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ママライブ!

作者:ゆいろう
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おまけ 宴会

後日談 宴会

「穂乃果ー! ちょっと下りてきて!」


 ある日の夕刻。高坂家に穂乃果の母親ーー高坂輝穂(こうさかてるほ)の娘を呼ぶ声がこだましていた。
 ドタドタと2階の自室から階段を下りてくる穂乃果の足音が聞こえる。
 穂乃果はリビングにやって来て、自分を呼んだ母に尋ねた。


「そんな大声出さなくても聞こえてるよー! それで、穂乃果に何か用? お遣い?」

「お遣いならもう晩ごはん作ったから大丈夫よ。そうじゃなくって、お母さんこれから友達と晩ごはん食べに行くから今日はお父さんと雪穂と3人で食べておいてね」

「ええーいいなぁ! 穂乃果も行きたい!」

「高校2年生にもなってそんな事言わないの。今日は家で大人しく食べなさい」

「わかったよぅ。あーあ、穂乃果も外食したいなぁ」

「はいはい。それじゃあ行ってくるわね」


 そう言って輝穂は家を出た。



 *



 電車に数駅程揺られて目的の駅で降りる。途中でコンビニに寄って先日娘の穂乃果が言っていた物を購入する。それから数分歩くと目的の場所に辿り着いた。

 一軒の居酒屋。左手の腕時計を見て約束の時間に少し遅れている事に気がついた輝穂は、店の中に入っていく。
 友人が先に来ている旨を店員に伝えると、店員は輝穂を案内していく。

 案内された先で待っていたのは、よく知っている3人の顔だった。



「遅いわよ、テル」



 南飛鳥(みなみあすか)。μ'sのメンバー南ことりの母親で、音ノ木坂学院の理事長でもある。
 輝穂と飛鳥は幼馴染であり、お互いの娘である穂乃果とことりも幼馴染という間柄だ。



「輝穂は昔からよく遅刻したものね」



 西木野瑞姫(にしきのみずき)。西木野真姫の母親で、西木野総合病院の院長夫人である。
 彼女の娘――真姫は穂乃果の1つ歳下で、μ'sのメンバーとして作曲をしている。


 輝穂、飛鳥、瑞姫。この3人は高校時代、音ノ木坂学院で初代スクールアイドル――Lyra(リラ)を結成し、多くの人に愛された。
 Lyraは彼女たちが高校3年生の時の七夕の日に解散し、それ以降はお互い別々の道を歩んでいった。

 輝穂と飛鳥は私立大学で経営学を学び、瑞姫は国立大学で医学を学んだ。

 それぞれの夢の為、彼女たちは道を別つ事を選んだ。



「なにボーッと突っ立ってるのよ。輝穂、早く座ったら?」



 矢澤(やざわ)えみ。高校時代、現役のプロアイドルとして活躍していた彼女は、輝穂たちが解散を発表した七夕の夜に、自身の引退を発表した。
 あまりにも衝撃的な彼女の電源引退は当時の一大ニュースになった。その会見でえみは『こらからは普通の人生を歩みたい』と言い残し、伝説的な会見となった。

 そんなえみも今では4児の母。長女の矢澤にこは穂乃果たちと同じμ'sのメンバーで、母親の代名詞であった『にっこにっこにー』を受け継いでいる。


「ごめんなさい。えっと空いてるのは……飛鳥の隣ね」


 4人掛けの座敷席に輝穂は腰を下ろす。


「テルは生でいいのかしら?」
「うん。生でいいわよ」


 座席にあるボタンを押して店員を呼ぶ。しばらくして店員がやって来た。


「生4つ。あと枝豆1つね」


 えみが注文を伝えると店員は去っていった。


「あ、そうだ! ねえねえ聞いてよ。この間うちの穂乃果が“初代スクールアイドル”について聞いてきたのよ!」
「あ、それ私もことりに聞かれたわ」
「私も真姫に聞かれたわね」
「私もにこに聞かたわよ」


 輝穂の言う初代スクールアイドル。それは輝穂、飛鳥、瑞姫の3人で結成されたLyraのことである。


「それで……みんな本当の事言ったの?」


 恐る恐るといった様子で輝穂は尋ねる。


「私は言ってないわよ。ことりもアイドルをしているのに、昔自分がアイドルやってたなんて恥ずかしいじゃない」
「私も言ってないわ。だって恥ずかしいもの」
「あ、私は言っちゃった」


「「「えぇーっ!?」」」


 えみのその言葉に他の3人は声を揃えて驚いた。テーブルに身を乗り出してえみに詰め寄っていくその表情には鬼気迫るものがある。


「ごめん今の嘘」


 ペロッと舌を見せてえみは真実を明かす。その言葉に3人は露骨に安堵した。


「もう、心臓に悪いわよ」
「本当にね」
「少しからかってみたかっただけよ。悪かったわ」
「今のでもし病気になったら、その時はうちの病院にいらっしゃい。安くするわよ」
「瑞姫……助かるわ」
「その時はどうぞよろしくお願いします院長夫人」
「任せなさい」


 話もひと段落ついた所に、店員が生ビールと枝豆を持ってやって来た。テーブルに持ってきたそれらを置いて、店員は去っていく。


「それじゃあ乾杯しましょうか」


 輝穂の言葉に他の3人はジョッキを持つ。


「それじゃあ……乾杯っ!」


「「「「乾杯〜!!」」」」





 *





「そういえばここに来る前、コンビニで買ってきた物があるのよ」


 世間話に花を咲かせながら時間は経っていき、全員お酒が回って良い感じに気分が高揚してきた頃。輝穂はそう言って道中コンビニで購入した物を他の3人に見せた。


「なにこれ……雑誌?」
「月刊ラブライブ!って書いてあるわね」
「その雑誌、にこも買ってたわね」


 飛鳥、瑞姫、えみはそれぞれ雑誌『月刊ラブライブ!』を見て感想を思い思いに述べる。


「穂乃果が言うにはこの雑誌に初代スクールアイドル――つまりLyraの事が書いてあるらしいの」
「へぇ、そうなの」
「興味あるわね」
「あ、店員さん赤ワイン1つ追加で」
「「「私も!」」」
「……赤ワイン4つ追加で」


