ロザリオとバンパイア〜Another story〜
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第67話 芸術を粉砕
前書き
~一言~
が、頑張りました……。異様に長くなっちゃったのは区切るのが難しくて……。
と、兎に角投稿できてよかったです!!
で、でわ…… オヤスミなさぃ……… がくっ
じーくw
場面は代わり、新聞部の部室。
「うーん、なんだか変です~~ モカさんとつくねさんに悪~~い『気』がまとわりついています……。とても良くない事が起こりそうです……」
部活動中……だが、今は特に作業は無く、ゆかりは別事に勤しんでた。
例の事件の調査を新聞部として出来る限り追う事も、ギン先輩の意向と言う事もあって業務になっているので、ある意味ゆかりも別事、とは言えないかもしれない。
正直、調べるのに限界があって行き詰った状態だったので、占いで糸口を見つけようとしていたゆかり。
失踪者の事は詳しく知らない為、占うにも限界があったので今度はモカとつくねの事を調べてみたら発覚したようである。
「ん? 何してるんだ?」
近くにいたカイトがゆかりのそばまで来た。
「あっ カイトさん。 あのですね、ちょっと気になる事があったので、占いをしてみたんです! そうしたら。 なぜかモカさんとつくねさんに危険が迫ってる結果が出たんです………」
ゆかりの表情は明らかに強張っていて、不安そうだった。
「え~……? 占いなんて当たるのー??」
信じないくるむはと言うと、胡散臭いそうな視線を向けていた。一般的には くるむの反応が正しいかもしれないが、ここは妖怪の学校だ。
「わたしの占いを馬鹿にしないでくださいですーー! 当たるんですよ!!」
ゆかりは先ほどの表情が何処かに吹っ飛んだ様だ。
暗い表情をするよりはマシだとカイトは笑う。笑いつつ くるむに説明。
「そうだな。占いも決して馬鹿に出来ないぞくるむ。自然界の気を自らの能力とする魔女達は占いの類の術は大得意だ。……まぁ流石に事細かに未来予知の類や一言一句たりとも的中させるのは無理だと思うが、必要な条件が整っていて且つ、簡易な占い程度だったなら、かなりの確率で的中する言っても良いと言われてるよ。……だからかな。オレも少々2人の事が心配になってきた」
魔女と呼ばれた偉人も歴史上にかなりいる。
それらの「力」を恐れた人間達が魔女狩りといった強硬手段をとっていたのだ。
それほど、魔女のその「力」は巨大だったと言う事だろう。
少なくとも人の世を変えるほどに。
「へぇ……、それは知らなかったよ わたしも! でもさっすがカイトだねー♪ 好きっ♪」
「わぷっっ! く、くるっ…… だ、抱き着くなって……っ」
「もーーーっ! カイトさんから離れてくださいです!! それに、今はつくねさん達が心配ですよ~! うぅ……今一体ドコに」
ゆかりがそういうとほぼ同時に。
ガラッと扉が開く。
心配していたのも束の間、つくねが入ってきた。
「はぁぁぁぁぁぁ・・・ ちゃーーっす………」
ちゃーっすって言いながら入るのはどうかと思うのはカイト。
「つくね。いつの時代のどこの運動部だよ。此処は(とりあえず、無事で良かったか。あくまで『良くない事』程度だからまだ判らんが……)。……んで、モカとの件はどうだった?」
「うううう・・・・」
つくねの表情を見れば、答えを訊くまでもない。散々な結果だった、と言う事くらい直ぐに判る。……これが ゆかりの占いの結果なのだとすれば、一先ず安心だと言えるかもしれない。
