IS〜from another〜
しおりを利用するにはログインしてください。会員登録がまだの場合はこちらから。
ページ下へ移動
IS 〜from another〜 01
前書き
17.10.23 少し修正しました。
IS 〜from another〜 01
《首輪付きの野良猫》
「ヴォォォォォォ!!」
獣の様な唸り声を上げて彼は、否、“彼等”は雲霞の如く押し寄せる“敵”の大群に遅い掛かる。
戦力差は圧倒的。だが、恐怖に駆られているのは寧ろ大群の方。未だ射程まで距離があるにも関わらず、ある者は狂った様に火砲を乱射し、またある者はプレッシャーに耐えかねて遁走する。
踏み留まっている者達も皆、あまりの重圧に歯の根が噛み合わず、全身の震えが止まらない。嘔吐や果ては失禁する者まで少なからず現れたが、それを咎められる人間などいなかった。
「ば、ば、ば、化け物が!!?」
恐怖に堪えかねた一人が前に飛び出す。相対距離がぐんぐん縮まり、そして、
“彼等”は、まるで蟻でも踏み潰すかの如く、一切の抵抗を許さず、それでいて少しも関心を持たずに叩き潰した。
飛び出した者は瞬時に絶命し、何が起こったのか理解することすら無かった。
“彼等”は、そのまま敵陣に突っ込むとただひたすらに蹂躙した。美しさや気高さすら感じる破壊の狂宴。その中心で、“彼等”はただ淡々と前に進む。
そういくらも経たない内に大群は姿を消し、後には骸の山が残った。しかし、それまでに“彼等”が築いてきたそれに比べれば、あまりにも僅かな量が加算されたに過ぎなかった。
『史上最も多くを殺した個人』、『人類種の天敵』……滅びを告げる黒き野良猫は、次なる獲物を求めて徘徊した。
どれ程経ったのだろうか。“彼等”は殺す度に己を磨り減らし、とうとうその摩耗は己という存在を消し去る所まで来ていた。それでも“彼等”は止まらない。否、止まれない。己が見出した“答え”の為に。
武器は砕け、翼は折れ、脚が潰れて腕が千切れた。全てを失った“彼等”、否、“彼”は、その時、初めて笑った。
「あばよ、セレン。…………ありがとな、《相棒》。」
たったそれだけを絞り出すと、彼は静かに意識を手放した。確かな満足と、大きな寂寥と、ほんの少しの後悔を抱きながら。
最後のリンクスにして人類史上最悪の厄災はこうして滅んだ。数多の絶望を雲の下に、ほんの僅かな希望を星の海に残して。
“彼”の“答え”は成された。………成された、『筈だった。』
ーーーーーマダダヨ。マダ、オワラセナイヨ?
「………っ!?」
飛び起きた俺は即座に周囲を確認する。そこは硝煙香る戦場では無く、昨日俺が眠った筈の自宅アパートである。まあ、当たり前の事ではあるが、それでも安堵する自分がいた。
「…………ふぅ。」
久々に“あの頃”の夢を見た。世界の全てを喰らい、滅ぼし、そして死ぬ夢を。
あの時俺は確かに死んだ筈だった。幾多の屍の先に辿り着いた俺だけの答えを完成させ、その成就を見届けた上で、名前も知らない男に、或いは女に殺された筈だ。
後悔は腐るほどあったが未練は無かった。俺は、満足して死ねた……その筈だった。
次に目を冷ました時、俺は冗談みたいに平和な世の中にいた。コジマによる汚染も無ければ、戦争も精々地域紛争レベル。完全とは到底言い難いが、パックス・エコノミカ何ぞより遥かにマシな世界がそこには広がっていた。
最初、ここは天国かとも思ったがどうも違うらしい。第一、俺みたいなのが天国に来れる筈が無い。俺程に罪深い人間が存在するなら是非見てみたいものだ。
俺が目を覚ましたのはアメリカのニューヨーク。そのダウンタウンの路地裏だった。情報収集と金策を兼ねて、そこらのヤンキーやらギャングやらと会話(物理)を繰り返している内にすっかり馴染んでしまった。
理屈はさっぱりだが、どうも俺は平行世界に転移してしまったらしい。最初は時間遡行かとも疑ったんだが、俺が全く知らないものがこの世界にはあった。
インフィニット・ストラトス
ISと略されるそれは、たった一人の天災クラスの天才が産み出したマルチプル・パワードスーツらしい。何故か女性にしか反応せず、その性能は現行兵器を軽く凌駕する。
公開されてるスペックを見たが確かに凄まじい。一般兵器はおろか、ノーマルACぐらいなら圧倒出来るだろう。ネクストは……腕次第だが相当難しいだろう。
ISはとある事情で400機も存在していないのだが……ネクストはカラードランク外や未登録機を含めても稼働機は精々50程度。つまり、イレギュラーの度合いが違う。
モンド・グロッソとかいう大会の上位者ならまだ分からないが並みのレベルなら“あの”ワンダフルボディやセレブリティアッシュにすら勝てないだろう。
