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美食王

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第四章

「これをお出ししました」
「煮豆とチーズ達をか」
「旦那様がご幼少の頃に召し上がられていたもので」
 まさに彼が味覚に目覚めたその頃のことだというのだ、美食の道を歩きはじめた。
「そして調味料も香辛料もです」
「その当時のものにしたか」
「まさにその時のこうしたものこそです」
「私が最高に美味いと思ったものだからか」
「最初に」
「そういうことだったのか」
「はい、人は全て最初を最も印象的に感じて覚えています」
 それが無意識のうちであってもというのだ。
「ですから」
「私にとっての最高の美食はか」
「これだと思い出したのでお出ししました」
「成程な」
 ここまで聞いてだ、ハールーンは笑顔で応えた。
「そういうことか、確かにだ」
「美味しいですか」
「最高にな」
 まさにというのだった、ハールーンも。
「わかった、そして実際にな」
「美味しいですね」
「この上なくな」 
 そうだという返事だった。
「これはいい、そなたの言う通り最高に美味い」
「そうですか」
「礼を言う、最高の馳走を食べさせてくれたそなたにな」
「有り難きお言葉」
「そして褒美は何がいい」
 ハールーンはイマムに満足している笑みを向けて問うた、彼は主としては鷹揚で寛容、そして気前のいい主として知られている。
「一体」
「はい、包丁が欲しいです」
「包丁か」
「日本の包丁を」
 それをというのだ。
「お願いします」
「日本のか」
「はい、旦那様は近頃海の幸がお好きですね」
「前からだが最近は特にだな」
「やはり海の幸にはです」
 これを調理するにはというのだ。
「日本の刺身包丁なので」
「だからか」
「それの最高級のものをお願いします」
「そういえばそなたは包丁を集める趣味があったな」
「はい」
 シェフだからではない、実は彼はそれを集めるのが趣味なのだ。包丁の切れ味を確かめて喜んでいるのだ。
「ですから」
「だからか」
「はい、それをお願いします」
「わかった、ではな」
 ハールーンはイマムの申し出に笑顔で応えて言った。
「それを用意しよう」
「それでは」
 イマムも笑顔で応えた、そしてだった。
 主がその煮豆やチーズを満面の笑顔で食べるのを彼も笑顔で見守った、幼い頃に食べた最高の味に最高の笑顔になっている主を。


美食王   完


                             2017・3・17 
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