「よかったですー!」
「つくね♪」
ゆかりとくるむの2人も安心した様でくるむとゆかりもつくねの方へ駆けつけた。
「ったく 来るの遅いで……」
ギン先輩は遅刻してきたつくねに少し不満があったようだ。他人の事言えないぞ、とツッコんでは負けなので 誰も口にしないのは周知の事実だ。
話の本題はここからだった。
「昨日…… 新たに8人目の行方不明者がでたんや ビシッとせぇ!」
そう言うと、ギン先輩は一枚の写真を出した。
「あれ……? 行方不明者が出たのは知ってたけど、顔写真とかあったんだ」
「ん? ああ。 モカさんは参加出来へんみたいやから それ以外の部員全員が集まったら話そー思とったんや」
カイトとギン先輩と話している間につくねが入り、その写真を見た。
「ああーーーーーーーっ!こっ このコは・・・っ!!」
見たと同時に、つくねがその紙を握り締めながら何やら大声を出していた。部室中に響く大音量。
「って、うっさいなぁ何や? いきなり?」
「??」
つくねが突然騒ぐのは はっきり言って別段珍しくない事だ。
でも、ここから先が珍しい事でもあった。
つくねは数秒考え込むとすぐに血相を変え、部室を飛び出していったのだ。
「どうしたんやアイツ? ………便所か?」
「あーん…… つくねさーん 無事だったのに・・・ またどっかいっちゃった」
ギン先輩は耳から指を外し、ゆかりは残念そうに呟く。
「つくねにもいろいろあるんだろ?(特にモカ絡みで……)でも、今回はちょっと不自然だったな。血相変えてたし」
カイトがそう言うと、その原因だった写真をくるむが取った。
「ほら、 つくねこれを見てたよ? ひょっとして顔見知りのコだったのかなぁ?」
くるむがつくねが落としていった写真を拾いみんなに向けた。
「んーその可能性……も……っツ!! この写真のコ……ッ!』
カイト自身は楽観視してしまっていたが、直ぐに自分自身の記憶を揺り起こした。
と言ってもつい最近出来事だったため直ぐに思い出す事が出来た。
「(確かあの美術の授業の時に、体育を抜け出したって言ってたコだ。間違いない。 ……つまり、美術室か!?)」
つくねの行動と行方不明のコ、それらは 全部繋がった。そして つくねが向かった先も当然ながら。モカ絡みで美術室へと何度か向かおうとしていた事をカイトも知っているからだ。
そこで、行方不明者の痕跡か何かを見ていたとすれば……? おのずと犯人も見えてくる。
「そういうこと、だったか。……ヤバイな。もう完全に忘れてるよ」
そう呟くと、つくねに続きカイトも飛び出した。
忘れている……と言うのは一体何の事なのか、この場の誰も判らないだろう。当然だが。
「あれれ?? わー、カイトまでどこに行くの?」
「カイトさーんー!」
「ってか 部活せーや 野郎共」
そして、場面は再び変わる。
そこは美術室。……つくねが彼女を目撃した場所であり モカがいる場所。……そして、この事件の現況がいる場所だ。
「きゃああああああ!」
放課後で誰もいない美術室で悲鳴が響く。
その主はモカだった。
「きゅ、急にどうしたんですか石神先生っ!? かっ・・・髪が蛇みたいに・・・」
石神は邪悪な笑みを、そして 己の身に潜ます邪悪を具現化させたかの様な気配……妖気を周囲に撒き散らしていた。その妖気と連動する様に、己の髪の形も変わる。モカが言う様に蛇の様に。……毒蛇の様に。
「実はね。さっきつくね君に少しまずいものを見られてしまってね。 おかげで君との楽しい時間ももう終わりにしなくちゃいけなくなったんだ。悪いねぇ」
ガブッ!
