| 携帯サイト  | 感想  | レビュー  | 縦書きで読む [PDF/明朝]版 / [PDF/ゴシック]版 | 全話表示 | 挿絵表示しない | 誤字脱字報告する | 誤字脱字報告一覧 | 

ソードアート・オンライン -旋律の奏者- コラボとか短編とかそんな感じのノリで

作者:迷い猫
しおりを利用するにはログインしてください。会員登録がまだの場合はこちらから。 ページ下へ移動
 

幻影の旋律
  久方ぶりのパーティープレイ

 クーネさんが立案した大まかな作戦は単純かつ堅実で、そこまで目立った欠点はなかった。

 ニオちゃんがタンクとして攻撃を受け、敵の注意を引きつける。 その隙に雪丸を回収した僕とクーネさんで狼男の体勢を崩しつつ、ヒヨリさんが《一撃離脱》でダメージを与え、ティルネルさんは後方支援。
 まあ、ここまでは誰だって考え付く配置だろうし、むしろこのメンバーで戦闘に臨む以上、それ以外の配置はないと言っても過言ではない。
 クーネさんは別にしても、それ以外のメンバーは戦闘スタイルがある程度固定されている。
 僕であればスピード型広域殲滅。
 ヒヨリさんであればスピード型一撃離脱。
 ニオちゃんであれば重装備タンク及び一撃特化。
 ティルネルさんであればスピード型後方支援。

 もちろんニオちゃんを除けば全員が全員、どのポジションでもそれなりに立ち回れるだろうけど、その得意分野は正直に言うとかなり狭い。 少なくともクーネさんのようにどのポジションでも一定以上の戦果を上げるなんて真似は絶対にできない。
 だとすれば、各々が各々の得意分野に付き、それぞれがそれぞれを補い合うしか手はないのだ。

 さて、僕はその議論の場で奥の手である《双剣》の存在を公表した。
 クーネさんとニオちゃんなら秘密にしてくれると信頼しているし、その2人の友達であるヒヨリさんに暫定的な信頼を寄せての措置だ。 ティルネルさんはマッドサイエンティスト仲間として、個人的に信頼したので問題ない。
 とは言え、それは理由としてはサブ。 本当の理由は、奥の手を隠して誰かが危険な目に遭うかもしれない未来を僕は危惧しただけのことだ。
 それと同時に僕が調合スキルのMod、《耐毒》スキル持ちであること。 そして、耐毒ポーションを大量に保持していることを公表し、それをメンバー全員に提供した。 それに難色を示したのはギルドの財政管理もしているクーネさんと、僕特製の耐毒ポーションがかなりのレア物だと瞬時に見抜いた薬師のティルネルさんだ。
 耐毒ポーションは無償提供であることを説明した後、これを受け取らない限り共同戦線は認めないと強く主張して納得してもらった。 まあ、明らかに渋々ではあったけど。

 で、現在。

 「あー、やっぱりいるね、《ジル・ガルニエ》。 雪丸は……落とした場所に転がりっぱなしだけど、短剣はどこかな?」
 「あれじゃないかしら? ジルから右側、目算で5メートルの地点」
 「ん、あった。 うん、あそこなら問題なく両方とも回収できそうだね。 バックアップは任せたよ、ティルネルさん」
 「はい。 お任せください。 エルフ族に伝わる秘薬と弓術の妙、お見せします」
 「フォラスさん、その……頑張ってください」
 「むしろこれから頑張るのはニオちゃんなんだけどね。 じゃあ、いってくるよ」
 「無理はしないでね?」
 「どうかご武運を」
 「危なくなったらおねーさんを頼っていいんだよ?」

 ニオちゃん、クーネさん、ティルネルさん、ヒヨリさんの激励を背に、僕は細い通路から飛び出した。

 見れば見るほどボス部屋にしか見えないその空間に入った瞬間、それまで沈黙を守っていた狼男《ジル・ガルニエ》は敏感に反応してこちらに迫ってくる。
 攻略組トップクラスに引けを取らない敏捷値を有しているらしいジルは凄まじい勢いで駆けるけど、それでもそれは所詮トップクラス。 攻略組内でも一二を争う敏捷値を持つ僕と単純な足比べで勝てるわけがない。 何より今の僕は何の武装もしていないので、自身が出せる最高速度を遺憾なく発揮できる状態なのだ。

 ちなみに僕が着用していた黒の外套は既にストレージにしまってある。
 『似合ってないわよ』(クーネさん)
 『なんだかダサいよ』(ヒヨリさん)
 『怪しいです……』(ニオちゃん)
 『素敵だと思いますよ』(ティルネルさん。 ただし目が泳いでいた)
 と、あれに関しては惨憺たる酷評を頂いたのだ。 さすがに着続ける気にはなれない。
 て言うか、ティルネルさんの優しさが地味にキツイ。 そんなに気を遣わなくても……

