最低で最高なクズ
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ウィザード・トーナメント編 前編
同学年序列3位
前書き
さて紗友里の本領発揮はこれからになります。
圧倒的な魔法の差をどのようにして埋めるのか
お楽しみに。
紗友里は俺の進もうとする方向に先回りして、俺を取り囲むように周りを凍結させていく。立ち止まれば後ろから這うように迫る氷に足を取られ、進もうとしてもその進行方向はぐるりと紗友里に凍結させられている。
「どちらを選べど地獄か。だが。」
俺は召喚魔法でとあるものを召喚する。それは「手榴弾」だ。無論、威力は俺の魔法である程度抑えているため、食らっても五体が弾け飛ぶようなことはない。だが大木を薙ぎ倒すくらいの威力は十分ある。
「お前の凍結ショーはここまでだよ。」
俺は手榴弾のピンを外して地面に落とす。手榴弾は地面に炸裂し、地を這う氷を吹き飛ばすのと同時に、大木を数本薙ぎ倒した。俺は倒れた大木を足場に次々と手榴弾を召喚しては大木を倒しまくって道を作った。
ようやく凍結されたフィールドを抜けると、逃げた先のエリアは草木が微塵も生えていない荒野のようなフィールドだ。しかし、ここで俺はあることを思い付く。そして、紗友里が来ないうちに手早く作業を進め、紗友里が来る前に作業を終わらせることができた。
(多分紗友里も魔力の半分くらいは消費している。身体能力では俺のほうが上だから、魔力を使い切れば俺に勝機が見えてくるはずだ。)
実のところ俺は魔力を6割近く消費しているものの、素の体力はというとまだ半分以上残っていた。だが、魔力量の差を身体能力の差で補えるのかは謎だ。
すると、少し距離を取ったところから紗友里が急速に迫っているのを見る。俺は仕方なく逃げながら作戦を練ることにした。どのみちもう一度紗友里の氷魔法に捕まってしまえばもう勝敗は決まってしまう。
俺は思考がある程度回るように少し速度を抑えて走ることにした。まぁMAXで走ったとしても紗友里には追いつかれるだろうが。
「逃げてるつもりなの?その程度の速さなら十分追い付けるわよ。」
「さて、それはどうかな。」
俺は余裕を見せているが、何気に1つ誤算をしている。それは氷魔法で地面を凍結されることによってこのポイントに誘い込んで使うはずだった前もって仕掛けていた地雷がすべて作動しなかったことだ。実は魔力消費の6割の中の8割くらいはこの地雷を仕掛けるために消費したもので、手榴弾だけで考えるとそんなに消費しているわけでもない。
にも関わらず俺の渾身の一手は、空気の如く打破されてしまった。これには流石に表情にこそ出さなかったが、内心泣きそうになった。
(はぁ!?そんなの有りかよチクショー!!)
「あら?何か仕掛けてるわけじゃないの?」
(バリバリ仕掛けてんだよ!少しは魔法使わないで歩けこの馬鹿!そして俺の罠にかかりやがれ!)
「まぁ良いわ。で、このままだと追い付くわよ?」
あまりにもあっさりと計算外の事態が起こり、俺は少し焦る。せめて紗友里の視界を一時的に封じられれば何か手を打てるかもしれないが、先ほどの閃光弾のように同じ手が紗友里に2度通じるとは思えない。
まだエンジンが掛かっていない状態の紗友里ならともかく、今のエンジン全開の紗友里は思考もクリアで目の前の事態に素早い対応ができる。
そうこうしているうちに地を這う氷が俺の足元まで数センチの所まで迫って来ていた。俺は逃げるのはここまでと区切って紗友里と正面からぶつかることにした。
俺は複数の魔法陣を同時に展開して、アサルトライフルを計6丁召喚する。一斉射撃で紗友里を狙うが紗友里はプロスケーター並のスケーティング技術で華麗なジグザグステップを見せる。銃弾はことごとく紗友里を捉えることなく外れていく。
(やっぱり上手くはいかないよな紗友里に当てるなら。)
(今何発か私以外を狙ってた?)
俺が狙ったのは紗友里じゃなく地雷。プランAが失敗したから咄嗟に考え付いたプランBに作戦を変更する。弾丸は薄く張った氷の膜を貫通して地雷に当たった。
ズドーン.....ズドーン、ズドーン
地雷が連鎖爆発。そこから生じた煙が煙幕として機能する。紗友里はすっかり俺の居場所を見失った。だがそんな程度の時間稼ぎは無駄だ。
紗友里は風魔法を使って煙幕を掻き消す。俺は銃を召喚して彼女の顔に突きつけた。念の為に銃は空砲にしてある。前にも言ったが俺は紗友里を傷付けたくはない。
「王手だ。」
「..................解除。」
フィールドを解除してもとの家の廊下に戻った。すると雛がドアを開けてやって来る。
「お兄ちゃん、ごめんなさいした?」
「うん。ちゃんとしたこれで許してくれるか?」
「うん!雛許すよ。」
紗友里はまた雛を構う俺を見てムッとする。「はぁー」とまた大きなため息をついてから俺に八つ当たりを始める。
「もう!私もアンタの可愛い妹なんだから少しは手加減しなさいっての!このバーカ、バーカ!」
(過剰な自画自賛は見苦しいなぁ....。)
「雛はいいよ?ピュアだし可愛い。でもお前はダメ。ピュアじゃないし、可愛くない。」
「はぁ!?」
紗友里は雛のほうを見る。雛はというと「?」って感じの顔でこっちを向く紗友里と視線を合わせた。紗友里は何とも言い難いもどかしそうな顔をして部屋に戻った。どうやら気が済んだように見える。
「お姉ちゃん?寝るの?」
「お・や・す・み!」
ドア越しでもよく聞こえる「おやすみ」はこの場において嵐が去ったことを俺たちに伝えた。雛の代償魔法の練習も今日はここで切り上げて終わりにした。雛は少し物足りなさそうな雰囲気だったが、俺としては紗友里との稽古でかなり疲れているので切り上げるには丁度いいタイミングに感じた。
「やっぱり俺に敵わないとはいえ、序列3位の実力は伊達じゃないよな。あれで妹とか可愛げ無さ過ぎだろ。」
俺は布団の中で一人でボソボソ呟いて寝た。ウィザード・トーナメントまで残り1ヶ月ほど。俺はイザベルを支えるために、そして俺の願望を叶えるために、さらに尽力していこうと思う。
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