| 携帯サイト  | 感想  | レビュー  | 縦書きで読む [PDF/明朝]版 / [PDF/ゴシック]版 | 全話表示 | 挿絵表示しない | 誤字脱字報告する | 誤字脱字報告一覧 | 

シークレットガーデン~小さな箱庭~

作者:猫丸
しおりを利用するにはログインしてください。会員登録がまだの場合はこちらから。 ページ下へ移動
 

遺体のない葬儀編-4-

「もうっ、リオンちゃんたらツンデレなんだから~。ツンツン」

人差し指の先で頬を突いてくるリアと呼ばれた女性の手を払いのけリオンは嫌悪感を露にした表情で

「気色悪いんだよ!!」

言うので仕方なくリアは突くのを止め、不満そうに唇を尖らせ

「えー、駄目なの? 今流行りの小悪魔系女子なのに?」

はぶてた少女のようにぷくっと頬を膨らませ、目を軽く潤ませて言う。

「小悪魔系女子って……あのな」

呆れ気味に大きな溜息をつくと

「そもそもお前は男だろ」

きっぱりとそう言った。

「……はい?」

きっぱりと聞きなれない、いや意味は知っているがイマイチ理解できなかった単語が混じっていたためルシア達は目が点となる。
ぽかんと口を開け、効果音で言うと点が三つ並んでいる、そんな感じだ。

「クスクス」

その姿を見てレオはお腹を抱えて大笑いしたいのを必死に堪えて失笑している。

「んー?」

周りの様子が可笑しい。
その事にようやく気が付いたリアはぽかんと口を開けて固まっているルシア、シレーナ、ランファの顔を一人一人順番に見つめ。

「なるほどっ!」

分かったぞ! ハッとした表情になりぽんっと握りしめた拳を手のひらで受け止め叩いた。

「自己紹介がまだだったな!」

うん……そっちじゃない。と、心の中でツッコミを入れるルシア。それを言葉にして言う事は出来ないので目で訴えるが、彼女(……でいいのだろうか)には届かなかったようだ。

長い銀色の髪をさらりと手で払い

「やあ、初めまして。俺の名前はリア・ハドソンだ。
 ん? 違う違う俺ッ娘じゃなくてれっきとしたお・と・こ!」

自己紹介、そして一人二役の聞いてもいない衝撃的な事実を添えて教えてくれたのだった。
ルシア達のぽかんとした表情はみるみるうちに青ざめてゆき、驚愕のムンクの叫びのようなものへと変化してゆく。

その表情を見てもう堪えきれなくなったか、レオは声を大にして大笑い。
なんでルシア達がそんな表情をしているのか、レオが大笑いしているのか、リオンが額に手首を当てやれやれと呟いているのか、全く分かっていないリアはきょとんとした表情で首を傾げていた。

……数分経過。
色々な意味で状況が理解し整理できたルシア達は、気を取り直して自分達も名前を名乗った。
相手にだけ名乗らせて自分達は名乗らない、と言うのは失礼だから。

ここへ来た目的は街探索と読書家のシレーナが新たな本とも出会いをする為。
だがせっかくこんな大きな街に来たのだ、攫われたヨナの手掛かりが何か無いか二人と一匹に訊ねてみることにした。

運が良ければ有力な情報が手に入るかもとわずかに期待しながら。

「へー、そんなことがね」

壁にもたれかかり、興味津々といった風に話を聞いている、リア。

「ふーん……そうか」

それとは裏腹に、先ほど読んでいた本を開きまた読書を始めている、リオン。
聞いていないように見えるがちゃんと相槌(あいづち)をうっているあたり、聞いてはいるようだ。

「妹さんが病気って言ってたけどどんな病気なんだい?」

リアの質問にルシアは答える。

「闇病と呼ばれている病気です」
「なんだって!?」

病名を聞いた瞬間、二人と一匹の表情が変わった。まるで先ほどリアが女性ではなく、女装が趣味の男性だと聞いた時のルシア達の如く驚きようだ。

だが彼らはルシア達とは違い大人だ。一瞬で驚いていた表情は真剣な真顔へと変わる。情報を理解し整理するのも早い。

「闇病が発病したのは何時の事?」
「五歳のときです」
「今は何歳?」
「八歳です」

リアからの質問に淡々と答えてゆくルシア。
質問に答えれば答える程、リアの表情は険しいものへとなってゆく。

「進行がかなりゆっくりだな」

本を読んでいたリオンが顔を上げ後ろにいるリアの方を見る。

「そうだな。普通ならもう……」

言いかけた言葉をルシアを見て止めた。

「……もしかして穢れ化するまでの時間ですか?」

闇病にかかった者が最期に辿り着く先、穢れと呼ばれる化け物になること。
それをパピコから聞かされていたルシアはリア達に訊ねた。

「なんで穢れのことを知っているんだ! それは国家機密の情報だぞ」

だがそれは政府が巧みに隠ぺいした情報であったらしい。なんでそんな事を知っているのかとリオンから睨まれてしまった。
どう弁解するればいいのだろう。素直に正直に言えばいいのだろうか、だが心の世界の話など信じてもらえるのだろうか。

「あーいいって、いいって」

睨むリオンに後ろからリアが声をかけた。

「知ってるなら説明が省けてラクだし」
「楽ってお前な……」

呆れたのか、諦めたのか、リオンはまた大きな溜息をつくと、読んでいた本へと視線を戻した。

「あの……」

二人の言い争いが終わるの見計らってからルシアは切り出した。

「どうして二人は機密情報である闇病の穢れ化の事を知っているんですか」

ルシアはプリンセシナの案内人であるパピコから教わったから。
では二人はどうなのだろか。国家機密など普通に生きている街の人などに知る由などないと思われるのだが。

二人は顔を見合わせ、何かを確かめ合い頷くと

「俺は断罪者(だんざいしゃ)の一族の末裔なんだよ」
「断罪者?」

断罪者、一族、末裔、聞きなれない単語に首を傾げる。
説明すんのめんどくさいなーと頭を掻きながらリアは断罪者について教えてくれた。

「断罪者つーのは、罪を犯した罪人が闇病になる前に首を刎ねちまう職業の人のこと。
 闇病は大体、犯罪者がなりやすい病だからね。だから罪人処刑を兼ねて、首を刎ねるんだよ。
 まあでもたまに――」

何処か遠くを見つめるような瞳で

「――闇病患者を斬ることもあるけどね」

ゾクリと血の気が引いた。
リアは面倒くさそうに、大儀そうに、人が人を殺める行為を平然とそれを語ったからだ。

断罪者であるリアにとって罪人の首を刎ねることは当たり前のこと。ごく当たり前の日常的な風景の一コマなのだ。
聞いてもいないのに、人を斬るのって結構な力仕事でねーと断罪者としての苦労話を始める彼に、ルシアは嫌悪感を感じらずにはいられなかった。
そしてこの言葉をかけずにはいられなかった。

「ヨナを――妹を殺すつもりですか?」

と、聞かずにはいられなかった。

リアはニヤリと口角を上げると

「時と場合によっちゃあね。それも致し方無いかもね」

答えた彼の表情は悪魔のような不敵な笑みだったという。

 
ページ上へ戻る
ツイートする
 

感想を書く

この話の感想を書きましょう!




 
 
全て感想を見る:感想一覧