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魔法少女リリカルなのは~無限の可能性~

作者:かやちゃ
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第5章:幽世と魔導師
  第136話「小休止」

 
前書き
帝とアリシア達の戦いが終わってないのでまずそっちを…。
描写はないですが、前回の後優輝達は普通に司達と合流しています。

……それよりも、マジで話数が膨れ上がりそうです。
 

 




       =帝side=





「はぁ……はぁ……はぁ……」

 俺の振り下ろした刀によって、青鬼が両断される。
 ……これで、倒しきったはずだ。

「っつ……一気に決めれたから良かったものの、俺にはまだ早いか…」

〈腕に大きな負担が掛かりましたからね。控えるべきです〉

 赤鬼を怒涛の九連撃で倒しきる事はできた。
 だが、その後反動が来て俺の体力は大きく削られた。
 しかも、青鬼が激昂して攻撃に苛烈さも増してしまった。
 そのため、俺は疲労してしまった。

「……最初からこれを出しておけばよかったな…」

〈そうですね〉

 青鬼を切り裂いた刀は“童子切”。鬼殺しの逸話で有名な刀だ。
 俺はそれを投影して使った。
 俺の特典はfateに基づいたものなため、逸話の影響を色濃く受ける。
 だから、童子切だと鬼に対する効果が絶大だった。

「…まだまだだな。俺も」

 あいつなら、おそらく初手かその次くらいで気づいて使っただろう。
 俺のように、無駄な体力を消費などはしなかっただろう。

「よし、殲滅に戻るぞ」

〈しかし、いいのですか?〉

「…?何がだ?」

〈あれほどの妖。他の妖とは別に“祠”を持っていてもおかしくないのでは?〉

「………あ」

 そうだった。先に転移した葵から教えられた情報。
 ある程度強い妖だと、各自で“祠”と呼べる門を持っているらしい。
 ……先程の鬼、“前鬼・後鬼”も持っていてもおかしくはない。

「…ああくそっ!探しながら妖を殲滅だ!」

〈まだまだ修行不足ですね〉

「元一般人なんだから大目に見てくれ!」

 まだまだ現れる雑魚妖を剣群で倒しつつ、“祠”なるものを探しに向かった。





 ……結果としては、“祠”を見つけた時に他の連中と合流して、無事解決した。









       =アリシアside=





「くぅううっ……!!」

 アリサが炎を纏わせた刀で繰り出される攻撃を捌く。
 すかさず私が矢を撃ち込む事で押し切られる前に間合いを離させる。

「……見つけたのはいいけど、強い…!」

「土蜘蛛…だよね?あれって…」

 相対する門の守護者の姿は、巨大な蜘蛛だった。
 私は妖怪に対する知識は乏しいので、すずかかアリサ頼りだけど、やばいのは分かる。

「くっ!」

     ボウッ!!

「厄介ね…!」

「とにかく、当たらないように動き回って!」

 当然、蜘蛛なのだから、糸を吐いて動きを阻害してくる。
 幸い、アリサが火属性に適しているおかげで、糸は全部燃やしてくれる。
 でも、当然相手もそれだけで終わらない。

「っ、範囲が広いわ!すずか!」

「うん!」

   ―――“氷血地獄”

 広範囲に吐かれた糸だと、アリサだけだと防ぎきれない。
 そこで、すずかが半分程凍らす事で何とか凌ぐ。

「毒は、出させないよっ!!」

   ―――“火焔旋風”

 そして私は、守護者に毒を出させないように術を放つ。
 戦闘開始後、一度毒が出されたけど…喰らってなくても分かるぐらい強力だった。
 すぐに私が霊力で祓った事で、その場は何とかなったけど。

「っ!」

     ギィイイン!

