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TOHO FANTASY Ⅰ

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トンネルでの戦い

GENESIS:CONCORDIAを破壊し、煙が立ち上る中──専ら彼女たちはGENESISの恐怖を間近にして震え立っていたが、その恐ろしさを何とか必死に打ち消していたが──中毒死を免れるために階段を上がると、神子がバイクを近くに置いて2人の前に姿を晒していた。煙が外へ出る中、それに抗いを示すかのように自身のつけていたマントを靡かせた。外套には「PYT研究所」と書かれており、その黄金の髪はサラサラして虚空を彷徨っていた。

「神子、あんた…」

霊夢は元より知り合いの神子も敵であることを認識すると、仲間はそんな神子を恐れ、霊夢の後ろに隠れる。
神子の超越的な存在感は、神学の方面から説かれた超越道徳の形式のように他の諸形態をして益々力強く道徳の現世性を引っ張るのだ。その性格を強調せしめる機縁を因果と称し、重たい鎖を背負う価値のシーシュポスたるは、性分とて霊夢と変わらない。その霊魂は錯綜することの無い純血性を示していたが、決して系譜論がアニマをも影響を与えるという訳ではないが──。

「──これでC区管轄の奴隷が解放されるとでも思いました?」

よくよく考えるとC区管轄内の仲間は何も変わらなかった。爆発による連鎖的な轟音は他の機器をも壊すが、決してPDMが解除されて喜ぶ人々の声が耳に入ることは無かった。背筋が凍るような思いが不意に通り抜けた。
希望が一転して落胆となり、憐れみさえ浮かばれない愚かな死体と成り得たのだ。彼女は今に世界を知った。それが運命愛に於ける大地の儚さであったのである。

「ど、どうして…」

「事前にGENESISが破壊されても持っているデータを散乱させずに、中央の機械に集める保険をかけておいたんです。理解出来ますか?……要するに、あなたたちが他のGENESISを破壊しても何の意味もない」

神子は霊夢に言いきると、霊夢は歯を食いしばって反論した。能動的ニヒリズムの如き生への肯定、その力への意志の顕現は神子を驚かすところがあった。反逆の狼煙を展開する霊夢にとって、寧ろ逆境は乗り越えるべき壁のような存在であった。
この逆境は実践的側面から観た時のみ解かれる、一つの個人に帰す部分である。恰も共同に条件付けられる責任の制裁が関与される事は無かったかのように。その非人格的な肯定と超人格的な能動性が弁証法的帰結を迎え、今の霊夢を作り上げる。生きる事は戦う事である(vivere est militare)ように、彼女は闘争を肯定したのだ。

「──なら他のGENESISを壊して、最後にその機械を壊せばいいだけじゃない!」

「……博麗の巫女、あなたは哀れです。こういう結論を示すとは」

神子は剣を鞘からさしぬくと、黄金の刀身を露見させる。その剣の様相は宝飾が沢山施された豪華なものである。鞘に金銀の玉が埋め込まれ、余る所無しにエメラルドやサファイアなどの宝石が敷かれている。そこから見出される刃は研がれており、空気さえ容易く切り裂いてしまうかのような出で立ちであった。
それを静かに構える神子に、2人はたじろいだ。霊夢に関しては先程の戦闘で疲弊さえ覚えており、聊か感覚が鈍っていた。

「…に、逃げましょう!ここで足止めをされたら、いずれ警察が集まってしまいます!」

「分かったわ!」

仲間はすぐにバイクに跨り、彼女に提案した。霊夢はすぐに仲間の後ろに跨ると、そのまま颯爽と公園から出て行くバイクに神子は舌打ちした。更なる爆発が発生し、霊夢の仕業を呪った彼女は追いかけるためにバイクに乗り、無線を通じて警察に連絡した。
飽くまでも彼女は霊夢ともう一人を捕縛し、会社から与えられし使命を果たさんとする迄だったのである。
持っていたレシーバーから、警察に向けて早口で報告した。そこには神子なりの焦りがハッキリと示されていたのだ。

「──警察部隊に報告!こちら博麗の巫女、B区に向かって走行中!近くの者は支援を要請します!」

◆◆◆

「…私はあの発明のバックアップを取っていたのさ」

にとりは暗い研究室でパチュリーと共に明るく光るパソコンの画面をじっと見つめていた。パソコン内ではGENESISの一体が破壊された事によるエラー反応がずらりと出現し、対応に追われていたのである。キーボードを高速で打つ博士にとって、霊夢は厄介な存在へと昇華した。同時に自分の先見性を讃え、自らを賞賛していたためにパチュリーから煙たがられていた。

「…CONCORDIAのデータを中央のデータ分割装置に戻すが、本当に面倒だな。一歩前の作業に戻ったことで、再び分割し直せる利点があるが…霊夢も侮れないな。───それに「EXGENESIS.exe」のデータ流出も防いでいた。GENESISに自身の持っているデータを形状化し、自身の力とする大事なファイルである以上、一個でも流出したら大変な代物だった。危ない危ない」

