魔法少女リリカルなのは ~黒衣の魔導剣士~ 外伝
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蒼雷の恋慕 FINAL
家に帰宅した我はレヴィを先に風呂に入れ、その間に明日必要な仕込みに取り掛かった。
朝一で弁当を渡したりするわけではないが、昔からこの手の作業をしていた身としては明日すればいいとは思えぬ。食べてもらうならば少しでも美味しいものを食べてもらいたいと思うのが人の性だ……別に他意はないぞ。
仕込みが終わりに差し掛かった頃、風呂からレヴィが上がった。ずいぶんと時間が掛かったようにも思えるが、レヴィの髪は我よりも長い。昔から異性に対する意識はあれだが、身なりには気を遣っておったのだ。そのへんを考えれば別に風呂が長くなるのもおかしくはない。単純に風呂場で寝ぼけていた可能性も否定はせぬがな。
その後。
今日のレヴィの話は長くなりそうであるが故、我も仕込みを終えるとすぐに風呂に入ることした。その前に小腹が空いた言ったレヴィに軽く余り物で作ってやったが……まあこれはそこまで詳しく説明することもあるまい。もしも泊まりに来たのが小鴉だったならば、部屋の中を散策されないために全力であれこれするがな。
「……よし」
明日の準備を終わった。風呂にも入った。本来なら読書をするなり、テレビを見るなり個人の時間を過ごして寝るだけだ。
だが今日はレヴィが居る。
しかも昔から彼女を知っている身としてはいったいどうしたのだ? と言いたげなことを聞きたいと泊まりに来たのだ。聞くまで寝かせないと言っておったし、一度決めたらなかなか折れぬ奴だからな。ここは我も覚悟を決めなければ……
「ふぁ~…………ん? べ、別に眠たくはないからね。ちゃんとまだ起きてるから!」
いや……今確実に貴様はあくびをしておっただろ。しかもかなり大きなあくびを。これは寝させようと思えば寝るのではないだろうか。
正直我も疲れておるし、あまり生活習慣を壊したくはない。明日は仕事がないとはいえ、ここでの狂いが体調に影響を与える可能性はゼロではないのだ。バイトならばまだしも店の店主……ろくに従業員もいない状態の今、営業日に我が休むなんてことあってはならぬだろう。一般常識的に考えても……。
「レヴィよ、本当に今日聞かねばならぬことなのか? 我の記憶が正しければ、貴様も明日は休みなのだろう。ならば明日でも良いのではないか?」
「そ、それは……でも早めに知りたいし、王さまは堂々としているようでこの手のことではヘタレ。昼間だとあれこれ理由を付けて先延ばしにするかもしれないから聞くなら夜に……って、はやてんが言ってたし」
……誰がヘタレだぁぁぁぁぁぁッ!
別に我はヘタレなどではない。小鴉、貴様は我の何を知っておるのだ。確かに明るい内にこの手の話題を振られたら恥ずかしいが、夜でもするのは恥ずかしい。だが我が友が真剣に聞いてきたらならば時間など関係なくちゃんと話すわ。さすがに場所は選ぶがな。誰にでも聞かれて良い話でもないが故に。
大体ヘタレなのは貴様の方だろう。
昔は散々否定しておったくせにずっとあやつに片想いしておって、そして今では自分の家に招いたり、デートに誘ったりとアプローチはしておるくせに未だに告白には至ってはおらぬ。ヘタレというなれば貴様の方であろう。
……まあ……アプローチするだけ我よりはヘタレではないかもしれぬが。
我はデ、デートに行こうなどと誘えぬし、言えても買出しを手伝ってもらったり……弁当を差し入れてやるくらいだ。あやつと同じ土俵に立っているとも言えぬ。
そういう意味ではあやつの積極性(一部ヘタレだが)は認めておる。しっかりとした恋バナなんてせぬし、あやつを目の前にしたら意地でも言わぬ気がするがな。
しかし……どうしたものか。