だが……AMS以外のインターフェースであれだけの機械をああも自在に操れるのは驚きだ。適性の差こそあれ、特にリスクは無いというのだからマン・マシーンインターフェースとしてはISの方が優秀なのだろう。
それと、ISの影響で世の中女性優位のいわゆる女尊男卑思想が広がっている。最初は慣れなかったがそもそも俺の回りにはおっかない女性が多かった訳で……セレンは言わずもがなリリウム・ウォルコット、ウィン・D・ファンション、エイ・プール、シャミア・ラヴィラヴィ、ジュリアス・エメリー、スティレット、フランソワ・ネルス、ミセス・テレジア………うわ、俺よく生き残ったな。あ、いや、一度死んだんだった。
中でもセレンは群を抜いておっかなかったし尻に轢かれ続けたので以外にも余り抵抗はなかったりした。
ともあれ、俺はこうして第二の人生を謳歌している。正直俺にそんな資格は無いと思ってるが、命を拾っちまったからには仕方ない。死んでない以上、生きるしか無いのだから。
そんな訳で、俺は今日も生きていた。明確な“答え”を持たずに、ただ惰性で日々を送っていた。こっちの世界に来て、既に一年が経っていた。
「………よし、行くか。」
着替えを終えて部屋を出る。拳銃と、いつものチョーカーを忘れない。これは俺がこっちの世界に来た時に何故か身に付けていた物だ。ファッションなんて柄じゃないが、これを着けていると妙に落ち着くのだ。
以前、これを着けずに外出した事があったが、些細な事にイライラして五人も半殺しで病院送りにしてしまった。誰が言い出したかは忘れたが俺は正真正銘の《首輪付き》らしい。
三月に入ったがニューヨークはまだ寒い。リンクス時代とよく似た黒いレザーコートを羽織って外にでる。朝は携帯でラジオを聞きながら散歩するのが俺のここ日課だ。
『続いてのニュースです。先月発見された世界初の男性IS操縦者、織斑一夏君ですが今日未明、IS学園への入学が正式決定したとの声明がIISC(International “Infinite Stratos” Committee 国際IS委員会の略)より出されました。なお、所属国家については未定で本人は日本国籍を有していますが日本政府の所属では無いと断言されました。』
ニュースを聞きながら足が向かうに任せて歩く。何処をどう通ったのか。気がつけば俺は『自由の女神』像の真下に来ていた。
「……潮時かな?」
そろそろ帰ろうとして踵を返しかけた刹那、ある感覚が全身を駆け抜けた。
これまでの人生で幾度と無く感じた死の感覚。風に乗って届く独特の臭い。
ーーー死の臭い、戦争の臭いだ。
それが一際強くなったその瞬間、俺はそっちに目を向けた。
「あーあ……テロだなこれは。」
呟くと同時に、視線の先にあったビルが爆発、中から六つの影が飛び出した。
「IS……劣化コア機か。」
劣化コアとは、世界で一人しか作れないISコアを各国がどうにか解析し、一通り同じ機能を持たせる事になんとか成功したISコアのデッドコピーだ。
一応ISとしての機能は持たされているが、登場者の行動を自動サポートする疑似人格の構成が不十分であり、拡張領域や処理速度も本家には劣る。一般的に純正コアと劣化コアの戦力比は1:3と言われている。それでも既存兵器との差は埋め難いものがあるが。
テロリスト連中の目的は何なのかは分からない。何か狙いがあるのか、あるいはただ無差別に殺したいだけか。
ともかく、劣化コアを使用した6機ISは、街を蹂躙しながら徐々にこちらに向かって来ているのが見える。突如として現れた最低最悪な非日常に、人々は叫び、逃げ惑う。
俺もそんな連中に紛れて逃げようとした時、俺はその異変に気が付いた。
足が動かないのだ。恐怖ではない。何か別の感情が、逃げる事を拒否している。
そして俺はその正体を知っていた。その上で目を逸らしていた事を思い知らされた気分だった。
「全く……我ながら度しがたいな。」
別の世界に来てまでも、未だ戦いを忘れられないなんて、な。
「あるいは、戦場が俺の、魂の場所なのかもな。」
どうも、血統書も何も無い雑種の野良猫は、戦場以外では生きられない様だ。劣化IS6機という絶望を通り越した戦力差にも、この思いは止められない。本能が戦えと命じている。
この世界で手に入れた拳銃、《SIG SAUER P226》を取り出し、こちらに向かって来るISにサイトした。
「戦えて死ぬなら、何処でもいい、か?」
惰性半分、諦め半分で口にしたその時だった。
ーーーーーチガウヨ。
ーーーーーソンナノ、ミトメナイヨ?
