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歌集「春雪花」

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 雨そ上がり

  ふりさけ見れば

   懐かしき

 雲間に落つる

    夕の静けさ



 やっと雨が上がり、外へ出て流れゆく雲を見た。

 もう用はないと言わんばかりに雲は薄くなってゆき、夕に染まる空がちらほらと見え隠れしている…。

 いつか彼と見た、あの夕の空と重なり…懐かしくも寂しい気持ちが込み上げてくる…。


 今はただ、そんな雲間から…静けさだけが…降り注ぐ…。



 星影の

  芒そよぎし

   涼風に

 秋虫の鳴く

    宵の侘しき



 雲は晴れ、空には久方ぶりに星が綺麗に瞬く…。

 心地好い風は野原のすすきを揺らし、辺りをざわつかせた…。

 耳を澄ませば秋虫があちらこちらで鳴いており…あぁ、もう秋なのだなと思わせる…。

 もう久しく彼の姿を見ていない…。

 こんな朧気な宵には…自分さえ見失いそうになってしまう…。

 どんなに祈るも無駄なのに、こんな宵ゆえに…私は彼に会いたいと願ってしまう…。


 しかし…何に祈れば良いのだろうか…。

 私にはもう…分からない…。



 
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