「アリシアちゃん!」

「大丈夫!」

 術を耐えられ、脚で私を薙ぎ払ってくる。
 咄嗟にフォーチュンを刀にして防ぎ、すずかの援護を利用して間合いを取る。

「……守護者というだけあって、凄くタフだね……」

「確実に攻撃を当てているのに…ケロッとしてるわ」

 これまで私達は何度も攻撃を繰り出している。
 防がれたりもしたけど、効いてはいるはず。
 ……でも、その様子を相手は全然出そうとしなかった。

「(特に火属性が効くはず…なんだけどなぁ……)」

 相手も全く平気と言う訳ではない。
 攻撃を当てている内に、火属性を一番警戒しているのがわかったからね。
 まぁ、見た目がでかいとはいえ、蜘蛛だからね。

「アリサ!すずか!隙を見つけたら一気に叩くよ!」

「ええ!」

「了解!」

 飛んできた糸を躱しながら、私は二人にそう言った。
 振るわれる脚を躱し、まず私が攻撃を引き付ける。

「今!」

「はぁああっ!!」

 ちょっかいを出す感じに術を飛ばしていたため、注意がほとんど私に向く。
 そして、私に襲い掛かろうとした瞬間に、アリサが刀に炎を纏わせ攻撃した。

「すずか!」

「うん!」

 アリサが攻撃を当てると同時に、間髪入れずに私とすずかで足止めする。
 水属性(実質氷)で足を凍らせ、動けなくする。

「チャンス!」

「喰らいなさい!」

「これで!」

   ―――“戦技・火線(かせん)
   ―――“槍技・氷血裂傷(ひょうけつれっしょう)

 アリサの炎を纏わせた斬撃と、すずかの氷を纏わせた刺突が守護者に突き刺さる。
 守護者は割と巨体なため、二人の技が互いを邪魔する事はない。

「これでぇ……終わり!!」

   ―――“妖滅霊砲(ようめつれいほう)

 両手で霊力を集束させ、それを砲撃として放つ。
 この技は、まだまだ霊力の扱いに無駄があった頃に、優輝に教えられた。
 扱いの向上がてら、威力の高い技になるからと言われ、私も練習した。
 ……そして、実際に今の私の最大威力を誇る技となった。

「ギ……!ギギギギィイィ………!?」

「……ふぅ……!」

 その威力は単純な威力だけでもそこらの砲撃魔法とは比べ物にならないらしい。
 私自身、なのはの全力ディバインバスターにも相性関わらず勝てると自負できた。
 その霊砲が直撃しただけあって、守護者はもう虫の息だった。

「……まさか、まだ生きてるとはね……」

「凄い威力だったわね…」

「まぁね。……さて、今度こそトドメ」

 司から貰っていた魔弾銃を放ち、守護者を貫く。
 ……今度こそ、守護者の息の根が止まった。

「さて、封印っと……」

「ようやく勝てたわね…」

「でも、今のと同じようなのが、日本中にいるって事だよね…?」

「そうなるわね……」

 封印しながらアリサとすずかの会話を聞く。
 ……何とも、先が思いやられそうになる事実だよね。

「……よし、これで終わり」

「後は街に残っている妖をできるだけ片づけるだけね」

「大門があるから、安全を確保できる訳じゃないけどね」

 椿たちから、御守りを作る過程で封印の術もしっかり教えてもらっていた。
 そのため、すぐに封印は終わり、次の行動を起こせた。
 …まさかこんな事態になって役に立つとは思わなかったけどね。

「ちょっとクロノに状況を聞いてみるよ」

「頼んだわ」

「警戒は任せてね」

 周囲の警戒をすずかとアリサに任せ、通信をクロノに繋ぐ。

「『クロノ』」

『アリシアか。こちらで門を閉じたのは確認した』

「『うん。無事完了。ところで優輝達は?』」

 こっちで結構時間が掛かっていたから、優輝達ももう終わってるかな?

『既に合流を始めている。後は君達だけだ』

「『そっか。じゃあ合流に向かいながら妖の残党を片付けておくね』」

『わかった。優輝達の座標を送っておくが、最後まで油断するなよ』

「『わかってるって』」

 通信が終わり、端末に優輝達の位置情報が送られてくる。
 ちなみに、フォーチュンは通信に使っていない。代わりの端末を使っている。
 霊力で動くとはいえ、アースラ側がエラーを起こしてしまうらしく、念話などはあまり使えないらしい。

「よし、行こうか」

「ええ」

 まずは門のあったこの洞窟から出なきゃね。







       =優輝side=





「現在、艦長と何人かで現地に赴いて説明している。とりあえずはお疲れ様だ。完全とは言えないが、京都の安全は確保された」

「まぁ、何とかなったって感じだな」

 有名なだけあって、僕らが相手していた妖は一際強かった。
 司の方はともかく、なのは達はザフィーラが体を張って攻撃を凌いでいなければあっという間に瓦解していたかもしれないからな。

