魔法少女リリカルなのは~無限の可能性~
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第5章:幽世と魔導師
第132話「驚異の片鱗」
前書き
元凶の位置が分かっているから展開も早い。……そんな簡単に行けばいいんですけどね。
実際視点を優輝だけに絞れば結構展開は速いです。
まぁ、皆を活躍させたいのでそのために話数を食います。
=蓮side=
……かつて、私は無力だった。
最初こそご主人様よりも私は強かった。
しかし、いつの間にか強さは追い抜かれていた。
それだけじゃない。……仕舞いには、ついて行く事すら出来なくなっていた。
驕っていた訳でも、鍛錬を怠っていた訳でもない。
……ただ、実力が足りなかった。それだけだ。
ご主人様には、たくさんの式姫がいた。
ずっと隣で歩んでいられるような強さの方たちもいた。
だから、私は無力こそ感じていたが、帰りを待つだけなのは苦痛ではなかった。
……それが、いけなかったのだろうか。
あの、運命の日。
ご主人様について行った式姫たちは満身創痍で強制帰還を果たした。
ただし、一緒にいたはずのご主人様を抜いて。
大門の守護者は倒し、ご主人様はまだ満身創痍手前ぐらいの状態だったとの事。
なのに、いつまで経っても帰ってこなかった。
方位師の文様に聞いても、強制帰還の瞬間に伝心が切れた事しかわからなかった。
―――あの時程、自身の無力を悔やんだ事はない。
皆がご主人様の帰還を諦めていく中、私は自身の無力を悔やんだ。
悔やんでも悔やみきれなくて……ただ鍛錬に没頭した。
きっと、心のどこかでは帰ってくると、まだ希望を持っていたのだろう。
その時になって、再び隣に立てるようにと……。
……その願いは終ぞ叶わなかった。
時は流れていき、私達式姫は力を失っていった。
“門”が閉じられ、霊術の類が世間に信じられないようになったからだろう。
大気中の霊力も薄くなって、私も力を失っていた。
そして、外つ国との戦争が始まっていった。
それは現在で言う、第二次世界大戦。
既に幽世に還った式姫もおり、数が少なかった式姫が、ほぼいなくなった。
……その時、私はまた“守られる側”だった。
子供好きだった式姫が私に子供達を託し、護るために散って行った。
ご主人様が守ったこの日本を守ると言い、戦争に散った者もいた。
その時も、私は無力だった。
無力で、悔やんで、それでも諦めきれなくて……。
だから、もう一度同じような事が起きた時こそ、私は力になりたいと思った。
……今が、その時だ。
「ッ―――!?」
―――ィイン!!
それは、まさに刹那の一時。
御札による伝心(彼らは“念話”と言っていたが)の最中に、辛うじて気配に気づけた。
音もなく……と言うよりは、“音より早く”近づかれていた。
咄嗟の判断…否、体に染みついた経験により刀を引き抜き、薙ぐ。
―――金属音が、遅れて聞こえた。
「(早い……!?いや、それだけではない!鋭く、正確……!?)」
その一撃は、確かに防ぐ事はできた。……凌ぐと言った方が正しいが。
何せ、防いだ上で5間程体を持って行かれたからだ。
おまけに伝心に使っていた御札もついでのように切り裂かれていた。
明らかに、ただの妖の攻撃ではなかった。
そして、これほどの使い手を私は知らない。
だが、そんな思考をする暇もなかった。
「っづ……!」
ギギィイン!
一撃を放ち、即座に視界から逸れる。
不意を突いた後の追撃としては、確かに有効な手段である。
……ですが、これでは敵の姿さえ見つけれない…!
「唸れ!“風車”!」
「………!」
攻撃に合わせ、袖から落とした御札で術式を発動させる。
風の刃が私を覆うように展開され、敵も距離を取る……はずだった。
「っ……!」
敵は、風の刃さえ切り裂き、私へと一太刀を振るってきた。
一瞬で対処された事に驚いたが...おかげで攻撃の軌道が見えた。
ギ……ィイイイイイン!!
