真田十勇士
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巻ノ百三 霧を極めその二
「やった、だからな」
「それがしへのご教授を終えれば」
「それでじゃ」
「もう後はですか」
「ここにおってな」
そしてというのだ。
「最期を待つ」
「そうされますか」
「ははは、不思議なものでじゃ」
百地は明るい笑い声と共にこうも言った。
「この歳になると欲もなくなるわ」
「先程されたいことは全てと言われましたが」
「実際にじゃ」
互いに霧を使い合いつつ霧隠と共に話していく。
「まことにやりたいことは全てやったしのう」
「ご自身が思われていた」
「身に着けたい忍術は全て身に着けた」
そうしたというのだ。
「それも出来たしじゃ」
「他のことも」
「してきた、だからな」
「もうこの世にですな」
「思い残すこともない」
実際に何の未練もなかった、彼のその顔と言葉には。
「だからな」
「それがしへの修行の後は」
「何時でもよい」
この世を去るのはというのだ。
「一人世を去り何かに生まれ変わるわ」
「生まれ変わられますか」
「さて、何処の世に生まれ変わるか」
幸村にも応えて言うのだった。
「楽しみではありまする」
「六界の何処かに」
「それが楽しみです」
「六つの世界の何処であろうと」
「地獄もまたよし」
この世もというのだ。
「それもまた」
「そうですか」
「実に」
「地獄もよいとは」
「ははは、何処に生まれ変わろうとも楽しみしたいことをし尽くし」
「そのうえで」
「遊んできまする」
こう言うのだった。
「どの界でも」
「そう言われますか」
「そしてです」
さらに言うのだった。
「堪能してきます」
「地獄でもですか」
「忍としてです」
その立場でというのだ。
「多くの者を殺めてきましたし」
「いやいや、それを言えばです」
「真田殿もと」
「はい、戦の中において」
「多くの者を殺めてきたと」
「左様です」
そうしてきたというのだ。
「ですから」
「真田殿もですか」
「地獄に堕ちます、しかし幼い頃こんなことを言われました」
百地に穏やかな顔のまま言う。
「武士や忍が人を殺めるのは当然のこと」
「このことは」
「そうした立場なのですから。しかし大事なことは」
それはというと。
「戦で必要だからこそ殺すのであり」
「そうではないと」
「はい、遊びで人を殺すことがです」
このことがというのだ。
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