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TOHO FANTASY Ⅰ

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異変

幻想郷は平和であった。一概にも、幻想郷の人々にとって『平和』と言える所以の拠り所は存在しないが、その現実を慮る事が可能であった。
だが、最近になって人間の里の人間が沢山行方不明になっていると巷では噂になっている。
そんな嘘かもしれない噂に乗ったのが、何処かの神社に住む巫女であった。彼女はギラギラと目を輝かせ、その煌めきを虚空に忽ち向けた。
彼女の名をば、博麗霊夢と云う。幻想郷という孤独な世界の中で、唯一無二の強さを誇っていた。しかし彼女は、その閉鎖された世界だけのアキレウスである。外界にはミヒャエル・コールハースやトマス・ミュンツァーのような存在がいることを決して知らない、井の中の蛙である──。

この異変を解決すれば、人間の里の人間たちから感謝されて賽銭が増えるに違いない…。

彼女の謎の自信は、その身を奮い立たせる因果に充足していた。空は啼き、慈しみの雪を降らせている。
──そして巫女は人間の里へ旅立った。
雪が幻想的に降る、真冬の出来事であった。

霊夢が1人、雪の中を搔い潜って人間の里に飛び立つが、里の賑わいは何処かに消え、あたりは沈黙に包まれていた。まるで別次元に迷い込んでしまったかのようであった。
家々には雪が積もり、霊夢の体は凍えていた。

「…いつもの賑わいは何処へ行っちゃったのかしら?」

不思議に思いつつも、期待を寄せてしまい、まずは周りの散策を始める。再び飛び立ち、空から幻想郷を見渡した。
すると凍っている湖の畔に1人、誰かが一生懸命に雪だるまを作っていた。
その人物を見つけた霊夢は一体誰なのか、目を凝らすが雪によって阻まれて見えない。

「…何か知ってるかもしれないわ」

謎の期待を背負って、霊夢は凍った湖へと身を向かわせた。それは一種の錯綜的な幻想そのものである。彼女にはそれに気づく由もない。
湖の畔に降り立った霊夢はその人物に話しかけた。青いリボンを雪だらけにして、彼女は1人で一生懸命に雪だるまを作っている様相は、何処と無く近親感が湧いて出る。

「…チルノ、いつも一緒にいるバカルテットたちはどうしたのよ?」

「あ、霊夢」

雪だるまを作るのを止め、背が自らより大きな彼女の元に寄る。大きな雪玉の上に少し小さめな雪玉が乗っている。恐らく一所懸命に作り上げた、熱心と霊智の偶像なのだろう。この存在一つのために手を動かし、その知能を以て築いて生まれた産物は、冷たい世界の中の王者、英雄のような存在感を醸し出している。
彼女は、そうした英雄の母であった。

「いつもはあんなに4人ではしゃいでるのに…あんたが1人なんて珍しいわね」

「湖の畔があたいたちの集合場所だから待ってるの。でも何日も来なくて…。…あたいも心配」

「あんた、寺子屋は大丈夫なの?」

「慧音先生もみんなもいなかった…。…何か怖いよ。…でも霊夢に会えてホッとした」

服についた雪を手で払い、青いリボンをつけた彼女は頬を赤くする。反動的な恒温性による外観の変遷である事は言うまでもない。
彼女が呟く一瞬一瞬に、白い息が凍える大地に顕現する。

「…で、霊夢は何しにここに来たの?」

「人間の里のいつもの賑わいが消えて、人の気配すらしないのよ。ここ最近、魔理沙たちやレミリアたちとも会ってないし…おかしいと思ったわけ。…で、誰かを探したら、あんたがここにいたから来てみた訳」

霊夢はこの異変を重大そうに扱うが、チルノにとってはどうでもよさそうであった。それは彼女なりの、純粋で──そして残酷な──感情であった。

…いつかみんなが姿を現すに決まっている。そうだ、いつか来るよ。

そう信じていた彼女は再び雪だるま作成に取り掛かる。木の枝を2本拾い、土台となっている大きな雪玉の両脇に木の枝をそれぞれ刺す。そして近くに落ちていた石を幾つか拾い、上に乗っかっている小さ目の雪玉に差し込む。
そこに出来上がっていたのは、一人の人格。顔を持ち、他者として自覚させる因果律を掲げる異端者の末裔だ。