「ぐっ……!」
正面から攻撃…刀の一撃を受け止めた。
その上で背後にあった大木に叩きつけられてしまう。
……ですが、これで敵の姿が…!
「えっ……?」
その瞬間、私は横薙ぎに吹き飛ばされたのを認識する。
視線を横に向ければ、そこには刀が振り切られた敵の姿が。
受け止められた瞬間、瞬時に横薙ぎに刀を振るったと言うのだ。
「(強すぎる……!)」
長年積んだ鍛錬がまるで無意味だった。
……いえ、辛うじて、鞘で胴を斬り飛ばされる事は防げたらしい。
体が咄嗟に反応したようだ。
「(逃げる事も、許されない……!?)」
敵を視認する事は出来なかった。
姿は瘴気によって隠れ、辛うじて人型だという事がわかった。
……しかし、これをアリシア達に伝えるのは無理でしょう。
……おそらく、私はここで殺される。
=優輝side=
「蓮さん?蓮さん!?」
「唐突な切断……椿!」
蓮さんとの念話が突然途切れ、アリシアは焦る。
かく言う僕も何が起こったのか把握しきれていない。
……でも、予想はできた。
「……瘴気などによる妨害か、もしくは…」
「通信符や蓮さんに何かが起きた……のか」
椿の言葉に僕が続けてそういうと、椿は頷く。
「(どの道、早くしなければ蓮さんの命が危ない……!何か、手は……!)」
正確な位置は僕らも知らないから、こっちから駆け付けるのは不可能。
転移魔法で呼び出すにしても、同じ事だ。
……待てよ?“呼び出す”?
「アリシア!型紙は持っているな!?」
「え?う、うん、契約時に貰った紙だよね?椿が肌身離さず持っておくようにって言ってたから持ってるよ!」
そういってアリシアは型紙を取り出す。
よし、これなら……。
「アリシア、言霊を使ってその型紙で蓮さんをここに召喚するんだ」
「しょ、召喚!?しかも、言霊ってそんないきなり……」
「シンプルなものでも構わない!早く!」
行うのは式姫の召喚。普段から式姫を連れられない場合に用いるものだ。
かつて“カタストロフ”との一戦で椿を僕の傍に転移させたのもこれだ。
それを使って、蓮さんをこの場に召喚する。
「え、えっと……来たれ!契約せし式姫、小烏丸!」
その瞬間、型紙が光に包まれ、アリシアの手元から離れる。
そして、光が治まると、そこには……。
首から血を流し、倒れ込む蓮さんがいた。
「っ……!?」
「っ、治療!急げ!」
周りからは短く悲鳴が上がる。
当然だ。見知った人が死に体でその場に現れ、倒れたのだから。
「い、一体何が……」
「判断は正しかった……!蓮さんは何者かに襲われていたんだ!」
傍にいた僕と椿と葵がすぐに治癒術を掛ける。
遅れてアリシア、アリサ、すずかも駆け寄って治癒術を掛ける。
「医務室の手配、急げ!」
「はい!」
クロノも指示を出す。
その間に僕は解析魔法を蓮さんに掛ける。
「(っ、こ、これは……!?)」
解析魔法を掛けたのは、傷の具合を知る事で適切に治療するため。
また、毒などを喰らっていないかを確認するためだったが……。
……これは……。
「……一瞬…いや、刹那でも遅ければ……蓮さんは、死んでいた……?」
「っ……優輝、どういう事?」
首以外にも傷は負っている。それこそ叩きつけられた打撲痕もあるし、回避し損ねたのか脇腹などにも切り傷はある。
……だけど、最も注目すべきなのは首の傷だった。
「……首の傷を見てくれ。……ああいや、アリシア達は見るのが辛ければ聞くだけでいい」
治療をしながら僕はそういう。
首の傷はまだ塞がっていない。一応、既に止血している。
「一見、回避できずに斬られたように見える傷なんだが……」
普通、斬られた傷だけではどんな風に斬られたなんて大まかにしかわからない。
余程の剣に精通している者ですら、詳細は分からないだろう。
けど、僕は解析魔法でそれがわかる。……だからこそ、背筋が凍る思いだった。
