キコ族の少女
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第30話「おはようの一幕」
翌日の早朝。
日の出とともに目が覚めた俺は、枕もとで眠っているテトを起こさないように静かに起き上がると、自分の体をへと意識を向けた。
昨日の貧血が原因である体調不良は、食事と睡眠を十分に摂れたことで体の奥にダルさが少し残っているものの、日常生活を送るのに何ら問題のないレベルまで回復できているようだ。
そこで、軽い訓練も兼ねてヒスイを十体ほど即座に顕現させて部屋の中を飛び回らせてみる。
「よし、問題ないな」
不具合なく部屋中を飛び回っているヒスイの存在を確認しつつ、幼女体型には大きすぎるベッドから飛び降りると、傍のテーブルに置いてあるカバンから適当に服を取り出して着替えるために、貸し与えられた白いワンピースタイプの寝間着を脱いで一糸まとわぬ姿へとなる。
……いや、別に露出狂とかじゃないよ?
具合悪い時に、ショートとかのピッタリと張り付いて締め付けてくるような感じが嫌だったから穿いてないだけだよ?
というか、全裸で寝るとかいう人がいるって聞いたことあるんだから、俺の行動は変ではないよ!
誰にしているのか分からない言い訳を頭の中で並べたてつつ、カバンからシャツを取り出した瞬間。
ガチャリとドアが開く音に条件反射的に、服を横に投げ捨てることで両手をフリーにしつつ音の発生元へ正面から向かい合おうように身構えてしまった……全裸のままでだ。
「「……」」
ドアを開けた人物---スクワラ---としても、ドア向こうに全裸の幼女がいるとは予想していなかったのか、ドアノブを握ったまま固まっていた。
とはいえ、彼の視線は俺のつま先から頭のてっぺんまでをマジマジと眺めていることは視線の動きと感じる視線から分かった。
そこでやっと、俺は他人に裸を見られているという状況が理解する。
裸自体はノブナガに見られたことは何度かあったが、それは見られてしまうという心の準備を済ませてからのものだ。
今のようなラッキースケベ的な不意打ちは初めてのことで、理解した瞬間に顔が発火しそうなほどに熱くなっていき、対照的に体は凍り付くような寒さに晒されたかのようにプルプルと小刻みに震えていく。
「いや、その、嬢ちゃん……」
「でっ……でて」
「ででて?」
「出てけー!!」
「あぶねぇええ!?」
両手を上にあげて“降参のポーズ”をとりつつ弁明の言葉を探すスクワラの行動が起爆剤となって、俺の感情が爆発した。
突発的に部屋の中を飛び回っていたヒスイ全てを、スクワラ排除(物理)のための突撃命令を下す。
しかし、運が良い事に少しずつ後ずさりしていた彼は紙一重でヒスイ達の攻撃を回避すると、扉を大急ぎで閉めることで簡易的な盾にするとともに必死さが伝わるような声で、俺に対して許しを請うてきた。
「待ってくれ。ノックもなしに入ったことは悪かった!」
「謝って済むなら、警察は要らない!!」
「うおぉおぉっ!?」
屋敷の備品を壊してはダメだという、微かに残る理性からヒスイによる扉の破壊という選択肢を破棄した俺は、代案としてハクタクを三体ほど顕現させて扉をすり抜けさせることで向こう側にいるスクワラを捕縛しようとするが、彼はオーラで強化した手刀によってすべてが斬り倒してしまった。
幸いにも、感情の勢いに任せた稚拙な念獣だったために制約による失血量は僅かであったが、軽い立ちくらみでバランスを崩してベットへと倒れこむととみに、高ぶっていた感情がシオシオと萎んでいく。
ハクタクの襲撃以降、アクションがなくなったこと俺が落ち着いたと理解できたのだろう。今度はキチンとノックをして、入室の許可を得てから部屋へと入ってきた。
ちなみに、俺は寝間着姿に逆戻りしている。
「本当に悪かったな。俺の不注意だった」
「いえ。こちらも驚いたとはいえ、攻撃してしまって、すみませんでした」