「それとだ。応援が到着した。指揮はレティ提督が行っているらしい」

「ユーノ君やプレシアさん、優輝君の両親も一緒だよ」

 ようやく応援が到着したらしい。
 これで人手不足も解消……とまではいかないが、幾分かマシになるだろう。

「それで……だ。既にユーノと連絡を取り、ロストロギアの情報について聞いたんだが…」

「どんなものだったんだ?」

「……不明だ」

「は……?」

 織崎の問いにクロノがそう答える。

「不明だった。無限書庫の情報にも、一切載っていなかったんだ」

「……そんな事があるのか?」

「ありえない訳ではない……が、ヒントすらないとはな…」

 正直お手上げ、と言うのがユーノの言い分だったんだろう。

「……解析魔法は行けるか?」

「不安だが……幸い、厳重に封印魔法を掛けた状態だからな…。それに、ジュエルシードを直した実績を持つ優輝なら、或いは……」

「試す価値はある…か」

 どういうロストロギアか分かれば、如何にして今のような事態になったのかわかるかもしれないからな。…って、そうだ。

「デバイスの記録の方は?」

「確認済みだ。……優輝も見るのか?」

「解析魔法を試す前にな。少しでも情報が欲しい」

「私達も見るわ。幽世の門が開く原因となれば、私達なら気づけるものがあるかもしれないもの」

 尋ねた際、クロノの顔が少し引きつっていた。
 ……あまり、見たくないものを見たらしいな。

「…私も、見るよ。何か対策できるかもしれないし」

「私も見るわ」

 司、奏の声が上がる。
 続けて織崎、帝と来て、結局全員が見る事になった。

「……念のため先に言っておくが、映像には人が死ぬ瞬間がある。……耐性がない場合は見ない方が良いかもしれん」

「承知の上だ」

 元より、ティーダさんが死体で見つかった時点で、デバイスの映像にもそういうのが映っている事ぐらいは予想できる。

「では行くぞ」

 別の部屋に移動して、映像を再生し始めた……。







「っ………」

 映像を再生し終わる。
 次元犯罪者の首を落とされてからは、瘴気の影響でほとんどわからなかった。
 しかし、それでもわかった事はあった。

「…ロストロギアが原因で幽世の大門が開いたのは確定だな」

「ああ。その後は瘴気で映像及び音声が阻害されたが…充分か」

 皆顔色が悪い。そりゃあ、映像とは言え、首を落とされたのを目の当たりにしたらな。

「……優輝はよく平気だな」

「猟奇的じゃないだけマシだ」

 現に椿と葵なんてほんの僅かに顔を顰めた程度だ。
 しかも、それはグロさに対してではなく、人が死んだという事に対してのみ。
 ……まぁ、妖とかが跋扈していた時代にいた二人にとっては、グロいものに対しての耐性なんて相当あるだろうな。

「守護者の姿は……」

「…見えなかったわ」

「蓮さんの言っていた通り、瘴気に覆われて判別不可能か…」

 守護者の姿は結局分からなかった。
 輪郭すらぼやけて良く分からない程だ。と言うか、瘴気のノイズで見えん。
 辛うじて分かったのは、僕らと体格がほとんど変わらないという事。
 人型…と言うか、ほとんど人間に近い。

