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魔法少女リリカルなのは~無限の可能性~

作者:かやちゃ
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第5章:幽世と魔導師
  第127話「強化される妖」

 
前書き
かくりよの門では大体利根川→富士川→北上川→信濃川→木曽川、長良川、揖斐川→熊野川→吉野川→筑後川と、それぞれの川がある地方の順に敵が強くなっていますが、本編ではそんなの関係なしに均等な強さになっています。(なお陰陽師の強さで強くなる模様)
ちなみに、各川を模した龍神もレイドボスで出てきます。
つまり……?
 

 





       =奏side=





「ッ……!」

 先程までとは打って変わり、非常に数の増えた妖へ肉迫する。
 もはや“群れ”言える程の数だけど……私の戦闘スタイルなら大した事ないわ。

「シッ……!」

 振るわれる爪、迫りくる体躯。それらを躱し、同時に切り裂く。
 司さんの結界によって妖も強くなったみたいだけど……まだ大丈夫。

「奏!」

「っ!」

 アリサの言葉に私は跳躍する。
 すると、寸前までいた場所を炎の刃が通り過ぎ、多くの妖を切り裂く。

「……数が減ってきたわね……」

「あれほどの数は、一過性のものだったのかもしれないわ。……でも、油断は禁物」

「ええ、初の実戦だもの。油断して死んじゃうのは勘弁願うわ」

 空中の妖はすずかと帝が担当していた。
 しばらく戦っていたけど、数はだいぶ減っていた。
 本当に一過性のものかは分からないけど…多勢に無勢にならずに済むのはいいわ。

「『すずか、妖は見える?』」

『まだ結構いるけど……帝君が殲滅してくれたよ。…でも、気を付けて。他の妖とは違う…何だが影みたいなのが来てる』

「『影……?』」

 どうやら、新しい妖が来ているらしい。

『うん。人型で、色が影みたいな事以外はまるで人間みたい』

「『……わかったわ。気を付ける』」

 人型……何かあると見てもおかしくはない。
 ……と、考えていればすぐにやってきた。

「……あれは……」

「人型の妖……アリサ、気を付け……っ!?」

 大体六体程の人型の影。それが現れ……内三体が接近してきた。
 そのスピードは先程までの妖とは全く違い、接近を許してしまう。

「くっ……!」

     ギィン、ギギィイン!

 刀と槍を持った二体の攻撃を受け流す。
 もう一体の斧を持った奴は、アリサの方へ行ってしまった。

「っ、ぁっ!」

「アリサ!……っ!!」

 今までと比べて速い動きに動揺し、アリサは反応が遅れる。
 斧の一撃は刀で凌いだが...そこで残りの三体が視界に入る。
 一体は弓を構え、もう二体は扇を携えて術を放とうとしていた。

「っ、こっち!」

 咄嗟に私は霊力を放出する。
 霊力に引き寄せられると聞いて思いついた方法だけど…上手く行った。
 私に注意が逸れ、アリサは間合いを取って体勢を立て直す。
 後は……。

「(私が凌ぎ、倒す!)」

〈“Delay(ディレイ)”〉

 突き出される槍を紙一重で避け、追撃の刀も上体を反らして躱す。
 そこへ放たれた矢は移動魔法で躱し、残り二体の術は…。

「シッ!」

   ―――“戦技・強突”

 二振りの刀を投擲し、突き刺す事で止める。
 刀はエンジェルハートを変形させたものなので、込めた魔力を炸裂させる。

「っ!」

     ギィイイン!

