シークレットガーデン~小さな箱庭~
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第二章 汚された草競馬大会-2-
人の人口よりも馬の数が圧倒的に多い、馬たちの楽園とも呼ばれる馬の町。
近くに狩る隣町とはとても有効的な関係らしい。この町で取れた酪農品や作物を隣町の市場に置いて売りだしたり、他の国からやってくる旅商人たちとの取引の場として使っているそうだ。
他の国から新しい牛や鶏、馬なども買ったりしているそうだ。
「ここが…馬の町。わぁ……」
「本当に馬ばっかりーだー!」
町の入口で止められた馬車を下りて最初に見る物はやはり馬。馬。馬。
前を向いても、右を向いても、左を向いても、後ろを向いても…と後ろにいるのは馬車を引いていた馬だった。
とにかくさすがは馬の町。どこもかしこも馬ばかり。そして今にも駆けだしそうな馬の銅像、馬の鬣を使った製品を取り扱った店、町の移動手段は馬車だったり、馬関係のものばかり。
隣町やルシアが生まれ育った村にも馬は沢山いたのだが、さすがにここまではいなかった。こんなにも沢山の馬を見るのは初めのこと。ルシアとランファの二人人は上京したての田舎者みたく、見えるものすべてに大興奮だ。
「……宿あっち」
一人冷静なシレーナ。やはり都会育ちの彼女は、田舎者の二人と違ってこんなことでは驚かないか…と感心していると、前を歩く彼女の足元がふわりっふわりっと浮き上がる。…小さくスキップをしながら歩いて可愛い所もある。
可愛らしい一面も見れた事だし、荷物を置きに今夜の宿を確保することにしよう。さすがに都会の町で野宿するのはまずいだろう。年頃の女の子が二人もいるのだから。
それにヨナを攫った犯人の情報収集は宿で一休みしてからでもいいだろう。しいては事を仕損じるというものだ。
「シレーナは前にもこの町に来たことあるの?」
宿を案内する為に前を歩くシレーナに聞いてみる。
ルシアにとっては何気ない、ごく普通の質問だったのだが……それはシレーナにとってはあまり触れられたくないものだったものかもしれない。
「……うん。昔…お父さんと」
「…そっか」
「うん」
間をおいて話した彼女の顔はすごく悲しそうなものだった。お父さんと来たことがあると言うのは、プリンセシナで見た、シレーナがジェームズ爺さんの所へ預けられる時のことだろう。
またごめんっとすぐに謝ろうとしたルシアだったが、今の彼女は過去に縛られず、自らの意思で前を向き歩み出している。今更ルシアがそれを蒸し返すは可笑しな話しというもの。
だからルシアも彼女の隣に立って共に歩く。前へと。
目的の宿は町の入口からほど近い場所にあった。
オーナーのおばさんは気さくな良い人で、幼い頃に一度泊っただけなのにシレーナの事を覚えてくれて、久々に泊まりに来てくれたお礼にと格安で、しかも眺めの良い部屋を貸してくれた。
一つ欠点をあげるとすれば、男女関係なくみんな同じ部屋だったこと。ランファは気にてないからいいとしても、お年頃のルシアとシレーナ。やはり色々考えて緊張する。
おばさんいわく、寝室は二つあるのでそこで男女分ければ別に問題はないでしょ……とのこと。
まぁ、確かに困らないと言えば困らないが……ぶつぶつ文句を言いつつ、荷物を置いて一休み。
「わ~い、ベットふかふかだ~」
寝室に入った瞬間、すぐにベットの上にあがりぴょんぴょんジャンプしておおはしゃぎのランファ。
大きな子供を相手にしているような気分になる。
「こらっランファ!ベットの上ではしゃいじゃ駄目だよ」
まるで父親のように叱ってみるものの。
「えぇーー!? ブゥーブゥー!!」
ランファは頬をフグのように膨らませ、不機嫌そうな顔で言うと渋々ベットから降りてくれたのだが、今度は部屋の端っこで嫌みたらしく部屋の端っこでいじいじし始めた。
なんなのだろう…この子は…。
「……チラシ貰った」
ドアが開かれ一枚の紙を持ってシレーナが入ってきた。持っている紙を受け取り、見てみると大きく「草競馬大会」と書かれていた。
「草競馬大会?」
「うん」
「おーどれどれー!?」
部屋の隅っこでいじいじしていたはずのランファが急に元気を取り戻し、ルシア達の方へ駆けよってきた。
ルシアの持っていたチラシを奪い取ると、嘗め回す様にチラシを見つめて大声で書かれている内容を読んだ。
[第五十八回 チキチキ草競馬大会ー!!
