太陽は、いつか―――
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弐
「ふぁ・・・あ、おはよう、ございます」
「ええ、おはようマスター」
朝、眠い眠らせろと唸る体を無理矢理布団から放り出してリビングへいくと、昨日召喚したアサシンさんがいた。疲れすぎてすっかり忘れていたためにまだ寝間着姿である。正直恥ずかしい。
「あら、よっぽど疲れていたのね。頭、凄いねぐせよ?」
「・・・マジっすか?」
「ええ、マジっす。直してあげましょうか?」
大変魅力的・・・って、いかんいかん。これくらいのことは自分でしないと。
「えーっと、顔洗って、寝癖なおして、着替えてくるので・・・少し待ってて?」
「は~い」
了承をいただけたので顔を洗って寝癖を潰し、自室に戻って考える。ひとまずの課題は、服装だ。
「う~む・・・」
一般社会で暮らす魔術師もどきが目標地点の俺として、服はある。あるのだが、アサシンさんの隣に立っていて悪目立ちしなさそうに見せられるものが思いつかない。学校の知り合いに会った時のことを考えると学校での面倒事を避けるためにもいっそ誰だか分からないくらいに・・・不審者で一発アウトになるルートが見えた。これは駄目だ。
「よし、大人しく諦めるか」
ぶっちゃけ、どう頑張っても無理なレベルでアサシンさんは綺麗だ。であれば、もう諦めるしかないだろう。むしろほかの手段があるのなら教えてほしいくらいである。
というわけできっぱりとあきらめて。それでも悪あがきとして少しはマシに見えるであろう服を選ぶ。
「・・・そう言えば今日、俺女性用の服売り場に一人で突入しないといけないのか?」
厳密には霊体化したアサシンさんがついてくることになるんだけど、つまり周りから見れば男が一人で入ってきた図になるわけで・・・
「・・・ジーンズにシャツで、ひとまず出掛けられはするはず。超目立つけど。目立ちすぎるけど・・・」
・・・・・・・・・仕方ない、とあきらめた。まだこっちの方がマシだろう、とも言える。
=☆=
「というわけで早速の予定変更で申し訳ないのですが、この服を着て実体化してついてきてくださらないでしょうか・・・」
「別にいいわよ?私が遊びたいって言ったんだもの」
と、向かい合って朝食を取りながら年ごろ男子の葛藤を話したところ、なんてことないかのように言ってくれた。どれだけ頭を下げても下げ足りないのではないだろうか、こんな格好をすることを良しとしてくれるだなんて。
「でも、そうね。確かに難しいわよね」
「はい、難しいんです・・・すいません、彼女すらいたことないんで」
「あら、そうなの?可愛い見た目してるのに、不思議ねぇ」
可愛い・・・まあ、貶してるわけじゃないみたいだし、いいか。
「それはそうと、私までもらっちゃってよかったのかしら?サーヴァントだし、必要はないわよ?」
「昨日も言った通り、目的が英霊と一緒に過ごしてみたいってことなので。むしろ一緒に食べてほしいんですよ」
「ふぅん、不思議な人ね・・・そう言うことなら、遠慮なくいただこうかしら」
「そうしてください。どうせこの費用は親の支払いなんで、なんにも変わりません」
「あら、そこは自分で出すものではないのかしら?」
「息子を死地に送りこむような親なんです、これくらいの仕返しは可愛いものじゃないですか?」
と、そう言うとアサシンさんはクスクスと笑う。本当に、動作の一つ一つが男を誘う色香に満ちている。うっかり気を抜くとコロッといってしまいそうで怖い限りだ。さすがアサシンさん・・・
「と、そう言えば」
「なあに?
「あー、いえ。さすがに外で「アサシンさん」って呼ぶのはかなりあれかなぁ、と思いまして」
「・・・・・・あぁ、一般常識的に?」
「はい、一般常識的に」
セイバー、ならまだ行けるんじゃないかと思う。知識として剣士につながる人はいるだろうが、名前にもあると考えてくれるのではなかろうか。
だが、他はそうもいかない。ぶっちゃけ偏見かもだけど、アサシンはその中でもトップクラスではなかろうか。
「というわけで、マタハリさん、とかでもいいですか?」
「うーん、それでもいいのだけれど・・・そうね」
指についたパン屑をペロッと舐めながら悩む様子を見せるアサシンさん。もう何度見ても色香しか感じないので、そろそろ何かしらの魔術で自分の精神を操ったりした方がいいのかもしれない。ストッパーくらいは何かしらの方法でかけておくべきだろうか。
「マルガレータ・・・は長いし、マルガ、にしましょうか」
「・・・そう言えば、マタ・ハリが通り名、とか言ってたっけ。ということは、それが本名?」
「ええ、そうよ。たぶんだけれど、マタ・ハリよりもこちらの方が真名を隠せるでしょうし」
ふむ・・・ということは、マタ・ハリが有名な名前であるということなのだろう。もしくは、マルガレータか、マルガという愛称になる名前が多いとか、そんな感じの。
「じゃあマルガ、でいこうか」
「ええ、そうしましょう。・・・そうなると、私がマスターと呼ぶのも問題なのかしら?」
「・・・大問題っすね!」
その光景を想像して、その後で客観的にその光景を想像して、満面の笑みで答える。はい、完全に異常性癖を持ってしまった変態さんですどうもありがとうございます。
いっそサムズアップしてもいいかもしれない。
「和也、って呼んで。というか呼んでくださいお願いします・・・」
「じゃあカズヤ、ね。よろしく、カズヤ」
ああ、脳がとろけるんじゃ・・・じゃなくて。
「じゃあ、食べ終わったら買い物に行きましょう。服を何着かと部屋着も買って・・・下着類もいりますかね?」
「買ってもらえるなら楽しそうだし色々着てみたいのだけど、本当にいいのかしら?」
「いいんですよ、金銭面は気にしないでください」
指を立て、片目をつむってその根拠を語る。
「『ちょっと気難しく現代に興味津々のサーヴァントを呼んだので遊ぶ金を送れ』って言ってありますから。今の俺の口座にはかなりの金額が入ってます」
「あらあら、私は気難しくて現代に興味津々のサーヴァントなのね?」
「これまでに彼女もいたことがない16歳童貞にしてみれば女性は全て気難しく、現代に興味があるのは事実だからちょっと誇張しただけです」
心底おかしそうに笑う彼女。そんな様子を見ているだけで俺も楽しくなってくる。
さて。英雄と暮らす何日か。どんな光景が広がるのか、何を得ることが出来るのか。それは全くわからないのだけれど・・・一つだけ。この人となら、楽しめるだろうってことだけは、分かる。
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