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スーパーロボット大戦OG~泣き虫の亡霊~

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第四話 黒い猟犬

 ――八時間後。
 ライカは第二ブリーフィングルームの前にいた。司令室でメイシールが言っていた例の作戦とやらの打ち合わせのためだ。
 正直に言うと、気が進まない。今回の作戦はメイシールから、『肩身狭いと思うけど、死ぬ気で頑張りなさい』等と激励をもらうぐらいなのだから。

「失礼します」

 とは言っても、いつまでも突っ立ってはいられないので、意を決して扉を開いた。
 なるほど、とライカはぼんやりと彼女の激励を思い返してみる。

「……」

 部屋の中にいた同僚達の態度はとても冷たいものだった。大半がこちらと目を合わそうとしない、中には露骨に嫌そうな顔をする者も。
 覚悟していたリアクションだった。当然の反応か、とライカは諦める。
 少し前までは『ガイアセイバーズ』として彼らと行動を別にしていたのに、ある日突然一緒に作戦をこなすことになるなんて抵抗無い方がどうかしている。
 自分が彼らの立場ならやはり多少なりとも嫌悪感を感じていることだろう。

「ちっ。上もどうかしているぜ。裏切り者を作戦に入れるなんてよ」
「ま、せいぜい後ろから撃たれないように気を付けよーぜ」

 わざとこちらに聞こえるぐらいの声量で言葉を交わす同僚二人。ライカは無感情な瞳で二人を視界に収めた。

「あん? なんだよ、何か言いたいことでもあんのか?」
「別にありません。しかしそうですね……。そうやって私にビクビクしている人と任務だなんて、貴方の言うとおり上はどうかしていますね」
「んだと……!?」

 ああやってしまった、とライカは表情には出さなかったが自分の負けず嫌いをとことん恨んだ。室内が殺気立っている。
 ライカは不思議と懐かしさを覚えた。

(……まだ未熟ですね。経験も……精神も)

 脳裏に浮かぶはかつて自分が所属していた『ガイアセイバーズ』のあの部隊。隊長であった仮面の男は良くこう言っていた。

 ――君達が勝手に死ぬのは良いが、僕の邪魔だけはしないでおくれよ?

 彼の言葉通り、部隊は実に殺伐としていた。
 連携はしっかりと取る。じゃなきゃ自分が死ぬだけだから。味方が危なかったら割って入る。落とされたらターゲットが自分に集中するから。
 ……本当の意味で連携を取れた者なんて、皆無。見方によっては、自分も含めた全員が機械の集団だったと言えるくらいだ。

「おい、なんか言えよ!?」
「……私は」
「随分と良い雰囲気じゃないか。女いじめて喜ぶな変態共が」
「ひゃっ」

 突然背後から聞こえてきた声で変な声が出てしまった。
 振り返ったライカは背後に立っていた長身の男性と目が合った。ブロンド、とでも言えば良いのだろうか、短く切った鮮やかな金髪がライカの視界に入る。力強い意思を持った目だ、とライカは思った。故に、顎の無精髭がとても似合わない。

(剃れば良いのに)
「なんか言ったか?」
「いえ。何でもありません」
「そうかい。なら良い。んじゃお前ら席に着け。これからブリーフィングを始める」

 そう言うと男はスクリーンまで歩いていった。その背中にライカは問い掛ける。

「あの、失礼ですが貴方は……」
「俺か? クロード・マルキース大尉だ。この任務の指揮を執ることとなる。よろしくな、ライカ・ミヤシロ中尉」
「し、失礼しました」
「良い良い。現場じゃ階級じゃなくて腕がモノを言うからな。お前のことは聞いてる。そう肩肘張りなさんな」

 ライカは返事の代わりに敬礼で返した。これこそが彼女が示せる最大限の敬意だった。

「さて、と。んじゃお前らこれを見ろ」

 スクリーンに映し出されたのは少し大きな島の地図だった。中央には山があり、その周りを囲むように光点が八つほど点滅している。更に赤い光点が海上に四つ、山付近に六つ点滅していた。
 咳払いを一つしたあと、クロードは説明を始める。

