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シークレットガーデン~小さな箱庭~

作者:猫丸
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   第二章 汚された草競馬大会-5- 

ルシアが練習場にこもりシル大先生と二人三脚で練習してから数刻後。
そろそろ大会が始まる。ルシアの上達具合はどうだうだろうと様子を見に来てみると、颯爽とまるで黒馬に乗った王子様のようにフレアを乗りこなすルシアの姿がそこにはあった。

「あんなにナカにされて嫌われてたのに、ずいぶんと仲良くなりましたね~お二人さんっ」

ルシア達の元へやって来たランファの第一声はこれだった。ニヒヒと笑い、ルシアからかうように言っている。傍に居た一緒になってシレーナも「王子様」と馬術の上達ぶりを大絶賛だ。

「えへへ。そうかなぁ」

二人の女の子に褒められてルシアのこのまんざらでもない表情。片手で後頭部をかき照れ顔だ。
後からやって来たシル先生も冗談ぽっく「だって私が教えましたから」と言ってみんなで大爆笑。乗られている馬たちは呆れた感じでプルルッと失笑していたが…。

「頼むよルシアちゃん」
「はいっ! 優勝は僕がいただきです!」

ドーンと胸を叩く。みんなから「お~」と声があがったが、ちょっと強く叩き過ぎてゲフンゲフン。一気に「あ~あ」とテンション駄々下がりだ。でもルシアの気合の程は変わらない。息を整えたらシルに向かって

「負けないからね」
「それはこっちの台詞!」

師弟であっても競馬大会で優勝できるのは一人だけ。だからルシアとシルは必然的にライバル関係となる。ライバル同士。二人は熱い火の粉をバチバチ散らし燃やす。

――そして競馬大会が始まった。


「さーて今年もやってまいりましたっ! 馬の町が誇る草競馬大会が行われますっ!
 なんと、今年の主催者は食品、不動産、旅行サービス、孤児院の経営、地域振興などを行っている総合企業。我々庶民の味方と言っていい大企業さまドルファフィーリングですっ!」

司会者の声がレース会場に響き渡る。円形の競馬場外周千六百メートル。山の国最大とも言われる競馬場だ。
青々と生い茂る芝で作られた競走馬たちが走るコースを囲うように設置された観客席からは「ふおおお」「早く始めろぉぉ」と熱気立った観客たちの声が叫ばれていた。
今回のレースの観客数は何と一万人だという。凄い数に司会者も思わず

「さすが有名企業の主催という事で凄い観客数ですねー。やはり皆さんどこぞの貴族様なのでしょうかー」

と、茶化すように言い笑いが起こる。確かにここにいる観客たちのほとんどは地元住民や観光客、行商人んではなく、どこかの王族・貴族と思われる優雅な見た目をしている者ばかりだ。ワインを片手に軽い食事を楽しんでいる。

「出場選手たちおよび、競走馬たちの準備が終わったようです! 五十八回目を迎えた今競馬大会、果たして優勝商品である巨大農地と――おまけの牧草百年分は誰の手に――!?」
「うおおおお」
「これよりレースの始まりでございます!!」

ルシアを含め出場選手は皆、スターティングゲートにスタンバイ状態。
緊張するな…変な汗が流れる。こんな大きな大会に出るのは言わずもがな。初めての事だ。ちらりと横にいるシルとシルビアに視線を向けてみる。

「………」

シルビアは無言で真っ直ぐ前だけを見つめ、シルは瞼を閉じて雑音を消すことで精神を落ち着かせようとしているようだ。その姿を見てルシアも真似してみることにしてみた。
すぅーはぁーと大きくそして深く息を吐いて吸って深呼吸。すると不思議なことに先ほどまであった緊張感が何処かへ吹っ飛んで行ったのだ。

「よしっこれならいける!」

テン

テン

テン

「ゴー!!」

合図の白い旗が振り下ろされゲートが一気に開いた瞬間、選手たちは我先にと駆けだしてゆく。その姿に圧倒され少し出遅れたルシアとフレア。

「やっぱりみんな早い。シルはどこに…あ!」

自分達よりも先に飛び出して行った他の選手たちを見ていると、見つけた。茶色や黒色の馬ばかりの中に一匹だけ目立つ気品のある白馬。シルビアとシルのコンビだ。先頭を走っている。

「さすが僕達の先生だね。 僕らも負けてられないよフレア!」

ルシアの言葉に「ヒヒーン!」と鳴いて答えるフレア。
スタートダッシュこそ出遅れたルシアとフレアコンビであったが、その後は順調に他の選手を追い抜いて行き中盤くらいの順位まで辿り着くことが出来た。シル&シルビアのコンビはあいかわらず先頭を走っている。

「きひひ」
「…?」

ルシアとほぼ並んで走っていた灰色の馬に乗っている選手が不敵な笑みを浮かべルシアを追い抜いて行ったのだ。何故だろう……とても嫌な予感がする。なにか良くないことが起きるような、そんな気がするのは何故だろう。
灰色の馬は次々に追い抜かしてゆく、そして遂にはシルとシルビアのコンビと接戦のところまで追い上げて行き、灰色の馬がシルビアを追い抜こうしたその時だった。