瞬時に伸びた髪の蛇がモカの左手に噛みつく。
「きゃああああ!」
悲鳴を上げながらも、モカは決しに逃げようと地を蹴って美術室の隣の教員室へと飛び込んだ。
そして、その先でまた絶句する。
そこには、無数にある涙を流している石像があったから。
それだけではない。
『シクシク シクシク シクシク シクシク シクシク シクシク・・・・・・・・・・・・・・・』
その全てが涙を流しているだけではなく、嗚咽を漏らしていたのだ。
「な・・・何これっ・・・ 石像が生きているみたいに泣いてる!!?」
モカには更なる衝撃が襲う。
「ううっ!!」
左手に鈍い痛みを感じ その手を見てみると 変わり果てた自分の手を見てしまった。
「なっ……、うそっ 左手が石みたいにっ……!?」
先ほど 噛まれた左手が変色していっている。皮膚の色ではなく無機質な物質。そう石化していっているのだ。
「それはメデューサの『石化能力』……私の蛇のような髪に咬まれた生物は皆石になるのさ。 やがて、君もそのコ達と同じように全身が石になるんだよ……」
髪を妖しく靡かせながら・、ゆっくりとした足取りでモカに近付いてくる石神。
「そのコ達・・・? っ! ま・・・まさかっ・・・ この部屋の石像達はっ……」
石神の言葉でモカは全て理解した。
そう、この一連の事件の犯人は石神なのだということを。
「そう学園のカワイイ生徒達さ。 皆 私が石にしてあげたんだ・・・ どうだ? アートだろ? 君にも石に加わって私の芸術にしてあげるよ 赤夜萌香・・・」
自在に操る髪の蛇。群をなしているかの様に、無数の蛇がモカに巻きついていった。
「!!! ひ・・・ あ・・・ ああ・・・」
攻撃の速度もあり、更に動揺したモカには それを防ぐ事は出来ず。
そのままモカは身動きが取れなくなった。
そこに石神が近付く。
「ふふっ…… 全く君は本当に美しいねぇ。 その美しさをさらに私が高めてあげるんだ 君も光栄だろう?」
「先生……。生徒が何人も行方不明になる事件…… 先生が犯人だったんですね」
モカの言葉。それには石神は答えずただ笑みを零す。
モカを捕らえたまま、ゆっくりと泣いている石像となってしまった少女へと近づいて行った。
「ほら見なよ。このコ達を。 泣いている……、つまり石になっても生きているんだ。そして感情もある・・・ 悲しみ・・・ 絶望・・・ 動く事が出来ない、死ねない 泣く事しか出来ない・・・」
そう言うと石神は寒気がするような微笑の表情を浮かべながら石像の頬へと触れた。
「ああ…………! 何て美しいんだろう…… そうさ、これぞ 真の芸術じゃないか……。これ以上のモノは何人たりとも作れるものじゃあない……」
モカは震えた。
その表情に、そして何よりも 石神のその狂気に。
「さて・・・そろそろ・・・」
石神は再び髪の蛇を操った。
「君の仕上げに入るとするか」
「いやああああ!!!」
無数に巻き付いた蛇が牙をむき、モカに襲い掛かった寸前。
「まてぇーーー!!」
いつの間にか、此処へと侵入していたつくねが蛇に掴みかかった。
モカを救おうと 蛇を力いっぱい引っ張る。
「つくねーー!!?」
「ふざけるな!!モカさんを石にされてたまるかァあ!!」
引き剥がそうとするが、つくねは普通の人間だ。鍛えている訳でもない。……そんなつくねが妖に力勝負を挑んだとしても勝負にならない。
だが、石神を不快にはさせた様だ。明らかに不快感を露にした石神が更に力を強めたから。
「チッ…… 邪魔するな……!! ッッ! な、なんだ!?」
髪の蛇でつくねを攻撃しようとしたその時、突然の突風が石神の周囲に発生。一歩も動けない。いや 身動きさえ出来ない。
「な!! 何だ!? うわああァァァ!!?」
意思がある様なその突風は、石神をその場からはじき出した。まるで巨大竜巻に弾き出される様に、窓ガラスを突き破って外にまで吹っ飛ばされたのだが。
「ちっ……、本体を吹っ飛ばしてもご自慢の髪はまだ巻きついてるのか。 たいそうな髪の毛だ」