「今回の任務はテロリストの鎮圧となる。やることはシンプルだ。敵戦力を撃破し、山の中腹にある基地を押さえる。それだけだ」

 クロードは詳細の説明を始める。敵戦力、隊列、仕掛けるタイミング等、実に細かな説明が十数分に渡って続けられた。

「――と、こんなところだ。質問あるやつは?」
「よろしいでしょうか」

 僅かな動揺を隠しながらライカは手を挙げた。

「何だ?」
「私がその役目で、本当に良いんでしょうか?」

 念には念を。ライカはいきなりのことに自分は間違ったことを聞いていたのではないか、と自身を疑って止まない。
 自分に言い渡された役目は北から島に入り、なるべく敵を引き付けつつ、配置されている八つの対空砲を八分以内に破壊すること。
 要は囮と露払いの兼務。
 未だ対空砲にはPTやAMを大破させられるくらいの火力がある。つまり、この作戦の生存率の高低はライカに懸かっていると言っても過言ではない。おまけにライカが引き付けている間に島の南西から仕掛ける本命のことも考えると、作戦の成否にも多大な影響を与えるのだ。

「逆に聞くが出来ないと思ってんのか?」

 彼の一言に、室内の人間の視線が一気にライカへと集まった。下手に答える訳にはいかない。
 ただでさえ、自分は元『ガイアセイバーズ』なのだ。そんな自分に、下手に期待を寄せさせたくはなかった。

「はぁ……。なあ、良いか中尉?」

 しかし、彼の言葉で考えが変わった。

「俺が……俺達が求めてんのはやる気じゃない、確かな腕だ。……質問を変えるぞ。お前は、俺達の命握る覚悟はあるか?」
「当然です。それが与えられた信用(にんむ)ならば、私は確実に遂行しましょう」
「良く言った」

 そうだ、とライカは自分のしていた勘違いを恥ずかしく思う。

(元ガイアセイバーズが何だ。私は、そんなものに縛られないと決めたじゃないか。……今度こそ、私は私の戦いをしてみせる……!)

 ――作戦開始まで、後六時間。


 ◆ ◆ ◆


「うわっ……虫すごいな。しかも蒸し暑いし……参ったな」
「……少し黙っていてください」

 島を覆う森林の海。
 中心部にそびえ立つ山を見下ろしながら、二機の機体は山の近くに着陸する。すると地面がガコン、という音と共に、沈み始めた。
 野鳥が一斉に飛び去っていくのをサブカメラで見ながら、二機の内の一機――艶がない真っ黒な色のガーリオン・カスタムのパイロットがつまらなさそうに呟く。

「あぁっ、この隠しエレベーターが無かったら、あいつら撃ち落とせたのに」
「発砲音と薬莢で敵にここの位置が突き止められてしまいます。それは合理的な判断とは言えないですね」

 ガーリオンの隣にいるもう一機のパイロットが、実に淡々とした声で返す。いつものやり取りのようで、ガーリオンのパイロットは反論もせず、ただため息を吐くだけだった。

「あんま細かいと戦闘中に背後から撃つぞ? やるぞー、俺はやるぞー?」
「上等です。貴方こそ死角には気を配っておいたほうが良いようですね」
「おお、貴公らが今回の助っ人か。歓迎しよう」

 格納庫の通路の上に、およそ四十代と見てとれる男性が二機を見上げていた。
 それを確認し、プライベート通信に切り替えたガーリオンのパイロットは、もう一機へ不満をぶちまける。

「おいおい、何だよこりゃあ。完全にアテにされてるぞ」
「……怖いのでしょう。いつここに戦力を送られて潰されるのかが」
「お前の交渉術があいつらに変な希望を持たせたんだ。お前のせいだぞ“ハウンド”」

 “ハウンド”は反論することもなく、こう締めくくった。

「……ならば文字通り希望になるまでです」
「希望、ね。偶像という名の希望にならなきゃ良いけど」

 二機のパイロットは、どちらともなく通信を切り、今回の雇い主の元へ降りていった。

(……今回は釣れると良いですが)

 “ハウンド”の口元が少しだけ、ほんの少しだけ強く引き締まった。


 ◆ ◆ ◆


「……」

 シュルフツェンのコクピットの中でライカは一人、目を閉じていた。
 己を一個の兵器とするために、彼女が出撃の度に行っている癖のようなものだ。

(『CeAFoS』。私はどこまでやれる……?)