「それよりも優輝。……“見えた”かしら?」

「……いや、辛うじて…ほとんど見えないも同然だった…」

 主語を抜いてても分かる。椿と葵も冷や汗を掻いていた。
 ……そう。剣閃がほとんど見えなかったのだ。

「速すぎる…。蓮さんがあそこまでやられるのも納得だ…」

「ええ。……そして…」

「あれはまだ全力じゃないって事だね…」

 実に恐ろしきは、あれで全力じゃないのが見て取れる事だ。
 それを、シグナムさんやアインスさんも理解したみたいで戦慄していた。

「……君達がそこまで言う程か…。…勝算は…あるのか…?」

「……神降しをすれば…だけどね。でも、それだけじゃ済まない気がする」

 いつもの“嫌な予感”だ。
 今回の相手ばかりは神降しでは…いや、神降しだからこそ厳しいかもしれない。
 それがなぜなのかは判断材料が少なすぎてわからないがな。

「何よりも厄介なのは、今どこにいるのかが不明な所と、相手はこの守護者だけではないという事だ。……京都にいた妖以外にも強力な奴は大量にいるからな」

「……そうか」

 しかし、だからと言って引き下がる訳にはいかない。
 クロノもそれは分かっているだろう。

「……とにかく、状況を見て指示を出す。一旦、休憩してくれ」

 どんな敵が待ち受けているのかわからない。
 だからこそ休息は取れる内に取っておかなければな。
 ……でも、僕の場合は他にもう一つやる事がある。

「クロノ」

「……解析するのか?」

「ああ。危険があるのは分かるが、少しでも懸念は潰しておきたい」

 そう。ロストロギアの解析だ。
 もし何らかの効果があったのだとしたら、それを把握しておきたいしな。

「分かった。解析は別室で行おう。皆の精神状態も考えてな」

「ああ」

 ついてくる者はついてくるらしい。
 フェイトとはやて、それとアリサ。耐性がなかった三人と、それに付き添ってプレシアさん、ヴォルケンリッターの四人とリインが待機する事になった。
 アリシアもだいぶグロッキーだけど、まだ大丈夫だな。そして、すずかは夜の一族な事もあってか、割と耐性はあったらしい。それでも気分は悪そうだけど。
 転生者組は精神年齢がそれなりに高いからな。気分は悪くても大丈夫だろう。
 ……驚きなのはなのはだ。顔色は悪いが、それでも堂々としていた。
 いくら芯の通った心の持ち主でも、意外だな…。





「……よし、それじゃあ行くぞ…」

「ああ。いつでも来い」

 いつでも封印魔法で中止できるようにしてから、解析を開始する。
 織崎が僕の手で解析する事に不満があったが、僕より解析ができる者がいないので渋々了承していた。
 ちなみに、移動中にユーノが合流した。解析に立ち会いたいとの事だ。
 まぁ、ユーノとしても結局分からなかったロストロギアの正体は知りたいよな。

「“解析(アナリーズ)”」

「……」

 皆が見守る中、解析魔法で調べていく。
 見た目は、全ての面に魔法陣が刻まれた黒い星空の立方体だ。
 だけど、それ以外が全く分からない。……さて……

   ―――識別名、“    ”
   ―――通称、“    ”
   ―――対象状態、沈黙(封印)
   ―――保有■■、譁�ュ怜喧
   ―――対象情報……………………





「っ――――――!?」

 思わず解析魔法を中断してしまう。

「優輝!?」

「何が…!?」

 荒い呼吸を繰り返し、冷や汗がどっと溢れる。

「なんだ……なんなんだよ、こいつは……!」

「どういう…事だ…?」

 得体が知れない…と言う訳じゃない。確かにわからない事もあるが。
 むしろ、得体が“わかってしまった”事がおかしかった。

「………順を追って説明する」

「…ああ」

 深呼吸し、何とか気を落ち着ける。
 とりあえず、わかった事は伝えないとな。

「…まず、このロストロギアは名前がない。誰かが付けた通称すら存在していない。完全に名無しのロストロギアだ」

「そんな事が……あるのか?」

「名前はともかく、通称すらないのはおかしい。例えばかつての闇の書の場合は、識別名が夜天の書となり、通称が闇の書になっている。……ロストロギアと呼ばれるからには、何かしら名前があるはずなんだ」

 それなのに、名前がない。
 つまり、()()()()()()()()()()()なのに、“ロストロギア(失われた技術)”として成り立っているという事になる。……あまりにも不可解な存在だ。

「それなのに名前が存在しない…どう言う事だ?」

「分からん。……次だ。次も不可解だが……解析魔法が今までにないエラーを吐き出した。コンピュータ的に言えば、文字化けした」

「は……?解析魔法が…文字化け?」

 まぁ、意味わからないだろうな。僕の解析魔法って割と特殊だし。

「特殊なエラーだとでも思ってくれ。…で、だ。そのエラーが出た訳だが…こいつは、魔力じゃない何かを持っている。それこそ、僕らの誰も知らない力を」

「っ……!」

 その言葉に反応したのは、帝だった。
 …おそらく、連想したのだろう。あの男の襲撃の時を。
 あの男が使っていた力も、魔力に見せかけた“何か”だった。
 それに帝も気づいていたのだろう。

「最後に、ロストロギアとしての力だが……簡単に言えば、その地に眠る、もしくはかつて起きた災厄を蘇らせると言うものだ」

「…今回の場合は、幽世の大門による災厄を復活させた訳ね…」

「そう言う事だ」

 場所が場所なら、とんでもない事になっていただろう。
 わかりやすい例とすれば、地球のある次元世界から出た所で効果を発揮していれば、アンラ・マンユが復活していた所だ。