もう我らは学生ではない。早いものならばすでに結婚し子供が居てもおかしくない年齢だ。まあ結婚せずとも子供が居てきちんと育てておる者なら我の共にも居るのだが。
我の見立てが正しければ……小鴉以外にもあやつに気がある者は多い。面と向かって聞くと否定しそうだがなのはやフェイトはそうであろうし、シュテルも気があるように思える。確信が持てぬ部分もあるが……あやつのショウに対する態度は他の者と比べて明らかに違う。
だがあやつは仕事柄誰よりも有利な立場に居る気がするし、なのははヴィヴィオがショウを父のように慕っていて実際に父親になってほしいと願っておるだけに何かと誘える立場だ。フェイトは仕事が仕事だけに会えぬ時間も多いが、本気で会いたいと思えば凄まじい速さで仕事を終わらせそうではあるし、一部ではあやつも積極的だからな。昔から水着などは大胆なものが多かったし……覚悟を決めたら最も手ごわいかもしれぬ。
「王さま?」
「べ、別に何でもない。百面相だってしておらぬぞ!」
「ボクは何も言ってないよ。百面相はしてたけど」
「しておらんと言ったらしておらん!」
「分かった、分かったから落ち着いて。ボクが悪かったよ!」
まったく……どうして貴様はそうさらりと余計なことを言うのだ。悪気がないのは分かるが、悪気がないからこそ余計に悪い時もあるのだぞ。我は貴様の今後のために怒っておるのだからな。
……いや正直に言おう。迂闊に何か言われるとポロリと変なことを言ってしまいそうだったが故に誤魔化したのだ。今のはレヴィよりも我が悪い。
「いや……我こそすまぬ。……こほん、気を取り直して話をするとしよう。眠気のない内に答えた方が良いだろうからな」
「うん、眠たくなったらせっかく聞いても頭の中に入って来なかったりするし」
それも理由ではあるのだが……寝ぼけて変なことを言ってしまっては取り返しがつかぬからな。レヴィは一般的なことならともかく、今から話そうとしているような話題のことはどれは話していいのか話してはならぬのか判断がまだつかぬであろうし。
「それでレヴィよ……貴様は好きの違いがどうとか言っておったが、具体的に何を聞きたいのだ?」
「えっとね、これまで色んな人に好きの違いとか聞いたきたんだけど……まだ自分の中でしっくりきてないんだよね。はやてんのおかげで何となく好きにも色々あるんだなってところまでは来てるんだけど」
「あやつとはそのような話をしたのだ?」
「それは……はやてんには特別な好きな人が居るみたいだから普通の好きとの違いとか、特別な好きって気持ちを抱いた相手のことをどう考えるかとか、結婚がどんなものかとかそこに至るまでの経緯とかかな?」
小鴉、今度貴様が店に来たときは何かサービスしてやろう。
そう我は人知れず決めた。我はレヴィがどのような性格なのかをよく知っておる。故に小鴉の話した内容がいかに大変で恥ずかしかったのか想像するのは容易い。
認めたくはないが、あやつはあれで我と似た感性のところがある。普段は自分勝手というか気さくに振る舞っておるが、相手にペースを握られると途端に打たれ弱くなるはずだ。レヴィは性格的に何事にも真剣に訪ねてくるが故に嘘を吐くのも心苦しい。そのため恥ずかしいが素直にあれこれ言ってしまうだろう……
「なるほど……ん? 時にレヴィよ、ひとつ確認したのだが」
「何?」
「貴様はどうして小鴉に特別な想い人が居ると知っておったのだ?」
好きの違いを明確に理解しておらぬ今のレヴィが他人に想い人が居ると理解できるはずがない。分かっても誰かと仲良しだとか、誰かと話す時は何だか調子がおかしくなるねといったくらいのものだろう。
にも関わらず小鴉に想い人が居ることを知っておった。小鴉に質問して居ると答えただけかもしれぬが、普通に考えれば誰かに聞いたと考えるべきだろう。あやつが自分のペースを乱すようなことをおいそれと言うとは思えぬし。