 ライカは正直、このシステムにあまり好ましい感情は抱いていなかった。否、彼女のポリシーがそれを許さなかったのだ。

(やはり断れば良かった)
「ハロー、ライカ。ちょっと良い?」
「何ですか少佐?」
「ちょっとシュルフツェンの武装の説明をしておこうと思ってね」
「……プラズマバックラーにコールドメタルナイフ、バズーカにアサルトマシンガンですよね? 先ほど説明は受けたと記憶していますが」
「話は最後まで聞きなさい。今回、私が独断で組み込んだ武装の説明をするのを忘れててね」

 ライカはあからさまに不満げな表情を浮かべる。
 ただでさえ『CeAFoS』があるというのに、これ以上厄介なモノを付けないでほしい――と、流石に口にするのは出来ないのでライカは心の中で愚痴をこぼした。

「まず一つ目。ナイフなんだけど、刃の根元にちょっとした細工を施していてね。一発限りの飛び道具になるわ」
「つまり、スペツナズナイフのようなものですか?」
「そうね。あとはシュルフツェンの腰部を見てみなさい」

 言われるがままにカメラを倍率を上げ、腰部を見てみると、何やら知らない武装が施されていた。

「それはね。戦闘における有線兵器の有用性を再確認する意味で付けたものよ」
「有線兵器? チャクラムシューターですか?」
「アンカーよ」
「は……?」
「射出式アンカー。これを相手に撃ち込んで、スラスターや重力に頼らなくても空中戦をこなせるようにする、というのがコンセプトね」

 送られてきたモーションデータに目を通したライカは額を掌で覆った。言いたいことは分かるし、やりたいことも理解できるのだが、これはあまりにも実用性を疑ってしまうモノだ。
 口を開こうとする彼女を遮るようにメイシールは言う。

「その程度の武装が扱えないだなんて、貴女の実戦経験とやらも怪しいものね」
「……一つ武装を追加してください。そうですね、G・リボルヴァーを。それと弾倉には一番大きな弾をお願いします」
「貴女って意外と……ううん、待ってなさい。すぐに用意させるから」

 柄にもなく、ムキになってしまった。まあしかし、とライカは気持ちを切り替える。
 プロならある武装を文句言わずに全て使いこなす。ライカはすぐに頭の中で戦術を組み直した。

(……ん?)

 ふと、胸騒ぎを覚えた。まるでこれからの作戦の結果を示すように。

(……上等。私はまだ死ぬわけにはいきません)
「中尉聞こえるか!?」

 通信用のモニターに映し出されたクロードの表情に焦りの表情が見えた。彼から告げられた言葉はライカの嫌な予感を見事に肯定することとなる。

「今入ってきた情報だが、偵察中の部隊がやられたそうだ! このままでは防衛網が強化されて俺達では手が付けられなくなっちまう! すぐに出るぞ。用意は出来ているか?」

 嫌な予感が、当たってしまった。こうまで早い対応は敵に読まれていたとしか思えない。

「すぐに出られます。先行して対空兵器を潰します」

 カタパルトに機体を固定させたライカは地図データを開き、偵察部隊から送られてきたデータを上書きする。
 中心の山を囲むように、八門の対空砲が待ち構えていた。中々骨が折れそうだ。
 ――ここからは脇目も振り返らずの一点突破。

(護衛に構っている暇はありませんね……)