「災厄を引き起こす箱……まるで、パンドラの箱みたいだね…」

「パンドラの箱?」

「ギリシャ神話に出てくる箱だ。ゼウスが全ての悪と災いを封じ込めた箱を、人間界に行くパンドラに渡して、そのパンドラが好奇心で開けてしまった結果、人類は不幸に見舞われ、慌てて箱を閉じて最後に希望だけが残ったって話だ」

「……詳しいな」

 これぐらいなら知っている。…前世の知識込みの話だがな。

「災厄…まぁ、繋がりはあるな」

「名前もないんだし、仮称としてはちょうどいいんじゃないか?」

「呼び名がないのは困るし、それでいいだろう」

 管理局にもそう言う事で伝えるようだ。
 ……っと、それよりも重要な事が…。

「話が逸れたな。ロストロギア…パンドラの箱の効果が分かったのはいいが、その“分かる際”がおかしかった」

「…まだ何かあるのか…」

「……正直、信じられないがな…」

 解析魔法の情報を思い返し、説明する。

「まず、パンドラの箱には情報の閲覧制限のようなものが掛かっていた。条件に一致しない者は中身を解析ができないようにな」

「プロテクトか。それだけならばおかしくはないが…」

 もう、それだけではないのは理解しているようだ。話が早くて助かる。

「……条件、なんだったと思う?」

「………」

 まぁ、あまり想像はつかないだろう。
 だけど、僕の表情から椿や葵、司、奏はどう言うものかは感付いたようだ。

「……名指しだ。……名指しで、“志導優輝”が解析したらプロテクトが解けるようになっていた」

「っ………!?」

 その異様さが、どれほどのものか分かったのだろう。
 クロノ含め、ほとんどが戦慄していた。

「ありえない……!そんな事、あり得るはずがない!」

「僕だって信じ難いさ。でも、こんな事で嘘をつく必要もないし、事実だ」

 ユーノが否定しようとするが、既に確定した事だ。
 ……“失われた技術”として扱われるロストロギア。
 それなのに、現代に生きる僕を、名指しで示していた。
 こんな事、あり得ていいはずがない。

「えっと、何がおかしいの?」

「…そうだな…。例えるなら、行ったこともない次元世界の、それも自分が生まれる前の時代の住人から、自分宛の手紙を貰うようなものだ。……このロストロギアの製作者は、僕が解析する事を分かっていたんだ」

「ぇ……」

 なのはの問いにそう返す。
 正直、驚きよりも不気味さが大きい。

「……仕組まれていたとでも、言うのか……?」

 一体、誰が、何の目的で?
 いや、それよりも、こんなものを作った存在が次元世界のどこかにいるのか?

「ユーノ、クロノ。パンドラの箱はどこで発見されたのかわかるか?」

「……調べた限りでは、既に無人となった次元世界の遺跡から発掘されたらしい」

「…まるで普通のロストロギアだな……」

 だけど、これが、こんなものが普通な訳がない。

「…気になる点はあった。発見された場所は最深部でも部屋に鎮座していた訳でも、保管されていた訳でもなかった。……無造作に浮かんでいたらしい」

「……完全に“黒”だな」

 不自然な所はやっぱりあったらしい。クロノとユーノもその不自然な点に納得したようだ。

「……何か心当たりはあるのか?」

「……一つだけある。……以前のあの男。その背後にいる存在…」

「…なるほど……」

 証拠もなにもないが、他に心当たりはない。
 僕を殺すためにあの男が作られたのが本当なら、今回も同じ奴の仕業かもしれない。

「とにかく、厳重に封印しておいてくれ。…あまりそれに触れない方がいい」

「そうだな」

「別の意味で“パンドラの箱”になったね…」

「本当にな…」

 とりあえず、効果が分かったのは御の字だ。
 それ以上に不安になる情報があったが、今の状況でそれに掛かり切りもダメだ。
 今は心の片隅に置いておこう。…で、それはそれとして…。