「結局あなたが作ったGENESISは大したこと無かったのね。持ち場を離れてもいいのよ?」

パチュリーは笑って言うと、にとりは「何を!」と言って反論する。ムキになって一瞬手を止めてしまい、パソコンが火を噴くようにエラー音を吐き出した。改めて振り返った彼女は溜息混じりに手を動かした。カタカタと無機質な音がエラー音に負けじと響く。

「第一、今私は重要な「GENESIS細胞」を研究している。ここで持ち場を離れたら、我々の計画が終わるだろうに」

「GENESIS細胞……本当に当初の予測通りになるのかしら?私には思い難いわ」

「当たり前だ!GENESIS細胞を既に埋め込んで、実際に実験している。…これで異常が見られれば、被験体の体を解剖して次回に生かす。最終目標は「GENESIS細胞を奴隷に植え付けることで、PDMの代わりの作用を得る」ようにすることだろう?」

「…確かにそうね。そうすればPDMの生産費用は安くなるし、PDMのように外れるというデメリットも無いわ。でも今は別に資金源に困っていないじゃない…政府が予算を分けてくれるし」

パチュリーは懐から取り出した煙草に火をつけた。一服し、口から煙を吹き出すと天井の空気清浄機が反応して吸い込んでいく。

「思ったんだけど、GENESISがいつか暴走する可能性は無いのかしら?」

「…パチュリー、当たり前だ!あれは私が未来生物「GENESIS」を基に作り上げたスーパーコンピュータだ!巫女が壊すのは別例だが、自ら暴走することは決してあり得ない!」

「…それはあなたの「予測」でしょう?何が起こるのか、それは誰にも分からない。貴方は特別に未来を知る訳では無いじゃない。──私達は父なるアプスーでも、母なるティアマートでもないのよ」

パチュリーは持参の自前のパソコンをいじり、テレビモニターに切り替える。画面内では多くの警察と神子と博麗の巫女による鬼ごっこが行われていた。滑稽にも、画面中の霊夢は追いかけてくるバイクの群れに向かって札なり光弾なりを放っている。非現実的で、現実的な。

「…まーた鬼ごっこみたいだな。漏れる音から分かる。でも他のGENESISの場所にはちゃんと警察とPYT兵も送っといた」

「PYT兵…あんたが改造した兵士たち、だっけ?」

「そう。社長直々に頼まれて、奴隷を何人か連れてきて実験を行ったのさ。──まあ記憶を新たなものに書き替えておいたから、ずっと忠誠を誓ってくれる」

「…先回り、ね。それにしても結構徹底的にやるのね。──まさかCONCORDIAの場所を突き止められたとは思ってもいなかったでしょ?」

「………彼女を甘く見てはいけない、という事だけは分かった」

◆◆◆

霊夢たちはとにかくバイクを走らせていた。バイクのメーターは既に110を示しており、高速で道路を疾走する。近隣住民たちは突然起きた逃走劇に戸惑いつつも、巫女は必死に応戦する。背後からはそんな2人を追尾するバイクやパトカーの群れが疾走している。それらをたった1人で抗う彼女はどのような心理状態であったのか、書くまでもないだろう。

「どれだけいるのよ…!」

仲間が車の中を搔い潜る巧みな運転で何台かのパトカーを撒いたが、それでも神子たちは追ってくる。──全員、一斉砲火!と、神子が運転しながら言い放つや否や、後ろの警察隊は機関銃やマシンガン、ハンドガンなどで逃げ回る2人を射貫こうとする。銃声が猛り声を上げて、前にいる抵抗者を貫かんとする。そんな仲間の視界に、トンネルが見えた。
そして仲間は咄嗟にアイデアを思いついたのである。霊夢は考える暇さえ与えられなかったが、その仲間の提案を理解するだけの知性は残されていた。

「…今からトンネルに入るのですが、入ったら能力でトンネルの天井を攻撃して、崩落させてください!そうすれば後を追えなくなります!」

「トンネル入り口の天井…了解よ!」

巫女は入ろうとするトンネルの天井に向かってカードを構える。その動作でこの後の出来事を察した神子はバイクのスピードをフルに上げて、彼女に追い付こうとする。エンジンに唸り声を上げさせては、その燦爛たる剣を片手に猛スピードでトンネルに突っ込む。

「霊符!夢想封印っ!」

そう宣言した瞬間、バイクは交差点からトンネルに突入し、夢想封印によって放たれた光弾が炸裂した天井の壁が崩れていく。天井を築き上げていたコンクリートをも破壊する非現実的な能力の強さは、こうした指標によって指し示される。音を立てて崩れる瓦礫に、神子は辛うじて避けてトンネルに入った。フルスロットルでそのまま突入し、天井が完全に崩落する前にトンネルに入ることが出来たのである。
だが、後方の警察車両たちは夢中で追いかけているうちにそのまま入り口が崩れて出来た瓦礫の海に衝突し、玉突き事故が連続発生、トンネル前で噴煙があがった。