つくねより少し遅れて入ってきたのはカイトだった。
「「カイトっ!」」
「全く。事情を少しは話せよつくね。1人で突っ走ったって解決しない問題だってあるんだぞ?」
ため息を吐きながら言った。
周りを見えていない時のつくねは猪突猛進だと言う事はよく知っている。故に危険な事に巻き込まれる事が多いから。それを理解しているつもりだったが、結局のところ つくねはまた カイトに助けられたんだ、とも理解した。
「ごめ・・・ん・・・」
だから、カイトに謝る。それを訊いて軽く笑うのはカイトだ。
「まあいい。謝罪貰いたい! って訳じゃないし。何より つくねが後先かまわず飛び込んでくれたおかげで、あの女に不意打ちできたしな。オレは、……やっぱし女は極力手を上げたくない。ああやって吹っ飛ばすならまだしも……な」
カイトは 頭を掻きながら苦笑し。
「まあ とりあえず先にその悪趣味な髪を引っぺがそうか。気持ち悪いだろ?」
「おねがい、カイト!」
「うん!」
そう言い2人に近付こうとしたその時だった。
死んだように動きを止めていた筈の髪の蛇が突然動き出したのだ。
そして、驚愕するつくねに ガブッ! と嫌な音を立てながら咬みついていた。
「ッ!! つくね!」
手を伸ばすが、もう遅かった。髪蛇の毒、石化の毒はつくねの全身に回っていた様だから。
「ぁ……がっ……!」
耐性が備わっている訳でもない人間であるつくねに その毒はあまりにも効果があり過ぎた様で、ショック症状を起こして床へと倒れ込んだ。
「女には……手を出したくないか。 随分優しいんだなぁカイト君。 でも その甘さが命取りだったみたいだね……?」
髪が伝う先にいたのは石神だった。
勢いよく外へと弾き飛ばしたので、その衝撃で気絶でも……と考えていた事が甘かったと痛感するカイト。
「……のびてなかったのか? はぁ オレの主義を曲げるのは嫌なんだが・・・・ そうも言ってられないようだな。悪いが、友達に危害を加えようとするヤツに男も女も無いぞ。……覚悟は、出来てるな?」
カイトの周囲に、あの石神を弾き飛ばした時に発生した時の風とはくらべものにならない程の風が沸き起こった。いや、それだけではない。カイトの周囲にはまるで古代文字、図形? の様な紋様が発生し、それらに包まれてカイトを視認する事が難しくなった。
「(こ・・・これは・・・ なんだ??? この威圧感は…… か、感じた事のない程の威圧感…… あ、ありえない……!)」
石神はその圧倒的とも言える妖気を見て、もう笑みを浮かべる事は出来ない。
本当に先程の攻撃は手加減していた、と言う事も理解できた。……そして、甘い事は甘いが、怒らせてはいけない男だった、と言う事も。
「お前を 本気で気絶でもさせりゃ この忌々しい蛇の力も、妖気も消えて、解毒だって解けるだろ? 出来ない場合は保健室にでも行く。……だが基本的にこういう類の毒は、本体をやれば解けるもんだ』
荒れ狂う暴風は、軈てカイトの身体へと集中し、無駄に周囲に広がる事はなくなった、が。凝縮された圧倒的な力は 荒れ狂っていた時よりも増して感じられる。
石神は圧倒されていたのだが…… それでも 笑みを浮かべる事が出来ていた。
「く、くく、……くくくくく!! す、素晴らしい……! これ程の力を持った者が、生徒の中にいたとはなぁ…… これも実にアートだよ。その強さ。惚れ惚れするねぇ……」
カイトを見ながら笑みを浮かべる石神。不快感しか感じなかったので、カイトは軽く一蹴した。
「オレはアンタの芸術に加わる気は無いな。その代わり、アンタを芸術にしてやるよ。ふん縛って 学校に晒してやる。犯罪者って事で」
そう言うと、これ以上は何も言わない、と言わんばかりにゆっくり間合いを詰める。
すると次の瞬間 笑っていた、石神は突然動き出した。
それほどのスピードでは無いが、攻めてくると思いきや、距離を取ったのだ。後方へと跳躍した。
「逃げるのか? 逃げるなら石化を解いていけよ。逃げるんなら 手荒にはせん。……ま、学校側には突き出すのは変わらんけどな」