「……これは、転移のその瞬間、刃が喰い込んでいた…つまり、首を断たれるタイミングで転移した事になるんだ。」
「それって……斬られたからこうなったんじゃなくて、斬られてる途中だったの!?」
「それも、ほんの一瞬の間のタイミングでな」
ほんの僅かでも早ければ、首の傷はなく、遅ければ蓮さんは死んでいた。
それほどまでに、絶妙と言うか……まさに紙一重のタイミングで助けれた訳だ。
「…………っ………」
「……それに、意識もある。つまり、蓮さんをこうまで圧倒的に追い詰める程の存在が、向こうにいたという事だ」
首を斬られ、おまけに満身創痍だったから言葉を発していなかったが、蓮さんは明らかに意識を保っていた。
……尤も、ここまでボロボロなっていれば意識も薄くなっているが。
「それは……」
「……少なくとも、剣士としての腕前は僕や恭也さんを上回るはずだ。……なのに、そんな蓮さんがこうまであっさりと……」
念話が途切れてから40秒程だ。……その短時間で、蓮さんはここまでやられた。
「っ………」
「……とにかく、治療に集中しよう」
僕の言葉を理解した人達は、揃って恐れを抱いた表情をした。
この短時間で満身創痍……いや、殺す寸前まで追いやられたのだから、当然か。
クロノの指示を受けた人がストレッチャーを持ってきたので魔力で浮かせて乗せる。
医務室へと運ばれるので、僕も治癒術を掛けながらついて行った。
他にも椿と葵、司や奏、アリシアもついて来た。
「……応急処置のおかげで、命に別状はありません。血も貧血になるほど流した訳ではないので、治癒魔法を掛け続ければすぐに治ります。……ただ、原因は不明ですが体が衰弱してしまったようで、復帰までには時間がかかります」
「そうですか。よかった……」
医師からのその言葉に、命は助かったのだとアリシアは安堵する。
首の傷もある程度塞がったので、後はアースラの設備に任せればいいだろう。
……後は…。
「…………」
蓮さんの手に触れ、霊力で念じる。
「『……蓮さん、聞こえますか?』」
「『……ここは、どこでしょうか?』」
「『アースラです。……以前話した魔法を扱う組織が持つ船の一つ…とでも言っておきましょう』」
体が衰弱したらしく、蓮さんはまるで眠ったような状態だった。
そこで、僕が霊力を使って直接触れる事で念話を使ったのだ。
「『念話の使い方をすぐに理解してくれて助かりました』」
「『念話……ですか。私としては伝心と変わりないのですが』」
伝心……?ずっと魔法と同じで念話と言っていたが、どうやら霊力の場合はこっちが正式名称らしい。……って、今はどうでもいいか。
「『……今の蓮さんは、瀕死の怪我を負い、治療を受けている状態です。また、何らかの原因で体も衰弱しているので、復帰までには時間がかかります』」
「『……そうですか。……体が碌に動かないのは、それが原因ですか』」
蓮さんは今の状況をあっさりと受け入れた。
まぁ、怪我を見た限りだけど、あそこまで圧倒的にやられればな……。
「『単刀直入に聞きます。……“何”がいましたか?』」
「『……正体は終ぞ掴めませんでしたが……途轍もない、強さの存在です。あれほどの強さを、私は見た事がありません』」
「『…………』」
念話……伝心が正しいならこれからは伝心と言おうか。
その伝心から伝わってくるその声色からも、恐怖が伝わってきた。
「『……姿は…』」
「『瘴気に覆われて良く分かりませんでした。……ただ、私達と同じくらいの人型で、刀を扱うという事だけは分かりました』」
「『……その刀で、首の傷が…』」
人型且つ、刀を扱う。その上で蓮さんを圧倒する強さ……。
……これは、余程近接戦の心得がないときついな。
「『……膝を付き、無防備になった所までは認識できています。その直後に、この船へと召喚されました』」
「『その一瞬の間に、首が斬られかけたのか……』」