小鴉に想い人が居ると知っていそうな者……真っ先に上がるのはなのはとフェイトだ。あやつらは小鴉と長年の友であるのだから。しかし……ふたりとも性格的に他人に許可なくその手のことを言うとは思えぬ。アリサやすずかはレヴィと頻繁に顔を合わせておらぬだろう。
ならばシュテルか? ……いや、あやつは確かに人の事をからかいはするが、他人の想い人が誰かあっさりというほど腐ってはおらん。大事な一線は守る奴だ。無論、我もレヴィにその手のことを言った覚えはない。となれば……考えられるのは小鴉の家族達か。あそこはショウを小鴉の婿にと考えてる者が多そうだからありそうな話ではある。
「それは……その言わないって約束だから」
「ふむ……まあ良い。貴様にも貴様の付き合いがある。故に我もこれ以上は追及すまい。しかし……貴様は我に何を聞きたいのだ? 聞いた限り小鴉があらかた話しているように思えるのだが?」
「それはそうなんだけど……まだボクの中でしっくり来ないことも多くてさ。王さまと話したら良い感じにまとまるかなと思って」
なるほど……まあ線は通る話だ。知識を得たところで自分ひとりでは落とし込めぬ部分もあるであろうし、落とし込めるのならば色恋に疎くはないであろう。
故に我がすべきことはレヴィの話を聞いて考えをまとめさせてやること……本来ならばレヴィの母君が行うような立場のように思えるが、我は昔からこのような立場に居たのも事実。また家族よりも友の方が話しやすいこともある。あまり立場がどうのと考えぬようにしよう。
「あっ……」
「どうしたのだ?」
「いやその……はやてんが唯一教えてくれなかったというか、王さまに聞けって言ってたことがあって」
小鴉が我にだと?
長年の経験からか嫌な予感しかせぬがレヴィにとって大切なことかもしれぬし、レヴィが納得するためには必要な話なのかもしれぬ。ここは覚悟を決めて聞くしかあるまい……
「疑問が残ったままでは考えをまとめるのに余計に時間が掛かるかもしれん。故にさっさと申してみよ。我に答えられることなら答えてやる」
「ほんと!? じゃあ遠慮なく。えっとね、子供って何をしたら出来るの?」
「……うん?」
「だからね、子供ってどうやったらできるのかなって。精子と卵子と出会って受精卵になる。それで着床したら徐々に子供になる……みたいなことは分かってるんだけど、どうやって女性の身体の中に精子が入るのかなって。器具とか使ってやってる人はそんなにいない感じだし……」
レヴィの顔を見る限り本気で悩んでいるようだが、我の方が頭を悩ませているのは言うまでもないだろう。
話を聞く限り……レヴィが聞きたいのは男と女の営みに関してということ。つまりセッ……いやいやいや別に言葉にする必要はない。言葉にしたところで英語では性別という意味でしかないのだからな!
し、しかし……我はどうしたらよいのだ。
レヴィの今後を考えれば教えておくべきことだ。レヴィもいつかは恋をし、結婚して子を産む。相手側がリードしてくれるかもしれぬが、それでも全く知識がない状態で臨むのは恐怖心が増すかもしれん。一般的に初めての時は痛みを伴うと聞くからな。
だが……これを説明するのは死ぬほど恥ずかしい。我が母君のような年代ならば営みに関しても出産に関しても経験があり、なおかつ子供の成長のためだとすんなりと説明できるのかもしれん。
けれど我はレヴィとは同い年……しかもまだセッ……どころかキスの経験すらない生娘なのだぞ。
小鴉め……何てことを我に放り投げてくれたのだ。まあこちらに投げる気持ちは理解できるし、立場が逆だったならば我もそうしていたとは思うが。
それでも……前もって一言くらい教えてくれてもよいではないか。事前に準備が出来て居ればこれほど羞恥心が刺激されることもなかったであろうに!