「フフフ やっぱり君はあまいよ。 私が逃げたって? なら・・・ モカさん巻きついてる髪は何故健在なのかな? 戦術的撤退って言葉を知らないのかな?」
そういうと石神はモカの方を指差した。
「っ! しまった!」
伸びている髪が再びモカに襲いかかろうとしていたのだ。
この髪はある程度は伸縮自在の様だった。
「(くそっ! 早くアイツを片付けないとモカまで……!)」
急いで石神の方へ向かおうとするが、
「動くなカイトッ! ちょっとでも動いたら、 判るな? 石化しているモカの手の部分を砕いてやるよ。場所が手だから死にはしないかもしれないが 保障はできないぞ? この歳で片手を失う事は実に辛い事だ。そうは思わないかい?」
そう言うとモカの石化している足と手に髪が巻きついていった。
あの髪の蛇の力なら、確かにそれも可能だと言う事は判る。……いや、仮に嘘だったとしても それを確かめる為にモカを危険にさらす訳にはいかなかった。
「……ちっ。何処までも下劣な野郎だ」
「失礼だな、キミは。私は野郎ではないよ。これでも女教師さ」
優位に立ったのを感じた石神は余裕を取り戻す事が出来た様だ。
それこそが最大の悪手だったと言う事に気付く事も知らずに笑う石神。
「君が私が距離を取ったのを黙って見過ごしたのが敗因だよ・・・ これだけ距離をとれば私の髪の方がケリを付けるのが速いぞ。 少しでも妙な動きを…… ッツ!!! グガアアア!!」
「ん?」
カイトは、実は 優位に立てた事で、周囲の注意が疎かになっている石神の頭上に、でかいのを一発ぶつけようとしていたが、突然苦しみだした石神に驚いて攻撃を止めた。
それと同時に・・・後ろから強大な妖気が発生した。
それは忘れる筈もない。モカが覚醒された時に迸る闇よりも深い漆黒に包まれたかの様な妖気。
「ぎゃああああ!髪がぁ!!!いきなりなんだコレはーーー!!けっ 桁違いのパワー!!!一体っ・・・髪がッ たっ・・・耐え切れないぃぃぃ!!!」
覚醒したモカのパワーを髪で抑えるには少々きついだろう。いや、絶対に無理だ、と言う事はカイトでも判る。何せ何度もあの力を込めた蹴りを受けたから。
そう、つまりはモカのバカぢk「…………」 いえいえ違います。『力』の大妖と呼ばれるほどの力を並大抵の実力の持ち主じゃ防ぐ事は出来ない。
防御体勢になってるカイトも本当に痺れていたから。明らかに本気じゃないのに。
とりあえず 石神は苦痛で唸ってるから その間にカイトは倒れているつくね、そしてモカのもとへ向かった。
「モカ! つくね!」
殆ど石化してしまったつくねだったが、その手にはしっかりとロザリオが握られていた
そう石化して動けなくなる前に、モカからロザリオを外していたのだ。
「ひとり・・・で・・・きちゃ・・・ったけど・・・さ・・・ や・・っぱり役に・・・立ちたかった・・・からさ。何度も、なんども、たすけられてて……、せっとくりょく……な、い……か………」
最後まで言えなかった。
つくねは顔面まで石化してしまったから。
「つくね。 ありがとな。説得力あるって。偉そうに言ったのに、つくねに助けられた」
倒れているつくねを起こすカイト。男に抱きとめられるのは、気分が良くないかもしれないが、少々我慢してくれ、とつくねに念じ 散乱した椅子の1つを起こして立かけた。
「ひいいいいい! 痛い痛いッッ!! か、髪が、髪がぁぁぁ!!! ちぎれるゥウゥウゥウゥゥゥ!!!!」
そのころ、
覚醒したモカは石神の髪の束を一本・・・また一本と力に任せながら千切り。
数秒後にはモカに纏わり巻きついていた髪の全てを千切っていた。
「ぎゃあああああ!髪があァあ――――!! 私の髪が!!!!」
石神は頭から血を流し、冷静さの欠片も無い表情で襲い掛かってきた。
「おのれっ・・・ おのれぇええ!! 芸術も理解できないクズがぁ!!! とっとと 石になれぇええ!!」
白目を向けながら怒りの形相でモカに飛び掛った!!