 話の途中でえみが赤ワインを注文すると息ピッタリに返す元Lyraの3人。時が経っても仲の良いその関係にえみは自然と頬が緩んでしまう。
 程なくして赤ワインが運ばれてきて、輝穂たちはワインに口をつけながら会話を再開する。


「えーっと……どのページかしら」
「ここじゃない? 『ラブライブ発案者にインタビュー。明かされる秘話、初代スクールアイドルとは!?』って所」
「あ、本当だ。どれどれ〜」


 輝穂は飛鳥に指摘されたページを開いてインタビュー記事を読み進めていく。


「あっ、ここ見て。私たちが言ってた『アイ、ラブ、ライブー!!』が元で『ラブライブ!』って大会名にしたんだって!」
「……なんだか感慨深いわね」


 いつからかLyraはライブ終了時に『アイ、ラブ、ライブー!!』と叫ぶ事が習慣となっていた。その言葉が時間が経ち『ラブライブ!』という大会の起源となっている。彼女たちにとって喜ばしい事実だった。

 そういえば。と瑞姫が何か思い出して言葉を口に出す。


「ラブライブと言えば、この前私の所にラブライブの運営から電話が来たんだけど……」
「私の所にも来たわよ。大会のオープニングにLyraとして出てくれないかって」
「本当迷惑な話よね……もちろん断っておいたわ」
「えーなんでよ。出ればいいじゃない」


 それまで1人会話に入れなかったえみが、ここぞとばかりに会話に混ざってくる。


「嫌よ、恥ずかしいじゃない」
「それに、こんなおばさんのライブなんて誰も見たくないわよ」
「スクールアイドルの大会のオープニングで私たちが出るのはおかしいものね」
「えぇー、私は見たいなぁLyraのライブ」


 瑞姫、輝穂、飛鳥の言葉を聞いて尚、えみはLyraのライブが見たいと言う。


「えみは当事者じゃないから気楽にそう言えるのよ」
「じゃあこの後、瑞姫の家に行って私だけに見せてよ。Lyraのライブ」


 えみは笑いながらそう言う。輝穂、飛鳥、瑞姫の3人はお互いに顔を見合わせて、それぞれの考えを読み取る。


「まぁ、えみにだけなら」
「やりぃ! じゃあ瑞姫の家に行くわよ!」


 一刻も早くLyraが歌って踊る姿を見たい。その一心でえみは居酒屋を出ようとする。
 勘定を済ませ、4人は居酒屋を出てタクシーを拾い瑞姫の家に向かった。





 *





 居酒屋を後にした輝穂たち一行は、先ほどの会話で出たように西木野家にやって来た。

 西木野家に向かうタクシーの中、せっかくだから映像に残そうという提案が輝穂から出て、他の3人もそれに賛同した。
 これもお酒の力を借りないと出来ない事。今から歌って踊ろうとする元Lyraの3人は翌朝になるときっと後悔するだろう。


「不本意だけど、私が撮影係をやってあげるわ」
「ありがとうね、えみ」
「曲はこのCDプレーヤーから流して頂戴」


 輝穂が撮影係を買って出てくれたえみに礼を言い、瑞姫がCDプレーヤーとビデオカメラをえみに渡す。


「準備はいい?」


 えみは横並びになる3人に問う。輝穂、飛鳥、瑞姫は高校時代Lyraとして使用した衣装に着替えていた。
 その問いに彼女たちは頷いてみせる。


「それじゃあいくわよ――せーのっ!」










『ミュージック、スタート!!』




 西木野邸にて一夜限りの、ささやかなLyraの復活ライブが開催された。






 *





 西木野真姫は自室での勉強中、何やらリビングの方が騒がしい事に気がついた。
 パパは仕事で遅くなると言っていて、ママは友達と晩ごはんを食べてくると言っていた。つまり今家にいるのは自分だけの筈。

 何事だろうと忍び足でリビングへと向かう真姫。慎重に、足音を立てないように歩みを進めていく。


「……聴いた事のない曲ね」


 リビングから聞こえるメロディに真姫は首を傾げる。誰のものかは定かではないが微かに歌声も混じっている。


「少し覗いてみましょう」


 自分の家のリビングで誰が何をしているのか気になった真姫は、そっと扉を開けて中を覗く。


「……ッ!?」


 目に飛び込んできたその光景に、真姫は反射的に目を逸らし絶句する。それはとても信じられない光景だった。


「あれ……ママよね。あと理事長と穂乃果のママもいたわ」


 自分の母親と、学校の理事長、友人の母親が華やかな衣装を着て、曲に合わせて歌って踊っていた。しかもノリノリで。


「きっと疲れているのよ、そうよ真姫。勉強のしすぎね。あれは幻覚よ」


 真姫は自分自身にそう言い聞かす。普段はしっかりしている母親がアイドルのように歌って踊っているなんてイミワカンナイ。

 もう一度、扉の隙間からリビングの様子を伺う。



 再び見ても、目に映るのは母親と友人の母親達がアイドルのように歌って踊る姿だった。


「……寝よう」


 力なくそう呟いて真姫は自室に戻っていった。今見た光景は自分の胸の中だけにしまっておこう。そう心に誓って。



 
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