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見上げ入道

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第三章

「あれっ、今時丸坊主の子なんて」
「そうね、珍しいわね」
 恵利もその子供を見て言った、今は彼女が息子を抱いて娘が乗っている車は和人が押している。息子は顔は和人で神の色は恵利、娘は顔は恵利で神の色は和人といった具合だ。
「今丸坊主の子なんて」
「そうだよね」
「しかも梅田で一人でいるなんて」
「変わった子だね」
 この時はこう思っただけだ、だが。
 その子は一行に対してにこりと笑ってきた、するとだった。
 少し大きくなった様に見えた、伸一と恵利、それに和人はそれにあれっ、と思った。子供達は今は寝ている。
 大きくなったと思った次の瞬間にはもうだった、さらに大きくなっていて二メートル位になっていてだ。
 それこからどんどん、筍の様に大きくなった。それも一秒ごとにだ。
 ビルより大きくなり見上げても届かない位になった、これに恵利は唖然として叫んだ。
「な、何とよ、この子!?どんどん大きくなるとよ!」
「姉ちゃんこれ妖怪じゃなかと!?」
「妖怪ってそんなの本当にいると!?」
「現に今いるたい!これ絶対に妖怪たい!」
 伸一は息子を抱いたまま仰天して見上げている姉に言った。
「確か見上げ入道って妖怪たい!」
「そげなことなかとよ!妖怪なんている筈ないたい!」
「じゃあ今の何だい!」
「わからんとよ!」
 完全に我を失い福岡弁丸出しで返す恵利だった、顔も完全に狼狽したものだ。伸一も狼狽していて福岡弁丸出しだが姉程ではない。
「けどこれどう見ても妖怪たい!」
「子供と和人君、いや旦那さんとあんた連れてさっさと逃げんと!」
「そう言って姉ちゃん動いてないとよ!」
「足が竦んで動けんとよ!」
 見れば完全にそうなってる恵利だった、思わずそこで腰が抜けそうになるが。
 その彼女を後ろからだった、彼女の夫である和人が。
 ベビーカーを右手に持ったまま左手でそっと支えて雲に届かんばかりの高さになっている子供に言った。
「見上げ入道見越した」
 こう言うとだ、子供は霧の様に消えた。後には何も残っていなかった。
 普通の夕刻に戻った場所を見回してだ、落ち着きを取り戻した伸一は姉も子供も支えている和人に対して話した。
「あの、今のは」
「うん、あれは確かに妖怪でね」
「やっぱりそうですか」
「見上げ入道っていうんだ」
「それがあの妖怪の名前ですか」
「うん、見上げれば見上げる程ね」
「ああして大きくなるんですか」
 伸一は和人に聞いた。
「何処までも」
「そうして人を驚かしてくる妖怪なんだ」
「そんな妖怪いたっていうか」
 ここでこう言った伸一だった。
「妖怪は本当に」
「いるんだね、僕も今はじめて見たよ」
「そうだったんですね」
「うん、それであの妖怪のことはね」
「何かご存知みたいですが」
「子供の頃本で読んで知ってたんだ」
「そうだったんですか」
「まさか本当にいるとは思わなかったけれど」
 またこう言いつつもだ、和人は伸一にさらに話した。恵利は我が子を抱いたまままだ怯えていて言葉もない。 
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