| 携帯サイト  | 感想  | レビュー  | 縦書きで読む [PDF/明朝]版 / [PDF/ゴシック]版 | 全話表示 | 挿絵表示しない | 誤字脱字報告する | 誤字脱字報告一覧 | 

天下一の城はどちらか

しおりを利用するにはログインしてください。会員登録がまだの場合はこちらから。 ページ下へ移動
< 前ページ 目次
 

第一章

                    天下一の城はどちらか
 今だ。八条百貨店広島店の会議室で一つの騒動が起こっていた。場所は広島だ。名物はお好み焼きに牡蠣がまず挙げられる。しかしここではだ。
 一方がだ。こう主張していた。
「あかん!ここは大阪や!」
「大阪の味のフェアや!」
「それでいくで!」
 右側がこう主張する。だが、だった。
 左側はその右側に真っ向からだ。こう反論する。
「いや、名古屋だぎゃ!」
「名古屋でいくぎゃ!」
「それしかないぎゃ!」
 こう反論する。まさに会議室は真っ二つに別れていた。
 それでだ。右側はこう言うのだった。
「たこ焼き出すで。お好み焼きにけつねうどん、串カツに河豚や」
「どや、ごっつええやろ」
「そこに豚まんにアイスキャンデーや」
「これに勝てるのはあらへんで」
「ふん、それがどうしたぎゃ」
「笑止千万だぎゃ、大阪者が」
「味は大阪だけじゃないぎゃ」
 名古屋側も言い返す。負けていない。
「こっちは味噌カツにきし麺、味噌煮込みうどんに名古屋コーチン、海老フライぎゃ」
「あとういろうにモーニングもあるぎゃ」
「大阪には負けんぎゃ」
「それに名古屋城もあるだぎゃ」
 名古屋の象徴の話も出したのだった。
「名古屋城に勝てる城ないぎゃ」
「おみゃあさん等大阪の人間には名古屋城はないぎゃ」
「それにドラゴンズはいつもタイガースに勝ってるぎゃ」
「所詮敵ではないぎゃ」
「言うたのう、お城かい」
「それだったらこっちも負けへんで」
「名古屋城が何やねん」
 大阪側も引くつもりはなかった。広島においての大阪と名古屋の代理戦争は無意味にヒートアップしていた。大阪側はこう言うのである。
「こっちは大阪城や」
「大阪城に勝てる城はないで」
「太閤様が築いた天下一の城、日本のどの城よりも上や」
「名古屋城がナンボのもんや」
 大阪側は倣岸不遜なまでに胸を反り返らせて言う。だが。
 本当に名古屋側は負けていない。それで言い返すのだった。
「おみゃあさん等やっぱりアホだぎゃ」
「あえて大阪風に言ってやったぎゃ。アホだぎゃ」
「あの大阪城は秀吉さんじゃなくて徳川家が築いたものだぎゃ」
「秀吉さんの大阪城は大阪の陣でなくなってるだぎゃ」
 このことは歴史にある。教科書にも載っている。
「しかも秀吉さんは尾張、名古屋の人だぎゃ」
「大阪の人間ではないだぎゃ」
「何たわけたこと言っとりゃーーーす」
「大阪なら文左衛門さんだぎゃ」
「それを言うたら名古屋の城は二代目やろが」
「あれ空襲で焼けてるやろが」
 大阪側はまた言い返す。最早売り言葉に買い言葉だ。
「こっちは三代目やけど空襲でも生き残ってるわ」
「こっちの天守閣はそれこそ不死鳥やで」
「名古屋城とはちゃうんや」
「そや、悔しいか二代目」
「それにな。大阪は文左衛門さんだけちゃうぞ」
 今度は文芸の話になる。
「ノーベル文学賞の川端康成は大阪人やぞ」
「織田作之助も大阪人や」
「井原西鶴もおるわ」
「上田秋成もな」
「今は田辺のお聖さんもおるわ」
「与謝野晶子さんもやぞ」
 生きている人も偉人も一緒くたにして言う。ちょっと聞くと誰が活躍中で誰が偉人なのかわからない。しかし彼等はあくまで言うのだった。
「野球選手なんかどれだけおるかわからんわ」
「巨人に行った裏切り者もおるけどな」
「大阪は文化もスポーツも日本をリードしてきたんや」
「大阪こそクールジャパンの発祥地や」
 日本で最もクールジャパンでなさそうだがそれでも言うのだった。大阪側はこれで勝ったと思った。だが名古屋は名古屋で負けてはいない。
「名古屋からさっきの秀吉さんも信長さんも出たんだぎゃ」
「家康さんもだぎゃ」
「天下の三大英雄は全員愛知出身だぎゃ」
「即ち名古屋人だぎゃ」
 そうだというのだ。彼等の誇りを話に出す。 
< 前ページ 目次
ページ上へ戻る
ツイートする
 

全て感想を見る:感想一覧