「ねぇ王さま、どうやったら出来るのかな!」
「大声でそのようなことを言うでない。今の時間帯を考えろ!」
夜中に騒いだらご近所に迷惑であろう。この手の話をする時間帯としては正しいのかもしれぬが、そういう意味では絶対に正しくない。
酒宴の席だとかなのはの家のように一軒家ならばまだ良いかもしれぬが……いや我が居る段階で良いとは言えんが。
「ご、ごめん……それで子供ってどうやったら出来るの?」
「それはだな……その…………男と女が」
「男と女が!」
「互いに……になって……してだな。それで……をしたり……」
「王さま、何て言ってるか聞こえないよ?」
分かっておるわ。聞こえないように言っておるんだからな!
でも仕方ないであろう。我は保険の教師でもなければ医者やその手のカウンセラーでもないのだぞ。男女の営みを事細かく堂々と説明できるわけないであろうが。経験したことだってないのだし。
ま、まあ……経験があったからといってすんなりと説明できるかと言われたら微妙ではあるが。しかし……前に母君が営みは最も幸福を得られる時間のひとつだとか、夫婦間では大切なことと言っておったからな。経験すると価値観や考えも変わるのかもしれん。
とはいえ、すぐに経験できるわけではないが。我には恋人は居らぬし……き、気になる者が居らぬわけではないが。だがあやつとの関係は友であって……それ以上になりたい気持ちはあるが我は素直になれぬ。
そう……結局我は小鴉よりも遥かにヘタレなのだ。普段どんなに尊大に振る舞っていても意中の男のことになると踏み込む勇気のない小心者よ……。
「王さま? 何だか泣きそうな顔してるけど大丈夫? お腹でも痛いの?」
「いや、そうではない……己の不甲斐なさが嫌になっただけだ」
「そんなことないよ!」
「……レヴィ?」
「王さまはどんなことも一生懸命努力するし、口うるさいところもあったりするけど、人のために怒れる優しい王さまだもん。今日だって突然のボクのお願い聞いてくれて、言いにくいことも頑張って教えてくれようとしてて……はっきりしないところもあったけど、でもその王さまはボクの憧れなの! 不甲斐なくなんてない!」
どうにも勘違いされているような気もしないでもないが……そう言われてしまってはいつまでも女々しくしているわけにはいかんな。ちょくちょく気に障りそうなことを言われた気がしたが、そこをネチネチと指摘するのは人が悪いというものだろう。
「レヴィ……我が悪かった。ここからは誠心誠意お前の質問に答えることを約束しよう。ただ……子供に関してはその……またあとにしてくれ」
「何で?」
「いや、そのだな……我の中で考えをまとめたいというか、貴様に分かりやすいように考えておきたいのだ」
「そっか、ならそうするべきだね。ボクとしても分かりやすい方が良いし」
すまんレヴィ……恥ずかしさのあまり時間を稼ぐ我の弱さを許してくれ。多分今から話すと我は貴様に好きの違いなどを教える前に力尽きてしまう。それ故の配慮でもあるのだ。ちゃんとあとで説明する……貴様が寝たりしなければ。
「それでレヴィよ……貴様は小鴉から色々と聞いたようだが、どのへんがはっきりしておらんのだ?」
「えっと……何て言ったらいいのかな。好きにも違いはあるんだなってことは理解できたんだけど、ボクはその違いが分からないというか……」
「ふむ……」
さて、どうしたものか。
言おうとしていることは何となく分かったが……そもそもレヴィの中に特別な好意が存在しておらなければ違いを自覚するのは難しい。とはいえ、前に進もうとしておるのだからやれることはやってやりたい。まあやれることは限られているが……
「ならばひとりひとり考えていくことにしよう。まずは貴様の両親だ。貴様は父君や母君が好きか?」
「もっちろん。パパもママも大好きだよ」
「ならば今の気持ちをはっきりと心に刻め。それが家族への好きだ……次に行っても良いか?」
「ま、待って! ……うん、大丈夫」
「よし、ならば次は……そうだな。我やシュテルのことを考えてみよ」
