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英雄伝説~光の戦士の軌跡~

作者:トロイヌ
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第四話

 
前書き
残業祭り疲れた・・・。 

 
カイムがアリサを抱え一緒に下まで降りていくと他のメンバーが揃っていた。アリサを降ろすと顔を真っ赤にしてそっぽを向いており一瞬思考して流石にあの状態で他人の前にいたのは恥ずかしかったのだろうと思い至りカイムは素直に謝罪した。


「すまんな、恥ずかしい思いをさせて。もう少し配慮すべきだった。」

「べ、別に大丈夫よ…まあ恥ずかしくはあったけど、怪我したりしないですんだのは事実だしね。」

「ん、そうか。」


恥ずかしい思いをさせてしまったが機嫌を損ねたわけではないことに内心ホッとしていると脇腹を小突かれ、何かと思い横を見るとフィーが不機嫌そうにカイムを見ていた。


「いきなりなんだ、フィー。」

「……私の事は心配しないんだ、落とされたのに。上でもほとんど気にしてくれなかったし。」

「お前の身体能力なら大丈夫だと判断したからなんだが。ワイヤー用意してたのも見えたしな。」

「それでも普通は少しくらいは心配しない?」

「これくらいなら気にする必要も無い位には信頼してると思ってくれ。」

「……今はそれで納得しとく。」

「納得してくれて何よりだ、さて……。」


フィーとの話を終え、カイムは右側に首を向けると視線の先には眼鏡の少女に謝り倒す黒髪の少年がいた。眼鏡の少女は気にしないように言っている様だが何故か顔が真っ赤だ。その光景と先程の黒髪の少年の行動を照らし合わせ何が起きたかをある程度察したカイムはあえて触れない事にすると、突然何かの音が鳴りはじめた。


「わわっ……!?」

「これは………」


音に気付いた他の生徒達は音の発生源が自分達の所持品にある事に気付き、懐から発生源のオーブメントを取り出して見つめた。


「入学案内書と一緒に送られてきた……。」

「携帯用の導力器か。」


生徒達がオーブメントを見つめたその時


『―――それは特注の”戦術オーブメント”よ。』

「サラか。」

『一発で当てるなんて相変わらず可愛げないわねぇ。』

「そりゃどうも。」

「この機械から……?」

「つ、通信機能を内蔵しているのか……?」

「ま、まさかこれって……!」

『ええ、エプスタイン財団とラインフォルト社が共同で開発した次世代の戦術オーブメントの一つ。
第五世代戦術オーブメント、”ARCUS《アークス》”よ。』

「ARCUS《アークス》………」

「戦術オーブメント………魔法《アーツ》が使えるという特別な導力器のことですね」


サラの説明を聞いた黒髪の少年は呆け、眼鏡の女子は呟いた。


「そう、結晶回路《クオーツ》をセットすることでアーツが使えるようになるわ・各自受け取りなさい」


そしてサラが説明を終えると灯がともり、そこは広間となっていて、それぞれの台座に荷物と宝箱が置かれていた。


『君達から預かっていた武具と特別なクオーツを用意したわ。それぞれ確認した上で、クオーツをARCUSにセットしなさい。』


全員に説明をし終えたサラは一端通信を切り、その場は無言に包まれたがやがてそれぞれ自分の荷物の方に向かい始めた。


「ふむ………とにかくやってみるか。」

「まったく……一体なんのつもりだ。」

「……………。」

「俺のは……あれか。」

「僕のはあっちだ……行ってくるね。」

「こうしててもしょうがないし俺達も行こう……俺のはあれか。」

「そうね……私はあれね。」


最後に動いたカイムとアリサも他の面々に習い共に自分の武具が置かれている台座へ近づく。カイムは荷物の目の前に置かれてある宝箱を開け、そこに入っているマスタークオーツを見つけ、サラの指示に従ってオーブメントにセットした。


