提督はBarにいる・外伝
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サラトガ救出作戦~物事が片付く時にはアッサリと片付いたりする~
前書き
※今回も青葉視点です。
食事を兼ねた小休止の後も、司令は引き続き遭遇した敵を一方的に葬っていきます。それはもう無双ゲーでも見ているような気分です、えぇ。相手は所謂『人型』……重巡リ級や空母ヲ級、軽巡ツ級に戦艦ル級・タ級。人の形を為していない深海棲艦とは段違いの力を持った者達を、造作も無さげに斬り、叩き、へし折り、無力化していきます。もう司令が最前線に立てばいいんじゃないですかね?
「バカ言え、俺ぁ海の上にゃ立てねぇんだ」
戦艦ル級の首を斬り落としながらそんな事をぼやいてますよこの人。逆に言えば、そこさえ何とかなったら最前線に立ちたいって言ってるように聞こえますが?
「当たり前だろ、未だに女子供が前線に立たされてるのに反対なんだぞ俺ぁ」
そうでした、司令はフェミニストなんですよね……顔に似合わず。そんな失礼な事を考えながら、青葉達は林の中へ分け入っていきます。暫く進むと、司令がサッとしゃがみこんで『止まれ』と合図してきます。
「どうしたんです?」
青葉が小声で話し掛けると、司令は口を閉じたまま前方を指差しています。そっちを見ると、ポツンと立てられた小屋が1つ。その周りには深海棲艦の姿が複数。明らかに大切な物を警護してます~って雰囲気ですねアレは。
「どうやらビンゴだな……よし、青葉はここで待機。周りのを片付けたら一旦戻ってくる」
「了解です!」
そう言って司令は青葉の隠れる茂みから離れると、小屋の近くに生えている木の上にスルスルと登っていきます。そう言えば熊も木登り得意なんですよね、ハチミツ採ったりするらしいですし。司令もあの体格で音もなく登っていくとかマジで人間なんでしょうか。恐らく狙いは木の下辺りに立っている戦艦タ級……まさか木の上に敵がいるなんて考えもしていないのか、上への注意が全くされていません。あ、木の上から飛び降りて奇襲をかけてます!おんぶさせるような格好になって、鎖骨の隙間から刀を差し込んでます。うわぁ……あれじゃあ心臓を一突きですよぉ、深海棲艦に心臓あるのか知りませんけど。でも崩れ落ちてる所を見ると、しっかりとトドメは刺せてるみたいですけど。……あ、司令気付かれたっぽい。小屋の周りを囲んでた深海棲艦が提督の方に走って行きます。何で隠れないんですか司令!隠れてやり過ごして、また奇襲を掛けましょうよ!ってあら?アッサリと襲い掛かってきた深海棲艦を倒しちゃってるし。刀に付いた血を拭って、鞘に収めた司令がこっちに戻ってきます。
「……ふぅ、ちっと手間取ったな。どうした青葉?呆然とした顔して」
「いえ、何でもないです」
もういいです、司令に常識を求めた青葉がバカでした。
「さてと、小屋の中には恐らく捕まってる連中と、それを見張る深海棲艦が1~2人ってトコか」
「ですねぇ。入り口は1つ、安全を確保しつつ人質の身柄を確保するのは難しいのでは?」
「ん~……いや、イケるな。青葉、お前小屋の裏手に回って鉄パイプか何かで壁を叩く準備しとけ。俺が小屋のドアをぶち破った5秒後位に思いっきり壁を叩くんだ」
「は、はぁ」
何だかよくわからない指示ですね。でもこの司令に限って無駄な指示は出すはずが無いですからね。その指示を信じてやってみるとしましょう。
見つからないように静かに小屋の後ろに回り込み、そこにおかれていた鉄パイプを手に取って、タイミングを計ります。まだかまだかと少しイライラし始めた頃、小屋のドアがバァン!と破られる音がしました。司令が中に飛び込んだようです。
(1…2…3…4…5!今だ!)