「っ!?これ……は……?」
夢の中で聞いた謎の声。それと同時に“何か”が繋がり、流れ込んでくる懐かしい感覚。ああ…これは……この感覚は………
ーーーーーサァ、ボクヲツカッテ?
AMSだ。
それの情報が脳に直接雪崩れ込んでくる。それらは無意識の内に整理され、選別され、体系的に組み上げられていく。
そして、俺は本能の命ずるままに、その名前を呼んだ。
「来いよ……《ストレイド》!」
瞬間、首元に巻いたチョーカーが光る。そして、己の感覚が何かにすり替わっていく。
《AMS本接続、開始》
脳内に合成音声が響き、俺と“それ”は一体となる。
光が収まった時、俺の体は漆黒の装甲に包まれていた。
やや丸みを帯びているが、むしろ鋭ささえ感じるその意匠は、世界にたった一つしか存在しないワンオフフレームそのものだ。
背面には特徴的な複列ブースターが並び、その先端には仰々しい三連装の砲身が取り付けられている。
機体も、感覚も、嘗て半身とまで成った己が相棒そのものであると、魂が断言していた。
「……久しぶりだな、相棒。まさかISになってるとは思わなかったがよ。」
答えは無い。しかし問題も無い。何故なら、既に俺自身がストレイドだ。
そういう意味ではネクストからISに変わろうと何ら問題は無かったのだ。
《ロックオン警報》
「さて先ずは……」
こちらに気付いたらしい劣化ISが銃口を向ける。避けることも出来るが、確認する意味もあって動かない。
劣化ISがトリガーを引き、対IS徹甲弾が吐き出される。が、それは全て俺の1m程手前で弾き飛ばされる。
「プライマルアーマーは問題なし……と。KPも整波作用も安定してるな。」
ネクストを最強の兵器足らしめている要素は幾つか存在する。
その内の一つ。コジマ粒子を還流させる事により、あらゆる兵器の侵攻を阻む防御壁と成す《プライマルアーマー》。
「何だこいつは!?」
劣化ISの搭乗者である女が信じられない様に叫ぶ。
「何故男がISに乗っている!いや、そもそも“ソレ”は何だ!?」
無差別テロを行う様な連中だからてっきり頭がイッてる様な手合いだと思っていたが存外冷静だ。考えても見れば、1億殺したオールドキングも思考そのものははっきりしていたし、10億は殺した俺もこの通り冷静だ。
つまり、狂気に呑まれても思考まで呑まれるとは限らないという事だろう。
等と思考を寄り道させつつ、次なる「確認」を行う。
背面ブースターに意識を移し、一瞬だけエネルギーを爆発させる。
周囲の全てを置き去りに加速する“俺達”。一瞬で女の背面に回り込む。
使い方は、何となく分かっていた。
右腕にBFFの傑作ライフル、051ANNRを展開し、その無防備な背中に向けて引き金を引く、
思ったよりシールドバリアーとやらが優秀だったが、2、3発と続ければ貫通できた。泡を食って女が後退する。
「瞬時加速だと!?」
「……いや、《クイックブースト》だが?」
確かに瞬時加速と現象としては似ているが全くの別物だ。瞬時加速は一度排出したエネルギーを、再度吸引し放出するというその仕組みから、どうしたってチャージの時間が必要となる。勿論、練度次第ではそれを気取られない事は十分可能だろうが、それでもチャージそのものが無くなる訳ではない。
しかしQBは貯蔵したコジマ粒子を放出するだけで済む。多用は禁物だが複数回の発動も容易だ。
これが、ネクストの最強の要素の一つ、機動力の根源だ。
「しかし…思ったよりバリアが硬いな。オリジナルISを一撃で抜くのは厳しいか?」
そう思いつつも周囲の状況を整理する。他の6機も既に接近してきており、こっちを完全に包囲してきている。どうやら俺が相手をしていたのがリーダー格らしい。直ぐに仕掛けてこないのは想定より俺ができる人間で警戒してる……とかまあそんなトコだろう。
仕方ない、挑発するか。
「6対1で囲んで様子見とか……ビビり過ぎだろ?ロストバージン直前の処女かっての。なに、安心しろよ。俺は優しいから無理に犯したりしねぇよ。それとも……そーゆープレイが好みか?」
少々下世話が過ぎる気もするが、元々傭兵なんてそんなもんだろうし、この程度下町のガキ共なら日常会話だろう。けど、仮に女尊男卑に凝り固まったプライドの高い女なら……?