「……………これは………。」


それぞれがマスタークオーツをセットするとオーブメントは不思議な光を放った。


『君達自身とARCUSに共鳴・同期した証拠よ。これでめでたくアーツが使用可能になったわ。
他にも面白い機能が隠されているんだけど……ま、それは追々って所ね。―――それじゃあさっそく始めるとしますか。』


驚いているカイム達にサラが説明をし終えた後、閉じられていた扉が開いた。


『そこから先のエリアはダンジョン区画になってるわ。わりと広めで、入り組んでいるから少し迷うかもしれないけど……無事、終点までたどり着けば旧校舎1階に戻ることができるわ。
ま、ちょっとした魔獣なんかも徘徊してるんだけどね。
―――それではこれより士官学院・特科クラス”Ⅶ組”の特別オリエンテーリングを開始する。
各自、ダンジョン区画を抜けて旧校舎1階まで戻ってくること。文句があったらその後に受け付けてあげるわ。
何だったらご褒美にホッペにチューしてあげるわよ♪』

「酒臭そうだしいらねえわ。」

『やかましい!さっさと行きなさい!!』


カイムとサラの会話が終わった後、皆はそれぞれ集まって互いの顔を見回して黙りこんだ。


「え、えっと………。」

「……どうやら冗談という訳でもなさそうね。」

「フン………。」


無言の空間に紅髪の少年の戸惑いとアリサの真剣な呟きが響く中、ユーシスは鼻を鳴らした後先へと進む通路に歩きかけた。


「ま、待ちたまえ!いきなりどこへ……一人で勝手に行くつもりか?」


そこに慌てたマキアスが制止の声を上げて尋ねた。


「馴れ合うつもりはない。それとも”貴族風情”と連れだって歩きたいのか?」

「ぐっ……………」

「まあ―――魔獣が恐いのであれば同行を認めなくもないがな。武を尊ぶ帝国貴族としてそれなりに剣は使えるつもりだ。貴族の義務(ノブレス=オブリージュ)として力なき民草を保護してやろう。」

「だ、誰が貴族ごときの助けを借りるものか!」


しかしユーシスに尋ね返されたマキアスは唸りさらにユーシスの挑発ともとれる言葉に怒鳴った後通路に近づきユーシスを睨んで怒鳴りつけた。


「もういい!だったら先に行くまでだ!旧態依然とした貴族などより上であることを証明してやる!」


それを見た後ユーシスは


「……フン。」


鼻を鳴らしマキアスの姿が見えなくなった後、一人で通路の先へと進み始めた。そしていつの間にかフィーの姿も見えなくなっていた。


「…………………。」

「……えっと………。」

「ど、どうしましょう……?」


去って行く二人を見ていた黒髪の少年は黙り込み紅髪の少年と眼鏡の少女は戸惑っていた。


「ふう、さて行くとしますかね。」


このままだと埒があかなそうなのでカイムも先に進むことにして入り口に近づくと青髪の少女に声をかけられた。


「待て、そなた一人で行く気か?」

「ん?あぁ、ここにいる魔獣は大したレベルじゃない。それに先に行った連中の様子も気になるしな。
そっちはこういうの慣れてなさそうな奴が何人かいるしチーム組む事を進めとくよ。また後で会おうぜ。」


そう言ってカイムはダンジョン区画へと歩を進めた。










「あらよっと。」


そう言いながら襲い掛かってくる魔獣を倒しながらカイムはダンジョンを進んでいた。腰にはエレボニア内では殆ど見られない形状の剣―――刀―――を差していたがこのダンジョンの敵には必要無く、カイムは素手による格闘で魔獣を蹴散らしていた。


