三本の矢
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第四章
「はい、実はですね」
「三人で毛利元就の話について話す機会があったんです」
乃木と黒木がだ。礼儀正しい笑みを浮べてその驚いている二人に話した。
「三本の矢は一人ずつだと折れないですから」
「三人で協力し合えばどうかって」
「三人で交換し合って順番に力を入れていけば何時かは絶対に折れるって」
「そうお話していたんです」
「ああ、それでなの」
乃木と黒木の話を聞いてだ。山縣は納得した顔で頷いた。
そしてそのうえでだ。こう言ったのである。
「そうして順番に力を入れていって」
「はい、やってみました」
「思い通りにいけましたね」
「こうしたやり方があったのね」
桂も言う。ようやく納得したという顔で。
「成程ね。三本の矢でも」
「はい、お互いに力を合わせれば折れるって思いました」
児玉は微笑んでその桂に話した。
「それでやってみました」
「成程ね。わかったわ」
桂は児玉のその言葉に頷いた。そうしてだった。
山縣に顔を向けてだ。こう言ったのである。
「何かね。私達が心配したことってね」
「杞憂だったわね」
「ええ、本当に」
こう山縣に言ったのである。
「私達が心配するまでもなかったわね」
「私達が心配する以前に三人が一番わかっていたことだったのね」
「お互いに力を合わせてこそ」
「それでこそってことがもうわかってたのね」
「はい、私も一人ですと」
どうかとだ。今度は児玉が笑顔で話す。
「何もできないですから」
「私もです」
「私もなんですよね」
乃木と児玉も二人に言う。一人では何もできないというのだ。
「けれど二人がいれくれたら」
「何の心配もありません」
「そうなのよね。実はね」
山縣もだ。桂を見てだった。
笑顔になってだ。こう言ったのである。
「私達もよね」
「そうよね。私も一人だと何もできないわ」
「私もよ」
こう桂に言ったのである。
「一人だとやっぱりね」
「何もできないわよね」
「この一年貴女と一緒だからやっていけたわ」
「何ごともね」
「だからこの娘達もなのね」
「そうね」
こう言い合う。そしてだった。
あらためて三人に向かい直ってだ。こう告げたのだった。
「これからの弓道部宜しくね」
「貴女達なら大丈夫だからね」
「弓道部、盛り立てていってね」
「三人で力を合わせてね」
こう笑顔で三人に告げたのである。そして。
三人も笑顔でだ。山縣と桂に言葉を返した。
「はい、私達力を合わせてやっていきます」
「三人で一緒に」
「一つになって頑張ります」
こう言ってだ。そのうえでだった。
これからの弓道部を託し託されたのだった。夕刻の弓道部の弓の場は赤い中にあった。その赤は何処までも暖かく優しい世界の中にあった。希望という暖かさの中に。
三本の矢 完
2012・6・29
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