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俺の四畳半が最近安らげない件

作者:たにゃお
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栄光なき軍師 ~小さいおじさんシリーズ18

アスファルトに陽炎さえ立つ、うだるような暑気に炙られながら俺はふらふらと歩く。
西日が当たるアパートの、錆びた階段は一段踏むごとにカシン、カシンと憂鬱な金属音を刻んだ。手すりに触れると熱い。手に提げたコンビニ袋が膝に当たる。その冷たさだけが救いだ。…くそ、もう少しコンビニが近い物件を探せばよかった。

玄関を開けると、エアコンの風が一番当たるところで伸びていた三人の小さいおじさんが、一斉に身を起こした。
豪勢と白頭巾はともかく、あの行儀のいい端正までが四畳半に寝そべって惰眠を貪っている。ここ最近の猛暑は端正の品位すら剥ぎ取ってしまったのか。
…流石に恥じたのか、端正は軽く居住まいを正して何やら支度を始めた。氷で満たした器の中心に深めの皿を埋め、少し離れて俺がビールを注ぐのを待つ。…もう俺が居ないって設定やめないか。いちいち面倒くさい。
「お…おぉ…甘露が」
派手なアロハに身を包んだ豪勢が、大げさなそぶりでビールの池に飛びついた。そして表面の泡をまどろっこしげに掻き分け、両手でビールを掬って喉を鳴らして飲み始めた。…くそ、身長30センチ未満の世界の、なんと楽し気なことよ。
「いちいち汚いぞ、卿。柄杓を使いたまえ」
ホームセンターで購入した細竹で拵えた小さな柄杓をビールの池に突っ込み、端正も旨そうに喉を鳴らす。…くそ、こっちも楽しそうだ。かし、と地味な音を立ててプルタブを立て、俺もビールを呷った。…あぁ、つまらん。いつも通りだ。
「ふぃー、生き返るわ。おい、貴様はやらんのか」
豪勢が、いまだにクーラー直下で寝そべっている白頭巾を振り返る。
「麦酒は好みません…」
このくそ暑いのに相変わらずの、薄い袷を生八つ橋のごとくぺったりと床に広げ、白頭巾は首だけのそりと動かした。…暑苦しい。お前だけだぞ、いまだに現代社会に適応していないのは。
「あの炭酸というのですか…しゅわしゅわした奴。あれはいけません。口の中が痛いし、腹が張る」
「はん、なぁにが『しゅわしゅわ』だ女子供のようなことを云いやがる。軍師てのはイチイチスケールが小さくていかんなぁ」
豪勢は端正が差し出した柄杓を完全に無視してビールの池にかぶりつく。豪勢にとっては柄杓でちまちま呑むことすら、女子供のような呑み方なのだろう。
「いいかぁ、余の元に集う綺羅星の如き猛将の群れにこんな細っそいちっちゃい柄杓なんぞ渡してみぃ。あっという間にへし折られて、こんな麦酒の水たまり、一瞬にして干上がるからな?」
「あー…もう目に見えるようですね…『ドキッ☆脳筋だらけの爆呑み大会!ポロリもあるよ!』…くっくっく…」
生八つ橋の端っこが震えた。
「卿も少し黙るがいい。何をポロリするのか想像するだに不愉快だ」
厭な想像を振り払うように、端正が軽く首を振った。
「何てくさそうな酒宴でしょうか…魏軍の忘年会とか、呼ばれたくない宴会トップ3に入りましょうな」
「そうさなぁ…偏見かもしれんが俺も、魏軍は何となく…体臭が強そうな印象を持っている」
「ぐぬぬ」
豪勢が云い返さない。…あぁ、コレ相当臭いな。弁解の余地もない程臭いんだな。
「貴様らな…魏軍を許著とか典韋とかのイメージで見ているんだろうが、実際は割と多彩な人材が揃ってんだからな?少なくとも万年人材不足だった蜀の比ではない!!」
「ほう…許著と典韋は脳筋チーム、と」
「ちょっ、そういう云い方やめろよ!?何で余があいつらディスってるみたいな構図作ろうとしてんだよ!!…ただ、魏にも軍師と呼ばれる連中は豊富に居たと云いたいのだ!どっちが優れているとかではなく!!」


「ほう…そう云えば居ましたねぇ。あの、荀い」


何か云いかけたところで、生八つ橋はぎゅっと踏みつけられた。
「その名前は出すな…!!」
豪勢が声を殺して呟いた。いつも声がでかい豪勢が珍しい。
「ほう…その、荀」「喝!!」
―――喝、ときたか。
「…その、軍師Jと云えば、人生後半の調子こいてる貴様を諫めた唯一の忠臣ではないか」
端正、イニシャルトークを提案。
「ぐぬぬ」
「例によって例のごとく、不遇な死に方をしていますがね。魏の軍師あるあるですなぁ」
身を翻して豪勢の踏みつけから逃れた白頭巾が、身を起こした。
「彼には苦しめられましたが…死に方だけは可哀想でしたね」
「ほう?」
端正が興味深げに眉を上げた。
「えぇと…貴方が亡くなっていくらも経たない頃の話ですが…ほら、そこの人生後半調子こいてた丞相が」
「うるせぇよ」
「天子の座を乗っ取ったじゃないですか」
「けしからんな不遜にも程がある」
「うるせぇよ!」
「そのあまりにも!あまりな暴挙に!!」
「しつこいな貴様ら!!」
「荀…ごほん、軍師Jは重臣の中で唯一、異を唱えたのです。…否、唱えてしまったのです」
「ほほう…それはさぞかし、酷い目に遭わされたのだろうな、どこかの調子こいてた丞相に」
白頭巾は徐に座り直し、羽扇を口元にあてた。
「……病床に居た彼に、絶好調に調子こいた丞相は、贈り物として空の箱を渡したのです!!」
「何たる侮辱!赦せんな丞相S!!」
「余はイニシャルにせんでいい!!」
「丞相から空の箱を賜った彼は…精神的に追い詰められました。上司から贈り物を賜った部下はその感想を求められるのです。もしここで『箱は空だった』と云えば、余は贈り物を入れたのに、入ってなかったというか!と処罰され、『結構なものをありがとうございます』と云えば、余は何も入れていない、おのれ余をたばかろうとしたか!と処罰されるに違いない。これは丞相が私の死を望んでいる、という意味なのだろう…と、そう解釈した軍師Jは、自ら死を選びました」
「お、おう…」
端正が曖昧な表情で返事をした。何かが納得しきれていない顔だ。
「あー…つまりだ。彼は…空の箱を渡された結果自殺した、と」
「そうなりますな」
「卿、一つ聞くが」
端正が豪勢の方をちらりと伺うと、豪勢は心底げんなりした顔を上げた。
「……んだよ」
グッダグダだよこの丞相。
「卿の国では、死を賜る部下に空の箱を贈るという通例があるのか」
「ねぇよそんな通例!!」
ダンと床を打って豪勢が立ち上がった。
「…貴様、今少し違和感をおぼえただろ!?そうなんだよ、余はそこまで陰険な意味で空の箱を贈った訳じゃない、ただの腹いせというか、ちょっとした悪戯のつもりだったのだ!!箱開けたらホラなんもな~い、サプラーイズ!みたいな!?」
「お…おう…そうだよな…俺の感覚がおかしいわけじゃ、ないよな…」
「そうなんだよ!貴様も分かるだろ!?あいつ、いっっっつもそうなの!!こっちが思いもしない深読みしてそれが真実と思い込んでひっそり自己完結して、いきなり行動に移すの!!超めんどくさいんだよあの男!!」


あぁ…俺の感覚も間違ってはいなかったか。


30センチ足らずの三国志に関わるおっさんが俺の四畳半に出没するようになり、俺も彼らを理解する為に三国志に目を通すようになっていた。…正直、彼らは『正史』より『演義』寄りな発言が多い気がするので演義も読んでいるのだが、魏で随一の軍師だった荀彧は、白頭巾がさっき云った通り…何やら腑に落ちない理由で自殺する。
「ううむ…想像力、というのは相手の様々な行動パターンを先読みする必要がある軍師には、必要不可欠な要素ではあるのだが、こう行き過ぎるようではな…」
「それな!?ほんとそれな!?史実には残ってないんだが、あいつ似たような状況で何度か死にかけてるから!!」
「―――それ、聞いてもいいか」
豪勢が一瞬、ぐいと押し黙った。
居住まいを正してそれとなく聞き耳を立てていた白頭巾が浅いため息をつき、端正が柄杓を冷たい麦酒の池に沈め、ぐいと呷ったその時、意外にも豪勢はぽつりと話し始めた。
「―――貴様が云った通り。奴は類稀なる『想像力』で周辺諸国が取り得る『最悪のシナリオ』を誰より早く嗅ぎつけ、対策をとった。最たる例があれよ、兗州における張邈と呂布の反乱をいち早く『想定』、その動きに周辺諸国が軒並み呼応するという最悪の展開をも『想定』し、濮陽の夏候惇を呼び寄せて撃退した、あの戦よな」
「聞き及んでおります。軍師たるもの、かくありたいと心に留めたベストバウトでございました」
白頭巾がこんなに手放しで褒め称えるとは珍しい。…ベストバウトとかいうチャラい言い回しが少し引っかかるが。
「俺もだ。敵ながら彼の軍師は俺の目標でもあった。…戦術レベルでは割と強気な用兵をする軍師だったが、長期的な戦略レベルでは…どちらかというと慎重派であったな」
「…ですな。董卓の件しかり、兗州の戦いしかり、官渡の戦いしかり。基本的には『自滅を待つ』戦略立てを得意とする軍師であったと云えましょう。…だからこそ、丞相Sの鼻につく不自然な僭称を嫌ったんでしょうかね、鼻につくし」
「やかましいわ!!…まぁでもそんなところだろうよ。なまじ頭が良い分、突飛な行動をとった場合、周囲に与える衝撃やら反感の中身がリアルに想像できて苦悶の日々だったのであろうなぁ。…でだ、魏にほんの一時期だが、禰衡とかいうクッソ腹立つ浮浪者が巣食ったことがあったんだが…そいつに『荀彧は弔辞を述べる係に向いている』とか減らず口を叩かれたその夜」
「…まさか自殺未遂?」
「…もうな、どの思考回路がどうやって自殺って結論を導き出したのやら…『弔辞』って一言が何かの回路に作用したらしいんだよなぁ…」
「あれはなぁ…その容姿の秀麗さを醜男の禰衡が妬んだだけの話だろうに…美男にはよくある話よ。ふん…」
「貴方のように『美男の俺に妬いちゃってんの?』的な図々しい思考回路を持ち合わせていれば、自殺騒ぎにならなかったでしょうにねぇ…同じ軍師でどうしてこうも解釈が異なるのやら」
剣の柄に手をかける端正を面倒くさそうに片手で制し、豪勢は続けた。
「最悪のシナリオを想定して対策を怠らない、というのは軍師としては美点なのだが、それを私生活でも発揮されまくってみろ。貴様らの想像を絶する面倒くささだからな」


豪勢が列挙した≪軍師J 自殺未遂の理由≫は、聞いてるこっちが鬱になりそうな内容だった。


豪勢が少し深酒すると『丞相の健康管理が出来ない軍師は不要との暗示。死のう』
豪勢への反逆を仄めかす密書が届くと『密書を送られた時点で応じようと応じまいと言い逃れは出来まい。死のう』
飢饉で兵糧が足りず呂布を取り逃すと『呂布を生かし私を殺す天の意志。死のう』
家の梁に縄が掛けられるたびに家族やら同僚やらが駆り出されて荀彧を羽交い絞めにする大騒動だったが、何故か史実には残らなかった。
「半期に一回のペースでそんな感じになってたんだが…年をとってある程度シャレが通じるようになってたから油断してたわ、余も家族も」
「それ、躁鬱病とかいう心の病らしいですね…状況そのものより、季節の変わり目に起こりがちな…」


それでか!!半期に一度の自殺騒動ってのは!!


「―――もう2000年も前に終わった話だ。何が原因かとか、正直もうどうでもいいのだ。ただ問題はな」
『この世界』の法則として、余らの話題に上がった武将が押入れの襖から現れがち、というのがあるだろう?そう呟き、豪勢は背を丸めた。
「嫌ってるわけじゃないんだが、あいつとは仕事以外に関わり合いになりたくないんだよ。分かるだろ?」
「…うむ。確かにこの件に関しては卿にはそこまでの非はないな。軍師としては純粋に尊敬しているが…」


「仕事は出来るが私生活では関わりたくない武将、荀彧!それは荀彧!!そういうわけですな!!」


「云いやがったああぁぁあああ!!!」
とか何とか叫びながら豪勢が白頭巾に飛びかかり、口を塞いで抑えつけた。端正も戸惑いつつも白頭巾を抑え込みにかかる。
「貴っ様ぁ~!!余の話を聞いていただろうが!!何の為にイニシャルトークにしてたと思うんだ馬鹿なのか!?」
「…全く、これ以上面倒くさい奴が増えるのは御免だぞ…!」
本当だよ、今のところ辛うじて人死にだけは免れているというのに、自動的に死ぬ小人とか勘弁してくれよ…!そわそわしながら襖の方を伺っていると。


無情にも、襖はすらり…と動いた。


暗がりに佇んで居たのは、眉目秀麗、だが何処か病魔を感じさせる線の細い男だった。神経質な程一糸乱れず纏められた鬢は、頭巾を取った白頭巾に少し似ている。しかし何というか…睫毛の影が落ちる白い頬といい、形はいいが妙に青ざめた唇といい、禰衡ではないが、全体から醸し出す陰気な雰囲気はまさに弔辞を述べるに相応しい。男は凍りつく豪勢をじっ……………と見つめると、疲れ切った微笑を浮かべた。
「……お、おう……」
辛うじて応じた豪勢の横をするり…とすり抜け、荀彧と思われる男は手に持った縄を放り投げ、アルミ製の本棚に器用に掛けた。そして素早く『丁度いい』高さに縄を調整して、結び目を横にずらした。
「ほほう、名人芸ですな」
「うるっせぇよ何が名人芸だ、あとで殴るからな!!…おい貴様、手伝え」
「お、おう…」
豪勢と端正は瞬時に荀彧に飛びかかり、豪勢がもがく荀彧を抑え込んでいる隙に端正が縄を切断する。そしてその縄を使って荀彧を縛り上げた。肩で荒い息をしながら豪勢がどすん、と腰を降ろした。
「……いやに手馴れているではないか」
「半期に一度この騒動に付き合わされてんだよこっちは…!!あの時は遅れをとったが、今回はそうはいかんぞ!!」
えー…?なにこれ。なにこの関係性。
「さて、と。…おい貴様ぁ!!何でこいつを呼び出した!?」
つかつかと白頭巾の横に歩み寄り、豪勢が拳骨で思いっきり頭巾部分を殴った。…なんやかんやで、白頭巾はしょっちゅう殴られている。大抵、自業自得だが。白頭巾もいい加減慣れたのか、ごく普通に落ちた頭巾を被り直した。
「えぇ、ずっと気になっていることがあるのですよ」
「荀彧のことか!?」
「いいえ」


私たちのこの身体に『死』はあるのか。


「―――云ってのけたぞこの男。この男は一応、魏の重臣なんだが余の話を聞いてたか!?貴様は鬼か!?」
「引くわー、ここ最近の卿の発言で一番引くわー」
俺も引くわ。すげえなこの男。
「何を云うのです。私自身の手を汚すのは少々躊躇われますが、わざわざ死んでみせてくれる御仁がいると聞けば、そりゃちょっとは、どうなのかな?と思いませんか、綺麗事抜きで」
「ぐぬうっ…」


―――ちょ、何?お前ら『そっち側』に行っちゃうの!?


「呑み、食い、眠るこの体は仮初のものなのか、このまま永続するものなのか、死は訪れるのか」
「………しかし卿、そんな実験を赦してしまっては!!」
「―――それとも、我々はそもそも、存在、しないのか」
呟くように云って白頭巾は、自らの左手を右手で握りしめる…零れ落ちる『何か』を掴むように。
「ある日突然、消えてしまうものなのか」


これは、何だ。


この不遜な英雄はまさか、怯えているのか。人殺しを是とする程に。
「…貴方も、そうお考えなのでしょう?」
縛り上げられた荀彧を見下ろし、白頭巾は何処か頼りなげな微笑を羽扇で隠した。荀彧は何も答えない。だがその昏い瞳は、その賢しさ故に。
「見通しが、利かないのだ」
よく通る声でそう云って、荀彧は顔を上げた。その視線は、自分を見下ろす3人を、順繰りに捉えていた。
「卿らは何故、そのように楽し気にこの状況を楽しめるのでしょうか。何一つ、見通しが利かないというのに」
「ぐぬ……」
「蜀の丞相…卿の云う通りだ。何故、何故、何故…あらゆる仮説を立てては実証を試みた。この1年近く、ずっと」
「そ、そんな前からこっちに来てたのか!?」
豪勢が軽くビビる。荀彧はそのまま、言葉をつづける。
「しかしどの仮説も覆された。どうして存在するのか、何の意図で我々…三国時代の関係者がこの場に集まっているのか、未だに欠片も分からない。この肉体も」
そう云って、少し身をよじらせる。
「食うことは出来るが、食わなくても死ぬことはないでしょう。かつての身体とは、明らかに違う『何か』に、我々は成り果ててしまっているのですよ」
「おお、食おうと思えば無尽蔵にも食えるしな。変な身体になったもんだ」


「何故平気なのですか!?」


自由の利かない首を精一杯ねじりあげ、荀彧は叫んだ。
「……殿はいつもそうだった。魑魅魍魎が跋扈する激動の三国時代を…傍若無人に事もなげに…!私はあの頃、殿のそういう所が恐ろしくて堪らなかった」
3人は、軽く顔を見合わせた。その表情に去来するのは、意外にも『困惑』に近いものだった。…何か云いかけた端正を軽く制し、豪勢が荀彧の傍らに膝をついた。
「余が誰なのか、誰の意図で戦乱の世に産まれたのか…そんなのは『あの頃』とて変わらなかったろうが」
「………」
「荀彧殿。…誰しも、同じです。私も不覚にも、ここに辿り着いた直後は眠れぬ夜を過ごしたものです」
「蜀の丞相殿…」
―――え?なんか最初に見かけた頃からそこら辺に我が物顔で寝そべってなかったか?
「しかし少しずつ、判明したこともあるのです。他の二人に会った事や、他の武将が現れた経緯、この世界の電子機器などからほんの少しずつですけどね。私は彼らが巻き起こす様々な事象から少しずつ解答を得ているのです。全てではないですが…」
こいつには珍しく、邪気のない微笑を浮かべて白頭巾は荀彧の縄を解いてやった。茫然としながら身を起こす荀彧。
「卿は…どのような解答を?」
「それは、貴方がこれから見せてくれるのです。さあ」
そう云って白頭巾は、解いた縄を再び荀彧の掌に握らせた。
「……やってみましょうか!」


「オイィィィ!!!」「鬼畜生か貴様!!」


二人がかりのヤクザキックを食らった白頭巾は四畳半の隅っこまで吹っ飛んだ。そして死んだ目で再び縄を投げようとする荀彧を豪勢が抑え込み、端正が延髄にチョップをいれて気絶させる。良いコンビネーションである。
「ま、待ってください取りあえず本当に死ぬのかどうかだけ確認しませんか、折角死ぬって云ってるし」
「まだ云うかこの人でなしが!!」
「コイツ縛り上げて荀彧の横に転がして置こうぜ、鬱は伝染するっていうしな」
「それだ。卿には荀彧殿の話し相手を命じる」


二人が去って暫くした頃、白頭巾と荀彧が転がされている辺りから、ぼそぼそと陰鬱な呟きが聞こえて来た。呟きはやがて忍び泣きとなり、しばらくすると再び呟きに戻る。ろくな内容じゃなさそうなのは、聞き耳を立てずとも分かる。
豪勢と端正に、少なくとも3時間は解放するなよ、と遠回しに釘を刺されているので、そのまま暫く放置する。


せっかくの休日に、鬱になりそうなのは俺の方だ。



 
 

 
後書き
現在不定期連載中です 
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