「まあこんなもんだろ……それでフィー、いつまで後ろをついてくるつもりだ?」

「やっぱばれちゃうか。流石だね、カイム。」


カイムが後ろに向かって声をかけると近くにあった柱の影からフィーが姿を現した。どうやら気配を殺してずっと付いてきていたらしい。


「本当にお前は猫みたいだな。よく寝てるかと思って少し目を逸らしたら直ぐにどっかにいっちまう。そして気が付いたら傍にいるときたもんだ。」

「それが私のキャラだし。」

「そうなんだがな。まあいい、先に進もう。丁度先にグループから別れた奴が一人でいるからそいつも拾っていこう。」

「ん、ラジャー。」


気の抜ける声色で同意したフィーに苦笑しながら先に進むと、そこには魔獣の群れに囲まれているユーシスがいた。彼の実力はある程度知っているカイムはあの程度なら負けはしないが多少の手傷は負うかもしれないと判断し加勢することにした。


「フィー、左を頼む。俺は右をやる。」

「了解《ヤー》。」


咄嗟に分担を決めた二人はそれぞれ武器を構えると一気に駆け抜ける。


「くっ……!」


二人のスピードによって吹いた風に驚きユーシスは一瞬手で目を覆った。そして手をどけると自分の周囲にいた魔獣は全て死体になっていた。


「……別に手を出さなくてもよかったが?」

「いいじゃないか。久しぶりにあった友人に対する挨拶みたいなもんだ。」

「フン、随分と物騒な挨拶もあったものだ。……まあいい、久しぶりだなカイム。」

「ああ、久しぶりだなユーシス。ちなみにお前の後ろにいるのがフィー、フィー・クラウゼルだ。」

「よろしく、ブイ。」

「っっっ!!」


久しぶりにあったカイムに対して、口調こそ変わらないがマキアスの時と違いあきらかに穏やかな声色で話していたが、いつの間にか後ろに立っていたフィーに驚く。ユーシスもまたカイムの実力をある程度知っておりこの程度ならやれるだろうと別段驚いてはいなかったのだがフィーの存在は完全に予想外だったようで後ろを向いて驚いていた。


「いつの間に……ということはさっきの魔獣の半分は……。」

「そう、私。実際は四割くらいだけどね。」


その言葉に再び驚くユーシス。自分よりも明らかに年下、例え同い年だとしても体格が劣るフィーがあの数の魔獣の半分近くを倒したとは信じ難かったようだ。思わずカイムの方を見て彼が無言の肯定をしてようやく信じたようだ。


「全くお前の知り合いは妙な奴が多いな、この娘しかりあの教官しかり一癖も二癖もありそうだ。類は友を呼ぶというやつか?」

「それ、軽くブーメランじゃない?」

「……喧しい。」

「さっそく仲良くなったようで何より。折角合流したんだしこのまま三人で出口まで行こうぜ。」

「その必要は無いと思うが。ここくらいの魔獣なら俺達もチームを組んでいた他の連中も苦戦する事はあるまい。」

「いや、俺の予想が正しければこういった場所の終点には……。」


共に進もうという提案を拒否したユーシスにカイムが一緒に行く理由である自分の予想を言おうとした瞬間、静けさに包まれたダンジョンに凶暴な咆哮が響いた。


「何だ……!?」

「ダンジョンのお約束ってやつさ。出口には門番がいるもんだ。」

「そういえば昔会った時、カイムと一緒にいた愉快そうな音楽家に連れられていった遺跡にも似たようなのがいたよね。」

「いたなぁ。まああれよりは弱そうだがな。」

「お前達はどういう人生を送ってきたんだ……。」

「そこはいずれな、それより急ごう。こうして門番が起きたってんなら他の連中が戦ってるんだろうさ。加勢してさっさと終わらせよう。」

「そうだね。」

「ふん、確かにその方が効率はよさそうだ。」


咆哮を聞き、一人では流石に厳しいと判断したユーシスは今度の提案には賛成し、その言葉を皮切りに三人は咆哮が聴こえた方向に走り出した。そしていくらか進んだ先の広間ではカイム達以外の面々が道中の魔獣とは比較にならないであろう禍々しい魔獣と戦闘を行っていた。