「んなもん理解なんぞ出来るか!! したくも無いわ この悪趣味なサディストが!」
忘れてもらっては困る、と言わんばかりに、カイトは身に宿らせた暴風を一点に集中させて石神へと放った。
それは 今度は石神の吹き飛ばす事はせず、束縛した。モカやつくねが髪で縛られていた様に、今度は石神が縛られた。 そう――触れる事も出来ない風の縄で。
「ぐがあ!! く・・・そ!! なんだこれはーーー!!! おのれ!! オノレーーー!!!」
その次に石神が見た光景。
モカが踵落としをする寸前の光景だった。思い切り脚を上げての踵落とし。
凡そ頭を蹴る……と言った様には感じられない程の轟音が周囲へと響く。
「が…… は………」
「どうだ? 自分が石にした蹴りの重みは?」
モカが半分ほど石化している右足を叩きながら言ったが、聞こえてる筈もない。
石神は頭から血を噴出しながら倒れていたから。
それはまるで鯨の潮吹きの様に。
「ああ、あれは痛そうだ、メチャクチャ・・・」
後ろにいたカイトも身震いするほどの威力である。それも自由を奪ったうえでの攻撃だから、オーバーキルも良い所だ。あれ程ムカついてた石神に同情さえしかねない程だった。
「……別に束縛する必要なかったかな?」
とつぶやいたのだった。
「カイト……つくね……」
カイトはつくねを背負いモカのそばまで来ていた。
「オレもつくねに助けられた。全く助けに来といて助けられてたら世話無い」
石になったつくねに笑いかける。多分、今のやり取りはつくねには聞こえないだろうから、起きた後にもしっかりと礼を言おう、と決めたカイト。
「ああ。 つくねは蛇の群れに手を入れて私のロザリオを外した。並み大抵の度胸じゃ出来ない事だ」
モカはつくねのそばまで来た。
「礼をいうぞ……。お前も成長してるようだな」
「はは。そのセリフさ、 起きている時に言ってやれよモカ。 これ以上無い誉れだと思うぞ? お前に言われるんだから当然だ」
そう笑いかけるカイト。そしたら、やっぱりモカも照れくさいのだろう。顔を赤面させ、そっぽ向いてしまった。
「ふ……ふんッ!」
「(・・・ ♪ はは、モカらしい。それで、ここでまーた照れてるって言ったらきっと蹴らr)」
突然だった。ビュン!! と言う風切り音がしたかと思えば、水面蹴りを放たれた様だ。更に言えば、まだ石神の力が解けきってないから脚は石になっている。つまりはモカの攻撃力はUPしたままと言う事。
「うおっ!」
流石のカイトも、これは咄嗟にジャンプで躱した。防御すれば そこが無くなってしまいそうだったから。そう簡単にイメージ出来たから。
無くなる、と言うのは大袈裟かもしれないが、良くて粉砕骨折程度で済みそうだと言うイメージだけはぬぐえない様子である。
「成る程。モカ…… お前やっぱ読心術でも使えるんじゃないか? いいや、絶対使えるだろ!?」
苦笑しながら言うのはカイト。
「前に言わなかったか? お前は言う前に既に顔に出ているんだよ! 今回は特にな!! 一言一句まで大体想像がつくんだ! ちっ…… 満足に動けたなら今日こそは戦い合おうつもりだったんだが……」
モカは石化している足を忌々しそうに睨んでいた。
「だーかーら…… 漢字違うって。正しく使ってくれ漢字。。………それにな、モカ。オレは…「……女には手を出せないんだろ?」っっ。……ぁぁ また、読んでくれたみたいだな……」
先程までの怒ったような顔は消え去り、真剣な顔つきになるモカ。
「石神とのやり取り、見てた。 ……やはりお前は石神に直接ダメージがいくような攻撃は殆どしてなかった、全て間接的な攻撃だ。 様々な攻撃手段を持つお前がな。やりようによっては 最初の一手で終わっていただろ。 ……吹き飛ばしも妖にとったら 大したダメージにはならない。その主義、騎士道とでもいうのか? ……それは戦いの場には不要だぞ」
モカがきっぱりと言ってくれた。例え相手は女かもしれないが、女である前に妖怪なのだから。
「これからカイト。それはお前の最大にして最悪の弱点に成るかもしれないんぞ? 今のうちに克服しておいた方がいいんじゃないか?」
そう言うと、今度はモカは腕をぐるん! っと回し 更には拳を作ってパキッパキッっと鳴らし始めた。つまりは臨戦態勢が整った、とでもいうべきか。