「男の癖に!!」
ホラ食い付いた。三人か、想定より少ないな。案外テロ屋なんてそんなものか?
ともあれ三人は、それぞれ激昂して突っ込んでくる。リーダー格の女の制止が入るがもう遅い。10mまで近づいた所で俺から仕掛けた。
周囲を、コジマ粒子特有の翡翠色の先行が包む。プライマルアーマーを反転展開し、周囲の敵を巻き込んでコジマ爆発を起こす範囲攻撃、アサルトアーマー。至近距離でそれに呑まれた三人はシールドバリアーを引き剥がされ、全身の絶対防御が発動し、装甲は見るも無惨な有り様となっていた。
挑発に乗らなかった三人も危機を感じたのか、反射的に距離を離したようだ。まあこちらとしても一時的にプライマルアーマーが消失するので丁度いいとも言える。
右手はそのままに左手にもアサルトライフル、063ANARを展開し、両手の銃を続けざまに撃ち放つ。
高初速、高貫通力のライフル弾の雨に削り取られ、抉られ、貫通され、人としての原型を留めずに落ちていく肉塊を一瞥。その光景に思わず溜め息を漏らす。
殺す事に抵抗がある訳でも、罪悪感がある訳でもない。ただ、こういう戦場にノコノコ戻ってきた自分に嫌気が差しただけだ。だが、そう思おうにもこういう生き方しか知らないし、できないのだから仕方ない。
きっと自分は、骨の髄まで血と硝煙にまみれているのだろう。
「あと3機……リーダー格の奴は残さないとな。」
時間的にそろそろ軍のIS部隊がやってくる頃だ。その予想を裏付ける様に、ストレイドのセンサーが接近中のISを探知する。余り時間は掛けていられない。軍なんかに見付かったら死ぬ程質問責めにされる。最悪消される。
両手のライフルを格納し、代わりに旧レイレナードが一人の個人の為に作り上げた至高のレーザーブレード、MOONLIGHTを両手に展開、妖しく輝く紫色の刀身を発振させる。
「………いくぞ、ストレイド。」
《オーヴァード・ブースト 》
特徴的なストレイドの背部スラスターが変形し、翼の様に左右に展開する。
コジマ粒子を後方に超高速で噴射し、同時にプライマルアーマーで空気抵抗を推し切って人型であるネクストACに音速を突破させる機構。QBと併用する事により、その速度は時速2000kmを超える。
それを用いてただ真っ直ぐ接近する。そして、前方に滞空している3機の脇をすり抜け様、リーダー格以外の2機の首をブレードで落とす。
血は吹き出なかった。ブレードの熱で血管が瞬時に焼き切れたのだろう。ただ制御を失い、力無く地に落ちていく。その様子を遅れて認識したリーダー格の女が、半狂乱で叫んだ。
「一体……一体何なんだ貴様は!!?」
「俺か?そうだな……野良猫だよ。ただし、首輪付きのな。」
そういう事を聞きたかったのでは無いと思うが、まあ良いだろう。軍も丁度到着したトコだしな。
劣化ISのすぐ後ろに、タイガーストライプで塗装された純正ISが出現する。
「オラァ!!」
そして劣化ISを思いっ切り殴り付けた。俺に注意を取られていたリーダー格の女は反応出来ず、まともに喰らい、地面に叩きつけられる。あれでは意識は無いだろう。
「んで……テメェは何者だ?何で男がISを動かしてる?」
「さっきの奴にも言ったが、俺は野良猫だ。ISについては知らんとしか言えんな。」
「……バカにしてんのか?」
「まさか、到って真面目だよ。戸籍も無ければ両親も知らねぇ。そんな奴は探せば割と多いと思うぜ?」
当然俺は自分が何処の誰だか知っているが、まさか異世界出身だとバカ正直に話す訳にもいかないだろう。
「そうだ……な、どうしても呼びたきゃ、《カラード・リンクス》とでも呼んでくれ。」
「……それ、絶対偽名だろ。」
「当然だ。何せ、今考えたんだからな。」
「……まあいい。アタシはイーリス・コング。アメリカの国家代表だ。ちょっと基地まで付いてきてもらうぜ?」
「………断ると言ったら?」
「…………何だと?」
空には早くも、剣呑な空気が漂っていた。
後書き
主人公のストレイドはホワイト・グリント+破壊天使砲という素敵性能に振り切った変態アセンです。両手のライフルは変わりませんが、どういう訳かMOONLIGHTを二基、付加武装としてインストールされてます。
ページ上へ戻る