 機体のコンディションはオールグリーン。操縦桿を握り直し、ライカは大きく深呼吸をした。

「ライカ・ミヤシロ。シュルフツェン出ます」

 ペダルを思い切り踏み込み、機体は青い空へ飛び立つ。景色に浸る間もなく、すぐさま出迎えにきた敵機。
 交戦はしない。時間の無駄だから。
 なるべく速度を落とさないよう機体をコントロールさせるだけでもかなりの難易度なのだ。

(リオンが二、バレリオンが一。……一々相手にしていられません)

 アラートよりも速くやってくる弾丸を避けながらも、ライカのシュルフツェンは最初の獲物を捉えた。対空砲は一ミリの狂いもなく、こちらの動きをトレースしている。
 左右に揺さぶっても、フェイントを入れても砲門はこちらを喰わんとしていた。

(眼が良すぎるのも如何なものか)

 シュルフツェンの右手にはバズーカがあった。カートリッジ込みで十二発。
 今回の攻略法とは実に単純だ。精度の高さを逆手に取り、砲門へ直接攻撃を叩き込む。
 特殊人型機動兵器……通称『特機』ならば実に容易く終わるのだろうが、如何せんこちらはPTだ。どこぞの魔改造品ならまだしも、量産型が持てる火力にも限界がある。シミュレートの結果、最も効率的な武装がバズーカだった。

「くっ……」

 アラート。だが見えていた。
 操縦桿を倒し、回避行動。即座に左手のアサルトマシンガンをフルオートでばら蒔いてやった。
 だが結果はリオンの右肩を擦るだけの小破以下。

(一門あたりの時間にはまだ余裕があるけど……!)

 今しがた出会った三機が鬱陶しい。リオン二機で気を引いて、バレリオンで仕留めるといった所か。さっきからシュルフツェンの両脇を着いて離れない。
 このままではいずれ喰われる。

(一機……!)

 砲門への照準を止め、機体を反転。狙いは……最大火力(バレリオン)
 武装パネルを開き、その中からメイシールが勝手に付けた武装を選択する。すぐさまライカはバレリオンの腕部目掛け、アンカーを射出した。アンカーがバレリオンに食い込んだのを確認し、すぐさまワイヤーを巻き取る。
 その間に左手のマシンガンを腰部にマウントし、代わりにG・リボルヴァーを持った。ライカはワイヤーが巻き取られる甲高い音で耳が変になりそうなのを我慢しつつ、機体のバランスを崩さぬように微細なコントロールを維持し続ける。

「……普通にビーム兵器で斬った方が良いですね」

 バレリオンの反撃とも言えるミサイルランチャーを難なく避け、“眼”にあたる部分にG・リボルヴァーの銃口を押し付けながら、ライカはそう分析した。
 帰ったらアンカーは取り外してもらおう――ついでにそんなことも考え、シュルフツェンは引き金を引いた。
 すぐさま吐き出された弾丸は数度の鈍い破壊音を奏でられる。やがてバレリオンの内部から黒煙が立ち上り、高度を下げていく。
 一番大きな弾丸を使っても中々落ちなかったのは流石バレリオンの装甲といった所か。

「ちょうど良い位置ですね……」

 偶然にもそこはバズーカの有効射程内。

「まず一つ……!」

 迷うことなくライカはバズーカを撃った。
 弾は寸分の狂いもなく砲口を潜り、砲身内部を突き進み、やがて中の砲弾を誘爆させる。思ったよりも派手な爆発だ。

「……五十八秒。時間を掛けすぎました」

 後続が来るまでにあと七門。想像以上にシビアな制限時間だ。
 ライカの頬を一筋の汗が伝う。

「……上等」

 時間の他にライカの不安要素がもう一つあった。何を隠そうこの機体に積まれている爆弾……もとい『CeAFoS』。
 戦闘開始してからまだ一度も動いていないこの装置は一体何なのだろうか。起動はしているはずなのにこの前のような自律戦闘やBMパターンの提示もない。
 メイシール曰く、『貴女の邪魔はしないはずよ』とのことなのだが……。

(なら外してください、なんて言えないですよね)

