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ママライブ!

作者:ゆいろう
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第五話 七夕


「七夕祭り?」

 6月の初旬。
 放課後のアイドル研究同好会の部室で、輝穂は飛鳥の言葉をオウム返しにそのまま繰り返した。

「うん。神田明神で毎年七夕にするんだけど、今年から町内会と協力して地域を盛り上げるイベントにしたいんだって。出店も今までなかったんだけど、今年は色々あるみたい」

「なにそれすっごく楽しそう!」

「でも、どうして飛鳥がそんな事知ってるの?」

「うちのおじいちゃん、町内会長なの」

 町内会長と言われてもいまいちピンとこない瑞姫だが、飛鳥の言葉から察するに地域を盛り上げるイベントを企画したりするのだろうと考えた。

「それでね、おじいちゃんに私たちアイドルのこと話したら、その七夕祭りでぜひライブをしてほしいってお願いされて……」

「へえーライブするんだー。すごいね」

「そうね、きっと大勢の人が来るのよね。そこで私たちが……って」

 瑞姫が言葉を止めて輝穂の顔をうかがった。輝穂も瑞姫の言葉を聞いてゆっくりと瑞姫のほうに顔を動かした。


「「えぇぇええええ!!」」


 部室に2人の悲鳴にも似た叫び声がこだました。

「わ、私たちがライブするの!?」
「お、大勢の人の前で、ライブするの!?」

 勢いよく2人は飛鳥につめ寄った。2人から急に距離をつめられた飛鳥はアハハと渇いた笑みを浮かべている。

「すごいすごい! 大勢の人が来るお祭りで、私たちライブができるんだ!!」
「うぅ……急に頭痛がしてきたわ」
「それでね、おじいちゃんにはまだ返事してないんだけど、どうしたい?」
「やろうよ、ライブ!」

 真っ先に輝穂がそう言うと、横で瑞姫はため息をついた。

「輝穂ならそう言うと思ったわよ。まったく、仕方ないわね」
「ありがとうテル、瑞姫。じゃあおじいちゃんに言っておくね」

 こうしてLyraは、七夕の日にライブをすることが決まった。

「それで、曲はどうするの? 今ある曲を使う?」
「えぇ!? せっかくだから新しい曲つくろうよ! お祭りなんだし!」
「簡単に言うわね。まあいいけど……」

 新しい曲と言われて、瑞姫は曲のおおまかなイメージを考える。続いて飛鳥が新たな提案をした。

「それじゃあ衣装も新しいのをつくりたいな。七夕っぽく浴衣をアレンジした衣装とかどう?」

「いいね飛鳥! 七夕で浴衣だと、私たち織姫みたいじゃない!?」

「そうだよね! ああ、かわいい衣装つくりたいなぁ」

「七夕……祭り……織姫……。うん、曲のイメージはなんとなく出来てきたわ」

「もう!?」

「さすが瑞姫だね」

「私にかかればこのぐらい朝めし前よ。それで飛鳥、さっそくなんだけど今日家のパソコン使わせてもらえないかしら?」

「うん、いいよ!」

「よーし、それじゃあ今から飛鳥の家にレッツゴー!!」





 それからLyraの3人は、学校が終わると飛鳥の家でそれぞれの作業を行った。

 まず瑞姫が曲の全体像を完成させ、それを聴いて飛鳥は衣装づくりを始め、輝穂は振り付けを考え始めた。

 休日は一日中飛鳥の家に入り浸って、時には泊まり込みで作業をした。

 ときどきお互いの進捗を確認しながら、時には意見を出し合ったりして、それぞれ作業を進めていく。

 やがて瑞姫が曲を完成させ、続いて飛鳥が衣装を完成させ、輝穂の考えた振り付けを曲に合わせて一通り踊る。

 改善点を見つけては修正することの繰り返しで、完成度を高めていく。





 七夕祭りが近づいたある日、輝穂たちは音ノ木坂学院内の掲示板にひとつのポスターを掲載した。

 内容は七夕祭りでのライブの知らせ。

 それを見たクラスメイトたちは、輝穂たちを取り囲んだ。


「七夕ライブ、絶対見に行くからね!」
「楽しみにしてるよー!」
「私も! 前回のライブ行けなかったから今回は見に行くよ!」
「中学の友達も誘って行くからね!」
「応援してるわよ、Lyra!」


