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ママライブ!

作者:ゆいろう
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プロローグ



 ラブライブ開催のおよそ1ヶ月前。
 アイドル研究部の部室にいた穂乃果は、ふと気になっていたことを口に出した。

「そういえばさ、ラブライブってどうして始まったんだろう?」

 そんな穂乃果の疑問に、部長のにこが呆れる。

「はぁ? バッカじゃないの。そんなのスクールアイドルの頂点を決めるために決まってるでしょ!」

「そうですね。にこの言う通りで間違いないでしょう」

 これには海未もにこの意見に賛同する。これに対し穂乃果は不満げな表情を見せた。

「そんなことわかってるってば! 私が言いたいのは、ラブライブが生まれた秘密みたいなのが知りたいってことなの!」

「なるほど、そういうことでしたか」

 海未は穂乃果の意見に納得した。
 ラブライブの開催が迫ってきているのだが、彼女たちがラブライブについて知っていることは少ない。

「それは、確かに気になるわね」
「わたしも気になるな~」
「うちも気になる!」

 絵里、ことり、希の3人も穂乃果の言うことが気になる様子だった。

 そんな会話をしていると、部室のドアが勢いよく開かれた。

「た、たたたたた、大変ですっ!」

 息を切らしながら入ってくる花陽。

「かよちん、そんなに走ると危ないにゃ」
「そ、そうよ花陽」

 続いて凛、真姫と部室になだれ込むように入ってきた。

「ど、どうしたの花陽ちゃん?」
「た、大変なんですっ!」

 何やら慌てていて落ち着かない様子の花陽に穂乃果は聞いてみるが、花陽の同じ言葉を繰り返しただけだった。

「なにが大変なん?」

 希が優しい口調で具体的に話を聞き出そうとする。すると、海未が花陽の手に何かが握られていることに気がついた。

「……花陽? その手に持っているのは、雑誌ですか?」
「そうみたいね」

 絵里もそれに気がついたようで、花陽が持っているものを確認した。それは海未の言う通り雑誌で間違いないようだ。


「大変です! このラブライブの特集雑誌、『月刊ラブライブ!』でラブライブの誕生秘話が、発案者のインタビュー記事で語られているんです!!」

「「な、なんだって~!!」」


 花陽の衝撃的な言葉に、その場にいる全員が驚いた。それはさっきまで話題に挙がっていた、ラブライブについてのものだったからだ。

「そ、それで!?」
「どういう記事だったの!?」

 ズイッと花陽につめ寄る穂乃果とにこ。
 2人の鬼気迫るような様子に花陽は困惑しながらも、パラパラと雑誌を捲っていく。

「え~っとですね。ここです、ここ」

 花陽が示した雑誌のページには、このようなインタビューが掲載されていた。





 ――『ラブライブ!』を開催するきっかけは?

 今から25~6年前、日本で初めてスクールアイドルが誕生しました。彼女たちは3人組のアイドルでした。

 私は当時彼女たちのライブを見て感動しました。

 しかし当時スクールアイドルは彼女たちだけで、あまりメディアに取り上げられませんでした。非常に残念です。

 ただ彼女たちの噂が広まり、スクールアイドルは少しずつ増え続けます。そして現在に至り、スクールアイドルは今や社会現象とまでなっています。

 そこで私は、スクールアイドルの全国大会『ラブライブ!』を開催する決意をしました。全国のスクールアイドルが一同に会しライブをする。そして彼女たちのライブを、そこから生まれる感動を多くの人に味わってもらいたいですね。



 ――大会名は何故『ラブライブ!』に?

 お恥ずかしい限りなんですが、私のわがままで決めました(笑)。

 さっき話した初代スクールアイドルなんですが、私は彼女たちのライブを今でも鮮明に覚えています。

 そのライブの終わりに彼女たちが『I love live!!』と叫んだんです。この言葉がとても印象強く残っていました。

 スクールアイドルの全国大会を開催するにあたって、絶対に彼女たち初代スクールアイドルにまつわる名前したいと思いました。

 『ラブライブ!』という言葉には、そういった思い入れがあります。



 ――その初代スクールアイドルのグループ名を教えてもらえないでしょうか?