 武器を手放した私に、斧を持った最後の一体が斬りかかってくる。
 叩きつけ…まともに受け止めるつもりは毛頭なかった。
 それに、武器を手放しても……無防備ではない。
 ガードスキル、ハンドソニックを使ってその一撃は受け流す。

「シッ……!」

 霊力を足に込め、一気に踏み込む。
 ディレイを使ってもいいのだけど、出来るだけ魔力は温存しておきたい。
 それに、使う程の相手でもないし、この踏み込みなら霊力の消費も軽い。

「はっ…!」

 刀、槍、斧の攻撃をそれぞれ躱し、反撃に切り裂く。
 そうこうしている内に、術師の二体がまた霊力を練っていた。

「(あれだけでは、倒せなかったのね…)」

 まだ苦戦している訳ではない…けど、あまり時間をかけるべきではない。
 …幸い、私は一人ではないわ。あの二体の相手は…。

「奏の邪魔は、させないわよ!」

 ……アリサに任せるとするわ。

「はぁっ!」

   ―――“火焔地獄”

 アリサが霊力を練って刀を一閃し、その軌跡の通りに炎が放たれる。
 牽制として放たれたその炎を術師二体は相殺する。

「遅い!」

 相殺の隙にアリサは突貫し、刀を一体に突き刺し、切り上げる事で切り裂く。
 続けざまに炎をもう一体に放ち、避けた所を一閃。一気に仕留めた。

「ふっ……!」

 私の方も、もう終わり。
 まだ倒れてなかった三体の攻撃を躱し、首を刎ねる事で仕留める。

「やったわね。」

「ええ。……っ!」

「えっ!?」

 消滅した事を確認し、喜びを表情に出すアリサを見た瞬間、私は駆ける。
 刃を向けるのはアリサ…その背後。

「っ……あ……」

「油断大敵。……まだ終わってないわ」

「そ、そうね…」

 次の妖がアリサの背後に迫っていた。
 幸い、さっきの影と違って弱かったからすぐに仕留められた。

「アリサ、さっきの攻撃で大きく消耗したでしょう?」

「…ええ。でも、まだ大丈夫よ」

「そう…でも、無理はしないで」

「分かってるわ」

 アリサは長期戦の経験がない。
 模擬戦は短いし、特訓自体は長くても実戦ではない。
 ……だから、精神的疲労が心配になる。

「(……でも、アリサ達の力も必要なのは確か。……多分、以前優輝さんが言っていた“皆の力が必要になる”時は、今の事だから…)」

 日本全土が同じ状況なら、海鳴市を安全にした所で終わらない。
 …否が応でも戦い続ける事になる。

「っ!…アリサ、これを」

「奏、これって…」

 妖を切り裂き、空いた時間にアリサにあるものを渡す。
 それは、銃型のデバイスのようなものと、カートリッジに似た弾丸が込められたいくつかのマガジン。

「以前、優輝さんが見せた、魔力なしに魔力弾が放てる銃。…ほとんど完成していて、私と司さんがテスターをしていたの。もちろん、優輝さんもテストしてる」

「……あたしに?」

「できるだけ消耗を避けたいから」

 それに、私はリボルバータイプのものをもう一つ持っている。
 司さんも二つのタイプを持っていたはず。
 …もう一つも渡しておこうかな。

「……こっちも。マガジンかリボルバーかの違いだけだから、好きな方を使って」

「…ありがと」

 エンジェルハートから取り出し、御札に収納して渡す。
 これならアリサでも取り出せるようになったはず。

「……もう一息。優輝さんがどうにかするまで、耐えるわ」

「どうにかって…どうするのよ?」

「分からないわ。…でも、信じれる」

 あの優輝さんが、無意味な行動をするはずがない。
 きっと妖が湧き出る原因を潰しに行ったはず。
 ……だから、それを信じて私達は戦い続ける事にした。







       =帝side=





「ちぃっ…!速いぞこいつら…!」

〈先程とは打って変わりましたね。おそらく、司様の結界の影響でしょう〉

「こっちに合わせて強化するとか厄介すぎだろ畜生!」

 ギルガメッシュの力を使い、剣や槍で妖とやらを貫く。
 魔力の無駄遣いはするべきじゃない。…俺も、それぐらいは分かる。

「そいつらは大した事ねぇよ。問題は人型の奴ら…特に武器を持った奴らだ」

〈…弾かれるか躱される…確かに厄介ですね〉

「加えて霊力は魔力を破りやすい…っと!」

 早速現れた刀持ちの攻撃をバックステップで躱す。
 同時に槍をいくつか射出する。一発当たったが、他は逸らされ、躱された。

「仕留め損なった…が、甘い!」

 再び接近してきた所を、投影しておいた干将・莫耶で刀を弾き、切り裂く。
 俺だって日々強くなっている。強くなるとも決めた。…この程度、造作もねぇ!