なのはやフェイトなどもレヴィにとっては大切な友であろうが、付き合いの長さだけで言えば我らの方が長い。なのは、フェイト、小鴉がそれぞれを親友だと思えるように我らも互いを親友に思える間柄だ。友への好きを自覚させるならば我らを例にするのが適当だろう。
言っておくが別に他意はないからな。
他の者よりも友として好きであってほしいという願望があるわけではないぞ。全くないかと言われたら……少々答えづらくはあるが別に我はレヴィを独占するつもりはない。だから別にレヴィの1番になれなくても寂しくなんてないのだからな。
「我やシュテルは貴様と最も付き合いが長い。我らに対する好きは友へ向ける好きでは最大級と言えるだろう」
「確かに……なにょはやへいとのことも好きだけど、ボクにとっては王さまやシュテるんが1番好きだからね……王さま、何か顔が赤いけどどうかした?」
「べ、別に何でもない。気にするな!」
この場に小鴉やシュテルが居たならば「王さまどうしたん? 何か嬉しいことでもあったん?」とか「どうしたのですか? あぁ……レヴィから好きと言われたのが嬉しかったのですね」などと言われていただろう。
べ……別に嬉しくても良いではないか。レヴィは我の大切な友のひとりなのだぞ。自分から親友だからな、みたいな発言はしていたが面と向かって笑顔で直球で好きだと言われてみろ。誰だって嬉しさや恥ずかしさが湧いてくるものであろう。故に我は悪くないし、おかしくもない。
「レヴィよ、今貴様は抱いた好きは友へ向ける好きだ。先ほどの家族へ向ける好きとの違いは理解できるか?」
「う~ん……そう言われると微妙かな。違うってのは分かるんだけど、どっちも大切だからどっちかを選べとか言われても選べない気がするし」
「まあ今はそれで良い」
明確には違うのだろうが、親への好きも友への好きも大きく括れば親愛と言える感情だ。
特別な好き……恋愛とは分類から異なる。レヴィにはっきりと理解させるべきは親愛と恋愛の違いだ。故に大切なのはここからの話を理解できるかだろう。
「次に進むぞ」
「うん」
「よいか……大切なのはここからだ。次に我が言う好きを理解できるかどうかはとても重要だ」
「ご、ごくり……」
緊張感は伝わってきたが別に口でそのようなことは言わぬで良い。かえって真剣みがなくなるかもしれぬからな。慣れておる我は別に気にはせぬが。
「では……レヴィ、貴様はショウのことをどう思う?」
「え……ショウのこと?」
「何でここであやつが? という顔をしておるから説明しておくが、特別な好きというものは一般的に異性に対して抱くものだ。故にあやつを例に挙げておるだけよ」
我の知る限りレヴィと最も親しい異性はショウであろう、レヴィが異性というものを意識出来ておるかは怪しいところだが。昔よりも人との距離感はちゃんとしておるようだが、それでも人との距離感が近いのは変わってはおらん。
もしもこれで我などに向ける好きとの違いが分からなければ、まだレヴィに恋愛を理解するのは無理だろう。
ただもしも少しでも理解できたならば……着実にレヴィは成長しているということだ。今すぐは無理かもしれんが、そう遠くない未来にレヴィは特別な好きを理解できるであろう。
もしも同じような話を他の者にしておったならば、こやつはあやつのことが好きなのでは……といった事実が発覚してしまったかもしれぬ。
だがまあ……レヴィならばそのようなことにはなるまい。こやつの発する好きはLikeでしかないのだからな。
「それで……我らへの好きと何か違いを感じたりするか?」
「う~ん……ちょっと待ってね。…………う~~ん……む~……うん? ……むむ……いや、何か」
「そこまで悩むほどのことではないと思うのだが……」
「いや、ボクもそう思ったんだけど……考えれば考えるほど何か違うような気がしてきた。ショウのことは友達だし、好きなんだけど……何かそれだけじゃないような気持ちになるんだよね」
……今のは我の聞き間違いか?
何やら我の予想とは違った方向の言葉が返ってきたのだが……真剣に悩んでおるレヴィが目の前に見えるのだから聞き間違いではないのであろうな。
って、そうなるとやばくね!?