「……その高めた魔力で何をする気だ。織崎」

「うるさい…。やっぱり、お前のせいじゃないか…!」

「………はぁ」

 うん。何かしら絡んでくるとは思ってたけどさぁ…。
 さすがに思考が短絡的すぎるだろ…。

「……お前、その発想はさすがに馬鹿だろ」

「っ!?」

 そこで、織崎の魔力が霧散させられた。
 視線を向けると、そこには帝が槍の穂先を織崎が魔力を集中していた場所に当てていた。

「王牙!お前、なんで!」

「こいつを疑うよりも、こいつを狙っている未知の敵がいる方が問題だ。いちいちこいつを疑っている暇があったら、さっさと今起きている事件を解決しに向かえ」

 当てていた槍“破魔の紅薔薇(ゲイ・ジャルグ)”を仕舞い、帝はそういった。

「……そうだな。今、判断しきれない事で悩むよりも、現状を何とかする方が無難だ。……黒幕の掌の上で踊らされている感があるが、それ以外にできる事がない」

「そうだな。……正直、少し…いや、かなり気になるが、こっちもこっちで重要だからな」

 妖の脅威は止まらない。それどころか増していくだろう。
 現地の退魔士や警察とかとも連携を取らなければならないし、悠長にアースラで悩んでいる暇がない。

「人手が増えたから、一度方針を立て直す。そのために、少し休んでから会議室に集まってくれ」

「分かった」

 さて、僕らはいいけど、展開や情報の多さについていけてない人もいるけど…。
 ……いや、なのはとかはまだ子供だし難しい所はそこまで理解しなくてもいいか。
 とりあえず、今どうするかだけを考えてもらえばいいな。

「(明らかに不自然なロストロギア“パンドラの箱”。僕を名指しにする……いや、僕を対象にする理由はなんだ?復讐、私怨、遊び……ダメだわからん)」

 やっぱり判断材料が少ない。
 でも、それでもあの男の背後の存在が関わっていると見て間違いないだろう。
 よしんば間違っていたとしても、そういった類の存在だろうな。

「(……理由や動機はともかく、別勢力が存在しているのは厄介だな。……警戒は怠りたくないけど、そっちに気に掛けてる余裕があるかどうか…)」

 後手に後手にと、僕らの対処はなっている。
 そして、どんどん余裕はなくなっている。
 ……それでもどうにかしないといけない。

「(っ………)」

 “嫌な予感”を覚える。
 それも、今まで感じたものと比にならないくらいのものを。
 まるで、超巨大な隕石がゆっくりと迫っているかのような、そんな予感だ。
 吐き気も覚えるその“予感”に、しかし僕は顔に出さないようにする。

 ……この幽世の大門が“前座”と思えてしまう程なんて、言えるはずもない。
 それほどまでに、“パンドラの箱”の解析で思い知った情報は異様だった。
 それが例え“予感”のほんの片鱗だとしても。











   ―――でも、それでも前に進まなければ何も変わらない。











 
 

 
後書き
八握脛(やつかはぎ)…アリシア達が戦った、土蜘蛛の伝承の祖と呼ばれる妖怪。土蜘蛛の祖と呼ばれる程の存在だが、情報があまりにも少ない。かくりよの門では、定期的に封印を強くして封じていたらしい。

戦技・火線…斬+火属性依存の単体技。炎を纏った武器で切り裂く。かくりよの門では剣豪で覚える技。(つまり主人公専用技)

槍技・氷血裂傷…突+水属性依存の槍技。槍で切り裂いた箇所から凍らす。

妖滅霊砲…霊力を集束させ、砲撃として放つ技。所謂かめ〇め波。威力は相当高い。

閂…本来の意味は門とかをロックするための横木(トイレのロックみたいなもの)。かくりよの門及びこの小説でも同じような意味。依り代や生贄と捉えて問題ない。

パンドラの箱…正体不明のロストロギアの仮称。本編で説明した通り、その地にあった災厄を蘇らせるor封印を解く。

破魔の紅薔薇(ゲイ・ジャルグ)…ディルムッド・オディナが持つ槍の一つ。詳しくはfate参照。


パンドラの箱の見た目は、プリズマイリヤドライに出てきた黒いアレを小さくして魔法陣を刻んだ感じです。と言うか、ほとんどそのまんまです。
何かヤバめな伏線。ぶっちゃけると今回の章では回収しません。
ちなみに優輝が感じた“予感”はSAN値チェックが必要なくらい恐ろしいものを予期した感じです。さすがにクトゥルフ関連ではありませんが(詳しくないですし)、コズミックホラーに匹敵する程の脅威です。(脅威が描写できるとは言っていない) 
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