 閑話休題。

 しかし、僕と雪丸とジルとの位置関係上、このままだと接敵は雪丸を回収する前になりそうだ。
 虎の子のピックは残り少ないし、走っている状況で標的に命中させるほど、僕のプレイヤースキルは高くない。 こういう時は素直に投剣スキルが羨ましいけど、今は泣き言なんて言えないし、何よりそのための頼れるバックアップだ。

 ジルが雪丸を跨いでこちらに迫るその瞬間、一直線に走る僕の僅か数ミリ横を通り抜ける風切り音。
 薄緑色のライトエフェクトを纏った矢が、ジルの脚を狙い違わずに貫いた。
 誰の援護かなんて問うまでもない。 ティルネルさんだ。

 矢の強烈な一撃により揺らいだジルを正面に捉え、僕は疾走の勢いそのままに跳躍する。
 SAOでの跳躍は筋力値と装備重量によって左右されるため、僕ではそこまでの飛距離を出すことはできない。 けど、ここで活きてくるのが鍛えに鍛え上げた疾走スキルのMod、《疾空》。
 空中に於ける姿勢制御と空間把握能力、バランス感覚さえあれば自由に空を跳ね回れる疾空によって、僕は何もない宙空で方向転換すると、ジルを飛び越えてその背後に着地。
 足元には狙い違わず雪丸がーー

 「第1関門……」

 ーーあると知覚した瞬間には既に拾い上げ、通路から飛び出して攻撃を仕掛けたティルネルさんに狙いを定めていたジルの背を斬り裂いた。

 「クリアー」

 直後に煌めく3連撃はソードスキルを使わない素の攻撃。
 それでも注意をティルネルさんから逸らすことに成功したようで、ジルは野獣の咆哮と共に僕を睥睨する。 普段であれば挑発混じりに話しかけて追撃する僕だけど、今回はオカン、もといクーネさんの指示があるのでそのまま転身して駆け出した。

 もちろん背後からジルの足音が迫ってきているけど、今のところ問題はーー

 タンッ

 ーー訂正、問題が発生した。

 地面を蹴る軽やかな音が後ろから聞こえたと思えば、僕と短剣との間にジルが着地する。
 どうやら持っているらしい《軽業》スキルでブーストされた跳躍で、僕を軽々と飛び越えたようだ。 先ほどの僕に対する仕返しのように。

 「うげ……」

 疾走の勢いで急激な方向転換が叶わない僕は、ジルが振るった爪での横薙ぎに声を漏らしながらも笑い、スライディングの要領でその一撃を躱しつつ短い脚の股下をすり抜ける。 と、同時に今度はライトエフェクトを伴わない矢がジルの身を穿っていた。

 「さっすがー」

 頼れるバックアップには届かない賛辞を口にして短剣を掴むとそれを誰もいない方向に投げてから、雪丸を保持していない左手にライトエフェクトを灯して地面を殴りつける。 左腕に装備してあるガントレットと地面は、ドンでもゴンでもない、キンッと言う涼やかな音色を奏で、そして僕は宙を舞った。
 これは腕力にものを言わせた荒技ではなく、ガントレットに付与された《ノックバック効果上昇》の特殊効果を利用した、言わば裏技だ。

 地面は破壊不能オブジェクトに設定されている上、当然だけど動かすこともできない。
 そんな地面にノックバックは発生しないわけだけど、《ノックバックを発生させる》と言う攻撃側からの命令は忠実に出力される。 その矛盾を解決するため、《ノックバックを攻撃物に反射する》……言い換えれば《跳ね返す》ことになるのだ。
 わかりやすく言えば、ボールを壁に投げつけると跳ね返ってくるあれである。

 そしてこの場合のボール、即ち攻撃物は僕の左手と言うことになり、跳ね返されたノックバックで吹き飛ぶ左手に引かれて僕自身が飛んだ、と言うことだ。
 もちろんこれは誰にだってできるわけではない。
 プレイヤー自身の重量と装備重量とが軽量でなければできない裏技だし、たとえできたとしても空中での姿勢制御がうまくいかないと飛距離を稼げない上に着地にまで失敗する。 そうなればモンスターに殺される危険性だってある、非常にリスキーな裏技なのだ。 僕だって好き好んで使いたくはない。