「はっ!しゃらくせぇ!」

 ちまちま戦っていたら無駄に体力を消費する。
 射出にはほとんど魔力を使わないから、それを利用して一掃する。

「すずか!お前は奏達を集中的に援護しろ!俺にはやばい奴が接近してきた時に忠告する程度でいい!」

「え、でも……」

「俺は打たれ強さだけは自慢だからな…。最近は退き際も分かっている」

 射出する際に飛び上がり、そのまますずかの所まで行ってそう言う。
 アホな事考えていた時は散々ボコされても立ち直っていたし、打たれ強さには自信がある。退き際も優輝のおかげでわかってきた。

「っし…来いよ」

〈なお、マスターは霊術を習っていないので割と無視されます〉

「今言うなよ!?さっきから反応悪いなと思ってたけどよぉ!?」

 そう。妖は霊力に反応する。…椿達からはそう聞いている。
 厳密には、陰陽師の強さによって反応するらしいが…。
 つまり、俺は手を出さなければほとんどが奏達の方へ向かう。
 俺も転生者……“死”を身近に感じた人間だから霊力はあるらしい(優輝に聞いた)が、鍛えてなければあまり見向きされない。

「まぁ、先制を打てるのは良い事だ。とっとと片づけてやる」

〈ではマスター、武器の貯蔵は充分ですか?〉

「あまり俺を侮るなよ?エア。……ってちょっと待て。お前そんな性格だったか?」

 今まではもっとお堅い感じだった気がするんだが…。
 いつからこんな冗談を言うようになったんだ?

〈なんの事やら。ほら、来ますよマスター(愚鈍)

「やっぱ性格変わってるぞてめぇ!?冗談言ったり毒舌になったりそんな奴じゃなかっただろ!?」

 程よく緊張をほぐした方がいいと優輝も言っていた気がするが、これはひどい。

〈失礼。マスターは本当に変わったのだと嬉しく思いまして。こんなにノリ良く突っ込んでくれるとは……〉

「変わったかどうかの試し方に非常に物申したいんだが…。…変わったのは否定しないが…なっ!」

 武器を射出し、振るい、妖を切り裂く。
 ほとんどが先制攻撃を確実に決めれるから、奏達よりはやりやすいかもしれん。
 まずは魔法から普通に扱えるようになれと言われたが…こんな所でそれが活かされる事になるとは思わなかったぜ。

〈ですが油断しない事と注意をお願いします〉

「あ?油断はともかく注意って何をだ?」

〈今回は司様以外の結界が張られていません。つまり、地形の被害はそのまま反映されます〉

「………あ」

 今までは結界による空間位相のずらしで地形に被害はなかった。
 だけど、今回はそれがない。加えて、俺は先程から武器を射出している。

「は、早く言えぇええええ!?」

〈まぁ、日本全土がこの状況なので仕方ないかと〉

「…それもそうだが……」

 至る所に武器が刺さった跡がある。木もいくつか倒れていた。
 …やっちまったなぁ…。いや、アホやらかしてた時も何度かあったけどさ。

〈妖も霊力の存在。結界では捉えきれませんよ?〉

「…それは…仕方ないか」

 一部を取り込んだ所で次から次へと湧いてくる。
 しかも霊力の存在だから取り込む事自体も至難の業だ。
 それなら、張らない方が魔力節約にもなる。

〈優輝様がどうにかなさるようなので、それまで持ち堪えてください〉

「わかってらぁ!…俺が変わった所、見せてやる!」

 俺はもう馬鹿はやらない。…強くなると決めたんだ。
 あの男のような存在に負けないために……優奈の期待に応えるためにも!

「だから、てめぇら如きに負けてられねぇんだよ!」

 大剣をぶん回し、妖を一気に切り裂く。
 ……戦いは、まだまだこれからだ!