「ははは・・・・・確かに・・・な・・・。そうかもしれないな。 でも、それでも、オレは極力…… 女には手は出したくない。傷つけたくないんだ……。自分で手を出したくないと言うことだから、卑怯と思われるかもしれんが……な。正直に言えば石神のことなんざどうでもいい。それでも……。…………ッ。自分が傷つけなければいいってこと、なんだ…… きっと」
カイトの表情が陰る。
それを見ていたモカは、あの時の事が脳裏に浮かんだ。
「……カイト。お前何か・・・あったんだな?」
モカは臨戦態勢をとりつつあったが、カイトのその表情をまた見て、それが消えうせたようだった。
「…………」
それ以上は何も言わなかった。
ただただ深い闇が、それが垣間見えるだけの表情をさせていた。 いつもなら決して見せない様な表情に。
「フ・・・話したくない・・・っか それぞれに事情はあるものだしな・・・」
モカが悟るように、そう言った。つまりは無理に聞こうとはしない、と言う事だろう。
表のモカにも 裏のモカにも そういうことはあるのだから、不思議じゃないし 無暗に触れて良いものでもないと言う事を知っているから。
「いつか……、整理がつけれたら話す、かもな。その時が克服できる時、って言うことか。 ……でもやり過ぎないようにしないとだ」
「フン。つまりはこういう事か。『そのときが来たら戦い合いに付き合う』と?」
最終的にはそこに行きつく様だ。
つまり、モカはカイトとよっぽど戦いたいらしい。それを訊いてカイトは笑う。笑みを見せるまでに落ち着けた。
「ははは 判った判った。その時は モカに付き合うよ。組み手みたいなもんだ」
「それは、楽しみだな・・・」
モカも笑う。
そして苦笑していたカイトは顔を戻し真っ直ぐモカを見つめた。
「モカ・・・ありがとな・・・ 話・・・聞こうとしてくれたんだろ?今まで話せるような相手はいなかった・・・ モカになら話せそうな気がしたが・・・やっぱりまだ迷ってるみたいなんだ。 こんな話。最初にしたのがモカで良かったよ」
そう言ってモカに笑いかけた。笑顔の質が一段階増したのを感じる。
「ッ……///(何て表情をするんだ・・・//)」
モカは一気に顔が赤面していくのが分かった。
それは、あの照れているときのモノではない、とカイトも感じた様だ。
「ん??」
「フ・・・フン 私はもう眠る・・・ またな。」
詮索しようとしたら早々にロザリオをつけようとした。
「ん…… ああ。おやすみモカ」
モカは顔が赤いのが悟られぬよう顔を背け、自身とつくねを頼み誤魔化しながら、ロザリオを身につけて再び眠った。
「さて・・・ 石化はつくねはまだだけどモカは解けてる・・・な、猫目先生にでも頼むか・・・」
流石にモカとつくね、更には捕縛した石神と攫われていた女子生徒の8人。つまりは合計で11人をも運ぶのは きついと言うか無理なので、猫目先生に連絡した。
そして・・・失踪事件も幕を閉じたのだった。
そして翌日。
「………! はっ!!」
つくねが目覚めたのは保健室のベッドの上。
「あっ・・・あれ?ここは?」
いまいち状況が掴めてないみたいだった。
周囲を見渡していたその時
「つくねーーー! よかった!!! 目が覚めたんだ!!!」
モカの声が聞えた。
声の方を見るとモカがいて、抱きついてきた。
よほど嬉しかったのだろう。
「わあ! モ、モカさん!?? これはっ・・・!? オレ・・・石に・・・ あれ? カイトは無事?」
戸惑いながらモカに聞いた。
「えっとね、石神先生が倒れて皆に掛かってた妖術が解けてもとの姿に戻れたんだ。でも、つくねだけ丸一日 目を覚まさないから心配してたんだよ!」
「(丸一日!!! ええ・・・寝てたってことは・・・もう誕生日じゃん・・・ 結局・・・モカさんに言えなかった・・・)」
まさかの事態にショックが大きいつくね。
カイトの安否のことやここにいない事は聞かないで良いのか? と少しツッコミを入れたい気もするが今は置いておこう。
「えっとね・・・あとカイトだけど さっきまでは一緒にいたんだけど。ちょっと先生に呼ばれちゃって、今出てるんだ」
「へー そーなんだ・・・」
モカに大事な用事があるから。大切なモノを渡さないといけないから。
「つくね・・・・見て!!」
落ち込んでいるつくねにモカはある人物画を見せた。
