動く瘤
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第三章
「ああいうものでもね。ないよりはましだからね」
「人間生きる為には食べないといけないですよね」
「さもないと死ぬからね」
生きているならばだ。食べないとならないということだ。
「だから仕方なくだろうね」
「そういうことですね」
「まあ。企画ってことでね」
プロデューサーは番組制作者の観点から言った。
「それで宜しくね」
「はい、そういうことですね」
池山もこうした番組の参加は多くわかっていた。それでだ。
プロデューサーの言葉に笑顔で頷いた。番組の収録自体はつつがなく終わり彼等は日本に戻ったのだった。
それから暫く経ってだ。トレーニングをしている池山の腕を見てトレーナーの一人が怪訝な顔で言ってきた。
「あれっ、右肘ですけれど」
「肘?」
「蚊に刺されたんですか?いや、これは」
トレーナーは彼の右肘を見ながら言っていく。
「虻ですか?大きいですよ」
「虻?」
虻と言われてだ。それでだった。
池山は自分でその右肘を見ていた。するとその先がだ。
実際に瘤の様に出ていた。しかしだった。
「別に痛くもないし」
「そうなんですか?」
「触ってみてもね」
自分で触ってみた。けれどだった。
「痛くないよ」
「大丈夫ですか」
「うん、大丈夫だよ」
こうトレーナーに答えた。
「特にね」
「じゃあ大丈夫ですか」
「そう思うよ。けれど何かな」
「虻じゃないとしたら何処かにぶつけたんですかね」
「けれど痛くないよ」
このことははっきりと言う池山だった。
「特にね」
「まあ痛くないんだったら安心ですね」
「うん、そうだよね」
この場はこれで終わった。だがそれから三日するとだ。
肘の瘤は消えた。しかしだった。
右肩の近くに出来ていた。しかも瘤は大きくなっていた。
それを見てだ。トレーナーはまた言った。
「あの、今度は」
「肘の瘤が消えたと思ったら」
「ですよね。今度はそこですか」
「何処かにぶつけたのかな、本当に」
「どうなんでしょうかね」
「とにかく。今度もね」
その瘤も触ってみた。しかしそれもだった。
「やっぱり痛くないよ」
「ですか」
「まあ気にしないでおくか」
「ですね。それじゃあ」
この場もこれで終わったがまた数日してだった。今度は。
瘤は胸のところに来た。右胸のところにだ。
ここに至ってだ。トレーナーはいよいよ怪訝な顔になって彼に言った。
「あの、これは」
「おかしいよな」
「はい、肘に肩に胸に」
トレーナーは瘤が出来た場所を言っていく。
「同じ瘤だったら」
「怖い話になるね」
「はい、ちょっと病院行きません?」
「病院で原因不明って言われたら?」
「霊能者のところに行きましょう」
トレーナーは半分上本気でこう提案した。
「これは洒落にならないですよ」
「うん、確かにね」
「はい、それじゃあ」
「病院に行って来るよ」
こうして話はあっさりと整ってだ。池山は病院に行きレントゲン撮影まで含めた精密な検査を受けた。スポーツ選手故にそうしたのだ。すると。
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