 残念ですがお教えできません。

 それでも1つだけ言うとするなら、とても素敵な名前でした。私のように、彼女たちのことを覚えている人はたくさんいると思います。

 彼女たちは高校を卒業とともに解散しましたが、高校生活という短い期間だからこそ強く光り輝くことができ、私のような人の記憶に強く残っているのだと思います。

 いいじゃないですか、今は魅力的なスクールアイドルがたくさんいますから。





「ほえ~、初代スクールアイドルかぁ」

 記事を読み終えた穂乃果はすっかり感心していた。

「今から20年以上前にも、スクールアイドルがあったんだね」
「ハ、ハラショーだわ」

 ことりと絵里も、それほど前にスクールアイドルが誕生していたことに驚きを隠せない。

「すごいですよね、初代スクールアイドル! 彼女たちの活躍が今になってようやく実を結び、こうしてラブライブが開催されることになったんです!!」
「なんか凄いにゃ~」
「これは、スピリチュアルやね」

 興奮した様子で記事について熱く語る花陽。そんな花陽を見つめながら凛が素直な感想を述べ、希はいつもの調子でお決まりのセリフを言った。

「初代スクールアイドル、どんな人たちなのか気になりますね」

 記事を読んだ海未は、どうしてかそんな思いを抱いた。

「そうね! 彼女たちのことを知ることで私たちのレベルアップになるかもしれないわ!!」
「にこちゃんの言う通りね」

 向上心をもったにこの発言に、真姫も同意する。

「ていうか25~6年前やったら、ちょうどうちらのお父さんお母さんの世代やし、聞いてみたら何か知ってるかもしらんで?」
「それだわ希!」

 希がふとそんなことに思い至って言った。改めて考えてみるとたしかに希の言う通り、その時期はμ'sのメンバーの親がちょうど高校生ぐらいの時期だ。

「はいはーい、私聞いてみる! 他のみんなも聞いてみてね! もう気になってパンが食べれないよ~」
「穂乃果、どうせあなたは解らなくてもパンは食べます」

 元気よく手を挙げてそう言う穂乃果に対し、海未が冷静にそう指摘する。

「私も、気になってご飯食べれなくなるかも……」
「かよちんもきっとご飯食べるにゃ~」

 花陽は穂乃果の言うことを真に受けてしまったようだが、凛が同じようにツッコミを入れた。





「たっだ、い、まー……」

 帰宅した穂乃果は元気よくただいまと言おうとするが、目の前の様子に言葉が尻すぼんだ。

「ですから、その話は以前お断りしたはずです! 仕事もあるのでお引き受けできません。失礼します!!」

 そこには、電話口に対していつになく怒っている母親の姿。

「まったくもう……」

 ドッと疲れたという態度で穂乃果の母はイスに深く腰掛けた。

「どうしたのお母さん?」
「穂乃果!? おかえりなさい。なんでもないのよ、間違い電話だったみたい」

 穂乃果が気遣って声をかけると、母はそこでようやく穂乃果が帰って来たことに気づいた。

「そう? あっ、そうだお母さん!」
「なに? お小遣いならこの前あげたでしょ」
「そんなんじゃないってば、もう。え~っと、何だっけ?」
「しっかりしてよね。雪穂はしっかりしてるのに」

 出来のいい雪穂に対しどこか抜けているところのある穂乃果を心配しつつ、母は売り物でもある『ほむまん』をひとつ頬張った。

「穂乃果もしっかりしてるよ~、μ'sではリーダーなんだからっ! あ、思い出した。ねえねえお母さん、初代スクールアイドルって知ってる?」

 訊きたかったことを思い出した穂乃果の問いに、母は食べていたほむまんを喉に詰まらせた。

「ゲホッ、ゲホッ!」
「お母さん大丈夫!?もうしっかりしてよね、店番中にほむまん食べちゃダメだよ」
「そ、そうね。それで、なんだっけ?」

 穂乃果に指摘されたことは気にせず、母はもう一度穂乃果に言うよう促した。

「だから、初代スクールアイドルについて何か知ってる? ちょうどお母さん世代の人らしいんだけど」
「し、知らないわ」
「そっか~。お母さんでも知らないんだ」
「ね、ねえ穂乃果。その初代スクールアイドルのこと、どこで知ったの?」

 母は少し慌てた素振りで穂乃果に尋ねた。穂乃果はそんな母の様子に気づくことなく答える。

「なんかね~、花陽ちゃんが持ってきた雑誌に書いてあったんだ。たしか『月刊ラブライブ』って雑誌だった気がする」
「そう、ありがとう。ほら早く着替えてきなさい、お店閉めて晩ご飯つくるから」
「はーい!!」

 母がそう言うと穂乃果は自分の部屋に向かっていった。



 穂乃果が自室に入っていったのを確認すると、穂乃果の母はよほど疲れたのかイスの背もたれに身を預けて、ゆっくりと目を閉じた。



 
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