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木ノ葉の里の大食い少女

作者:わたあめ
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第一部
第三章 パステルカラーの風車が回る。
  仲間

「多重影分身の術ッ!」

 緑の葉を生やした枝の間を瞬く間に埋めつくオレンジ。すう、と我愛羅が息を吸った。口だけでなく、砂色の胴体のあちこちに尖った歯を持った口が開き、そしてその口から同時に砂の入り混じった風が吐き出される。

「――無限砂塵大突破!」

 砂色の体にあいたいくつもの口やその本来の口から一斉に発せられる砂を孕んだ風に、ナルト本体が吹っ飛び、分身体が一瞬にして消え去った。大樹の幹に辛うじて捕まったナルトに向かって我愛羅が砂手裏剣を放つ。木々が抉られ、ナルトも一緒になって吹き飛ばされた。

「なんなんだ……」

 ナルト、と。気絶したはずのサクラの口から発せられた言葉がナルトの耳に届く。我愛羅の更なる砂手裏剣の攻撃に、ナルトはベキベキと木々の枝をへし折り、ぶつかる。

「なんなんだ……」

 ナルト、と。苦しみながらのサスケが、こちらは意識がある分サクラのよりも強い調子で。我愛羅の砂手裏剣が再びナルトを吹っ飛ばす。喉の奥に魚の骨が突っかかったかのような不快感。喉元近くにせりあがってくる感情が爆発しかけている。

「なんなんだ、この気持ちっ……」

 更に砂手裏剣。仰向けにばったりと倒れたナルトの体は、ケイとの戦いでチャクラを吸われた所為で疲労し、我愛羅の術を受けた所為で痛みを孕んでいる。しかしそれすら忘れ去ってしまうほどに、喉元に突っかかった感情は激しい。

「っちくしょー……ちくしょぉおお……!」

 上半身を起き上がらせ、むっくりと立ち上がる。

「なんなんだってばよ、このこみ上げて来る感じは!」

 ――ナルト
 視界に入るのは我愛羅。理性と正気を捨てて狂った化け物の姿を選んだ少年の暗く孤独な瞳。サクラ。弱く非力ながら果敢にも我愛羅に立ち向かったチームメイト。そしてサスケ。里を守る為に、呪印を開放してでも全力で戦ったチームメイトは、苦しみながらもじっと目で我愛羅とナルトの戦いを追っていた。目が合う。
 彼も孤独だったのかもしれない。苦しい過去があったのかもしれない。今もなお暗く淀んだ水底で息を詰めているのかもしれない。だからって自分の大切な仲間を傷つけ、それを喜び、楽しみ、彼らを殺すことを自分の生を実感するためだと言う彼を許せない。

「なんでだか、お前だけには……っ」

 喉元で爆発する感情。

「死んでも負けたく、ねえ……ッッ!!」

 +

 がっ、と。日向宗家の屋敷の塀が破られる音がした。紅丸が唸る。マナがクローゼットを開け、目を覚まさないリーとユヅルを中に隠す。白眼で外に居る者を感知したヒナタが緊張気味に「敵です」と告げる。

「招かれざるお客さん……、ってかぁ? ――行くぜヒナタ。病み上がりだからってアタシらものうのうとしてらんねえ!!」
「わ、わかってる……!」

 +

 干柿鬼鮫とうちはイタチ。あの二人がジャシンの言う暁なのだろうか。消えた二人を追おうか一瞬迷ったが、今は大蛇丸を倒すのが先だろうと判断をし、自来也と綱手は走り出した。

 +

「私の水遁を相殺する……土遁か」

 ずざ、と足元で砂埃が立つ。土遁による攻撃はあっさりと水遁を打ち消してしまった。はじめは歯を食いしばり、印を組む。いつも組んでいるそれとはまた違う印。
 修行で何度か練習していたものの実践で使うのはこれが最初だ。それでも躊躇う暇はない。森のどこかでサスケ達が里を守るために奮闘しているのを、彼は知っているから。

 +

 サクラを締め付ける砂は、我愛羅の言葉どおりに彼女を圧迫し続けているようだった。サクラの口からは一筋の血が滴っている。まずは彼女を助けるのが先決と判断し、ナルトは起爆札をクナイの柄にまきつける。
 影分身の術を発動し、我愛羅に向かって飛び掛る。

「行くぞっ! 体術奥義、うずまきナルト影分身体当たりっ!!」

 我愛羅がニタリと笑った。右腕を伸ばして三体の影分身を掴む。今だ、と叫ぶ声に合わせて一人のナルトが我愛羅の腕の上に立ち、その上に立ったもう一人のナルトが高くジャンプ。もう一回影分身の術を発動する。迫る我愛羅の左腕がその影分身を掴み、我愛羅の腕を蹴って地面に向かってとんだナルトは空中でもう一度影分身を発動、影分身の背を蹴って飛び上がり、不可能な空中での方向転換を可能にする。

