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とある科学の傀儡師(エクスマキナ)

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第95話 二尾

 
前書き
遅くなって申し訳ない 

 
チリチリと街灯で照らし出されているいくつかのコンテナの一つに寄りかかりながら上条は倒れているオールバックをした独特の髪型の少女を心配そうに見下ろして髪を撫でている。

呪いの能力を発動するとしばらくは激痛で動けなくなるらしく、さっきまで獣のようにのたうち回っていたが今は落ち着いていて寝息を立てている。
既に髑髏のような模様は消え失せて熱気のようなオーラを醸し出している事に上条は触れるのに躊躇したが、年相応の寝姿に気休め程度の撫でるだ。
寝ている場所には魔法陣のような三角形に外接する円が施された陣から両手を組んで休んでいる。

「落ち着いたみたいだな」
ガッシリとした白衣の男性が無精ヒゲを心地良さそうに自身で撫でながら止血処置されたトビに乗っ取られていた元第1位を担いで戻ってきた。
「そいつは大丈夫なのか?」
「気絶しているだけだ。よっと」
外道の側に並べると腰を気にしてかゆっくりと伸ばした。
「あ、あいつは......?」
「あいたた、ん?」
「あの面みたいな奴は一体何なんだ?」
「......トビの事か」
「トビ?」

白衣の男性は胸ポケットからタバコを取り出して咥えると少し探してからライターを尻ポケットから取り出して火を付ける。
深く吸い込んで一呼吸置いてため息と共に吐き出すとやおら言葉を選びながら言い始める。
「トビを責めないでくれ......どうする事も出来なかった」
「??」
「あんな形だが数年前まで人間だ。不治の病に罹った奴でな......筋ジストロフィーって病気だ」
「!?それって」
「徐々に全身の筋肉が弱くなっていく病だ。進行性で治療法が不明の厄介な代物だ」

筋力が徐々に低下していく病気だよ
彼はそんな理不尽な病を背負って生を受けた
だからあのように努力して病気と戦っているんだ
しかし、たとえどんなに努力しても筋力の低下は止まらない

「我々だって必死だった......彼を治したかった。まだ十代で奪われて良い命ではない」

藁にも縋る勢いで幼い電撃使いを誑かしてDNAマップを手に入れた。
これで彼は助かる
彼の人生はこれからだ

だったはずだった

******

「先生......それは?」
「君を助ける物だよ。善意ある能力者が譲ってくれたんだ!」
「......助か......る?まだ諦めな......くて良いので、すか」
「あぁ!その為には体力を付けないとな!しっかり食べて寝てくれ」

誰一人諦めなかった
人一人の力は弱いが繋がり合い補い合えば必ず状況は良くなる
彼も一層リハビリに力を入れた

「動け......るよう......に、なったら......その人に御礼......したい」
「そうだな。彼女も頑張っている。君も頑張りなさい」
「うん!」


ダメだった......
何がダメなんだ!?
なぜだ教えてくれ
筋肉に電気信号が流れてくれない
止まらない
これで4回目だ

実験は失敗を重ねた。
侵襲性の実験が彼の限られた命を更に荒削りする。
もはや最初から治療なんてしなければ彼の身体はより穏やかに自分の生涯と向き合えたかもしれない。
後悔した。
彼から貴重な時間を奪ってしまった。
巻き戻せるなら戻して欲しい。
「今日......も、ダメだったの」
「だ、大丈夫だ!我々は優秀な研究者だからね。必ず突破口を見つける」
「うん......」

1日の終わりに精一杯の強がりを言って明日に繋げる。
希望を絶やさないように心の闇に負けないように......
だが、彼の心にぽっかりと渦巻く闇がしだいに大きくなり悪魔の取引を彼は呪いながら承諾した。

『不老不死に興味はないかな?』
黒白の奇妙な体色をした特別研究者が彼に禁断の果実を差し出した。


「はぁ......がぁあああ」
『望みの不滅の肉体だよ。苦しくないとでも?』
「やめろぉ!彼に何をしたぁ!?」
『フハハハハハハー!マダラの遺伝子を組み込んだんだ。身体の奪い合いが始まったみたいだね』
マダラの遺伝子を打たれた彼の瞳がギラギラと輝きだして腕からチャクラの腕を燻り出すと研究者の足を掴んで力任せに引き千切った。
「ギャアアアアアァアァアァアァアァアァアァアァアァアァアァー!!?」
夥しい血が大腿部から噴出し辺りにトクトクと広がっていく。
まるで彼の眼に張り付く悪魔の瞳のように仄暗く光っている。

『素晴らしいね!熱が覚めない内に柱間の遺伝子も打ち込んでおこうか』
『マダ反抗シテイルヨウダナ』
『みたいだね。邪魔だからどかしちゃおうか?資源は有効活用だね』

******

「......そ、それでどうなったんだ!?」
上条は背筋に寒気を感じながら胃が捻られるような痛みを感じながら問いただす。
「彼の肉体はマダラという奴の器にされる為に改造され、精神は在るものに封印された......急激に縮ませられてな」
研究者の男性はゆっくり疼くような痛みが走る脚を露出した。
現れたのは義足だ。木製の人形のような足関節固定型の義足と境目の脚に薄く残る筋が力の強大さを物語っている。

「記憶も封印されて奴らに利用されている。人に取り憑く亡霊のような存在だ」
「ま、待てよ.....それって」
「......ただひたすらに行き場のない想い『死の恐怖』を持ち続けて」
上条の脳裏にグルグルとした面の隙間から紅い光が漏れ出すようなイメージが流れて予感が確信に姿を変え始める。

「自分が何をしているか分からずに......トビと名を変えてな」
「!?」
研究者の男性は脚を引きずりながらゆっくりと上条に頭を下げた。
「お願いだ......彼を助けてやって欲しい。我々の力不足が招いた事だ」

******

狸の尻尾のように形状が変化した一尾を生やしながら不快そうに前進する麦野を睨みつける黒ゼツ。
「......」
「滝壺!」
「大丈夫......もう記憶してある。既に検索対象」
「男の癖にロングはどうかしらね?」
「フン」
黒ゼツが印を結び掌からチャクラを流し込みながら巨大な刀を取り出すと一気に振り下ろした。
しかし、バッチが燃え上がるようにチャクラが反応してアスファルトを突き破って流砂が巻き上げられて麦野達を守るように受け止めた。
「......オノレ」

マダ何処カニ居ルヨウダナ......サソリメ

黒ゼツは印を結ぶと幽かに匂うサソリのチャクラに向けて地面を殴り付けた。
土中でチャクラは圧縮が解かれた木の根っことなって鋭い先端で蛇のように畝りながら進んでいく。

「割と注意力散漫かしらぁ?」

「?!」
透き通った声が黒ゼツの脳内に響いて身体の自由が利かなくなりマダラの体表で粘つく黒ゼツは苦い顔を浮かばせる。
マダラの筋肉質な腕が黒ゼツの支配力を上回る力で曲がり始めて、コメカミをに銃弾を撃つようなポーズをさせた。
「バァーンてかしらぁ」
マダラの瞳は禍々しい万華鏡写輪眼ではなくなり光る星のようなキラキラとした眼となり舌を出して戯けていた。

コノガキ共ガ......

黒ゼツの黄色い眼が細くなり憎しみを滾らせた刹那、キラキラ眼のマダラが大の字になって絹のような女性の声で
「今よ!」と叫んだ。

「分かってるわよ!食蜂」
麦野が充填した緑の光をマダラに向けながら一気にメルトダウナーを放った。
緑色の光が赤い空と混ざり合い視界が紫になり動けない黒ゼツの影を焼き尽くした。
爆炎が上がり周囲に衝撃が走るが滝壺の検索能力が空間を切り裂いて移動した黒ゼツを逃さずに視界に収め続けてゆっくり指差した。
「まだ消えていない」
「オーケーな訳よ」
フレンダがロケット弾を取り出すとまだ姿形が現れていない指し示された場所へと弾くように飛ばした。
瞬間に時空に正方形が重なり合った黒い世界からマダラが出現し、ロケット弾が空間ごと直撃した。
「!?」

「やったの?」
「いやまだ」

マダラの巨大な黒い尾が盾となるように立ち塞がると爆発を相殺して薙ぎ払う。
ビルを消し飛ばそうと黒い一閃がぐるりと一周しようとするがフードを被った少女が飛びかかり一尾の攻撃を弾くとマダラの身体はヨロけた。
「超粉砕ですよ」
絹旗は窒素装甲を見に纏い、拳を固めると空気を巻き込みながら渾身粉砕一撃の技を繰り出した。

「チイ!」
黒ゼツは傀儡下のマダラの眼を万華鏡写輪眼を燃え上がらせてスサノオを浮き上がらせてガードを始めていくがビルの窓辺からヘッドギアを装着し、スコープを覗いている紫がかった髪をした女性がスイッチを入れてつまみを回していく。

スコープで拡大されマダラのチャクラが手に取るよう解るようになると『万華鏡モード カムイ』とモニターに表示され焦点が合っているスサノオの装甲の時空が曲がり出してポッカリと穴が開いた。

「ビンゴ!思った通りだわ。結構使えるわね」
暗部組織『スクール』所属のスナイパー『弓箭猟虎(ゆみやらっこ)』はスコープから目を離して一息ついた。

穴がスサノオに反応しチャクラで埋めようとする黒ゼツだが......
「!?」
「はぁぁぁー!」
窒素装甲の鋼鉄パンチが寸前で入り込みチャクラによる密閉空間に窒素が流入しといき拳がマダラの胸元に直撃するとパン!と音を立てて上半身が半壊して倒れ込んだ。

「やったの?」
「......」
フレンダが恐る恐る近づいてみるが血の流れがない死体に不気味さを感じて背筋を凍らせている。
絹旗は確かに仕留めた感触を掴んだが釈然としないように突き出した手を開いたり閉じたりして違和感の正体を探ろうとしていた。

「あっ!?もう戦い終わったみたいですか?」
邪魔にならないように避難していた佐天が麦野に質問をした。
「そうみたいね......油断ならないけど」
「なるほど......御坂さんと連絡が通じないので直接会ってこようかと」
「サソリはどうなったの?ボロボロだって連絡が入ったみたいだけど」
フレンダが身を乗り出して訊いてくるが生憎目撃した情報しか持ち合わせていない為無事である事を願うしか返答できなかった。

「湾内さん達が向かいました。それにサソリの砂が守ってくれたから大丈夫ですよ」
グーと親指を立てて誇らしげに笑う佐天。
「ところでフウエイちゃんはどこにいます?」
「パシリに預けている訳よ」
「パシリですか?」

佐天の傍らには麦野達の死角になるような場所でグルグル面のトビが青い顔をして震えていた。

ま、まさか......黒ゼツが負けたっすかー?
オイラ自由に......いやゼツと悪い事したし
どどどどうするっす?やはりここはこの娘達に寝返ってやり過ごすしか......ないっすか?

震えているトビに警策はなんとも不審そう見てはため息を吐き出して、移動し始めた佐天とトビに着いていく。

******
一方そのころ地下のとある倉庫にアイテム構成員の『浜面仕上(はまづらしあげ)』はカラクリ少女のフウエイと忍者ゴッコに付き合っていた。
「討ち取ったり~!」
「ぎゃああ~。ヤラレター」
バタッと倒れる浜面にピョンピョン跳ねながらフウエイが嬉しそうにニコニコしていた。
「何で俺がこんな役を......」
こっちはこっちで大変そうである。

******

「どうします?私は超吹き飛ばした方が良いと思いますが」
「そうね。死体にしては明らかにおかしいし......旦那が居ればどうすれば良いか相談できそうね」
「サソリもなんともなければ良い訳よ」
まるで千切れた紙屑のような破断面に怪訝そうな表情を浮かべながら麦野はメルトダウナーの力を溜め始めた。

しかし、徐々に破断面に塵が集まり出していき。
「ククク......サソリカ」
「「「?!」」」
「ハハ......ハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハー!!」
復活したマダラの身体に黒ゼツが纏わり付いて復活すると狂ったように笑い出した。
先ほどまで一つだけだった黒い尾が二本になり長い尾が黒い霧のように周囲を暗く照らし出した。
「サソリガ来ル?ソレハ無理ナ話ダ」
黒ゼツは回転するように頭部から自分粘り着いた身体を引き剥がすとマダラの手から札の付いたクナイを生み出して、握ると露出した生身のマダラの頭に染み込むように挿し入れた。

「な、何よコイツ?」
予想外の黒ゼツの行動に理解が追い付かない麦野達を尻目に黒ゼツは独壇場となった場で反応を期待しない演説をする。
「ヤハリ俺デハ操リキレン......頭数ガ減ルガ仕方ナイナ」
「?はぁ?」
「貴様ラノ能力ヲ最大限出セルノハ誰ダ?」
「??」
「隣ニ居ル奴カ?違ウナ......デハサッキノ娘カ?違ウ」
黒ゼツの身体が徐々に半分は腕に集まりだしてもう半分は鎧の中へと入っていく。
質問も話の内容も分からない麦野達は不気味なまでに悪巧みし、凍り付くような冷たい目を食い入るように見つめ続けた。
「本人ダ......精々頑張ルンダナ......地獄マデ」
鎧の中に入り込みマダラの身体の軋みが無くなると黒ゼツは表面にいる僅かな黒い身体でマダラの指を操ると印を結んで封印していた恐るべき化け物を解き放つ。

狸寝入りの術!

残りの黒ゼツの身体がマダラの肉体に入り込むとマダラの身体がガックリと力を無くして項垂れるが次の瞬間に写輪眼が開いてさっきまでとは比べ物にならない殺気が針のように麦野達を穿った。
復活した衝撃波で窓ガラスが粉々に砕け散る。
「......っ!?」

「戦争が始まったか......上手くやったようだな」
かつてサソリの居た世界で伝説の忍と言われ、強大な術で世界を支配しようとした最凶の忍『うちはマダラ』が学園都市で完全復活を遂げる。
 
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