型紙による召喚は、魔法での転移よりも発動が早い。
それこそ、僕がいつも使う短距離転移よりもだ。
それなのに、その一瞬にも満たない間に首が……。
本当に、ギリギリすぎて背筋が凍る思いだ。
「『……体が衰弱している事に…心当たりは?』」
「『……おそらく、姿が見えない程の濃い瘴気が原因でしょう。……あれは人に害を齎します。そして、それは式姫も例外じゃありません。傷を負った事で、その瘴気に蝕まれたという事でしょう』」
「『厄介にも程があるだろう……』」
強さは計り知れない。おまけに瘴気の影響もある。
瘴気は浄化する事ができるだろうが、戦闘と同時にそれを行うのは……。
「『とにかく、今は大人しく回復を待ってください』」
「『……わかりました。……ご武運を』」
自分の状況は理解しているのか、僕の言葉に蓮さんはあっさり従った。
伝心を解いて、黙ってみていた椿たちに向き直る。
「……蓮ちゃんはなんて?」
「ご武運を……だってさ。それと、皆の所に戻りながらだけど、蓮さんを襲った存在について少し話そう」
「あ……えっと、私は残っててもいい?」
クロノ達の所に戻ろうとしたが、そこでアリシアがそういう。
おそらく、蓮さんが心配なのだろう。
「……わかった。一応、デバイスを通して情報は送っておく」
「うん」
契約した式姫且つ、霊術のもう一人の師匠でもある。
だから、契約による繋がりから、蓮さんの状態がなんとなくわかるのだろう。
……伝心の際、朧気だけど蓮さんの記憶が流れ込んできた。
その記憶はもちろん、つい先程までの戦闘の事だ。
圧倒的強さで押される戦闘を経て、蓮さんは少し恐怖を覚えていた。
そういった感情がアリシアにも流れたから、心配して残ろうとしたのだろう。
「……戻ったか」
「ああ。命に別状はない。……けど、瘴気にやられて今は衰弱している」
「大丈夫なのか?」
「アリシアもついているから大丈夫だ。……一応、浄化の類の術も教えてるからな」
クロノの所に戻り、簡潔に伝える。
「……それで、彼女は一体……」
「私達と同じ、式姫よ」
「……なるほど。椿たち以外にもいたのか」
「偶然会って、その時にアリシアと契約を結んでもらったんだ。その時はアリシアはまだまだ霊力の扱いに慣れていなかったからな」
蓮さんの存在を知っているのは、あの時あの場にいた面子と、那美さんと久遠だけだ。……会ってもいないし言う必要もなかったから当然だけど。
「何か情報は聞けたのか?」
「敵の存在を少しだけ……。だけど、相当厄介なのはそれでもわかった」
「それは一体……」
息を置いて、先程蓮さんに聞いた事を話す。
「敵の詳細は瘴気に覆われて不明。ただし、武器に刀を使い、人間と同じぐらいの人型だという事は分かっている」
「それって学校を襲いに来た妖と……」
「いえ、それとは違う妖よ。あの妖は影法師。だから、彼女も知っているから詳細が分からないはずがない。だから別物よ」
すずかがふと気づいて呟くが、それを椿が否定する。
「問題なのはその敵の強さだ」
「先程の人物が式姫なのは分かった。……そんな彼女を、ここまで追い詰める程か……」
「蓮さんは剣の腕なら僕や恭也さん以上だ。そして、アリシアと契約しているから霊力が不足している訳でもない。おまけに、ずっと研鑽を怠っていなかった。そんな蓮さんが、為す術なくやられた事から……その強さは、良く分かるだろう」
実際に蓮さんの強さを知っていないなのは達ですら、その強さが理解できた。
いや、深くは出来ていない。漠然とだけだが……今はそれでもいい。
「椿……」
「……ええ。神降しも視野にいれないとね」
余程の相手だ。もしかすれば、この事件で神降しを複数回使うかもしれないな……。
使うとしても大門の守護者だけかと思っていたが、とんだ伏兵がいたものだ。
「クロノ、下調べはついたか?」