「食らえッ! カカシ先生から教わった体術奥義・千年殺し!」

 ぶすりと、ナルトの手にしたクナイが我愛羅の巨大な砂色の尻尾の真下に突き刺さった。ガマ吉もサスケも揃ってぽかんとし、「ただのカンチョー……」とガマ吉が呟く。ツッコミ担当のサクラが起きていたら即座に「カカシ先生ったら何教えてるのよ!」と突っ込んだかもしれない。もしくはサスケと一緒になって呆れかえったかもしれない。両者共に全く突っ込めない状況下で妙にコミカルなその場面、我愛羅がナルトを振り返り、そして尻尾でナルトを殴り飛ばした。
 吹っ飛ぶナルト。かは、と血が口から出た。と同時に爆発が起こる。我愛羅に突き立てられた起爆札つきのクナイが爆発したのだ。受身も取れずに飛んでいくナルトは相当の衝撃を覚悟したが――衝撃は思った以上に軽かった。振り返ればサスケが自分の背後に倒れている。どうやら自分と木の間に挟まることでナルトにくる衝撃を緩和し、ダメージを和らげてくれたようだった。

「……サスケ」
「……ウスラトンカチが」

 煙が晴れる。我愛羅の体の左半分は砂となって瓦解していた。サスケが悪態をつく。

「あんだけやってやっと一発かよ……」
「うるせーってばよっ」

 サスケの言葉にふいっ、と顔を逸らす。だが、あれはよかった、とサスケが呟いた。

「まだ砂に覆われていない下半身は一番防御が薄かったみたいだしな……」

 見れば大樹の幹は大きく抉れ、枝の上に砂がさらさらと音を立てて流れ落ちている。我愛羅の砂色の左半身が砂に帰すのとは反対に、サクラを締め付ける砂の手は以前として彼女を圧迫し続けている。彼女の顔が再び、苦痛に歪む。

「おい、ナルト。……サクラはお前が意地でも助け出せ。そして助けたら、サクラを担いでさっさと逃げろ。――俺なら、やれる」
「サスケ……お前」
「そしたら……今の俺でも足止めできる! ここで終わるなら……俺もそこまでの奴だったってことだ」

 黒い服の後ろに浮かぶうちはの家紋。ナルトはただ呆然とそれを見上げた。

「俺は全てを一度失った。……もう、俺の目の前で……大切な仲間が死ぬのは――見たくない」

 たいせつな、なかま。ナルトが呆然と呟く。認めてくれた。サスケは自分やサクラのことを大切な仲間だと、認めてくれた。
 同時に脳裏に蘇る記憶の数々。Cランク程度だと思っていた任務が危険なものだとわかったとき、「俺の仲間は絶対殺させやしないよ」と笑ったカカシや、サスケを守る為に必死にクナイを構えたサクラの姿が思い浮かぶ。

「そうか……そうだってばよ」

 拳をぐっと握り締め、立ち上がる。左半身が完全に崩れた状態で我愛羅が振り返った。

「自分に似てるから。同じような寂しさとか悲しさとか感じて、生きてきたから。――そんな孤独の中で自分の為だけに戦い続けてきたあいつを強いと、俺は思った」
「……ナルト」
「でも、本当に強いって、そんなことじゃなかったはずだ。自分のために戦って、本当に強くなんか、なれねえんだ」

 いつぞやの波の国。であった白という、華奢で女性らしい顔立ちの少年が問うた。君には大切な人がいますかと。そして言った。人は、大切な何かを守りたいと思った時本当に強くなれるものだと。
 その少年は血継限界をもち、とても高い実力を持っていた。――彼は再不斬を大切に思っていた。だからこそあんなに強かったのだろう。再不斬が重傷を負い、両腕を使えないながらもガトーを倒し、その部下を蹴散らすまでの力を残していたのも、きっと彼が自分が白を大切に思う心に気づいたからだ。
 ナルトも今、思い出した。そうだ。自分は守るためにきた。里を。そして、仲間を。
 印を組む。全身からあふれ出すチャクラにサスケが目を見張る。
 ――絶対、守り抜いてみせるってばよ!

「多重影分身の術ッッ!!」

 緑の森を埋め尽くすオレンジ色は、先ほどよりもずっとずっと輝いて見えた。
 
 

 
後書き
なんていうか、旧七班は波の国から木ノ葉崩し、つまりここら辺くらいまでのが一番好きです。純粋な友情と絆、ってな感じで。早くみんな一緒になって欲しいなあ。 
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