最低で最高なクズ
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ウィザード・トーナメント編 前編
俺には2人の妹がいる
俺には2人の妹がいる。一人は俺の双子の妹で名前は紗友里。かなり強力な魔術士で、俺と同じマーリン学園に入学している。合格時の順位は学年3位で容姿端麗で運動神経も抜群。
使う魔法は2種類あって、召喚魔法と属性魔法を同時に使用するという荒技をやってのける常識の通じないデタラメっぷり。だがそれでもマーリン学園の1年生での序列は3位である。つまり、さらに常識離れした奴が二人存在するわけだ。
ただ問題なのはその性格で、完璧主義なところがあり自分より劣っている相手を見るとこっぴどく罵られる。そんな紗友里は、俺のことを「認めながらも否定している」といった状態で、きっと俺のことが好きなんだろうが、嫌いな素振りをする。
4歳の妹の雛は4歳とは思えないほどの魔力量を誇り、魔術士としての腕を磨けばやがて3種類の魔法を同時に使いこなせるくらいの実力になるとされている。
「お兄ちゃん!今日も魔法教えて!」
「良いぞ。まずは初歩的な代償魔法を教えてやる。」
雛が嬉しそうにはしゃぐ。小さい子はなんて無邪気なんだろうか。言っておくが俺はロリコンではない。単に無邪気な妹が大好きなんだ。誰にもその感情を否定させないし、俺がシスコンだというのも認めたくない。
母さんが作ってくれた夕食を食べた後、俺はさっさと自分の部屋に移った。その後を追い掛けるように雛が俺の部屋に駆け込んでくる。目をキラキラさせて。
俺は3種類の魔法を同時に使う方法を知っていた。というのも、多種多様な魔法を同時に使うためには常人よりそれなりに多い魔力量と魔法に対しての適性が必要で、俺たち3人は魔法に対しての適性が高かった。
ここで1つ不思議に思ったことがあればそれはここでは敢えて言わないことにする。それを話すのは今ではないと俺が思っているからだ。それにこの話については後々話さざるを得ないとなんとなく理解している。
「いいか雛。魔力を自分の体を動かすみたいにコントロールするんだ。だからまずは魔法を発動してみて。」
「うん!」
雛は両手に魔法を発動する。右手は炎魔法、左手は氷魔法を発動する。普通の魔術士は属性魔法を1つしか使えないのだが、雛に関しては感覚的に2つの属性魔法を使用できるようになっていた。
「よし、流石だな。次にその魔法をこの石に送る感じにできるか?」
「分かんない...でも頑張る!」
雛は俺の感覚的な要望を分からないなりに理解して、挙句の果てには本当に実行できてしまう。多分、こういった奴のことを世間一般には「天才肌」と言うのだろう。そうしていると雛が俺に声を掛ける。
「お兄ちