問題児たちが異世界から来るそうですよ? ~無形物を統べるもの~
しおりを利用するにはログインしてください。会員登録がまだの場合はこちらから。
ページ下へ移動
一つの日常 化け物と怠惰
「さて、どうしたもんかな・・・」
と、少年は目の前に並べたものを見てこぼす。
そこに並べられているのは真っ黒なロングコートに仮面を始めとした、一輝に渡された装備の数々。その全てを使いこなせるようになったら弱体化するとはっきり言われたそれなのだが、しかし今彼が最も求めている力である。故にこそ、どうしようもないものが一つあるのがどうしようもなく悩ましく・・・
「・・・ひとまず、武器関連の専門家に聞いてみるか」
誰かを頼る。たったそれだけの、しかしこれまでの彼だったら間違いなく考えなかったであろう選択肢。それを迷わず実行できる程度には、彼は精神的に強くなっていた。
========
「というわけで、なんか選択肢はねえか?」
「いやー、うん。めんどくさいから面倒なんだけど」
というわけで。場所を十六夜の自室から武器庫に変えて、彼はそこに居座る鍛冶神へと相談を投げかけてみた。仮にも中国神話において全ての武器を生みだしたと言われる鍛冶神だ。何かしらいい手段があるはずだという考えの下である。
がしかし、いかんせんめんどくさがりであった。大丈夫かなこれ。
「それにほら、こんなもん改良のしようがないでしょ。どうしろって言うのさこれ」
「そこを何とかするのが神様の仕事じゃねえのか?」
「いやうん、神様だって万能じゃないんだよね・・・」
と、自前で持ってきた椅子の前後を入れ替えて座る十六夜に対して、頭をかきながらむき出しの武器の上に胡坐をかく蚩尤。ちょっと不思議な光景ではあった。
「それにさ、暗技習ったのだってだいぶ前なんでしょ?なんで今更になってきいてくるのさ」
「復興作業なり賑やかしのギフトゲームなり、なんだかんだ忙しかったんだから仕方ねえだろ。おチビがいなくなった件でも色々あったしな」
しかし今は、全部終わった上リーダー代行の一輝が休みを宣言してしまったのですっかり暇になったのだ。要するに耀と全く同じ状況になり、彼女が暇をつぶすことに困ったのに対して、彼は身近な問題点を解決していくことへベクトルを向けた、というわけだ。
「なるほどなるほど・・・事情は分かった」
「そうか、それはよかった」
「しかしだね。それにしてもだね。確かに武器ではあるのだけれどね」
と、そう言って。彼は今議題に上がっているそれを。来るなり「これを改良してくれ」と投げ渡されたそれをつまみあげる。
「ワイヤーとかピアノ線の類ってのは、結構手のつけようがないものじゃない?」
ごもっともである。
「しかしだな。他は大概全部何とかなったってのにこの関連だけはどうしようもねえんだ」
「それは君が頑張って努力すればいいことじゃないの?身体能力高いんだから、自分に似合わないってわかってたとしてもそれなりに頑張ってみるべきジャン?というわけですぐに出もここを出ていって僕に楽園を返してよ」
「だが断る」
安定の問題児である。敗北によって精神的に変化したとしても、本質の部分は一切変わっていない。魂レベルでの問題児である。
「それにだな、そもそもワイヤー、ピアノ線関連の技術は八割方会得不可能だ」
「そう言う逃げ、僕よくないと思うな」
怠惰の化身じみている奴が何を言い出すというのか。
「まあ話は最後まで聞け。当然っちゃ当然だが、こいつらを使う技術は罠に近い利用をしていくブツだ」
「そりゃそうだよね。爆弾絡めたワイヤートラップ、相手の首の高さに斜めに張っての頸動脈切断、あえて緩く設置して引くことによる拘束等々・・・ぱっと思いつくだけでもこんなところかな」
「そうだな。まあ確かにそう言う系統だし、それらについてはまあ問題なく使える程度にはなったんだが」
しかし、だ。そんなあれこれはもう既に、彼なりに努力とか言うものをして何とかしてみたところなのだ。問題になっているのはその後の話であって。
「呪力をワイヤーに巡らせて自在に操る、視認できない刃とか言われても無理ってもんだろ」
「それは無理だねうん僕が悪かった」
呪力ない人間にどうしろと言うのだろうか。
========
鬼道流戦闘術。体術、剣術、槍術、弓術、戦術等々歴代鬼道がより効率よく妖怪を殺すためであったり趣味の一環であったり人間に殺されないための対策であったり暇つぶしであったりと様々な理由で生みだされた技術の山であり、その中に一輝から十六夜へと伝えられたのが暗技である。
基本的には、一般的にイメージされるそれであっているはずだ。侵入する技術であったり、気付かれずに殺すための技術であったり、毒や薬といった手段であったり、正面から戦うフリをしつつの罠であったりなのだが、その中でもワイヤー関連の細いブツを用いるものだけは、普通にやっては不可能になってしまう。十六夜も述べたように呪力が絡んできてしまうのだ。一輝、もう少しちゃんと考えて技術の継承を行いましょう。
「というわけで、だ。完全に自在に扱うのはあきらめてるから、その分ある程度自在にできねえかな、と」
「それで僕のところに持ち込んできたわけか。なるほどなるほど、諦めない?」
「だが断る」
「それ言えばいいとか思っちゃいないよね?はっきり拒絶すればなんでも何とかできるとか考えちゃいないよね?」
もしかしたら考えているかもしれない。作者が。
「うーん、しかしそうなるとまた面倒が多いんだよなぁ・・・」
「面倒が多いってことは・・・何かしら手段はあるのか?」
「うーん・・・鞭に近い扱い方をできるように調整したり、リールっぽいものでも増設して巻き取ったりでもしてみて、何かしらそれっぽくできるように、かなぁ。あとは超単純だけど、なんか小型の剣かクナイでもくっつけて投げる」
「あー・・・確かに、ごまかし程度は可能か」
もちろん、本当に自在に操る手段なんぞ存在しない。強いて言うのなら自前で伸縮可能な金属が箱庭に存在するものの、かなり貴重な代物であるために下手をすれば使い捨てになる武器に使うなんぞ不可能である。
「けどそれはそれとして神珍鉄製のも作っといてくれ」
「あれ加工するのめんどくさいからあげなかったって言うのに・・・」
さすが用意周到な十六夜君。どうやったのか本当に謎だけどどこかしらから調達してきたらしい。
渋々、一輝から「まあ頼まれたら仕事はしろよ」と言われたために本当に渋々。その場で受け取ったものを全て並べて手で触れ、作り替えていく。
「ってか、考えてみたら鞭扱いするのは不可能じゃねえのか?物理的に」
「その辺りはちゃんと、何とかするよ。色んな金属を混在させて質量面とか色々と、ね」
「・・・さすが鍛冶神サマ、器用なこって」
普通に考えたら不可能なんだけれど、そこは鍛冶神の不思議な技術ということで納得しておこう。と、小さなロマンに踊る心を抑え込んで手元から顔へと視線を移す。
「さて、それはそれとしてだ。質問いいか?」
「え、勿論嫌だけど」
「即答かよ」
「面倒事は嫌いなんだよネ、ボク。・・・まあ、作業中くらいはいいかな」
と、視線は手元から動かさずに話を促す蚩尤。それに対して十六夜は一切回りくどいことを考えずに、単刀直入に切り出す。
「ぶっちゃけ、鬼道って何なんだ?」
「その話をするのは大変面倒だからパス」
「そんなに面倒なのかよ」
「大変面倒ですよ。それはもう、外界の誕生から語らないといけないレベルで」
しれっと大そうなことを述べられてしまった。
「じゃあ、そうだな・・・あれだ。アジ=ダカーハとの戦いの時、一輝の体から出てきたよくわからない靄。あれはなんなんだ?」
「それも却下。さっきの話の原因について話してたら同じ話をしなくちゃいけないじゃん。面倒面倒」
あれもダメ、これもダメである。気になることは何でもそう。
「ったく・・・だったら何なら語れるってんだよ」
「君が気になってることって、基本あんまり語っちゃいけないことだしなぁ・・・下手をすれば箱庭って世界そのものがその事実にロジックエラー起こしかねないし」
「・・・そんなレベルなのかよ」
「理論上、箱庭から観測できない世界なんてものは存在しない。だって言うのに僕らの世界は観測不可能なんだ。箱庭の定義からして狂うような事態がロジックエラーにならないと思う?」
「・・・本当に、面倒な事情が存在するんだな」
「ホントにねー。彼がこの世界に存在する、って言うのは問題なくイケてる辺りなんだかんだ何とかなるのかもだけど」
と、そう言って一個出来上がったものを十六夜に投げ渡す。それの確認をしておくように言いながら次のものに手を加え始める
「けどまあ、そうだなぁ・・・彼のギフトゲームをクリアできればその辺の諸々は何とかなるんじゃないかな、っては思うよ。それにあたり、1つだけヒントを上げよう」
「・・・なあ、お前は何がしたいんだ?」
「面倒を避けたいだけ。だったら今君に一つ情報を出しておけば、それについて考えだしてこれ以上の面倒事は避けられるかもしれない」
と、そう言って。一輝から借りている空間倉庫を開けていくつかの金属を取り出していきつつその言葉を吐き出した。
「一輝が今受けている信仰。これの大きさは箱庭から観測できる全外界の存在質量と等しいよ」
「それはそうだろ。アイツの出自がどうであったとしても、事実として箱庭から観測される全外界を救ったのと同じことだ」
「うん、そういう結果として得たものであれば何の問題もない。封印されてたとはいえ箱庭に来る前からそうだったって言うのもまあ、同じことだね」
余計めんどくさくなってきたか・・・?などとつぶやきながら、それでもちゃんと最後まで語る。
そう、同じこと。人類を、世界を救いうる存在として霊格を得るのは十六夜のような例がある以上なにもおかしなことではない。が、しかし。そうではないのだ。
「一輝がその霊格を得たことと絶対悪の一件は全く関係ない問題だ」
「・・・・・・は?」
「絶対悪の討伐。この功績を一輝は手に入れたけれど、その霊格を彼は得ていない」
「・・・まて、ちょっと待て」
「それらとは全く関係ない部分。それによって・・・まだ成していない、いずれ成す功績への祝福によって、彼の霊核の全てが構成されている」
言われてみれば、当然の事実。箱庭から観測することのできない世界で生まれた存在が、箱庭から観測することのできる世界を救うことで霊格が構成されているわけがない。箱庭から観測できる世界を救った霊格を得られるはずがない。
しかし、それでも。代々受け継がれていく一族の積み重ねという点を除いても。一輝という人間は異常だったのだから、そこへ想像を届かせることができなかった。
だがしかし、この発言からはっきりしたこともある。
寺西一輝とは、鬼道一輝とは。明確に世界を救いうる存在であり、そう言った未来を期待された存在であり、それ故に未だ自らの功績を明確に得ていない英雄なのだ。そうとわかれば、ギフトゲームの考察も少し進む。英雄を英雄と定義するために必要なのは明確な悪役。もっとも重要な部分が分かれば後は自然と発覚する。
する・・・のだが。
「・・・やっぱ世界の成り立ちかあのもやの正体を教えろよオマエ。結構なヒントを出したフリしといて全くわからないままじゃねえか」
「チッ、ばれたか・・・」
「当たり前だ。一輝の霊核がそこまでなる以上、“箱庭から観測不可能である理由”と“鬼道の一族の役目=倒す相手”がイコールかそれに似たもので繋がれるのは確実だからな」
「ごもっとも。けどもう依頼は終わったからここまでだよ」
と、そう言いながら手を加えた、あるいは新たに作り出したものを全て風呂敷で包んで投げつける。唐突に神の力で投げつけられたそれを片手で受け止めると、もう少し何か聞きだせないかと考えてから・・・
「・・・・・・・・・はぁ、まあ仕方ねえか」
「おやおや、案外諦めるの早いねぇ」
「意図的に話そうとしないやつなら無理矢理聞きだせる。何かしらの交渉を求めてる相手なら交渉をぶっ壊せばいい。ただただめんどくさがってるやつは手の付けようがねぇ、ってな」
「だーいせーいかーい。僕は役割でも箱庭のためでも命令でもなく、めんどくさいから話さないのさ。なんたって面どくさ・・・」
「せめて最期までいえよ・・・」
あと一文字、それを言うことすらめんどくさくなってきたらしい。めんどくさがりにしては珍しく話したし仕事もしたので、もう全てがめんどくさくなってきたのだろう。
「まあそう言うわけで、僕からのサービスはこれにておしまいです。製品不良くらいなら見てあげるけど、それ以外は知ったこっちゃないよ」
「そうかよ。・・・ま、助かった。俺なりにこれ使ってやってみることにするわ」
「はいはい、がんばれがんばれ~」
と、もう既にむき出しの武器の上に寝転がってせんべいをかじりながらおざなりに手を振る蚩尤。いざとなれば腕を追加で生やせるという身体的特徴を十二分に活用している。
そんな、これでも箱庭においては魔王としてあらわれたという妖怪たちを引き連れる中華の鍛冶神の様子を半ばあきれた目で見つつ、十六夜はその場を後にする。ひとまずは、今手渡されたブツを使っていろいろ試してみるところからだろう。
そしてそれはそれとして。
「とっととこのギフトゲーム、解読しねえとな・・・」
ポケットから取り出したのは、白黒の契約書類。もう内容を暗記するくらい読み込んだのだが、改めて読み直して、今手に入れた情報とかみ合わせてみて、新たな発見を探る。挑戦するためではなく戯れとして、そして同士について知るために、彼は頭を回す。
ページ上へ戻る