真田十勇士
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巻ノ百二 百地三太夫その六
「決して」
「それがし達確かに使えますが」
それでもとだ、幸村も百地に言った。
「そうした術も。ですが」
「それでもですね」
「はい、使いませぬ」
使える、それは事実にしてもというのだ。
「人の命を無下に奪うなぞ」
「やるべきことではない」
「そう考えておりまする」
それでというのだ。
「ですから決して」
「それがよいかと」
「戦はどうしても人の命を奪います」
「しかし」
「はい、それでもです」
それは事実にしてもというのだ。
「何があろうともです」
「無下に殺すものではない」
「戦で人を殺めるのは最低限のことで」
無駄な命を奪うことはしてはならない、幸村が生まれてから誰よりも強く心に刻んでいおとだ。
それでだ、霧隠も言うのだ。
「我等十勇士もです」
「それぞれじゃな」
「使おうと思えばです」
「そうしたことも出来るな」
「はい、しかし」
それでもというのだ。
「それは決してです」
「使わぬか」
「我等全員同じです」
無駄な殺戮をせぬことはというのだ。
「強く心に誓っておりまする」
「だからじゃな」
「それはしませぬ」
師匠に対して強く答えた。
「それは我等主従全員がそうです」
「ならそうせよ」
「はい、力を使わず」
「そしてな」
「しかもですな」
「御主達は歩むべき道をわかっておるな」
「はい、殿の歩まれる道です」
幸村を見ての言葉だった。
「それは」
「その通りじゃ」
「殿は武士の道を歩まれます」
「ならばじゃ」
「我等十人は」
「真田殿をお守りしてじゃ」
武士の道を歩く幸村をというのだ。
「従い家臣として友として」
「そして義兄弟として」
「歩め、よいな」
「そう致します」
「真田殿の道は王道でも覇道でもない」
百地は幸村が天下を望んでいないことをわかっていた、それで霧隠にもこう言ったのである。
「極めんとされる道じゃ」
「武士のそれを」
「そうした道もある、だからな」
「我等はですな」
「その道を歩め」
こう言うのだった。
「よいな」
「はい、それでは」
「ではその為の術をな」
「これよりですな」
「授ける」
霧隠、彼にというのだ。
「そうするぞ」
「わかり申した」
「そして強くなってな」
「殿と共にですな」
「道を行くのじゃ」
百地は微笑み弟子に告げた。
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