 彼女たちは色んな人に声をかけられて、期待された。その期待に応えようと輝穂たちはライブに向けて練習を重ねた。



「あんたたち、七夕の日にライブするんですって?」

 廊下を3人で歩いていると、クラスメイトで現役アイドルの七夕えみに声をかけられた。
 仕事で学校を休むことは多いえみだが、学校に来ると輝穂たちにアイドルのイロハを教えてくれた。

「うん。えみちゃんも見に来てね!」
「……気が向いたらね」

 それだけ言ってえみは去って行った。





 そしてついに、7月7日。
 七夕祭りでのライブ当日を迎えた。





「うわ~、人がいっぱいいるね」

 あまりの人混みに、輝穂は感嘆の声をあげた。

「そうだね。これだけ多いとは思わなかったかな」
「これからこの人たちの前でライブをするのよね……」

 まだうっすらと明るい時間に、輝穂たちは制服を着て露店が並んだ通りを歩いていた。
 彼女たちがライブをするまでまだ時間があるので、今はこうして露店をまわって祭りを楽しんでいる。

「あ、リンゴ飴! ねえねえ飛鳥、瑞姫、一緒に食べようよ!」

 ふと、輝穂がリンゴ飴の屋台を見つけた。

「ほんとだ。おいしそうだなぁ」
「そうね、私も食べてみたいわ」
「おじさーん、リンゴ飴みっつください!」

 それぞれ代金を支払ってリンゴ飴を受け取る。輝穂はリンゴ飴にカブッとかぶりついた。

「ん~、おいしい~」
「ちょっとテル、はしたないよ」

 ペロペロとリンゴ飴をなめながら飛鳥は輝穂に言った。
 飛鳥の食べ方を見て瑞姫もリンゴ飴を舌をつかってなめていく。

「あ、おいしい……」

 実は瑞姫、お祭り自体来たことがなく、リンゴ飴を食べるのはこれが初めてだった。

「あ、金魚すくい! ねえやっていこうよ!」
「これからライブだから持って帰れないよ」

 続いて輝穂は金魚すくいの屋台を見つけるが、飛鳥がそう指摘する。

「持って帰れなくていいから、ねえ一緒にやろうよ!」
「はぁ、仕方ないわね」

 それでもやりたいと言う輝穂に、飛鳥は諦めてため息をつく。

「やった! おじさん、金魚すくい3人で!」

 ポイとお椀を受け取って、3人は水槽の前に並んでしゃがみこんだ。

「えい! よし、一匹ゲット!」
「私もゲットしたよ~」

 輝穂と飛鳥がポイを器用に使って水槽の金魚をすくい上げる。

「あぁ……破れちゃった」

 あっさりとポイが破れて落ち込む瑞姫。金魚すくいもこれが初めてだった。
 しょんぼりと落ち込む瑞姫を見て輝穂が声をかける。

「瑞姫、もしかして金魚すくいするの初めて?」
「……ええ、そうよ」

 瑞姫は恥ずかしそうに輝穂から顔をそらした。

「そっか、じゃあ私が教えてあげるよ! おじさん、ポイもうひとつください!」

 店主からポイを受け取った輝穂はそれを瑞姫に握らせる。そして輝穂は瑞姫の手首あたりを優しく掴んだ。

「ちょっ、輝穂?」
「大丈夫、こうやって一緒にやればすくえるから」
「う、うん。わかった」

 輝穂は掴んだ瑞姫の手をゆっくりと動かしてポイを水につける。
 そして近くの金魚に狙いを定めて、タイミングよく手首を返して金魚をお椀に入れた。

「今の感じでやればできるようになるよ」
「ありがと輝穂。次はひとりでやってみるわ」

 そう言って瑞姫はポイを水につけて、狙いをつけた金魚をすくい上げた。金魚は見事、瑞姫のお椀の中に入った。

「で、できた。できたわ輝穂!」
