も厄介だ。だが、あまりに軽い。

しかも素人の攻撃、虚実もへったくれもないのは勿論の事、開発者にそのままぶつかって来て

勝とうなど言語道断。


「………何を企んでる？」

「人聞きの悪い事言うなよ、私は状況打開しようと頑張ってるだけだ！」
ヒュ――
「アリカー、後は任せたぞ。」

「ふん、私にとてプライドはあるのじゃ。」
ガシッ！
「のわっ！？」


動き出そうとした千雨の首根っこを捕縛魔法で引っ掴み、雁字搦めにして行く。

たまにキャンセルし切れない魔法の矢が飛んで来るが、ここは圧倒していると判断して良さ

そうだ。さぁ、手も空いた事だ。さっきよりも意地の悪い支援と行こうか。

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ゴ―――ン　ゴ―――ン　ゴ―――ン
「本当に行くのですか？成功する確率は僅かに5.433％ですが。」

「何も私一人で勝とうなどと思っている訳でもないヨ。また手を貸してもらうサ。」

「了解いたしました。では、お気をつけて。」


巨大な懐中時計が鳴り響き、最終シークエンスに入った事を知らせル。

妙な気分ダ。私を送り出すのが、今から私が倒そうとしている人と同一人物とは。

・・・もしも作戦が成功すれば、私は高確率で消えるだろう。

彼は絶対創るからタイムパラドックスで消える事は無いと言ってくれた。でも、それで出来た

私は今の私じゃないだろう・・・なんて。


「いかんいかん、センチメンタルになっていては。顔を合わせた時に泣いてしまいそうだ。」


そう、私がすべき顔は不敵な笑みだ。彼の敵として、相応しく。


「行ってらっしゃいませ。」

「うむ！委細任せた！！」
バシュウッッッ！！！

瞬間、星が線となって流れて行く。

超長距離時間遡行はその難しさに比例せず一瞬で済む。

そして私の眼下には、懐かしい白き死神が。となれば、私が放つのは―――全力だ！！


「"集え天元、我が手に星の出光と顕現せよ！！『届けよ銀河跨ぐ超螺旋(ｶﾞﾗｸｼｱ･ｷﾞｧﾙﾄﾞﾗﾙﾌﾞﾗﾝｹ･ｼｭｳﾞｧﾙﾂﾌﾗﾝﾒ)』！！！"」
ズッッ―――――――――――――ギャルルルルルルルルウァルギャガガガガガガガガ！！！

麻帆良祭で撃った物とは大きさ、熱量、回転力を格段に上げ、一秒毎に威力を増して行く。

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―――――――――――――――――――――――――――――――――――
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突如頭上から振って来た黒炎の大螺旋槍を受け止める。

一撃受けただけで分かるとも、そうでなくては困る。


「漸く来たか、超 凜音！！」

「主役は遅れて来ると言うだろウ、愁磨・Ｐ・Ｓ・織原！！」


Side　out
 

そんなこんなでＭＨＷのβ来ちゃいましたね。
寧ろ書く速度上がったのですが。やる気上がるんですよ、不思議な物ですね。
ライトボウガン超楽しい。