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スーパーロボット大戦OG~泣き虫の亡霊~

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プロローグ

 
前書き
初めまして。鍵のすけくんと申します。よろしくお願いします。 

 

 ――“あの時”、私の戦いが終わった。

 『DC戦争』の決戦地であり、『L5戦役』の最終決戦地でもある冥王の島こと『アイドネウス島』。今では『グランド・クリスマス』という名に変わっているが、ここでまた一つの決戦が終わろうとしていた。

「動力に被弾! 駄目だ……もう……! ミヤシロ隊長……!!」

 モニターから『バレット2』と称された識別信号がロストした。メインモニターの隅で火を噴きながら、RAM‐004《リオン》の上位機体となる《レリオン》が冷たい海の底に墜ちていく瞬間が見えた。その一連の流れを見ても、何の感情も湧かない。
 右操縦桿の傍にあるコンソールを数回叩き、武装を選択する。それだけでこの機体――RAM‐006V《ガーリオン・カスタム》は、右手に持つ射撃兵装『バースト・レールガン』を向けた。レティクルが今、目の前でレリオン二機と交戦している緑色の亡霊へ重なろうとする。

 ――インサイト。

 人差し指の位置にあるトリガーを二度引く。その動作を確実にトレースし、ガーリオン・カスタムは二回マニピュレータを動かした。衝撃が一つ二つ。銃身から飛び出した弾頭は緑色の機体へ吸い込まれ――ず。

 ――視界が三百六十度なのか?

 レリオンへ直進していた緑色の機体は急に停止したかと思ったら、そのまま後ろへ下がったのだ。そのまま直進していたらバースト・レールガンの弾丸は間違いなく、コクピットを食い破っていただろうに。

 カイ・キタムラ。伝説ともなっている『特殊戦技教導隊』の一人である、掛け値なしの超玄人。PTの元祖でもあるゲシュペンストシリーズをこよなく愛し、スペックを理解し尽くした戦闘機動はまさにと言うべきか。実に圧倒される。

「『ガイアセイバーズ』……気合いが足りん!」

 無線越しにカイの気迫が伝わってくる。
 緑色の機体……RPT‐007K‐P《量産型ゲシュペンストMk‐Ⅱ改》は両腕でレリオンを拘束するや否や、即座に右肩を刷り寄せる。そのまま背中にレリオンを乗せ、地上へ向かい、急降下をしていく。――型破りなモーションを。
 もちろんただ眺めているほど愚かではない。コンソールに映し出されている兵装リストから『ソニック・ブレイカー』をタッチし、モーションへ移行する。両肩のユニットが上下に開き、『テスラ・ドライブ』にエネルギーが十二分に行き渡る。
 すると、メインモニター一杯に青いエネルギーフィールドが映し出されていく。ただのエネルギーフィールドではない、電磁誘導及び加熱され、フィールドには金属粒子が固定されている。文字通り『盾』を獲得したガーリオン・カスタムをメインモニター端の画面で確認し終えたあと、推力を上げるべく、ペダルを踏み込む。上がるGで身体がパイロットシートの背もたれに押し付けられる。

 ――相変わらず嫌な感覚だ。やっぱり機種変更なんてするものじゃない、か。

 高度計から計算するに味方のレリオンが地面に叩きつけられるのは、あと三十秒弱。ギリギリ間に合うか間に合わないか。気づけばペダルをベタ踏みしていた。まるで新兵だな、と自嘲しながらも、視線はカイが駆るゲシュペンストへ。錯乱でもしたのか、拘束されているレリオンが出鱈目にレールガンを放ち続けている。

 ――もう少し。

 流石と言うべきか、カイ機の降下速度が増した。だが、こちらも加速に乗る。横っ腹直撃コース。だが、現実はそう上手く行くはずがない。相手は百戦錬磨の『鋼龍戦隊』。
 先程まで、三機のレリオンの集中砲火に晒されていたはずの“古の鉄の巨人”がこちらの背後を猛追して来ていたのだ。後部監視用モニターから眼が離せない。よそ見など三流も良いところだが――生憎、相手が悪い。

 機体識別コード『PTX‐003C‐SP1』。

 《アルトアイゼン・リーゼ》と呼ばれるこの機体に背後を取られて、一体どれだけの兵士が平静を保てるのだろうか。
 短い距離ではないというのに、ガーリオン・カスタムの推進力が決して低いわけでもないというのに、赤い鉄塊はどんどん詰めてくる。今からソニック・ブレイカーのモーションをキャンセルし、即刻離脱すれば被弾は免れるだろう。――そんな、“選択肢”はあり得ない。
 アルトアイゼン・リーゼの両肩のハッチが上下に開かれた。あそこにたっぷりと詰め込まれているチタン製のベアリング弾は、確実にこのガーリオン・カスタムの装甲を引きちぎるだろう。――その前に、もらっていく。
 だが現実は非情。彼の機体に有効打を与えうる武装は現在稼働中。……そこで考えた。
 モーションの邪魔になるので、腰の後ろにマウントしていたバースト・レールガンを強制排除。狙いは開きっぱなしのハッチ。目潰し、あわよくば誘爆をしてくれたら御の字だ。バースト・レールガンが後方へ飛んでいく。
 結果は失敗となった。鉄塊は両脛と足裏のスラスターで急停止し、急激に上へ進行方向を変え、モニターから姿を消した。振り切ったことを信じて、改めてメインモニターへ意識を戻す。……一瞬とはいえ、メインモニターから目を離したツケが回った。――やられたのだ。
 目の前には、両腕の”空いている”カイ機が。サブカメラを地面に収め、映像を拡大すると、そこにはレリオンだったものの残骸が。――間に合わなかった。
 悲しいという感情はあったが、それだけだ。人を殺す機械に乗るということは、皆それ相応の覚悟をしている。あのレリオンのパイロットも覚悟していただろう。
 即座に思考を切り替える。仇討ちは趣味ではない。その代わり、倒す。いまだエネルギーフィールドは健在。速度はメーターを振り切る寸前。カイ機は回避運動を取るどころか、真っ向から向かってきた。