「見てみて霊夢~!凄いでしょ~!」

チルノは一生懸命作った雪だるまを霊夢に見せる。だが、巫女はチルノが想像した態度を取らなかった。彼女にとって、それはどうでもよい具象の一つとしか捉えていなかった。
それは自己の欲動が左右し、『このような下らない』結果に拐かされる存在である事を拒絶した帰結なのである。この反応の真相を、チルノが理解する接線もある事は無い。つまり、頽落した世人なのだ。

「ふ~ん、それはよかったわね。それで、あんたは何か知ってる?」

この異変に夢中であった霊夢はそんなチルノに問うた。愚かしくも、彼女は既存の価値の代弁者である。龍を倒して獅子から歩む子供の意思を、その残虐性を放つ足で踏み潰し、蹴飛ばす人間なのである。自己倒錯を解釈し、その道を自己意思の体現と称するのだ。
それがチルノの意志に適うものではない。雪だるまを作った彼女は、その原理さえ分からぬ中で不意に霊夢への『嫉妬』を理解した。チルノのその嫉妬が、彼女自身の異端性を悪とする余裕を、その善悪の審判を彼方に追いやる超人の類似として、その眼差しを純粋で且つ狂気的なものとする。

「え…?あ、あたいは何も知らないよ…」

チルノは霊夢が一生懸命作った雪だるまの感想を一蹴し、異変に夢中であったことに寂しさを覚えた。泣きたくなる中で、それを留める真理への意思。闇を敷衍させ、そのロジックを淡々と現す具現者の体質は、今に崩壊しそうになっている。最大者、最現実者、最善者、最完全者の汎神論的特徴と合致する『最上級の賓辭』とは、よく言ったものではないのか──。
最も、それは永遠の相の下に(sub specie aeterni)観測される、超感覚者のスピノザ的観察による流出と進化の胎児性は、こうした世人的な頽落表象の弁証法的有限性を係ることなく表す、根本形式の最前たるものに他ならない。チルノは、こうした表象諸形態の崇拝を拒んで誕生した一般性を、心底醜く捉えて侮蔑した。理性の啓示を悉く嗤う、ただ目の前だけを見た存在。そのヒエラルキーたるや、価値区別を最高とする妥当性の中で安定しているものの、それを再び獅子に帰りて何日転覆出来るのか、はたまた複雑多様なる交錯の中で進退に窮する時にツァラトゥストラを模倣する内奥的意思を持っていた。
それがチルノの中で、誰にも気付かれないまま理性から孵ったのは述べるまでもない。

「…そうね、困ったわ。他に誰かいるかしら…?」

霊夢は他の人を探そうと思ったその時、背中から声が掛かる。
不気味で不穏な声。何処と無く恐怖に陥れるような、残忍な音韻。振り向くまでの一瞬の時間が、彼女たちを恐怖のどん底に落ちたかのような零落を味わせた。

「博麗の巫女、氷の妖精を発見~!」

霊夢とチルノはその声のした方を振り向くと、そこには紫と薄紫が入り交わった服を着て、被っている帽子に三日月の飾りをつけている魔法使いが笑いながら立っていた。右耳にはイヤホンをつけている。この世界では見たことないが、よく外界に行く存在からイヤホンについて話を聞いた事がある。霊夢にとって疎いそれを、今にまじまじと見るとなるとは思いもよらなかった。

「ぱ、パチュリー!?」

「あんた、何処から来たのよ!?」

「何処から?ここから~!」

パチュリーは懐からボタン形式のスイッチを取り出し、押すとパチュリーの真後ろに紫の隙間のような時空の歪みが出来上がる。
歪みは渦を巻いていて、パチュリーを飲みこみそうな勢いであった。ブラックホールのような吸引力が、彼女の体を持っていきそうになる。必死に抵抗し、足を大地に踏ん張らせる霊夢やチルノを余所目に、パチュリーはただただ笑っていた。