       =司side=





「裏門方面はまだカバーしきれてるね…」

 屋上に来てまず私がしたのは、“祈り”の力で皆の身体強化を上げた事。
 少しずつ上がるように効果を上げたから、違和感はないはずだ。
 皆も気づいているようだけど、不都合はないみたい。

「なのはちゃんは正門側東を、はやてちゃんがその反対。できるだけ撃ち落とすように。アリシアちゃんと私が正面を担当して、フェイトちゃんと神夜君は討ち漏らした奴を倒すようにして。……出し惜しみはするなとは言わないけど、無駄に魔力は消費しないようにね」

「わ、わかった……」

 指示を出して、やってくる妖を見つめる。
 さっきまでより妖の強さは格段に上がっている。
 それでもまだ余裕を持って対処できるけど…人型の奴は違う。

「(遠距離も、なのはちゃんはともかく、はやてちゃんが不安かな……)」

 はやてちゃんは広範囲型の魔導師だ。
 遠距離から撃ち落とすとなると、魔力消費が割と多くなる。
 ……でもまぁ、さすがに対策をしてるけどね。

「っ!来たよはやて!」

「ほんまか!」

「はやてちゃ~ん!!」

 アリシアちゃんがそういうと同時に、遠くから小さい何かが飛んでくる。
 その存在は真っ先にはやてちゃんの所へ飛んできた。

「リインフォース・ツヴァイ、ここに推参!ですぅ!」

「よぉ来てくれたわ~!これで私もやりやすくなるわ~」

「はい!お任せです!」

 飛んできた存在…リインちゃんはそういってユニゾンする。
 これではやても遠距離がやりやすくなった。
 …と言ってもこれでも不安なんだけどね。

「『リニス、そっちはどう?』」

『ちらほら…と言った感じです。今の所大きな被害は出ていません』

 一般人の救助をしているリニスに念話を繋げる。
 やっぱり霊力があまりない一般人は早々襲われないみたい。

「『……いつ例外が起きるか分からないから、警戒は解かないでね』」

『わかりました。……そちらも気を付けて』

 念話を切って、改めて学校周辺を見渡す。
 ……正直、この学校以外はそこまで危険ではないと思う。
 霊力を常人以上に持っている人は危ないだろうけど、それ以上に強い人が多い。
 士郎さん達なら、あれぐらいの妖なら余裕で屠れるだろうし。

「っ…司、あれ……」

「…影…みたいな妖だね。…気を付けて。他の妖とは違うみたい」

「うん。わかってる」

 アリシアちゃんが指した方向には人型の影がいた。
 さっき裏門側をちらっと見たけど、そっちにも来ていて奏ちゃんが対処していた。
 …その時動きを見たけど、やっぱり他の妖とは一味違う。

「とにかく、迎撃!二人はいつでもフォローできるように!」

 私となのはちゃんとはやてちゃんとアリシアちゃんが遠距離から攻撃。
 討ち漏らした場合を想定して残りの二人にすぐ動けるように声を掛けておく。
 そして、なのはちゃんとはやてちゃんは魔力弾、私とアリシアちゃんが矢を放つ。
 ちなみに私もちゃんとシュラインを弓に変化させて放っている。

「光の矢よ、撃ち貫け!」

   ―――“Flèche(フレッシュ)

 私とアリシアちゃんの矢が、なのはちゃんとはやてちゃんの魔力弾が、それぞれ影の妖に向かっていく……が、私とアリシアちゃんの矢は躱された。

「(アリシアちゃんは霊力だから…私は霊術に質が似た魔法だから、感付かれた…?でも、これぐらいなら…!)」

 だけど、すぐに私達は第二撃を放ち、それも躱された所を三撃目で命中させる。
 後は用意しておいた砲撃魔法で完全に消滅させる。
 見れば、なのはちゃん達の方も倒したみたい。