優勝者には巨大農地と――牧草百年分プレゼントー!!
飛び入り参加OK-! 参加賞もあるよ! さぁ、みんなどんどん参加して競馬王になっちゃおう!
(もしかしたら……ドルファフィーリングのお偉いさんに気に入られちゃってスカウトされちゃうかも!)]
「牧草百年分!? すげー! 出よう! これは出るかねぇーよ!」
「牧草百年分なんていらない…」
「それに馬もいないし…ね」
何処に食いついているんだ…この子はと思いながらちゃんと突っ込んであげる。
「えぇーーーそんなぁー!?」
そんなに欲しかったのか、牧草百年分。膝から崩れ落ちてガックシするランファ。
まぁまぁ…元気だしてと慰めていると、外の廊下の方から
「はぁ~……困ったねぇ~」
「……?」
ため息まじりの声が聞こえてきた。どうしたのだろうと、気になり廊下の方に頭を出てみると、頬に手を添え腕を組んではぁ…とまた大きなため息をついている宿のオーナーのおばさん。
「どったのおばちゃん?」
「あっランファちゃん……」
さすが行動はのランファ。言うが早いか、早速おばさんに近づき話しかけている。
ルシアもランファの後に続けて尋ねてみる。
「なにかあったんですか?」
「いやね…実は…」
神妙な面持ちでおばさんは口を開らいた。
「実はねぇ…実家の牧場が危ないらしいのよ」
「あぶない?」
「スパイかっ!」
「いや。そううゆ危ないじゃなくてね…」
なにかまたとんちんかんな、意味の分からない事言いだすランファ。
耳元で、話が進まないから黙っててと叱りつけおばさんの話の続きを聞く。
「…経営が危ないらしいのよ」
「赤字?」
「うーん…どうもそうみたいなのよねぇ。謝金取りに追い回されて挙句の果てには農地を全部没収されそうなんだよ」
「それは…大変ですね」
おばさんははぁぁぁと今日で一番大きなため息をはいた。そこまで追い込まれているのか…。
宿の壁に貼られている草競馬大会のビラを物欲しそうな顔で眺め
「はぁー今回の草競馬大会の優勝商品の農地があれば……なんとかなるんだけどね…」
といいまたはぁぁぁと大きなため息。
「んー? なら出ればいいじゃんっ」
「そんな簡単な話じゃないんだよ…」
「えぇーーーなんでぇ」
「あたしはこんな歳だし…。親は去年の大会で無理して腰痛めてから馬に乗れなくなっちゃったし…」
「あれま」
「だからどうする事も出来ないのかねぇ…」
そしてまたはぁぁぁと大きなため息。なんだかおばさんが可哀想に思えてきた、ルシアは一大決心をする。
「あのっ!」
「ん…なんだい?」
「僕に馬を貸してくださいっ!」
「え…いいけど……いったい何に使うんだい?」
「…おばさんの代わりに僕が草競馬大会に出場します!」
「「「えぇーーー!!?」」」
ルシアの言葉に三人は驚愕した。
その驚きの声は宿の外にまで響き渡り、町の住人が何事? 何事? 少し騒ぎになったが宿の授業員たちが上手く治めてくれたのでそこまで、大きな騒ぎにはならなかったそうだ。良かった、良かった。
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