「わ、訳わからないわよ!?それにあんたが持っているソレは何!?」

「これ?これは私とにとりが共同で作った、外界と幻想郷を繋ぐ歪みをいつでも作れる装置よ。凄いでしょ?」

「パチュリー…何か…何か変だよ…」

チルノはそう呟いた。パチュリーは何処からどう見ても、いつもより様子が悪い方向におかしくなっていた。普遍主義的世界観から覗いても、今の彼女は明らかに悟性に欠けた存在であっただろう。冷静さと言う単純内属の鎖を断ち切り、その事物範疇を超克するような立場に、2人は戦慄さえ覚える。
彼女は『自然』ではなかった。まるで科学理論に根本原理の不滅性や不変性を捉え、反自然的様相をニコラウス・クザーヌスのような反動的無限に置いた。かくて彼女は無限(infinitum)と無終(interminatum)を区別した。それらの種子に遺伝子操作を施すパチュリーは、既に芽生える樹木を知っていた。継続は持続の婢女と言いたげに、この直接経験に拠った知覚の解釈性を、ただ非合理的に且つ合理的という背反した中で見出したのである。

「外界と幻想郷を!?…あんた、一体何を企んでるのよ!?」

「何を、って…これを見れば分かるかな?」

パチュリーは時空の歪みの中から、吸血鬼の翼が生えた「友人」の背中を右手で持って現れた。友人は背中に握り拳程度の大きさの何かの機械を装着されており、パチュリーに何も抵抗しなかった。否、抵抗出来なかったのだろう。目は死んでおり、生きた心地さえ示さない。嘗ての生を否定するかのように、その力の貞操を奪われたようである。決して居心地のよいものではない。それに、パチュリーがその友人にここまで外道な所為を行えるという発見に驚愕せしめたぐらいであった。

「れ、レミリア!?」

「パチュリー…レミリアに何をしたの!?」


チルノは完全に元気がないレミリアの様子を見て異常だと思い、ニタニタ笑うパチュリーに問う。彼女は怖かった。それをひた隠すための、反射的反動をしたのである。チルノの手が震えていたのは、恐らく雪の寒さからではない。

「ああ、レミリア?この背中についてる機械のお陰で「力を吸収された」のよ」

「…逃げ…て……」

右手で掴まれているレミリアは必死に霊夢たちに逃げるよう伝えるが、声の小さいことが原因で彼女たちの耳に入らない。無残な身体から、その声が届くことは無かったのである。

「…あんた、自分が仕えているお嬢様に何をやってるのよ!?紅魔館に住んでるんでしょ!?…なら、自分がやってる「とんでもない間違い」に気づきなさいよ!」

「間違い?…幻想郷に住んでいた時にやっていたらとんでもないことかもしれないわね。…でも私はここを捨てた。これからは外界で暮らすのよ。私は既に別人へと生まれ変わったの」

「外界!?」

霊夢はパチュリーの驚きの告白に驚きを隠せない。今に彼女はその恐ろしさを、別に解釈しようとした。防衛機制的な反射である。テュルゴーやコントが述べた推移性、神学的段階から形而上学的段階へ、形而上学的段階から論証的段階に昇華する是正的な変遷を、その絶対要請に収斂させることで表象を分化させようとした。
遍く彼女の理性的な反射は、パチュリーを忌避しているものであった。嘗ての友人であり主人である存在を、いとも容易く拘束出来る他者への浅薄な想い。霊夢には、それが感情という名のバーリング家に訪れたグール警部にしか思えなかったのだ。

「パチュリー…やっぱりおかしいよ…」

様子が以前と比べて豹変している彼女にチルノは恐怖を覚えていた。五臓六腑が震撼し、愕然として震えている。そんなパチュリーは、チルノの怯えた様子を荒唐無稽に見据えていた。また、さはんな彼女を一つの獲物としか思っていなかった。
パチュリーは今、万物をも狩る狩猟者そのものになり得ていたのである。

