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一の葦の年

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第四章

「全てを手に入れることをな」
「はい、それにしてもここは凄いですね」
「この様な街ははじめてです」
「実に豊かで整っています」
「この様な街は本当にはじめてです」
「そうだな、しかしだ」 
 ここでだ、コルテスはあるものを見た。それはというと。
 血塗られた階段だった、石造りの見事な神殿だがその階段は血で赤黒く染まっていた。新鮮な今流れたばかりの様な血もあった。
 そしてだ、神官の一人が皿の上に脈打っている心臓を捧げていた。彼はその階段や心臓を見て部下達に囁いた。
「何だと思うか、あれは」
「生贄では」
「そうではないですか?」
「そうとしか思えません」
「まさかと思うのですが」
「我々も下手をすればああなるか」
 この危惧も言うのだった。
「このことは注意しなければな」
「数は我々の方が少ないです」
「確かに幸先はいいですが」
「それでもですね」
「この幸先のよさは必ず活かす」
 絶対にと言うのだった。
「いいな」
「はい、折角無事に入られたのですから」
「そうしていきましょう」
「さもないと我々もああなります」
「生贄に」
「その為には手段を選んではいられない」
 コルテスのこの言葉は険しかった。
「言ったな全てを手に入れるか死ぬかだ」
「ここまで来たらどちらかしかありませんね」
「我々もわかっていたこと」
「それならば」
「何でもすることだ」
 血生臭いその神殿を見つつ言うコルテスだった、そのうえでアステカ王の前に行った。そしてまずは神として応対されたのだった。
 ここからスペインのアステカ侵略がはじまったとされる、この後どうなったかは歴史にある。コルテスはアステカの全てを徹底的に破壊し彼自身は部下達と共に多くの富と栄誉それに爵位を手に入れた。そうして栄光と後の世の批判を受けた。
 一の葦の年に彼はアステカ帝国に来た、しかも白い肌と長い髭という姿で。この奇妙な偶然が全てをはじめた。それをどう捉えるかは人それぞれであろう。しかし実に奇妙な偶然であることは間違いないであろう。アステカの者達もコルテス達もお互いに予想もしなかったことであるからこそ。


一の葦の年   完


                          2017・3・19 
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