薄暗いトンネルで、対向車が全く来ない中、神子は霊夢たちと同じ速度にあげて隣につく。

「トンネルで撒いたことは素直にお褒めします。ですが、あなたたちはここで私よって倒される!覚悟しなさい!」

神子は右手で運転しながら、左手で剣を構えた。武器を構える神子に対し、霊夢は半ば楽しんだ心地さえ浮かべて札を持った。吹き抜ける風が服を靡かせ、薄暗い空間の中で只管に感情を確立させていたのだ。

「面白い冗談ね!…神子、その言葉をそのままお返しするわ!」

霊夢は仲間に運転を任せる旨を言うと、いきなり神子はバイクで接近し、霊夢に絢爛たる刀身で斬りかかる。
彼女は持っていたお祓い棒で剣の一撃を華麗に受け止めると、神子はバイクを霊夢たちから一旦遠ざけた。一時的に安定を保つためだろう。

「悪いけど、さっさと終わらせるわよ!──霊符・夢想…」

「そうはさせません!」

彼女の宣言途中で神子はバイクで一気にタックルし、霊夢のバイクを運転していた仲間は不安定状態に陥る。衝動で仲間は落ちそうになり、ハンドルを手から離してしまったのだ。咄嗟に気づいた霊夢は振り返り、その僅か一瞬を捉えては武器を持たない反対の手で何とかハンドルを抑えた。

「仕方ないわ!」

霊夢がすぐに運転し、仲間は何とか後方に避難する。神子はさらにタックルを仕掛けたが、彼女は何とか持ちこたえた。そもそもバイクの運転など慣れていない彼女にとって、この手の戦いは死活問題である。何とか慣れようとする彼女の意思性が際立つが、決してメフィストフェレスのような都合主義が適うはずもない。

「バイクでタックルなんて危ないわね…。…まぁいいわ、霊符っ!夢想封印っ!」

霊夢は片手でハンドルを操作し、もう片手を上に掲げて宣言すると、光が身体から迸って具現化する。それらは横を走行中の神子に光弾が向かっていき、追尾するかのように走り抜ける。

「…悪いですね」

彼女の攻撃を皮肉った神子はスピードを下げると、光弾はトンネルの地面、コンクリートに炸裂したそのまま爆発が発生し、バイクのエンジン音に引きを取らぬ大音を立てて瓦礫と化す。それらは近代の雪崩の模倣そのものであった。

「──あなたに私は倒せない」

神子は真後ろから仲間目がけて斬りかかったのだ。一度速度を下げてから、再び猛スピードを出して牙を剥く。真正面に入るは霊夢の仲間。抵抗手段の一つも持たない彼女にとって、一瞬一瞬が長く感じられた。浴びる風の寒さに併せて、その恐怖心は唇を震えさせた。

彼女は怯えていたのだ。すぐに前方の霊夢はバイクを横にずらし、前に斬りかかった神子の攻撃を空振らせる。
神子は空振った影響で隙を作ってしまう。バランスを若干の時間失い、攻撃する事よりも安定性を計っていた。

「今よ!霊符・夢想封印っ!」

その瞬間、神子のバイクに夢想封印が直撃し、バイクは爆発を起こして崩壊した。光は内部からバイクを炸裂させ、その閃光は燦爛を伴わせた光陰の爆発を起こしたのである。走り去るバイクから見た瑪瑙は輝き、その音の中で断末魔が無残にも轟いていた。

「うわあああああああああああ!!!」

神子の叫びを遠くに、霊夢たちはそのままトンネルを走行した。駆け抜ける2人は戦闘に疲れ果て、気さえ抜け落ちそうなほど疲弊を募らせていた。

◆◆◆

「たった今、PYT研究所においてPDM担当課を務めておられた豊聡耳神子氏が脱走犯の攻撃を受けて大怪我をしているとのことです。──また現在、彼女たちはB区へ向かって走行しています。彼女たちは先回りした大多数の警察隊が脱走犯の攻撃を被らせ、何人も怪我人を出させています。…近隣住民の皆さま、決して彼女に近寄ってはいけません!」

テレビの中でアナウンサーはそう伝えていた。それを見た博士と音だけ聞いたパチュリーは、聊か困惑した情を浮かべていた。缶コーヒーを片手に、遠くの景色を見つめていたパチュリーに太陽の温もりが優しく被る。そして少しの静寂の後、開口彼女は不穏に包まれたかのような不安な声で話し出した。

「神子、やられたようね…」

「神子でも手を焼く──流石は霊夢と言ったところか」

「私達も侮ってはいけないようじゃない?…何か対策でもあるのかしら、にとり」

「…幻想郷から連れてきた、余り物の奴隷たちを兵士にして送る。奴等なら霊夢とて親近感の情から攻撃出来ないだろうさ」 
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