「…………」

「ねぇ、司……」

「……うん。私も思った」

 アリシアちゃんと私は、ある事に気づき遠くを見つめる。
 そこには、また新たな影の妖がいた。

「…霊力を使う度、違う妖を呼び寄せてる…」

「私の場合、天巫女の力の時点で引っかかるみたい。…まずいね」

 私達が霊力を用いて戦えば戦う程に妖は強くなり、新たに現れる。
 質の悪いいたちごっこみたいだ…。

「天巫女の力なしに……か。頼らない戦い方も会得してるけど……」

「……私の場合、ほとんど戦力にならないんだけど…」

 普通の魔法も使える私はともかく、アリシアちゃんは霊術しか使えない。
 ……そうだ。確か、優輝君に貰ってた…。

「……これでどうにか凌げると思うよ」

「銃と弾と…結晶?」

「身体強化魔法の術式が入ってるんだって。効果は数時間は持つって」

「……優輝が作ったんだね。この銃と弾は以前の魔力弾を撃つ奴だよね」

 優輝君に試運転と称して貰った銃二丁と予備の弾。
 それと、これまた試作の身体強化魔法が込められた結晶。
 これらがあればアリシアちゃんでも上手く戦えるはず。

「方針変更!なのはとはやてはとりあえずできるだけ倒して!他で残りの奴を倒すよ!」

「異常があったら、すぐ念話で知らせて!」

「わ、わかったよ!」

 皆に呼びかけてから、私とアリシアはグラウンドに飛び降りる。
 遠距離だと妖相手にあまり戦えないからね。
 ……さて、もうひと踏ん張り…!









       =アリシアside=





「銃…フォーチュンドロップでも何度か変形させて使ってみたけど……」

 正直、いつも霊術を中心に武器を使っていたから銃はあまり上手く扱えない。
 普通に扱う分にはできるだろうけど…マンガみたいに舞いながらとかは無理。

 ……と、そう思っている内に司はもう行ったみたい。
 司はシュラインを使って上手く攻撃を捌き、反撃で倒している。

「とりあえず、私も……」

「アリシアちゃん!」

「っ……」

 後ろから私の名前を呼ばれる。
 呼んだのは同級生の子だ。……戦う私を心配しているのだろうか。

「すー……はー……大丈夫っ!任せといて!」

 深呼吸し、振り返ってできるだけ明るく振舞ってから駆け出す。
 ……本当は怖い。だって、初めての実戦で、しかも霊術はあまり使えない。
 死と隣り合わせなのを忘れてはいけないのだから。

「司!」

「アリシアちゃん!右をお願い!」

「了解!」

 フォーチュンドロップを刀に変え、結晶を身に着ける。
 身体強化が私に施され、影の妖と斬り結ぶ。
 ちなみに、銃と弾は司にホルスターも貰っていたのでそこに仕舞っている。

     ギィイン!

「っ……!はぁっ!」

「せいっ!」

 相手の刀を弾き、すれ違うように切り裂く。
 司も横に回り込んでシュラインで薙ぎ払っていた。

「……まぁ、わかっていたけどさぁ……」

「……囲まれた…ね」

 霊力に引き寄せられるからか、私達は囲まれていた。
 しかも、全員があの影の妖。他の妖はなのは達に倒されているみたい。
 そこは助かるけど、一番厄介なのが残ったようだね。

「神夜とフェイトは何やってるのさ……!」

「二人共、東と西で奮闘してるよ。霊力がない分、楽みたい…っと!」

「ずるいなぁ…っ、はっ!」

 お互いにフォローしながら、妖の攻撃を凌いで反撃を繰り出す。
 霊術を使わなくしたから、この妖達を倒せば少しは楽に……しまった…!

「待てっ…!」

「アリシアちゃん!くっ…!」

 何体かが私達を無視して校舎の方へ向かっていった。
 それを見て、私は慌てて駆け出す。
 司もついてこようとしたけど、他の妖に囲まれて身動きが取れない。

   ―――きゃぁああああ!うわぁああああ!

「っ……!させ、ないっ!!」

 真っ先に向かってきているからか、校舎から叫び声が聞こえる。
 それを聞いて私は一気に踏み込み、駆ける。

「ぁああああっ!!」

 背後から一突き。刀が妖に深々と刺さる。
 ……そこまで来て、それが悪手だと気づく。

「っ…!」

 刺したのは槍を持っていた方。もう一体の刀を持っている方が斬りかかってくる。
 さらに仕留めきれていない。完全に失敗した……!