 そんなことを考えていたら次の獲物が見えてきた。一刻も速く全部壊さなければ後に支障を(きた)す。

「……行きますか」


 ◆ ◆ ◆


「お、ついに始まったか」
「……そうですね」

 地下の基地で艶が無い真っ黒なガーリオンのパイロットが隣の機体で待機している“ハウンド”へ通信を送っていた。

「どうでも良いけどさー、お前そのヘルメットいつも被ってるよな。口元しか見たこと無いぞ俺」
「作戦行動に支障はありません」

 モニターの向こうには、口元しか出さないヘルメットにパイロットスーツ姿の“ハウンド”がいた。ガーリオンのパイロットに出来るのはせいぜい口の形から表情を読み取り、直接言葉を交わすことぐらい。
 不便は感じない。何だかんだで上手くいっているのだ。

「雑談よりも機体チェックに集中したほうがよろしいのでは?」
「嘗めんな、とっくに万全だ。他人の事言ってる暇あるのか? 俺のよりよっぽどメンドクサイ機体乗ってるだろうが」

 そう言いながらガーリオンのパイロットはモニターを切り替える。映し出されたのは“ハウンド”の機体だった。
 ガーリオンの頭一つはある全長、黒と灰色のカラーリングが一層無機質さを際立たせていた。頭部や胴体の造りを見ても、相変わらず何の機体が基になっているのか見当も付かない。
 ――訂正。
 聞いてはいるのだが、中々原型機と今の状態に辿りつかないのだ。

「まあ、何でも良いや。動いて、敵を撃墜してくれるならな」
「……一人で自己完結をしないでください。会話をする気が無いなら私のために黙っているという配慮が出来ないのですか?」
「うっわ言っちゃう? そういうこと言っちゃう? お前、ほんと後ろに気を付けろよ。背後からコクピット串刺しにされないようにな」
「上等です。……そういえば知っていますか? どんな腕利きでも攻撃している間は無防備になるんですよ? ……怖いですね。そんなことにならないよう祈っていますね」
「――アルシェン・フラッドリー殿、“ハウンド”殿!」

 緊急用の回線が開かれ、映し出されたのはこの基地の司令。散々こちらを持ち上げ、アテにしきっている人間だった。
 ガーリオンのパイロット――アルシェンは内心舌打ちをし、応答する。

「予定より早いですね。……風向きが悪い、と?」
「戦闘開始からたった六分足らずで対空砲を七門破壊された! あと一門を破壊されたらこの基地は対空機能を失うことになる!」
「もう少し早く我々に言ってくれたら、対処できましたのに」
「そ、それは……!」
「まあ、いいさ。それじゃあ吉報を期待していてくださいな」

 回線を切り、アルシェンは機体の状態を再確認した。大方変なプライドでこちらの助太刀をギリギリまで渋っていたのだろう。この類は大体底が知れている。

(この基地はダメだな。トップが無能すぎた)

 それよりも、とアルシェンはモニターを基地のカメラに切り替え、今現在暴れている敵機を映した。
 丁度灰色のゲシュペンストがこちらのリオンを撃墜した瞬間だった。

(それに相手が想像以上にやる。ここの奴らじゃ話にならん)
「アルシェン」
「何だ?」
「確かめたいことがあるので先に出ます」

 言うが早いか手が早いか。既に“ハウンド”の機体は基地の外に出ていた。

「あ、おい! “ハウンド”待て!!」

 止める暇もなかったアルシェンは“ハウンド”に続く形でガーリオンのテスラドライブに火を入れる。同時に、両肩のブースターユニットの噴出口が一瞬大きくなり、すぐに小さくなる。
 じわじわと推進をするための力が高まっていき、今か今かと爆発の時を待っている。

「アルシェンだ。ガーリオン・カスタム出るぞ」

 アルシェンがペダルを踏み込んだ瞬間、束縛から解放されたかのように機体は基地から飛び出した。

「――さぁハロウィンと行こうか。灰色のゲシュペンスト」 
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