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第一章

                           指
 街で奇妙な事件が起こっていた。所謂通り魔事件だ。
 夜の街を歩いていると急に何処からか襲われてだ。そのうえでだ。
 殺されはしない。クロロフォルム等で眠らされてからだ。
 腕、左手の手首だけが切り落とされるのだ。こうして左手首がなくなった女が街で相次いでいた。
 この一連の事件に警察でも捜査本部を設けた。その捜査本部にだ。
 二人の部外者が呼ばれた。一人は茶色の髪を頭の中央で分けた知的な顔立ちの男だ。目は切れ長で口もしっかりとしている。スーツの上にトレンチコートを羽織っている。
 もう一人は黒い髪を短く刈った精悍な顔の青年だ。逞しい身体がラフなシャツとジーンズ、そして赤いジャケットの上からはっきりと出ている。二人とも背は高い。
 その二人がだ。本部長にこう名乗った。
「役清明です」
「本郷忠です」 
 二人はそれぞれ名乗った。
「京都で探偵をしています」
「で、今回は」
「はい、捜査に協力して頂きたく」
 私服の壮年の警官が二人に言う。警視庁から派遣された捜査本部長だ。
「雇わせて頂きました」
「そうですね。では」
「早速捜査に当たらせてもらいますね」
「お願いします。しかし」
 ここでだ。本部長は難しい顔で二人に述べた。個室において二人に注目している。
「今回の事件はどうも」
「殺人事件ではないですね」
「けれどまあこれは」
「奇怪な事件です」
 忌まわしいという顔でだ。本部長は述べた。
「女性の左手首だけを切断していますから」
「そこが普通の通り魔と違うかな」
 本郷も首を捻りながら話す。三人は話していた。座ったうえで。
「それは」
「手首だけを切るというのは」
 役が言う。推理を働かせながら。
「おそらくはですが」
「精神異常者の犯行だというのですね」
「はい」
 その通りだとだ。役は本部長に答えた。
「間違いなく。若しくは」
「カルトですかね」
 本郷は言葉をあらためてきた。先程よりも幾分か礼儀正しいものに。
「それになりますね」
「ですね。そうした類ですね」
「だからですか。私達が呼ばれた」
「そういうことですね」
「はい、そうです」
 まさにそうだとだ。本部長は役と本郷の二人に答えた。
「それでおそらくですが」
「事件の解決はですか」
「それ自体は」
「はい、簡単ですね」
「おそらくですが」
「こうした事件は俺達が依頼されることの常ですから」
 だからだとだ。二人も答える。
「すぐに解決できると思います」
「そうなります」
「しかしです」
 だがそれでもだとだ。本部長は二人に述べてきた。
「問題は犯人がどうした人物で何故こうしたことをするのか」
「問題はそこですか」
「犯人の思考ですか」
「そうです。お二人には事件の解決と共に」
 依頼の対象は事件の解決だけでなかった。それに加えてだった。
「犯人の心理についてもです」
「精神科医の様にですか」
「調べて欲しいんですね」
「金銭関係や恋愛のもつれや社会的要因に基く事件はわかりやすいです」
 警察もそうした事件を主に扱ってきている。だからだ。 
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