完全に我の思い描いていた展開と違うんだけど。口調が変わるほど慌てる事態なんだけど。ねぇ我はどうしたらいい?
って聞いたところで答えが返ってくるはずもない。どうにか自分で乗り越えなければ……
「具体的に……どう違うのだ?」
「具体的に言えるほどはっきりしてないんだけど……ショウのことを考えると胸の奥がポカポカしてくるというか、あんなことしたいな~とか、どんな服着たら褒めてくれるかなって王さま達のことを考えるよりも色々と考えちゃうんだよね。何でだろ?」
そんなの……貴様が無意識にあやつに恋をしておるからに決まっておるではないかぁぁぁぁあッ!
いや待て、落ち着くのだディアーチェ・K・クローディア。ここで感情に流されては元もこうもない。こういう時こそ冷静に判断せねば。
今の言葉を聞く限りはレヴィはショウに恋をしておると言える。
しかし、レヴィはあのレヴィなのだ。一般的な解釈で良いかと言われると迷いが出る部分も出てくる。もしかすると異性というより兄といった感じで慕っておるだけかもしれぬからな。
「何でと我に聞かれてもな……貴様はショウとどうなりたいのだ?」
「えーっと……ボクのパパ達みたいな関係になりたいかな?」
「何故疑問形なのだ? というツッコミは置いておくとして……貴様は自分が何を言っておるのか理解しておるのか?」
「うん、何となくだけど……ボクはショウと結婚して、ショウの子供を産んで幸せに暮らしたいんだと思う」
曇りのない笑顔からして嘘偽りはないのだろう。それ故に……我の心は痛んだ。
レヴィはほぼ間違いなくショウに恋をしておる。自分が恋をしている自覚はないであろうが、おそらく今後ショウへの好きが普通とは違うのだと日に日に自覚していくだろう。そうなればきっと……レヴィは今よりもショウへ自分を気持ちを伝えるに違いない。
……レヴィが……我が友が恋をすることは喜ばしいことだ。我はレヴィの友……それ故に素敵な恋をして幸せになってほしいと願う。
だがあやつを……ショウを渡したいとは思えぬ。
あやつには我の傍に居て欲しい。出来ることならば魔導師のような危険のある仕事はやめて、我と一緒に喫茶店を営んで欲しい。
なのはやフェイト、小鴉が相手ならば……これまでと同じ関係で居られなくなるとしても我は自分の気持ちを優先するだろう。
しかし……レヴィが相手でそれが出来るのか。いやレヴィだけではない。シュテルもおそらく我と似たような想いを持っておるだろう。
レヴィは元気でも泣き虫だ。少し本気で怒ればすぐに泣きそうになってしまうほど打たれ弱い。それに自分の気持ちに素直でも他人が傷つけば自分を責めてしまう。
そのような相手から……大切な親友から最初で最後かもしれぬ恋を我は奪うのか?
きちんと恋愛が理解できておる我はまた別の恋をするかもしれん。
だがきちんと理解できておらぬレヴィは、もしかすると今後特別な好きという感情に目を向けなくなってしまうかもしれぬ。ならば……
ここで我がショウへの想いを自覚させぬようにすれば……
待て……何を考えておるのだ!?