青葉は持っていた鉄パイプで壁を叩きました。手が痺れましたが、ガン!と金属同士をぶつけたあの鈍い音が響きます。それと同時に小屋の中も静まり返ります。まさか、司令やられたんじゃ……?と、壁をコンコンとノックする音。
「聞こえてるか~?青葉」
「はい!聞こえてますよ司令」
「対象を発見した。保護したら全員西の海岸に向けて全力で進めと通信を入れろ」
「了解です!」
青葉が通信を入れている間に、司令は小屋の中から拘束された状態の人達を連れ出して来ました。アメリカ海軍の制服を着た男性数名の中に、白のセーラー服?を着た女性が1人混じっています。アレが噂のサラトガさんでしょうね、多分。
「連絡は着いたか?青葉」
「あ、は、ハイ!バッチリです!各小隊長に連絡を回すようにと」
「よっしゃ、んじゃ俺達も西の海岸までトンズラこくぞ」
先頭に司令、間に捕虜の皆さんを挟んで殿が青葉です。捕虜が奪われたと敵にバレれば追いかけ回される可能性が高いので、出来る限り素早く移動します。先頭にいる司令が出会した相手はバッタバッタと倒してくれるので、楽チンでいいんですけどねぇ?捕虜の皆さんが司令の暴れっぷりに恐れを成しているようなんですが……いいんですかね。
「ところで司令、あの小屋で青葉に指示したアレ……何の意味があったんです?」
「ん?あぁ、壁をぶっ叩けって言った奴な。ありゃ陽動だよ」
「陽動?」
「中に敵が居たとする。その場合、俺が飛び込んだら俺に意識が向く。俺も蜂の巣にされるのは勘弁だからな、俺が飛び込んで数秒後にお前が壁を叩いて大きな音を出す。陸戦に慣れてない連中の事だ、絶対に気を取られる。そこをサクッとな?」
簡単に言ってますが、それを実行できる人がどれだけいるんでしょうか?意識を逸らした一瞬でトドメを刺す技術も必要ですし、何より動じない胆力が必要です。
「ま、あの手も高校の時に暴走族の総長とタイマン張った時に使った手でな。だってあいつ等汚ねぇんだぞ?タイマンって言ってたクセに、倉庫の中で30人で待ち構えてやがってよぉ」
何てバイオレンスな学生時代過ごしてるんですかこの人!?
「まぁ、罠だってハナから解ってたからな。ダチ2~3人連れてってさっきの陽動やってもらって、その隙に総長をボコったら半分以上は怖じ気付いたんで残りは楽だったがな」
ケケケ、と笑いながら語る司令。暴走族の方々も、1vs1じゃ勝てないと思って人数揃えたんでしょうね……無意味でしたけど。
「お、見えてきたな」
そんな話をしながら歩いている内に、集合場所として指定されていた西の海岸に到着しました。
「てーとく、遅いでちよ。危うく置いて帰るトコだったでち」
「すまんなでち公、こっちは対象連れてたから足が遅かったんだよ」
「だ~か~ら~、ごーやはでち公なんて名前じゃないっていつも言ってるでち!」
「わかったわかった、落ち着けでち公」
ムキイイイィィィィ!と怒りを顕にしているのは、潜水艦のゴーヤこと伊58さん。ウチの鎮守府には何人か居ますが、この人は一番古株のゴーヤさんで、司令にしょっちゅう噛み付いてます。
「はぁ……もういいでち。ゴムボートの準備は出来てるから、とっとと乗りやがれでち」
「おぅ、済まんな。他の連中は勢揃いか?」
「てーとくがドンケツでち。他の皆は避難してた住民も連れて、沖に停泊してる病院船に乗ってるでちよ」
「びょ、病院船!?どこからそんな物を……」
「どこって、ブルネイ政府だよ。人道的支援の為にって快く出してくれたぞ?」
司令が言うとどうにも嘘臭いです。
「……で、本当の所は?」
「アメ……ゲフン、某国に余計な茶々を入れて欲しく無かったんでな。ブルネイ政府を抱き込んで、大事にしちまえば向こうは手出ししにくいだろ?」
ブルネイ政府が出したという病院船を撃沈したとなれば、撃沈した国は非難が集中する。そして私達は名目上、その護衛として堂々と船に乗り込む事が出来ると。ははぁ、考えましたねぇ。
『あ、あのぅ……』
それまで理解が追い付いて無かったのか、終止無言を貫いていたサラトガさんが、漸く口を開きました……英語でしたけど。
『助けて頂いた事は感謝しております。でも貴方は一体……?』
『あ?自己紹介して無かったっけか?俺はブルネイにある日本海軍の泊地を取り仕切ってる提督だ。君達の身柄はウチが一時預かる事になってるんだ、よろしくな』
そう言って司令はサラトガに右手を差し出しました。サラトガさんも少し戸惑いつつ、握手に応じてます。
「だから、とっととボートに乗るでち!」
あ、忘れてました。
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