「くっ……!」

 間一髪刀を躱すけど、同時にフォーチュンドロップから手を離してしまう。

「アリシア!」

「まだっ…!」

 校舎の方から私を呼ぶ声がする。危ないと思ったのだろう。
 咄嗟に飛び上がり、ホルスターから二丁の銃を抜き、一気に撃つ。

「(こっちも仕留めきれてない……!)」

 刀で一部は弾かれ、半分程は躱された。当たったのは当たったけど、足りない。

「(弾もあまり使えない…なら!)」

 銃に残っていた弾でフォーチュンドロップが刺さったままの奴に牽制する。
 躱した所を肉迫し、抜くと同時に切り裂く。

「(これで一体!他………はっ!?)」

 思考を強制中断させられるように、爆風に吹き飛ばされる。
 椿の訓練のおかげで咄嗟に飛び退いたからそれだけで済んだけど、術を扱う奴が私を狙っていたようだ。……迂闊…!

     ギィイイン!

「っ、傷が…!?」

 振るわれる刀を受け止め、私は驚く。
 その刀を振るってきたのは、先程仕留め損なったものの瀕死にさせた奴だからだ。
 そして、すぐにその理由を理解する。

「(後方に、回復の術を扱う個体……!?連携まで取るの!?)」

 爆風に晒され、そこへの追撃。
 私は体勢を立て直しきれていなかったため、徐々に追い込まれる。

     ギィイイン!

「くっ…!…っ、しまっ…!?」

 一度弾かれるように間合いを取る。
 その瞬間、叩きつけるように斧を持った相手が攻撃してきた。

「ぐ……ぅ…」

 体勢を保てず吹き飛ばされる。
 身体強化の魔法は効いているため、怪我はない。だけど…。

「あ、アリシア……」

「…………」

 立ち上がる私の背後には、結界。
 つまり、どんどん校舎の方に追いやられていた。
 司はまだ足止めを喰らっている…。

「(……避ける、訳には…!)」

 結界がどれほど堅いかは知らない。
 だけど、皆の安心のためにも避けられない。
 そう覚悟して、襲い掛かる妖を迎え撃とうとして…。

     ドスッ!

「……え…?」

「まったく、無茶はダメだよー?」

 術を放とうとしていた個体、そして私に刀と斧を振りかぶっていた二体。
 計三体の頭が矢に貫かれる。
 同時に、目の前に黒色が。……これは…。

「……葵?」

「初の実戦お疲れ様。……選手交代だよ!」

 その黒は、葵のマントだった。
 私を庇うように立った葵は一気に槍を持った個体に肉迫し……。
 瞬時に、その体に風穴を開けた。
 見れば、残りの回復の術を使っていた奴も矢に貫かれて消えていた。

「無事かしら?しっかりしなさい」

「椿……戻ってきたんだ」

 いつの間にか椿も隣に来ており、私に治癒の霊術を掛けてくれた。

「……ちょっと、遅かったよ?」

「悪いわね。他県に行った際に、富士川の龍神を倒してたから時間がかかったわ」

「龍神……?」

 名前からして強そうな相手なんだけど…。
 いや、今はそれよりも…。

「妖は霊力に引き寄せられてるから、倒してもまたやってくるよ!」

「分かってるわ。…だから」

     ドスッ!

「倒し続ければ問題ないわ」

 ……ぼ、暴論だ…。確かにその通りだけど、私じゃスタミナが持たないや…。

「だ、誰…?」

「味方…?アリシアの知り合い……?」

「あの子、あの時弓道場にいた…」

 校舎の方からざわめきが聞こえる。
 ……って、一年の時の事を覚えている人いたんだ。

「葵」

「フォローし合う必要もない……ね。司ちゃんを助けてくるよ!」

「ええ」

 そういって葵は駆け、椿は弓を構える。
 そしてやってくる何体もの影の妖。…どうやら、二人に引き寄せられたみたい。

「…大丈夫なの?」

「誰に物を言ってるのかしら?……こと、妖に掛けては、優輝よりも熟知してるわ!」

 そういって放たれる矢。
 接近を許さない矢に、影の妖達も翻弄される。
 弓や術を扱う個体が応戦するけど、ものの見事に相殺され、貫かれる。
 偶に矢などがすり抜けてくるけど……。