「…私たちは外界でビジネスを始めたの。それは「奴隷取引」。…面白いでしょ?それにあまり手間暇かからないのよ」

「あんたまさか、私たちにレミリアがつけている機械をつけて…奴隷にするつもり!?」

霊夢の推理にパチュリーは「だいせいか~い!」と褒めたたえた。巫山戯た調子は、霊夢やチルノの感情を蠢かせる。

「あんたたちを奴隷にして商売道具にしないと、こっちも運営が大変なのよ。…それに、あんたたち幻想郷出身は結構高値で取り扱われるから、殆ど取り尽くしちゃったのよ」

彼女は当たり前のように言って欠伸をするが、2人は気が気ではなかった。空間的無限の中で空想有限性の総和を因果的に結ぶも、決して先験的仮象の慰めは訪れない。知覚される温存的な恐怖は今に包含される包装的統一、即ち事実的共属関係に情を総括させることに救いを求めたのだ。
だが彼女はそれを思惟しなければならなかった。故に根本的な総体的理神論に、パチュリーの恐怖を献上という名の逃走を行ったのである。信奉は信仰の論理的深淵から観た、一つの綱渡りである。彼女たちがそこを渡り、地の底に眠る情を回避するためには、このような狡猾的手段さえ用いる必要があった。この点を鑑みると、彼女たちは恐ろしさを理神論という名のウィッカーマンの檻に閉じ込めて燃やすドルイド信仰者である。

「取り尽くした、って…」

「だーかーらー、コイツと同じように背中にこれをつければ力を吸収して終わり、の簡単なビジネスだから殆ど取り尽くしちゃったの。どんな凄い力を持ってても、これをつけられれば忽ち自分の能力は消える、というよりも本部に力が送られるの。…これで普通の奴隷が出来上がり。ってことで、霊夢とチルノ…あんたたちも「奴隷」にさせてもらうわね!」

パチュリーは自身の能力を利用し、魔法の剣を作りだす。右手で握って持っていたレミリアは地面に落とされ、2人に助けを求めていた。降り積もった雪の冷たさが、身動き一つ取れないレミリアに襲いかかる。霊夢は未知への焦燥に駆られ、ただ吹き荒れる風のように感情を露呈させた。既に恐ろしさは燃えてしまったのである。

「こんな分かりやすい異変、他にあるのかしら…!?…とにかく、今はパチュリー…あんたをやっつけるわよ!」

「…みんなを返して!」

巫女は持っていたお祓い棒を、氷の妖精は自身の能力で氷の剣を作りだしては構える。雪がしんしんと降る中、3人は戦おうとしていた。

「…少し弱らせてからこれを付けさせてもらうわ!」

◆◆◆

パチュリーは早速、剣で2人に斬りかかるものの、チルノが氷の剣で受け止める。剣と剣とが真正面から衝突し合い、ぎこちない音を辺りに響かせる。

「あたいが止める!霊夢、今のうちに…!」

「分かったわ!」

霊夢は一枚のカードを右手で空に掲げ、宣言する。その声高らかな息吹は、やがて一つの力となって収束せしめる。

「霊符!夢想封印っ!」

すると霊夢から色彩豊かな光弾が次々と飛び出しては「敵」であるパチュリー目がけて飛んでいくのだ。降り注ぐ光の雨に、彼女はそれを刮目しては口を引きつらせた。

「おっと、あなたたちの自由にはさせないわよ」

パチュリーはチルノから離れ、霊夢の夢想封印を華麗に避ける。連続した光弾は地面に炸裂していく。大地は割れ、その威力を自ら表現していくのであった。

「隙あり!」

チルノは夢想封印を避け切ったパチュリーに斬りにいくが、目の前にレミリアの顔が差しだされる。すぐにチルノは足を止め、動きを止めた。
パチュリーは近くにいたレミリアを身代わりにしたのだ。笑った様子から見て、パチュリーは完全に狂ってしまっている。──無論、それは2人から見た感想に他ならない。然し今のパチュリーが正当性を掌握することは、駱駝が針の穴を通り抜ける事ほど難しいという事を、謎の奇怪的自信が決定を許していた。