「《石の守護者》《ガーゴイル》か……。」

「あれを知っているのか?」

「ああ、何百年も前に起こったという《暗黒時代》、神殿や遺跡などに許可無く入り込んだ侵入者を排除する為に産み出された石の“魔物”だ。その身体は岩よりも硬く、例えダメージを与えられたとしても、たちまち再生しちまう。」


その言葉の通り《石の守護者》の体は受けた傷を端から修復していた。このままではジリ貧だろう。


「カイム、どうする?」

「俺が突っ込むから二人は援護してくれ。倒しきれずとも修復に時間がかかるくらい重いのをぶち込んでやる。」

「無謀、と言いたいがお前に限ってはそうは言えんな。いいだろう。」


策を決めた三人は《石の守護者》の方を向いた。そしてフィーが射撃、ユーシスがアーツを放ちそれに僅かに遅れカイムが突撃する。複数の弾丸とアーツによる風の塊が《石の守護者》に命中し怯んだ隙に一撃を加えようとした瞬間……カイム達の体を淡い光が包み込み光のラインで繋がった。この現象が何かは分からないが直ぐに疑問を振り払う。全員の動きが分かる今は想定以上の好機。構わず突撃し繰り出すは、かつて世話になった武術の師匠の一人に連れられた先で出会い手合わせした同じ剣術を使う武人の業。


「光鬼斬!!」


鬼気迫る居合いが《石の守護者》を襲う。その速さと鋭さは石の体を切り裂き並みの傷では怯みすらしない《石の守護者》が悲鳴を上げながら体制を崩す威力を持っており、大きな隙を作ることに成功する。そしてカイムはそのまま後ろにバク転の要領で宙に飛ぶ。ラインで繋がっているから分かる、この隙を彼等は見逃さない。その予想の通り残りの面々が攻撃を開始した。
魔法の光球、銃弾と矢、剣や槍が《石の守護者》を襲う。ほぼ全員が今日初めて出会ったばかりのはずなのに、長年のパートナーのように精巧で洗練されている連携に驚きと戸惑いを抱きつつも、皆攻撃の手を緩めない。そしてその時はやってきた。


「今だっ!」

「任せるがよい!」


黒髪の少年の叫びに答えたのは、青髪の少女だった。彼女は身の丈ほどもある大剣を振るいながら、怯んだ《石の守護者》の首筋を斬り付けた。
岩すらも容易く寸断するであろう重撃をまともに受けた《石の守護者》は、その胴から自身の首を切り落とされた。地に落ちた首と、首を無くした胴体は石へと戻り、塵となって消えた。


「やったか……!」

「よかった……これで……。」


《石の守護者》が消滅し広場に安堵の息が響く。しかしそこにカイムとフィーの声が響いた。


「まだだ!」

「気を抜くには早いよ……!」


その声を聞いた全員が二人の視線の先を向くと、そこには新たな《石の守護者》二体が唸り声を上げながら臨戦態勢で構えていた。


「そ、そんな!」

「いくらなんでもこれ以上は……!?」


アリサとマキアスの悲鳴が広間に響く。ここにいる半分以上が道中と《石の守護者》との戦闘で既に限界に近く、これ以上このレベルの魔物と戦えば確実に怪我人が出るだろう。


(くっ、こうなったら一か八か“あの力”を使うしか……!)


黒髪の少年が何かをしようとした時、カイムが全員を庇うように前に出た。


「やれやれ、それじゃあもう一仕事しますかね。」


そう言いながらカイムはまるで散歩をするように《石の守護者》達に向かって歩き始めた。その光景に驚いた面々は慌てて制止の声をかける。


「ち、ちょっと待って!」

「いくらなんでも無茶です!」


紅髪の少年と眼鏡の少女の悲鳴のような声を聞き流し更に歩く。まるで他の皆を『巻き込まないように』。その姿に《石の守護者》達は僅かに動揺するもやがて片方が飛び上がりカイムに襲い掛かる。そのままその足で踏み潰され爪で切り裂かれると思いきやカイムの姿はそこにはなく、いつの間にか宙に飛び上がっていた。


