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ダンジョンに闇の王子が迷い込むのは間違っているだろうか

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1章 兎との出会い
  プロローグ

 ずっとずっと昔のこと、はるかな天空に浮かぶ、美しい王国。

 その玉座で丸まる気高き白猫に、泥にまみれた黒猫が──恋をした。



 それが、すべてのはじまり。







「はぁっ……はぁっ……」


 漆黒の髪と翼をたなびかせ、青年《グレン》は、天空の大陸を目指し、大空を高速で飛ぶ。
 しかしその空は青くなく、無数の魔物で埋め尽くされ、天空の大陸が見えないほど黒く塗りつぶされていた。


 その時、魔物が一斉にグレンの存在を察知する。


「……っ!」


 グレンの身に、数千を超える魔物の大軍が押し寄せてきた。


「……っ! 邪魔を、するなぁぁ!!」


 しかし彼も黙ってはいない。
 背に背負われた真紅の大剣を握り締め、大声とともに横に薙ぐ。
 その圧倒的すぎる力に、魔物はなす術もない。
 巨大な爆風が起こり、次々と魔物が消滅し、たった一撃でほとんどの魔物が消え去った。
 魔物の壁がなくなったため、天空の大陸が微かすかに見える。

 すかさず剣を背負い直し、弾かれたように再び大陸を目指す。


「頼む、間に合ってくれ! ──《アイリス》──!」







「はぁっ……はぁっ……」


 息を切らしながら、グレンは走り続ける。

 アイリスはどこにいる!? 絶対に助ける!

 走りに走ってたどり着いたのは、『始祖のルーンの間』。
 グレンはためらわずに、そこの扉を勢いよく開ける。


「──!!」

「!」


 ……いた、アイリスが。
 銀の髪をたなびかせ、こちらに振り返る。
 しかしその顔は、驚きと悲痛で染まっていた。


「そんな──」

「……?」

「ごめん……なさい──」


 微かに聞こえる謝罪の声。
 しかし、その意味も考える時間すらなく、大きな地響きが襲いかかってきた。


「……!?」


 それと共に、『始祖のルーン』が砕け散り、大量の『光』が放出される。

 ボロボロと翼が朽ちていく。全身に焼けるような痛みを覚える。

 そんな中で、アイリスのたっている地面が崩れ始めた。


「──!!」


 このままじゃ、アイリスが……!
 そう感じたグレンは、最後の力を振り絞って、彼女の元へと走る。

 全力で手を伸ばす。しかし、届かない。

 やめてくれ……やめてくれ!

 最悪の結果は避けたい。せめて彼女だけでも助けたい。
 しかし──








「──さよなら、約束の人──」








「──!? アイリスーーーーッ!!!!!」


 現実は、甘くなかった。
 アイリスはどんどん落ちていく。
 今の翼では、助けに行くことすらできない。


「……間に、合わなかった」


 約束、したのに……! 俺の、せいで!
 悲しみに狂い、己を否定し始める。
 しかし、そんな時は、すぐに終わった。


「おのれ……! まさか、『始祖のルーン』ごと、天空大陸ごと……!」

「……!?」

「だが──」


 いやらしい声を放つ、一つ目の怪物。


「あとほんの少し──」


 禍々しき姿とオーラを纏った異形の存在。


「足りなかったなぁ!?」


 《闇の王》……! まだ生きていたのか!?
 ──ならば!!


「うおおおおおおっ!!」

「!?」


 闇の王の、むき出しの心臓に向かって、グレンは剣を突き刺す。


「……き、貴様あああああっ……!!!!」

 闇の王の、巨大な掌が、グレンの頭を鷲掴む。
 しかしそれに怯まず、剣をさらに奥に突き刺した。


「がああああっ……!」

「共に滅ぼう──それが、彼女の望み!」


 遂に彼らの下の地面が崩れ始める。


「消えろぉおおおおっ!!」

「……お、おのれぇえええ……」


 闇の王とともに、地上へと落下していく。
 その時グレンは、走馬灯のように、彼女のことを思い浮かべた。


「さよなら──アイリス……」







「今日はたくさんじゃが丸くんをゲット出来た! 待ってろベルくん! 今帰るぜ!」


 ここは、世界で唯一ダンジョンを所持する巨大都市、迷宮都市『オラリオ』。

 出会いとロマンの詰まったこの都市には、ある一つの超常現象が起こっている。
 それは、『神』が存在しているということだ。


「ふんふふーん♪」


 鼻歌を歌いながらスキップをする少女、女神《ヘスティア》。
 その幼い容姿には、似つかわしくない豊満な『胸』を揺らしながら、帰路についている途中。


「ふんふ……!?」


 その時、目の前で倒れ伏せる一人の青年を見つける。


「だ、大丈夫かい!? ……っ!!」


 近づいた瞬間、強く感じた、禍々しいオーラ。
 牙を隠した獣のように、うちに秘められた殺気に、神としての本能が察する。

 ──この子は危険だと。

 しかし、不思議と彼が暴れるとは思えなかった。
 これは、女神としての、ヘスティアとしての勘。

 本能と勘。似て非なる2つの考えに、若干の戸惑いを感じる。

 しばらくの考察の後、彼女の出した決断は──


「……連れて帰ろう」


 神としての本能ではなく、女神としての勘を信じた。
 青年の肩を担ぎ、足を引きずりながらも連れ帰る。

 ──この頃はまだ、ヘスティアには……いや、ほかの神にも感じ取れなかった。
 彼がその気になれば、この世界が一瞬で消えてしまうことに。 
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