 空中に投げ出した短剣を回収して鞘に納めると、ジルを確認しつつ自身の体勢を整えて着地。 注意を引きつけるために矢を何発か放っていたティルネルさんを次のターゲットにしたらしく、ジルが獰猛な雄叫びと共に突貫していた。

 僕に比べれば遥かに防具が充実しているし、腰に剣を佩いているとは言え、ティルネルさんの基本スタイルは後方支援。 ボス攻略でたまに見かける剣の腕前は確かなものではあるけど、少なくとも近接戦闘がメインではないはず。 ジルのように剣よりも更に近い爪と拳の間合いに持ち込まれたら危険だ。
 だけど、僕はそれを不安に思ったりはしない。 ティルネルさんも同様なのか、至極落ち着いた表情で矢を引き絞る。

 そう。 不安はなかった。
 何故ならあそこにはーー

 「さ、させません」

 ーー攻略組のトップ、《聖騎士》と肩を並べる絶対的な壁がいるのだから。

 気弱な性格でありながら、バカでかい上にクソ重い盾を構えたニオちゃんが、突貫の勢いを上乗せしたジルさんの拳を余裕で防いでみせる。
 瞬間、身を躍らせるのは白銀と純白。

 ヒヨリさんがその有り余る敏捷値でジルを剣の間合いに収めると、細剣技の基本《リニアー》を叩き込む。
 先の戦闘では本来のポジションから外れていたために精彩を欠いていた技が冴え、容赦なくジルを穿つ。
 疾走で加速した勢いの上乗せ以外にも、あの美麗で華奢な細剣の性能だろう。 元々の火力が低い細剣技の中でも殊更に低い《リニアー》だと言うのに、それはとてつもない火力を孕んでいた。

 そこで怯んだ隙に今度はクーネさん。
 鞘に剣を納めたまますれ違い、墨の如き黒を灯した剣が刹那の間に3連の軌跡をジルの身に刻む。 片手剣技の中では異色の居合系ソードスキル《スラッシュバウト》だ。
 直後に舞った桜色の燐光が周囲を舞う様は美しいけど、その威力はやはり恐ろしい。
 綺麗な花には棘がある。
 意味は違うけどそんなことを思った。

 「うおぉおおおおおっ‼︎」

 それだけの攻撃を喰らえば、当然ターゲットを2人のどちらかに移す。 けれど、それを許すほどニオちゃんは抜けてない。

 高々と盾を掲げ、普段のどこか気弱な雰囲気を吹き飛ばす勢いでの咆哮を上げるニオちゃん。
 タンク必須のヘイト変動スキル《威嚇(ハウル)》。 盾装備系のスキルからの派生スキルは、確かな効果を持ってジルのターゲットをニオちゃん自身に向けさせる。
 そして振り出される強烈な正拳突きを、しかし、ニオちゃんは完璧な盾捌きで無効化した。

 この時点で既にジルのHPは4割を切っている。
 通常モンスターであればかなり強い部類だけど、ボスクラスにしては弱い。 そんな中途半端なステータスに危惧していた嫌な予感が急速に頭を擡げる。

 この空間は確実にボス部屋だ。
 ならば、ボスが出現して然るべきで、だけど敵はジル・ガルニエのみ。 ここまで新たな敵が現れる様子はない。
 つまり、現状で考えられる可能性はみっつ。

 ジルのHP減少あるいは全損を出現トリガーにしてボスが現れるか、同様の条件でジル自身がボスに《変身》するか、あるいは……

 「まあ、どうなろうと僕がやることは変わらないけど、ねっ」

 言いつつ背後から忍び寄って斬り上げ。 次いで、自分から更に距離を詰めて体術スキルを発動。
 システムアシストによって加速された左手によるフック気味の掌底はジルをノックバックさせる。

 パーティー戦である以上、薙刀による広範囲攻撃は使えない。 僕との連携に慣れているアマリであれば問題なく振り回すところだけど、僕との共闘が初めてのヒヨリさんがいるのできちんと自重しよう。 巻き添えにしてしまうのはさすがに気が引ける。

 硬直が解けると同時にバックステップでジルの攻撃範囲から逃れつつ、僕はため息を吐いた。

 雪丸を自由に振り回せないのはやっぱりストレスだ。 もう目的は果たしたし、このままジルをクーネさんたちに押し付けてさっさと別行動でもしようかな、なんて悪い考えが頭をよぎった瞬間、それは起こった。