「雷よ、我が剣に集え……。」


宙に飛んだカイムの刀に白い雷が集まる。そして壁に近づいた瞬間、カイムは壁を本気で蹴り飛ばし《石の守護者》達に突撃する。


「はぁぁぁぁぁぁぁ!!!」


二体の間にカイムが飛び込んだ瞬間、白い雷を撒き散らしながら円形の衝撃波が二体を襲う。その衝撃波は斬撃の嵐で現に二体の体には大量の深い切り傷がつけられていた。そして再び飛び上がったカイムは先程以上の雷を纏った刀を落下しながら振り下ろした。


「奥義、雷神烈波!!!」


その衝撃と雷に襲われ二体は吹き飛び壁に激突、そのまま地面に落ちた後完全に消え去った。


「まあ、ざっとこんなもんだ。」


その光景に唖然とする皆ににカイムは余裕の笑みを浮かべながらそう言った。










あれからカイムは他の皆から質問等を次々と振られていたが後でちゃんと答えると約束しその場を収めた。そして次に話題になったのは一体目の《石の守護者》と戦った時に起きたあの現象。全員が淡い光につつまれラインで繋がった後、それぞれが何をするか、どこを狙うかが手に取るように分かった。そしてその現象を起こした原因に一つの心当たりに至った。


もしかしたら、今のような力が……。」

「──そう、《ARCUS》の真価ってワケね。」


頭上からの声と広間に鳴り響く拍手の音。カイム達が声と音のした方へ顔を向けると、そこにはサラの姿があった。


「いや〜、やっぱり最後は友情とチームワークの勝利よね〜。うんうん、お姉さん感動しちゃったわ。」


階段を降り切ったサラは、呆然、不信、怒り、といった様々な視線を受けながら皆の前に立った。


「とりあえず、これで特別オリエンテーリングは終了なんだけど……何よ君たち。もっと喜んでもいいんじゃない?」

「よ、喜べるわけないでしょう!」

「正直、疑問と不信感しか湧いてこないんですが。」


 マキアスとアリサが白い目をサラに向け抗議を行う中、ユーシスは一人冷静な態度を崩さずに口を開いた。


「……単刀直入に問おう。特科クラス《Ⅶ組》……一体何を目的としているんだ?」

「身分や出身に関係ないというのは確かに分かりましたけど……。」

「何故我らが選ばれたのか、結局のところ疑問ではあるな。」


ユーシスに続き眼鏡の女子と青髪の女子が疑問を投げかける。当然の事だろう、結局一番重要な所については何一つ教えてもらってないのだから。


「ふむ、そうね……。君たちが《Ⅶ組》に選ばれた理由は色々あるんだけど……一番判りやすい理由は、その《ARCUS》にあるわ。」

「この戦術オーブメントに……?」


エプスタイン財団とラインフォルト社が共同開発した最新鋭の戦術オーブメント──《ARCUS》。魔法アーツや通信機能など、多彩な機能があるが、その真価は別にある。


「《戦術リンク》──先ほど君たちが体験した不思議な現象にある。」

「《戦術リンク》……。」

「さっき、皆がそれぞれ繋がっていたような感覚が……。」

「……もし、それが本当なら……。」


そう、もしそれが本当なら戦場において、《戦術リンク》がもたらす恩恵は絶大となる。
どんな状況下でもお互いの行動が把握でき、最大限の力で連携できる精鋭部隊──あらゆる作戦行動を可能にするその部隊は、全ての軍隊にとっての“革命”となり得る。


「でも、現時点で《ARCUS》には個人的な適性に差があってね。新入生の中で君たちは特に高い適性を示したのよ。」


 それが身分や出身に関係無くこの十人が《Ⅶ組》に選ばれた理由だとサラは語り、さて、と彼女は言葉を切り替える。

 
「トールズ士官学院は、この《ARCUS》の適合者として君たち十人を見出した。でも、やる気のない者や気の進まない者に参加させるほど予算的に余裕があるわけじゃないわ。それと、他のクラスよりもハードなカリキュラムになるはずよ。それを覚悟してもらった上で《Ⅶ組》に参加するかどうか──改めて聞かせてもらいましょうか?
あ、ちなみに辞退したら本来所属する筈だったクラスに行って貰う事になるわ。貴族出身ならⅠ組かⅡ組、それ以外ならⅢ~Ⅴ組になるわね。今だったらまだ初日だし、そのまま溶け込めると思うわよ~?



