批判
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第五章
「自分達を一切顧みないのですから」
「それでだね」
「腐敗します」
「我々にしろ腐敗していると言われたがね」
言うまでもなくあの新聞にだ。
「けれどだね」
「はい、実はです」
それはというのだ。
「彼等こそが最も腐敗していまして」
「それでだね」
「そいの腐敗が進んで」
「ああなるんだね」
「過激派とつながり偏向していって」
そしてというのだ。
「信頼を失います」
「自業自得の結末だね」
「まさにそうですね」
真央ははっきりと答えた。
「あの新聞にしても」
「何でも社内でも相当あるみたいだね」
新聞社自体についてもだ、奈良橋は言及した。
「意図的な捏造記事や虚報、それに恐喝や取材時の暴力行為等ね」
「組織として腐敗していますね」
「我々より遥かに腐敗しているね」
「全くですね」
「他人を批判する者は自分達こそ腐敗する」
奈良橋の口調はしみじみとさえしていた。
「それが現実だね」
「そうですね、実はです」
「実は?」
「私は子供の頃マスコミは正義だと思っていました」
真央は自分の席から子供時代の自身の考えも話した。
「悪を見付け出して私達に知らせてくれる」
「けれどそれがだね」
「違うと。そのことを教えてくれた母にさらに言われまして」
「気付いたんだね」
「そうでした」
今度は中学時代のことも話した。
「そして今に至ります」
「そうだったんだね、いや君のお母さんこそね」
「母が」
「出来た人だね」
奈良橋は微笑みそのうえで真央に話した。
「自分の過ちを認めたうえで君に教えてくれたからね」
「だからですか」
「他人を好んで批判する者こそ注意しろ」
マスコミがその格好のサンプルだった、この場合は。
「考えてみれば論語の頃からだね」
「論語ですか」
「孔子が弟子に言っていたんだ」
論語の主人公と言っていい彼がというのだ。
「他人のことをいつも言う御前は偉いのだな、とな」
「皮肉ですね」
「そう言っていた」
実際にというのだ。
「その頃から言われていた頃だな」
「人のことを言う前に自分をですね」
「そういえば説教が好きな人間に大した人間はいないよ」
奈良橋はこのことも気付いた。
「つまり自分のことをあれこれ言う前にね」
「自分を振り返れですね」
「そういうことだね、自分を振り返らないと」
他人のことばかり見てだ。
「肝心の自分自身が駄目になる」
「まさに本末転倒ですね」
「そしてあの新聞もそうだね」
「まずは自分達を振り返ることですね」
「そういうことだね、そして我々も」
奈良橋は公務員としての自分達、そして県庁のことをここで考えた。
「まずはね」
「自分達を見る」
「そうしてやっていこう」
「その通りですね」
真央は奈良橋のその言葉に確かな顔で頷いた、そのうえで真剣に自分自身も県庁も見詰めつつ仕事に向かうのだった。
批判 完
2017・4・24
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