「斬れば?斬ればいいじゃない」

笑うパチュリーに対し、レミリアは泣きそうな眼でチルノを見つめる。

「ひ、卑怯者!」

「隙あり!」

パチュリーは、そうして動きを止めたチルノの背中に一瞬で機械を取りつけたのである。するとチルノは機械に力を奪われ、ガクッと体を冷たい地面に落とす。寄生虫が付いたかのように、持っていた生気というものを手足または脳髄および神経、全てたる全てに渡って彼女は力を喪失した。考える力を失い、剣さえ持つことが出来なくなった。今に氷の剣は大地に舞い降りて、脆く砕けてしまったのである。

「力が……」

「ち、チルノッ!」

霊夢は機械を取りつけられたチルノを助けようと近寄るが、パチュリーはそんなチルノをレミリアを持っている右手とは反対の手で背中を掴み、持ち上げる。

「この中に放り込むだけ~!」

パチュリーは自分が作りだした、外界と繋がっている歪みに2人を投げ込んだ。彼女たちはそのまま歪みの中に姿を消したのである。力を奪われた2人に、抗う方法は存在しなかった。

「レミリアっ!チルノっ!」

彼女は仲間を失った悲しみを込めた眼で犯人であるパチュリーを睨みつける。チルノを目の前で失った悲しみは、彼女を再び自覚させた。今に現実は残酷であることを知り得て、ただ『私』という自己意思に指標を倒錯させない覚悟を取り決めた。
その時、ふと言葉が出走ってしまう。それは彼女が持つ、精一杯の軽侮である。

「あんた、最低ね…」

「仕方ないじゃない、ビジネスだもの。──あなたは他人の仕事に口出し出来る偉い立場なのかしら?」

「普通はしないわ。…でもあんたがやってることはビジネスじゃない、誘拐よ!そんなの…許せる訳ないわ!」

「そうね。その通りだわ。だけどこれが私たちのビジネスなの。貴方の思想は、私の思想とは異なるのよ…邪魔しないでくれる?」

パチュリーは再び魔法の剣を構え、霊夢に高速で斬りかかった。咄嗟に霊夢は持っていたお祓い棒で攻撃を受け止める。

「あんたの邪魔をしないと…この異変を止められないじゃない…!」

「異変は既に終盤に向かってるのをご存知で?」

霊夢は何とかパチュリーを薙ぎ払うと、再び彼女はお祓い棒を構える。
するとパチュリーがつけていたイヤホンから何かの指令が彼女に言い渡されると、魔法の剣をかき消した。パチュリーは残念そうな顔立ちを浮かべ、霊夢を睨めた。そこには一つの暫定的表象、本来の真たる事物への相関的な内属のカテゴリーによる投影域の外化が浮かばれていた。

「…今、指令が入ったわ。霊夢、あんたは別に奴隷にならなくてもいいわ。…その代わり、私たちと同じ会社に採用したいのよ。別に変な提案じゃないわ。しかもこれは社長からの命令。…社長があなたに慈悲を払ってくれるらしいのよ。…霊夢、あなたはどうしたい?」

霊夢の気持ちは1つであった。それは既に決まっていたものである。己の正義感が果たしてそれを許すだろうか?誤謬的な真理論を追いやる超越的な伽藍が指し示すレトリックを、彼女が許容するだろうか?

「入る訳ないじゃない!奴隷ビジネス!?私はそんなあんたたちから奴隷を解放してみせるわ!」

「…最初はそう言うかもしれないわね。でもこっちへ来たら心情が変わるかもしれないわ。来る決心をしたら、ここから私たちの世界に来なさい。私たちはいつでも待ってるわ」

そう言い残すと、彼女は歪みの中に入っては姿を消した。

「会社には入らないわ。…でも行くに決まってるじゃない!…全員を助けてやるわ!……待ってなさい!チルノ!レミリア!」

もはや彼女に賽銭などを求める貪欲な気持ちは全く無かった。自らの身を歪みの中に入れると、彼女は吸い込まれるように幻想郷から姿を消した。
──幻想郷には、再び沈黙が訪れたのである。 
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