「やったね!」
「すごいよ瑞姫!」

 ずっと様子を見ていた飛鳥も一緒になって喜ぶ。彼女たちは祭りを楽しんでいた。





 ライブの時間が近づき、輝穂たちLyraの3人は用意されたステージの舞台裏にやって来た。

 そこには屋外に特設のステージが設置され、今は彼女たちの前の出番のお笑い芸人が漫才を披露していて、会場は盛り上がりを見せていた。

「うわぁ~、お客さんいっぱい入ってるよ」
「うぅ……緊張してきたわ」
「わ、私もこれだけたくさんの人の前だと」

 舞台袖から見えるだけでも観客はかなりの人数がいる。
 Lyraの3人はすでに制服から飛鳥の作った衣装に着替えている。浴衣を動きやすいようにアレンジした衣装は、祭りの雰囲気によく合っている。



 やがて前の出演者の漫才が終わって、会場から拍手が沸き起こる。

『ありがとうございました。それでは続いての出演者、音ノ木坂学院アイドル研究同好会、Lyraのみなさんです! よろしくお願いします!』

 司会者の合図とともに、輝穂たちLyraはステージに登場した。
 スポットライトが彼女たちを照らすと、会場からの拍手で迎えられた。

「みなさんこんばんは! 私たちは音ノ木坂学院のアイドルグループ、Lyraです!」

 それぞれが自分の立ち位置につくと、輝穂がそう自分たちを紹介した。
 会場からは小さなざわめきが起こる。
 いったい彼女たちは何者なんだろう。そんな疑問を多くの人は抱いた。

「今日は七夕を、お祭りを楽しんでいってください! それでは――」

 輝穂は飛鳥と瑞姫に目で合図を送った。



「「「ミュージック、スタート!!」」」



 彼女たちの掛け声に合わせて、ステージから瑞姫のつくった新曲のイントロが流れ出す。

 祭りの雰囲気が感じられるアップテンポな曲調に、会場全体がいっそうの盛り上がりを見せる。

 彼女たちが踊りだすと会場からは小さな手拍子が聞こえて、だんだんと手拍子の音は大きくなっていく。

 会場全体が熱気に包まれるなかで、彼女たちは歌いだした。



 やがて曲はサビに突入し、より激しいサウンドとともに彼女たちの踊りも激しさを増した。そして会場は、さらに熱気に包まれて盛り上がる。

 歌って踊っている彼女たちの額には汗が浮かぶ。スポットライトの光がまぶしく、会場の熱気はすさまじい。

 それでも彼女たちは笑顔のまま歌い、踊る。



 そして曲の最終盤。

 最後のサビの最後のフレーズを3人同時に歌い終えるとともに、彼女たちはステージ中央で決めポーズをとる。

 同時に曲もギターサウンドで終了し、彼女たちのライブは終わりを迎えた。

 曲が終わったとわかると、会場の観客たちからは大きな歓声が沸き起こった。

 輝穂たちがステージの中央で手を繋いで並んで立つ。


「「「ありがとうございました!!」」」


 観客に一礼する。
 すると叫びにも似た大きな歓声が、拍手とともに会場全体に響いた。

 輝穂はその光景に感動していた。
 こんなに多くの人たちに自分たちのライブを見てもらって、そして楽しんでもらえた。もっとこの感動を味わいたい、共有したい。



 そんな思いがわき上がってきて、輝穂は気が付けば叫んでいた。





「アイ、ラブ、ライブーッ!!」



 
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