「ああ。京都は現在警察と現地の陰陽師が住民を守るように動いている。……他の場所も同じだ。細かい見落としはあるかもしれないが……」
「いや、十分だ。予定通り京都に転移させてくれ」
「……わかった」
どの道、瘴気が原因でサーチャーが妨害される。
大まかにわかっただけマシだろう。
「向かうのは僕と椿と葵。他はアースラに待機して、何かあればすぐに向かえるようにしておいてほしい」
「……大人数は、却って危険か?」
「ああ。敵の強さが未知数だからな。ここは妖を良く知っている葵と、神降しができる僕らが最適だ。……次点で、大火力且つ利便性の高い司も適している」
大人数で行った所で、無駄に死人を増やしてしまうかもしれない。
ここは戦闘経験が多い面子で行った方がいい。
司も戦闘経験が僕程ではないという事で待機だ。
「……わかった。今優輝が言ったように、三人以外はここで待機!ただし、いつでも出れるようにしておくように!」
クロノがそう指示を飛ばす。
僕も気持ちを落ち着け、戦闘に備える。
「……優輝、大丈夫かしら?」
「………ああ。椿や葵が恐れる程の相手だ。……神降しの代償を気にしていられない」
「気を付けなさい。……私達も計り知れない相手よ」
椿の言葉に、僕は頷く。
強さも、どのような相手かも不明。
アンラ・マンユも同じようなものだったが、負のエネルギーの集合体と言う意味では正体は判明していた。……対し、今回は幽世の大門の守護者だという事以外、何もわからない。どれほどの強さなのかも、どのような姿なのかも、行使される力はどういったものなのかもわからない。
「だからこそ、最初から全力で行く。葵も、いざとなれば退いてくれ」
「分かってるよ。神降しした優ちゃんだと、あたしも足手纏いだからね」
そのためにも、出し惜しみはしない。
転移した時点で、神降しはしておく。
……蓮さんを襲った存在も近くにいるかもしれないからな。
「……無事に帰ってきてね」
「分かってる。……勝ってくるさ」
心配している司にそう言って、転送ポートに立つ。
「では、転移するぞ」
「ああ」
そして、僕らは京都へと転送された。
「椿」
「ええ」
転移が完了し、すぐさま神降しを行使する。
場所は山中。妖も既に近くにいたらしい。……が、葵に切り裂かれる。
「護衛は任せて」
「ああ」
襲い掛かる妖は次々と葵に斬られていく。
ただ、大門が近いのもあって妖の数が多く、質も高い。
葵一人でいつまでも持つ訳ではない。……と言っても、もう完了したけど。
ザンッ!
「……さて、瘴気が濃い方に向かえば大門があるはず」
「早速行こうか」
神降しが終わり、即座に周囲の妖を切り裂く。
少し遠い所にいた妖は、木の根を棘のように地面から生やして突き刺した。
草の神だから、根っこぐらいなら操れるからね。
「シッ!」
「ふっ……!」
瘴気が濃い方向……山奥へと進む度に妖が襲ってくる。
正面からは全て私が切り裂き、サイドや背後からは葵が凌いでいる。
進み続けるため、追いかけられる形になるけど、そこは創造した剣で仕留めておく。
「……濃いね」
「……幽世に繋がる門だから、当然と言えば当然だけどね」
段々と瘴気が濃くなってくる。……もうすぐ、発生源か…。
「この辺りが、瘴気の発生源のはず……」
「っ………」
あまりの瘴気の濃さに、さしもの葵すら少し気分を悪くしている。
「……!そこ……!」
「あれが……幽世の大門……」
そして、ついに見つけた。
木々の中に少し開けた場所があり、そこに瘴気が溢れ出る穴があった。
……間違いなく、それが幽世の大門だった。
「……守護者らしき影はない…」
「………でも……」
門の近くまで来て、守護者らしき存在がいない事に気づく。
………そして……。
「……首を一閃。完全な即死…か」
「こっちは……右腕を切断され、その上心臓を刺された上で、袈裟切りで左肩からばっさりと……」