「なにを……きゃ!?」
「ヒヒーン……」

灰色の馬に乗った選手がシルビアの足元に何かをばらまいたようだ。黒い塊のような何かに足を取られたシルビアは転倒してしまい起き上がれない。乗っていたシルも当然一緒に転倒してしまい、シルビアの下敷きとなってレースどころの状況ではなくなってしまった。
だがそれでもレースは終わらない。続けられる。シルビアが転倒した、させられた芝をようく見てみるとそこには肉眼では判断するのが難しいほど小さいマキビシのような物がいくつも散らばっていたのだ。

「まさかっあいつ、わざとマキビシをまいたのっ!?」

ルシアのその読みは正しかった。灰色の馬の選手は同様の手を使い、自分よりも前を行こうとする馬が現れるとマキビシを撒いて転倒させ、乗っていた選手は馬の下敷きになったせいで骨を折りレースが出来ない状況へとさせている。

―それでもなおレースは終わらない。

「許せないっ!」

こんな悪行。たとえお天道様が許したとしてもこのルシアとフレアは許しませんっと言わんばかりにルシアとフレアの爆走。まき散らされたマキビシを華麗によけ、灰色の馬の元へと追いついた。

「そこの貴方! なんでこんな酷い事するんですかっ」
「ハァ? しょうぶぅ~? ぎひひひ」

ルシアの質問に男は薄気味悪い笑みを浮かべる。灰色の馬までも薄気味悪く笑っているように見えるから最悪だ。

「な、なにがおかしいんです…?」
「こんなのはなぁ、最初からおれっちが勝つって決まってんだよっ! オラッオラッ!!」
「うわっ!」
「ヒヒンッ!」

無理矢理近づいてきた灰色の馬はフレアの足を蹴り飛ばしてきた。バランスを崩し転倒しそうになるがフレアは耐える。ルシアも落ちそうになるが必死に体を建て直してフレアの手助けをする。
卑怯な手ばかりを使って来る男。こんな奴なんかに負けてはいけない。他の選手たちのためにも、そしてシルとシルビアのため、あと優勝して帰ると約束した宿屋のおばさん、シレーナとランファのために負けるわけには

「いかなんだぁぁぁぁ!!!」

うおおおとルシアとフレアは気持ちを一つにしラストスパートだ。隣の馬など気にせず前に見えるゴールテープだけを見つめる。どんなことをしてもあれを切った者が勝者なのだ。

「おぉーーーこれは接戦だぁーーー!! さああ、ゴールテープを最初に切るのはどっちだぁぁぁぁああ!!」
「ちっ。しつけぇガキだなぁ…。ほらよっ」
「うわっ!」
「ヒヒーンッ!」

ゴールまじか男は最後の悪あがきとしてフレアの足元にあのマキビシをを巻いた。驚き一瞬転倒しそうにはなったが、慌てず冷静に物事を判断しその場ではいったん止まり迂回してかわしてから、男と灰色の馬を追いかける。

「なっなにっ!?」

負けるわけにはいかない。こんな酷いことばかりする奴にだけは! 正義心がルシアとフレアを突き動かす。持てる力を出し切り全力疾走でレース場を駆け走る。
もう卑怯な手は出し尽くしたのか、男と灰色の馬はルシアとフレアから逃げ勝とうと全力疾走で駆け走る。

――そしてバンッバンッ。

「ゴォォォォルゥゥゥゥ!!!」

ゴールした。両者一歩も引かず譲らず、ほぼ同時のゴールだ。判定は写真判定に用いることとなった。審査員たちがごにょごにょと小声で話しているのが見える。
横に男は「きひひ」とまるで自分の勝利は決まっているんだよ、とでも言いたげなニヤニヤと気持ちの悪い笑みをルシアに向ける。

――結果が出たようです! 司会者の言葉に皆一応に耳を傾ける。

競馬場中央にある巨大スクリーンに写真が映し出されコマ送りで映像が流れる。ピシピシピシと一枚一枚、映像が流れ動き……

――そして。

「お、おぉぉぉ!! ゆ、優勝者は無名の飛び入り参加のルシアだぁぁぁああ!!」
「おぉぉぉぉーーーー!!」
「「やったー!」」

会場からは大声援と拍手喝采だ。他の観客たちに混じって傍観していた、シレーナとランファも抱き合い喜びを分かち合う。
ルシアと男の勝敗が分かれたのはほんの数ミリの差だった。ほんの少しだけフレアが他の馬と比べて足が長かったため灰色の馬よりも先にゴールテープを切れた、それだけのことであった。
それでも勝ちは勝ちに違いない。ルシアの勝利だ。

「かっ……勝ったぁ…」

今まで全力で頑張ってきたため肩の力が抜けてふにゃりと地面に座り込んだ。

「プルル…」
「おつかれさま。フレア」

鼻先をおつかれと顔に摺り寄せてくるフレアに優しく言葉をかけ、鼻を撫でてあげる。嬉しそうな顔をしている。一人と一匹共に。

――初挑戦で初勝利という大金星でルシアの初めての競馬大会は幕を閉じた。

 
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