俺のような子供に対しても、ちゃんと頭を下げて謝罪する彼の態度に好感を覚えつつ、ラブコメのようなラッキースケベに対しての容赦のない攻撃をしてしまったことを謝罪した。
ああいうのは、爆発に巻き込まれてもアフロヘアになるだけで済むような補正空間であることが大半であって、この世界にはそんな都合のいい補正はないので、攻撃が通っていれば大ケガをさせてしまったかもしれないのだから……。
少しの間、お互いに謝罪をし合うという日本人のような事を行った後、スクワラは早朝に俺のいる部屋へ来た目的を話してくれた。
「ネオンさんの、護衛ですか?」
「そうだ」
オウム返しのように聞いた言葉を口に出した俺に、彼は茶化すことなく聞き間違いではないことを確認してくれた。
とはいえ、聞いた言葉通りとなると当然の疑問が出てくるわけで……
「あの……昨日今日、来たばかりの私が重要人物の護衛っていうのは、問題ないんですか?」
「もちろん問題はあるが、ボス直々のご指名だからな諦めてくれ」
「ぇ~……」
「護衛といっても俺がほとんど対応するから、厳密には嬢ちゃんはボスの話し相手をしてくれるだけでいい」
「それって……」
「汚い言い方だが、居候の身ということで引き受けてくれ」
「別に嫌だというわけではないので、そんな言葉を引き合いに出さなくても手伝いますよ」
「そうか!!いやぁ、色々と悪いな!」
異様に喜ぶ彼に若干の違和感を覚えつつも「詳しい話は朝食の後だ」ということで、寝間着のまま行くわけにもいかないので着替えるために部屋を出て行ってもらった後、外に人を待たせているということでTシャツにハーフパンツとラフすぎるかもしれないが、スピード重視ということで簡単に着替えて―――もちろん下着は着用してる!―――から、毛づくろいなどで身だしなみを整えたテトを肩に乗せてから朝食を摂るためにドアへと向かっていった。
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――
「……朝食を食べるはずだったと思うんだけどなぁ……」
「こら。頭を動かさないの!」
朝食を食べようとしていたら、いつの間にか美容院に来ていた。何を言ってるいるのか云々……と、ネタとして多用されている例のセリフを脳内で呟きつつもエリザが手慣れた手つきで俺の髪の毛を整えていくのを、鏡越しに眺める。
まあ、少し考えれば分かることだ。
ここ最近は入院生活が続いていたために髪の毛を弄ることなんてほとんどしていなかったので、生前の寝癖などつきようがない短い髪であった時の要領で行動してしまっていた。
退院の時も、エミリアが嬉々としてヘアセットをやってくれたので、数か月ほど“女”として髪の毛を整えるということをしていない。
生活の一部分となるまで習慣化していなかったので、忘れてしまっていることとかが色々とありそうだ。
所々に寝癖からピンッと跳ねていたりしていた俺の髪の毛を、ヘアアイロンを使って器用にキレイなストレートへと整えていくエリザの手際の良さはすごいので、時間のある時に教えてもらうとしよう。
「時間がないから、今回はこれくらいが限界ね」
「ありがとうございます」
「すごく綺麗な髪の毛なんだから、ちゃんと手入れをしないとダメよ。この後は忙しくなるから難しいけど、今度にでも時間を作って教えてあげるから!」
「は、はい……」
ガシッと俺の両肩を掴み、鏡越しに俺を強い視線で射貫くエリザに、俺は上ずった返事をすることしかできなかった。
そういえば、マチやパクも俺に“女性”としての身だしなみについて教える時に、似たような雰囲気を醸し出していしたような気がする。
……はっ!雰囲気が同じってことは、あの地獄のようなレクチャーを彼女も行うかもしれないってことか!?
すごく逃げたい!超逃げたいんですけどーーー!!
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