 「グルァアアアアアッ!」

 更に加えられたクーネさんとヒヨリさんの追撃を受けてHPが1割を切ったところで、ジルが天を仰いで咆哮を上げる。 そして、振り上げた両腕を振り下ろすとーー

 「うわーお」

 ーー轟音を響かせてジルの足元が爆ぜた。
 途端に立ち上る噴煙は、どことなくアマリの《爆裂》を思い起こさせる。

 「んー、ビンゴ、かな?」

 噴煙に紛れて見えなくなったジルを睨むようにして僕は呟く。

 立ち上った噴煙がすぐに収まらないのは、あの中で《変身》しているからだろう。 試しに手近な石を拾い上げて投げると、それは噴煙に触れる直前に発生した紫色の障壁に邪魔されてしまう。

 「……フォラス君」
 「うん、予想通りだったみたい。 あの噴煙自体が破壊不能オブジェクト扱いだから、あれが晴れたらボス戦になりそうだね」
 「フォラス君ってもしかして予知能力者なのかしら?」
 「まさか。 僕は数ある可能性を精査してるだけだよ」

 クーネさんと合流した僕は、適当な会話で場を和ませつつティルネルさんの元へ向かう。 見ればヒヨリさんとニオちゃんもそれぞれ後退していた。

 ボス戦になるとすれば、それは間違いなく初見のモンスターになるので後退して様子を見る、と言うのがクーネさんから出されていた厳命だ。 今更その命令に背く理由もない。
 ティルネルさんの元に集合したメンバーに、クーネさんは再び指示を飛ばす。

 「基本的なフォーメーションはさっきと同じよ。 ただし序盤は様子見を最優先にして、深追いしないように。 いいわね?」
 「は、はい!」と、やや怯えながらも気合を迸らせるニオちゃん。
 「はーい」と、あくまでマイペースなヒヨリさん。
 「バックアップはお任せください」と、穏やかながら自信を漲らせるティルネルさん。

 そんな三者三様の返事を得たクーネさんが今度は真っ直ぐ僕を見つめる。 どうやら僕が作戦に従わないか心配しているようだ。 失礼な。

 さすがの僕でも一度了解した作戦を反故にするほど落ちぶれてはいない。 ましてここには頼れる相棒であり、困った相棒でもあるアマリがいないのだ。 そんな状況で無茶をする理由は、今のところひとつもない。

 「大丈夫だよ。 いくら僕でーーーー」

 了解の返事をしようとして、それは途中でかき消された。

 何が起こったのか?
 答えは単純。

 かき消されたのだ。 噴煙に包まれたジルの遠吠えによって。

 狼が遠吠えする理由は、主にみっつあると言われている。
 狩りをする前の合図。 縄張りの主張。 そして、()()()()()()……

 「ねえ、フォラス君」
 「うん?」
 「私、すっごく嫌な予感がするんだけど、これって気のせいかしら?」
 「んー、多分、気のせいじゃないと思うよ。 だってその嫌な予感、僕もしてるから」

 直後、少し離れた場所から、別の個体が上げたと思しき遠吠えが僕たちの耳に届く。

 クーネさんたちに明かした可能性はふたつだけ。
 ジルのHP減少を出現トリガーにしたボスモンスターの出現と、同じ条件で起こるジルの変身。
 けれど僕が考えていた可能性はもうひとつだけあったのだ。 下手に不安を煽って萎縮するのを防ぐために言わなかった、確証も根拠もない最悪の可能性。

 「新たなボスモンスターの出現とジルの変身……」

 ポツリと呟いた声に反応したかのようなタイミングで、ジルを包んでいた噴煙が晴れる。 そして、それと同時に現れる巨大な狼。

 ジル・ガルニエ・ザ・ルー・ガルー・ロード(Gilles Garnie The Loup Garou Lord)
 ウルフ・ザ・アルファ(Wolf The Alpha)

 《狼男の王、ジル・ガルニエ》と《最上位の狼》は、固まった僕らを揃って睥睨し、同時に吼えた。 
 

 
後書き
想定内と想定外のボス登場回。
と言うわけで迷い猫です。

sonasさんからお貸し頂いたキャラクターが本格的に戦闘を開始しました。 ようやくです。 とは言え、あちらのルートの3人は未だに戦っていませんが……

さてさて、ジル・ガルニエについての元ネタはもう明かしましたが、今回は最後に登場したウルフ・ザ・アルファについての解説を。
狼は群れで行動する生物です。 群れを観測する際、その群れの最上位個体(つまりボス狼)を《アルファ》、次の個体を《ベータ》と呼び、最下位の個体を《オメガ》と呼びます。
故にウルフ・ザ・アルファ。 《最上位の狼》と言う極めて安直な名前になった次第です。 手抜きではありません。 ええ、決して。

次回はボス戦となりますのでお楽しみに。

ではでは、迷い猫でしたー 
ページ上へ戻る
ツイートする
 

全て感想を見る:感想一覧