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獣篇Ⅰ

作者:Gabriella
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1 大切なものは、必要な時に限って、出てこない

 
前書き
 誘拐篇に続く。
 自己回想シーン含む。 

 
  私は、鬼兵隊を抜け出して、江戸の町に、降り立った。

  あの組織から抜け出すのは、なかなか難しかったが、無事に 私の立てた計画通り、
  脱出することができた。






  思い返せば、一年ほど前、私はボスから、ある男を殺すように命じられ、
  任務を遂行すべく、その男をホテルへ連れ込んだところまでは良かったのだが…

  最悪なことに、その男の正体は、
  攘夷志士の中で最も過激で危険な男、高杉晋助だった。

  彼は、幼少期に、同じ師から、ともに学んだ同級生だった。


  …そして私は、突然現れた彼の姿に困惑した隙をつかれ、
  高杉(あいつ)が総督を務める鬼兵隊へ、誘拐された。


  彼は、私の中に存在する(わたし)の存在に気付いていて、(そいつ)を利用すべく、
  私に近づいてきたようだ。


  だが、本当のところは、まだはっきりとは分からない。





  そして私は、鬼兵隊で働きながら、高杉に仕えるはめになった。


  私の本職は、殺し屋だ。
  相手の隙をついて逃げ出すことは簡単だと思っていたが…


  あいつは全て、お見通しだった。

  私が最初から逃げ出すつもりでいたことも。

  だから私は、高杉(あいつ)に一番近い部屋に囚われていた。

  途中まで高杉(あいつ)に気付かれずに、
  隙をついて逃げ出す計画を立てて、上手く事を運んでいたのだが、
  いつもいい所で、計画が露見する。

  最初はなぜだか分からなかったが、
  捕まるたびに集めた情報によって、それが明らかとなった。

  直接的な原因は、首の後ろに埋め込まれていたチップだった。
  いつの間にか、埋め込まれていたのだ。


  仮に私が逃げ出そうとすると、私の中の獣がそのチップを通じて、
  同時に即座に、電流が流れる仕組みになっていたようだ。

  しかも、もし用事や出かける旨をあいつに伝え、許可をもらわなければ、
  その電流が流れたとき、ついでに私の居場所までGPSで割り出されてしまうようだった。

  …まるで、過保護な親のようだ。


  また、私の中の(そいつ)は、「私」の意識がないうちに、高杉(あいつ)に、
  忠誠を誓っていたらしい。

  …私を見張っている間は、静かにしている…と。


  だから、私が脱出するには、自分の感情に客観的になって、

  つまり、(わたし)をもだまし、
  かつ、高杉に許可をもらっていないと、うまくいかない。
 

  …そうやって私は、高杉と(わたし)をだましだまし、
  見事に脱出した。






  私は、「新選組の偵察に行く」と言って、江戸の町に降り立った。

  高杉(あいつ)は、簡単には許可を出さなかった。

  相変わらず、私が逃亡すると疑っていたようだ。
  逃亡して、裏切るつもりだと。



  いっそのこと、そんな私を手放してくれればいいのに、
  なぜ彼は、私に執着するのか…。

  

  そういえば、あいつは…

  _「お前の『獣』を抑えることができるのは、オレだけだ。」


  と言っていた。
  あれは、そういう意味だったのか…。


  困ったもんだ。


  そう思いながら、通りを歩いていくと、大きな橋に差し掛かった。

  橋の近くの電柱には、指名手配犯の写真が貼ってある。


  _桂 小太郎…


 そう、私は紅桜のとき、(ヅラ)を助けた。 
彼にはとっさに嘘をついて誤魔化したが、
(ヅラ)は、とっくに気づいているだろう。


  

  その近くには、「白夜叉」と小さく書かれた指名手配書も見えた。

  白夜叉…!
そう、私と彼は白夜叉だ。


  そういえば、また子も言っていた…。

  _「『白夜叉』ねぇ…。同じ名前のやつが2人いるとは…。アンタ、
    あいつと 兄弟なんッスか?」


そう、私は彼と同じ名前で呼ばれていた時期がある。


彼は今どこにいるのだろうか。
彼に会えるだろうか。




  ぼんやりしながら橋の上を歩いていると、頭に傘をかぶった、僧侶のような恰好をした
  男が、橋の方に背を預けて、こちらを見上げた。


  そしてその男はこう言った。


  _戻ってきていたのか、死神…いや、白夜叉、と言った方がいいのか…?


  _ちと、真選組を偵察しにな…。

  _…そうか。ならばせいぜい、気を付けることだ。
   ちなみに、今までどこへ行っていたんだ?

  _遠いところだ。だがな、3か月ほど前、高杉(あいつ)が私を、鬼兵隊へ強引に連れて行った。
   まぁ、誘拐した と言っても、過言ではないかもしれん。


  心臓が、キリキリと痛み始めた。

  _危ない、このままでは…。
   全てバレる危険がある。



  _そうか。まぁ、元気そうでなによりだ。
   あいつにも、よろしく伝えておいてくれ。


  _相分かった。
   次戻ったら、伝えておく。



  だがその時、後ろから、パトカーが来た。

  _真選組…!



  車から声が聞こえてきた。

  _「かぁ~つらぁ~。そこに直れ!
    神妙にしろ、お縄につけ。」


これは、一番隊隊長の声だ。


  とりあえず、桂だけでも逃がさないと…


  _「ヅラ…お前は、逃げろ」

  私がそう言ったのと同時に、彼も私に、逃げろ、と言った。


  _いや、私がひきつけておくから、お前は先に逃げろ。
   なんといったって、私の本職は、殺し屋だ。

  _ヅラじゃない、桂だ。

  _だから、ヅラ、こちらが片付いたら、そちらへ向かう。
   だからお前は、先に茶屋ででも、待っててくれ。


  _…分かった。では、また後で。


  桂が去ったのを確認して、後ろを振り返ろうとしたその時,



  _「御用改めである。」

  頭に刀の先が当たった。


  _!

 
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