 ――上等。

 相対距離三百……二百……。左腕のプラズマバックラーが起動したのか、三本の突起にプラズマが溜め込まれ、放電している。『ジェット・マグナム』。よく知っている武装だ。単純な武装だが、威力は凄まじい。だが、フィールドを抜けるほどではない。カイ機のステークがフィールドと接触する。

 ――そのまま、弾け飛べ。

 一発目のステークが起動した。続けて二発目。信じられない光景が広がった。エネルギーフィールドに“ヒビ”が入ったのだ。いくら現地仕様とはいえ、ステークの出力が多少変わっていようとも、『テスラ・ドライブ』の恩恵により生み出されたエネルギーフィールドに“ヒビ”を入れられるとは……。

 ――まさか。

 悪寒が走り、コンソールを叩いて画面を呼び出し、フィールドの状態を確認する。……案の定だった。このソニック・ブレイカーには、フィールドを形成する両肩のユニットと集中点である真ん中は強固だが、離れた場所……下か上になるにつれ“薄く”なるという弱点がある。“ヒビ”が入るのは仕方ないといえば仕方ない。ただし、やろうと思ってやれる人間はそういない。もし自分がやれ、と言われれば、無理です、と答える。

 ――これが教導隊カイ・キタムラ。

 三発目が、起動した。同時に、ガラスが割れたような音が聞こえた気がした。――次元が違う。もう片方のプラズマバックラーが起動したのが見えた。バースト・レールガンは先ほどパージし、切り札とも言えるソニック・ブレイカーは今しがた破られてしまう。おまけに――。

「不用意に寄りすぎだ!」

 突然のアラート。次の瞬間、衝撃がコクピットを揺らす。モニターが赤く点滅し、次々と機体コンディションが表示される。右腕部を持って行かれた。同時に視界の端をあの赤い鉄塊が通り過ぎて行く。
 よく見ると、アルトアイゼン・リーゼの頭部の角――固定兵装であるプラズマ・ホーン――が帯電している。アラートが遅いのではない、あの機体の加速力が段違いなのだ。『テスラ・ドライブ』の恩恵の一つである、瞬間的な超加速を可能とする『ブースト・ドライブ』の採用を疑うレベルだ。……随分悠長な思考が出来るな、と少々自分を呪う。
 機体のバランスを取り戻す、が腰のウェポンラックからM950マシンガンを手に取り、構えたカイ機のバイザーと視線が重なる。

 ――この程度で諦めるほど……!

 ペダルを再度踏み込み、機体を推進させる。カイ機のマシンガンから弾丸が吐き出されるが、構うことはない。コクピットにさえ直撃しなければ良いのだから。その程度で直進はやめられない。元よりその程度が怖くて、こんな突撃を敢行したりなどしない。鳴りっぱなしの警報が鬱陶しい。モーションパターンをクロスレンジ用に切り替え、左操縦桿を軽く引いてから、前に倒す。すると、ガーリオン・カスタムはモーション通りに左腕を引いてから、カイ機の顔面を殴った。

 ――ゲシュペンストなら……!

 乗っている機体が違っていれば、今ので頭部を吹き飛ばせていた。これが意味することは一つ。

 ――届かなかった……。

 またアラート。今度はレーダーの索敵範囲外から。殴るモーションをしていて伸びきった左腕部の肘から先が吹き飛んだ。次に右足が被弾。バランスが取れなくなり、なす統べなく、重力に身を任せることとなった。望遠カメラを最大にすると、そこには白銀の堕天使とも言うべき機体が慣性を無視した動きで、ビームを放ち続けている。たった一機で制圧射撃を行っていることのなんと驚異的なことだろうか。カイ機や赤い鉄塊は既に次の戦場へと向かっていた。無闇に殺す必要はないということだろうか。

 ――旗艦が……。そうか、私の戦いはこれで……。

 旗艦である《エア・クリスマス》が炎を上げていた。それはつまり、『ガイアセイバーズ』の敗北を意味する。

「……私、死ぬのかな?」

 我ながら、落ち着いたものである。こんなこともある。それに覚悟はしていた。人を撃っていれば撃たれるのは当たり前。脱出機構はまだ生きていた、が作動レバーを引く気にはなれなかった。こんなあっさりとした最期も悪くないと思ったから。

 ――だけど、そうだな……。

 一つ、賭けをした。ディーラーなんていない、レイズもコールもない。コインの裏表を当てるような、そんなシンプルな賭けだ。賭け金は自分の命、リターンは――――。

「……もし、私がしぶとく生き残れたのなら、今度こそ……今度こそは自分のやりたいことを……。自分の信じることを……流されるのはもう嫌だ。私の意思で……私の心に正直で……」

 ――そう、ありたい。
 一機のガーリオン・カスタムが、暗い海へ墜ちていった。戦火は続くも、このパイロットの戦いは一応の幕を下ろすことなった。パイロットの生死は――今は誰にも分からない。 
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