友を傷つけないように誘導しつつ自分が甘い汁を吸えるようにする? ふざけるな。そんなことが許されるはずがない。
もしも仮にそれで上手く事が運んだとしても、きっと我は後悔するはずだ。
我の恋は複数の友を傷つけなければ成就はせん。ならば成就した際に少なくとも我が心から幸せそうに笑っていなければ、敗れた者に顔向けが出来ぬだろう。
我はディアーチェ……ディアーチェ・キングス・クローディア。
どんなことも正々堂々真正面から……などと言うつもりはない。だがこの戦いに関してはぶつかり合って勝たねばならぬ。そうでなければ我は幸せにはなれぬし、敗れた際にも心から祝ってはやれん。
「レヴィよ……貴様は本気でそうなりたいと望むのか?」
「え、うん……そうなったら嬉しい。まあ今すぐは無理なんだろうけど。この前ショウに結婚しようって言ったら今のボクじゃダメって言われたし」
「え……そんなこと言っちゃったの?」
さすがの我もびっくり。思わず素で普通に聞き返してしまった。
いや落ち着け、落ち着くのだ。さすがにこれ以上突拍子もないことは言われないはず……言われんよな? さすがにプロポーズしたってことよりも上のことなんて言われないはずよな。
それよりも上のことなんてあやつと身体を重ねたとかくらいしか思いつかんし……もしもそうなってたら子供の作り方がどうとか聞かないはず。故にそのような事実はあるはずがない。
「その話はあとで聞くとして……よいかレヴィ、貴様が思っておるほど結婚までの道は簡単ではない」
「大丈夫、それは分かってるから」
「分かっておらん! よいか……貴様がショウと結婚したいと思うように貴様以外の者もそのように思っておるかもしれぬ。それは貴様の身近な存在かもしれぬし、赤の他人かもしれん。だが少なくとも覚悟が必要になる」
「覚悟……?」
「そうだ。あやつに選んでもらえるのはひとり……」
住む世界によっては複数かもしれんがあやつは性格的に選ぶのはひとりであろう。
「故に時としてあやつか他かを選ばなければならんことにもなるかもしれん。今まで付き合いがあった者とぶつかって傷ついたり傷つけたりするかもしれん。場合によっては今後顔を合わせることさえなくなるかもしれん。そんな苦難を受け入れ乗り越えていく覚悟が必要になるのだ。レヴィ……貴様にはその覚悟があるか?」
「それは……そんなこと急に言われても」
「確かにすぐには無理かもしれん。だが忘れるな……貴様が望むことはそのような道のり末にあるかもしれんのだ。故に誰もは結婚とは簡単に口に出来ぬし、してはならん言葉なのだろう」
だが同時に……苦難や困難の果てに愛し合うふたりが結ばれるからこそ、結婚とは尊く幸せな出来事として認識されるのだ。
「そっか……ならボクは」
「諦めるのか?」
「だって……」
「まあ……諦めるのなら我は止めん。貴様の人生は貴様自身が決めることだ。それにこの程度のことで諦められるのであれば、それは特別な好きではなかったということにもなる。特別な好きという感情は……止めようと思って止められるほど弱い気持ちではないからな」
そういう意味では……我の想いはまだ特別な好きではないのかもしれん。
いや、それは我だけでなくあの者達もそうなのだろう。多くの葛藤の末に全てを捨てる覚悟が出来た者が1歩先に進めるのだ。そして、その者がきっとあやつの隣に……
「レヴィ……貴様のショウへの想いは特別な好きに分類できる。だが今はまだ芽が出たばかりのものなのだろう。今後どうなるかは貴様次第で我にも分からぬ。だがこれだけは言える……もしもその芽が成長し花を咲かせたならば、その時は自分の思うがままに進め。それがきっとどう転んでも後悔のない道だ」
「王さま……うん、分かったよ。ボク、これからもショウのこと考えてみる。それでいつか自分なりの答えを出してみせるよ!」
「うむ……さて、夜も深くなってきた。そろそろ寝るとしよう」
「うん。……あれ、でも子供の作り方に関して教えてもらってないような?」
「――っ!? そ、そそそれは……布団に入ってから話してやる。部屋が明るい状態では我が堪えれぬし……」
「え、最後何て言ったの?」
「ちゃんと教えてやるからさっさと布団に入れと言ったのだ! 分かったか、このうつけ!」
そのあとのことは説明はせん。
どうしてだと? そんなこと聞かずとも分かるであろう! ただまあ……レヴィが理解したかはともかく、我が逃げずに語ったことだけは言っておこう。
後書き
今回の話で蒼雷編は終了とさせていただきます。
中途半端なところでと思われるかもしれませんが、この外伝はVivid編へ繋がっていくためご容赦ください。
またVivid開始までの1年間ほどを書いていくつもりでいますので、何か読んでみたい話や人物の組み合わせなどがありましたら教えてもらえると参考になります。
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