「シッ!」

「(巧い……それに、冷静…)」

 椿の持つ短刀に叩き落される。
 相手の動きを知っているからこその冷静さと手際の良さに、校舎の皆も言葉を失うような驚きに包まれていた。

「アリシアちゃん!」

「司!」

 そうこうしている内に、葵に助力してもらった司がこっちにやってくる。

「頃合いね」

「じゃあ、行くよー。そー、れっ!!」

   ―――“呪黒剣”

 再び私達の前に立った葵が、レイピアを地面に突き刺す。
 そして、霊力で作られた黒い剣が大量に生え、妖を全て貫いた。

「一掃完了。………と、言いたい所だけど…」

「この気配は……」

 一気に妖を倒して、一段落着けるはずなのに、二人は警戒を解かない。
 むしろ、剣呑な雰囲気が増していた。

「既に交戦してる…優輝ね」

「相当な激しさだね。音がここまで響いてくるよ」

「優輝君が?…相手って、一体……」

 二人の言う通り、何かをぶつけ合う音がここまで届いていた。
 戦闘による砂塵も遠くで巻き起こっていた。

「……幽世の門の、守護者」

「門から離れるタイプは珍しいけど…ね」

 良くは分からないけど、所謂門番やボス的存在なのだろう。
 そして、ソレはついに姿を現した。

「くっ……!」

     ギィイイイイン!!

 優輝が“ダンッ!”と叩きつけられるように校門前で着地する。
 着地の反動で再びこちら側へ飛び退くように跳び……そこへ大剣が叩きつけられた。
 一際大きな衝撃音と共に、優輝は私達の近くまで追いやられる。
 ……それも、剣をきっちり受け止めた上で…だ。

「(なんて力…。受け止められた上でここまで押し込むなんて……)」

 とんでもない力を出している相手は、一体誰なのか。
 確認しようとした瞬間…。

「……嘘、どうして……」

「ありえない……。だって、貴女は……!」

 葵、椿と信じられないと言った声を漏らす。
 そして、受け止めた際の砂塵が晴れ……。





「っ――――!?」

 私と司……多分、確認した人全員も驚愕で言葉を失った。

 ……だって、優輝が戦っていた相手は……。







「嘘……死んだはずじゃ……。………緋雪、ちゃん……」

 既に、死んだはずの緋雪だったからだ。













 
 

 
後書き
影法師(かげぼうし)…常世に交わった現世の者の形を取る。その者が“辿ったかもしれない過去”まで遡って姿を取るらしい。(かくりよの門敵解説より抜粋)。つまりは陰陽師の姿を模倣し、その力も扱う。この小説では他の妖と一線を画す強さを持つ。(ただし霊力の強さで上下する)

戦技・強突…突属性の突き技。霊力を込めて威力を上げている。投擲でも使える。

火焔地獄…火属性の全体術。広範囲の炎で敵を焼き尽くす。

Flèche(フレッシュ)…フランス語で“矢”。祈りを込めた矢を放つ。

銃…魔力を使わず魔力弾が放てる銃。名前はまだ本編では決まってないが、魔弾銃と呼ぶ。砲撃魔法を撃てるタイプもあり、そちらは魔砲銃と呼ぶ。威力は基本的に割と高め。本編で使用しているのは並の魔導師の三倍程の威力。

富士川の龍神…見た目は蛇型の全身赤い龍。何気に一定時間経つと即死する毒を単体に付与する“宣告”と言う技を使ってくる。……が、本編では椿と葵に屠られた。


今回はだいぶ視点がコロコロと変わる事になりました。
三人称視点で全体を描写するのはさすがに力量不足だと思ったので……。
ついでとばかりにレイドボスを屠っている椿と葵。
まぁ、知っている妖なので対処余裕です。(作者もソロ討伐余裕ですし)
そしてまた現れた緋雪(敵ver)。ぶっちゃけ出しやすいです。 
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