 一通りの説明を終え、サラは十人の反応を伺う。お互いの顔を見合わせる彼らの表情には、はっきりと困惑が見て取れた。そんな中、口火を切ったのはカイムだった。


「まあ俺は全滅しない限り参加だわな。」

「え……。」

「カ、カイム?」


そう、カイムは元々このクラスに参加する為にトールズに来たのだ。自分以外の全員が参加しないなどという事態になって初日から全てが頓挫でもしない限りは在籍する意思に揺らぎはみせないだろう。そしてそれに続き黒髪の少年──リィン・シュバルツァー──から順に最後に言い争っていたマキアスとユーシスも参加を宣言した。《ARCUS》に実家が関わっているアリサも。


(本当にいいのか?アリサ。)

(うん、もう決めたから。さっきも言った通りこの程度で腹を立ててもキリが無いしね。)

(そっか……まあ何かあったら言ってくれ。最悪色々吐き出すだけでもかなり楽になる。聞き役は得意だからな。)

(うん、ありがとう。)

「ほらそこ、ラブコメみたいな空間を出さない!周りが見てるわよ。」


その言葉にハッとして周囲をみると呆れた目や微笑ましい目、ジト目といった様々な視線が向けられておりカイムはバツが悪そうに、アリサは頬を赤くしてそっぽを向いた。そしてそれを見計らってサラが話を戻した。


「ともかく、これで十人。全員参加ね。……それではこれより、この場をもって特科クラス《Ⅶ組》の発足を宣言する。この一年、ビシバシしごいてあげるから、楽しみにしてなさい♪」


サラが楽しそうに宣言する中で、彼女の後ろにある階段の上に二人の男性が立ちその光景を見守っりながら話していた。


「やれやれまさかここまで異色の顔ぶれが集まるとはのう。これは色々と大変かもしれんな。」

「フフ、確かに。――ですがこれも女神の巡り合わせというものでしょう。」

「ほう……?」


一人はトールズ士官学院の学院長であるヴァンダイク。そしてもう一人。金髪を後ろに纏め上げ、立派な装飾の服を着た青年。


「ひょっとしたら彼らが“光”となるかもしれません。動乱の足音が聞こえる帝国において対立を乗り越えられる唯一の光に――。」

「“彼”もその一人になってくれますかな?」

「きっと……いや必ずなってくれますよ。なんせ“彼”は僕が認めた男ですから。」

「ふふ、随分と気に入っているようですな……しかし懇意にしている割には妹君の前に別の娘とくっついてしまいそうですぞ?」

「ハハハ、確かにそれは我が妹にとっては由々しき事態ですね。全く我が弟分なだけあって隅に置けない男だ。まあ、彼が本気で選んだ相手なら私は祝福するつもりですがね。」


そう言いながら青年は“彼”……カイムの方を見つめた。カイムはその視線に気付きこっちを向いて一瞬目を見開くも他に気付かれないように頭を下げた。それに軽く手を振る。


「願わく皆この学院で心身共に成長して自分の道を見つけて欲しいものです。」


そう言いながら青年――オリヴァルト・ライゼ・アルノール――のカイム達を見つめる目はとても優しかった。










こうして七耀暦1204年、3月31日――トールズ士官学校一年《Ⅶ組》が発足した。これより少し未来の過酷な運命を知らぬままに――。














 
 

 
後書き
やっとプロローグが終わった……。
ちなみに自分の更新の最低ノルマは月一です。
これからどんどん遅筆になりますがお付き合い頂ければ幸いです。 
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