恋姫伝説 MARK OF THE FLOWERS
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93部分:第九話 陳宮、呂布と会うのことその三
第九話 陳宮、呂布と会うのことその三
「ねねはその時村にいなかったのです。今帰って来たばかりなのです!」
「嘘つけ!」
「そんなこと信じるか!」
「御前は他所者だしな!」
このことも言われるのだった。
「だから何をしても平気だしな」
「ここにはただいるだけだからな」
「そんな、ねねは」
「出て行け!」
遂にこう言われたのだった。
「いいな、二度と来るな!」
「さっさと出て行け!」
「そんな・・・・・・」
こうして陳宮は村から追い出された。犬も一緒である。それからの彼女は酷い有様だった。
あちこちを放浪した。旅芸人の手伝いも煙突掃除もやった。へとへとになり真っ黒にもなった。だが荊州の牧袁術は問題のある人物である。景気は悪く孤児が生きるには難しい場所だった。
「来るな、帰れ!」
「うちには雇う余裕なんてあるか!」
ある料理店に雇ってもらおうとするとだった。店の者達に叩き出されたのである。
そしてだ。店の裏口で罵られたのだ。
「この不景気に他所者を雇う余裕なんてあるか!」
「とっとと行け!」
「邪魔なんだよ!」
「邪魔だなんてそんな」
陳宮は追い出され泥だらけになりながら店の者達に言った。何とか起き上がってだ。
「ねねはただ御飯を食べたいだけなのです。それだけなのです」
「じゃあ他に行け!」
「他に行って食え!」
「ここにはそんなものあるか!」
「この物乞いが!」
「ねねは物乞いじゃないのです」
こう言っても無駄だった。
「ねねはただ御飯を」
しかし彼女は追い出された。そして流浪の日々を送り続けた。空腹が限界に来たある日だった。
その時犬と一緒に森の中を歩いていた。森の中で犬がふと声をあげた。
「ワン」
「どうしたのです?」
「ワン、ワン」
こう言ってであった。すぐに森の中の紫陽花のところに駆け寄ってだ。そうしてそのうえでそこにいる蝸牛に近寄って食べるのだった。
「御前はそれを食べたらいいのです」
陳宮はその彼を見ながら寂しい笑みを浮かべていた。
「けれどねねは。今は」
その寂しい笑みのままだった。どうしようもなかった。そしてその日の昼だ。彼女は犬と共にある廃寺に入った。そしてそこで力尽きた。
「もう駄目なのです・・・・・・」
「ワオン・・・・・・」
「ねねはもう疲れたのです」
うつ伏せに倒れ伏しての言葉だった。
「このまま寝たいのです」
「わん・・・・・・」
犬も一緒だった。そのまま眠ろうとする。上から十二人の小さな天使達が舞い降りようとする。しかしその時にであった。
不意に寺の壁から光が差し込んでいるのに気付いた。そしてそこから。
「これは・・・・・・」
「ワン?」
「魚を焼く匂いなのです」
それに気付いたのだった。
すると急に元気が出た。犬と共に寺を出てそのうえで匂いがする方に向かった。そしてそこに辿り着くとそこには火で魚を焼く美女がいた。
そこに無意識のうちに駆け寄った。すると彼女が陳宮に声をかけてきた。
「食べる?」
「えっ・・・・・・」
「一人で食べるより皆で食べた方が美味しい」
こう言ってきたのである。
「だから」
「ね、ねねは物乞いではないのです」
しかし彼女はここで誇りを取り戻した。そうしてだ。
美女のその得物を自分の服の袖で磨きはじめた。そうして自分が物乞いなどではなくちゃんと働くということを示してみせたのである。
そのうえで言うのである。
「こうして働いているのです」
「そう」
美女はその彼女を静かに見ながら。そのうえで魚を差し出してきた。
「磨いてくれた分」
「あ、有り難うなのです」
「お魚は幾らでもある」
見れば確かに何匹もあった。犬にも分けている。
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