「じゃーん!! ・・・なーんてね? あははっ!」
そう、その人物画のモデルは つくねの絵だった。
「『大切なもの』ってテーマでがんばってつくねを描いたの! まだまだ へたっぴだけどね!」
モカはテレながら経緯を話す。
「????」
つくねはまだ状況を理解できてないみたいだ。それでも直ぐに判る事になる。
「プレゼントだよ!」
そのモカの一言で。
「隠しててごめんね 心配させたけど これを描く為に石神先生に絵を習いに行ってたんだ!モデルをする代わりにね。 お誕生日おめでとうつくね!! わたしは つくねが大好きだよ!」
モカは顔をパアッっと明らめて 照れくさそうに言った。もう殆ど告白に近い。
新聞部の皆は、本当に何処までも真っ直ぐな様だ。
つくねは、モカが覚えてくれた事に感慨極まった様で、目に涙を浮かべて喜びを露わにするのだった。
「………はは。良かったな つくね」
保健室の扉にもたれかかっているのはカイト。
数分前に到着し、つくねが目を覚ました事に気付いたのだが、今は入らない方が良いと空気を読んで、そのまま暫く待っていた。
簡単なキーホルダーのアクセサリーを手に持って。
「学校の購買部だし、ま、いっか。凝ったプレゼントってのも、なんか照れくさいもんがあるしなぁー」
アクセサリーを袋に入れたその時だ。
「あ!! カイト!!」
「カイトさんっ!!」
突然、声(大声)が聞えた
「へ??」
一体何事か、と前を見てみると。
「心配したんだよー!! もーこの間ーーっ!!」
「本当ですーーっ!! すごく心配したですーーっ!」
くるむとゆかり、2人そろって カイトに超低姿勢タックル。
「うげっ! ああ ダメだって! 今は!!」
そう言ってももう遅かった。
3人分の体重に耐え切れる訳もない保健室の扉。それが簡単に壊れて、そのまま3人は保健室の中へ。そして 何処か不満顔のギン先輩も一緒に来てたみたいで、保健室へ入ってしまった。
「「!!!」」
仕方ないから、つくね達の方を見てみると、つくねはずっこけていた。つまりは、完璧な残念なタイミングだったらしい。
そう言う星の元に生まれてきただな、と何処かで納得しつつカイトは笑った。
「おはようつくね。目を覚ましたんだな。この寝坊助」
何事も無いように振舞いながら話しかけた。
「あーほんとだ! よかったぁ つくね!! 目を覚ましたんだね!!!」
「よかったですーーー!!」
「なーーんで こいつらばっかなんやーー……」
くるむ、ゆかりがそれぞれ続いた。
ギン先輩は・・・・・・
まだ、ぶつぶつ言ってた。
「モカから聞いたよ! 今日 誕生日だってね! はい プレゼント クッキー1年分!!」
「私は わら人形のわらわら君を!!」
「ほれ」
それぞれまあ・・・個性的なプレゼントをしていた。
『クッキー1年分か! それは随分と食べるの大変そうだな。 んで1年したらまた追加で無限ループするのかな?』とか『ゆかり……、それって操る為の魔具だろ? それでつくねに誰を操ってもらいたいのかな?』とか『ギン先輩・・・ その花束・・・ぜーったいモカにだろ? つくねじゃなく!』
と色々とツッコみたかった。それ程までにインパクトがあり個性的だったから。
だけど、野暮な事は自重した。
つくねとモカは背中合わせで座ってて苦笑しているし。
「ところで今何しとったんや? 自分ら??」
ギン先輩が爆弾発言をしたのだが、つくね達には聞えてないみたいだ、
「(結局・・・好きって言えなかったな・・・)」
そんなつくねにカイトはゆっくりと近づいてくと、そっと袋をつくねの手元に置いた。
「あ・・・カイト」
「ガンバレよ」
つくね以外には聞えないほどの声でつくねに言い、
軽くウインクをした。つくねは無言で頷く。
「(・・・・まあ いっかぁ また・・・いつか・・・)」
さてさて、つくねが目を覚ました事で 盛大に開かれるのは誕生会だ。
「「「ハッピーーバースディ つくね!!」」」
保健室にクラッカーの音と祝い声が響いて、盛大に始まったのだった。
~新聞部 号外 ~
女生徒拉致の美術教師
無期限の停職へ!!
拉致されていた女生徒は無事保護!
容疑者: 石神 瞳 先生
《美術教師》
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