そこには、二人の男性の死体があった。
片方は首を斬られている、誰ともわからない男で、もう一人が…。
「……ティーダさん……」
最後まで抵抗したのだろう。死んでいるはずのその顔は、何かに必死で抗おうと歯を食いしばったままだった。
「……この切り口、まさか……」
「明らかに、刀で斬った後だね……」
切断面や切り傷は、全て刀でついたものだった。
……刀と言えば、蓮さんを追い詰めた存在と同じ武器だ。
「……守護者は、基本的に門の近くから動かない」
「でも、例外はある。……海鳴の門の守護者もそうだったよ」
「大門の場合も、あり得る……と言う事か」
「……多分ね」
おそらく、大門の守護者は門の前から移動し……その途中で、蓮さんと遭遇。
そのまま戦闘し、殺すところだったのだろう。
「……そして……」
「……ロストロギア…だね」
大門の前に佇むように浮かぶ、黒い大きなキューブのようなもの。
……魔力が感じられる上に、門に影響を及ぼしている。間違いなくロストロギアだ。
「これが大門を開けた原因で間違いないか」
「だね。封印しておこうか」
手っ取り早く神力で封印を試みる。
少し魔力で反抗しようとしてきたけど、問題なく抑え込んで封印できた。
「……少しだけ瘴気がマシになったかな」
「あたしにはまだきついけど……そうみたいだね」
少しばかり瘴気がマシになったけど、それでも濃い事には変わりない。
「それに、当然だろうけど……」
バチィイッ!!
「……やっぱり、門は閉じれない……か」
神力を用いて門を閉じようとするが、弾かれてしまう。
割と力を込めてもびくともしないと言う事は……全力でも無理だろう。
「けど、ある程度の瘴気の浄化はできそうかな」
「……これは、厄介な展開になってきたね……」
守護者がいない。それは由々しき事態だ。
何せ倒さなければならない元凶がどこにいるのかわからないのだ。
……それに、いつまでも神降しをしながらここにいる訳にもいかない。
「とにかく、ティーダさんとそこの男の死体を運ぼう。デバイスの記録映像から、何かわかるかもしれない」
「……そうだね。連絡は……瘴気で通じないか」
「瘴気を出来るだけ浄化して、転移できる場所まで移動しよう」
そういうや否や、私は御札を数枚取り出し、陣を描く。
神力をしっかりと込め、言霊を紡いだ。
「……草祖草野姫の名において、祓われよ!」
―――カッ……!!
光が溢れ、瘴気が祓われていく。
門が健在な以上、完全に浄化する事はできないけど……。
「……よし、とりあえず、私の転移ならできる」
「一度瘴気の外まで移動して、連絡を入れてからアースラに戻る訳だね」
「そう言う事」
そうと決まれば、善は急げという訳なので、早速瘴気の外へ転移。
クロノに一端戻る事を伝え、アースラへと一端戻る事になった。
後書き
百花文…薄紫のセミショートの少女(容姿については式姫大全にて)。かくりよの門で主人公を方位師として支援をしてくれる少女。病弱な体なため、よく吐血する。ついでに都合が悪い時も吐血する。吐血系ヒロイン。
方位師…一応以前に椿たちがちらっと言っていた。前線で戦う陰陽師を支援する者であり、緊急時に強制帰還をするための安全装置代わりでもある。
伝心…霊力版の念話の本来の名前(作者が失念していただけ)。方位師と陰陽師が連絡を取り合うのによく使っていた。瘴気などで妨害される事もある。
早速神降しを使って行くスタイル。油断も慢心もあったもんじゃねぇ。
代償があるにも関わらず使うという事は、それだけ警戒しているという事です。
さらりと流されたロストロギアですが、これも中々にやばい効果を持っています。……と言っても既に封印されたのでこれ以上の脅威はないですが。
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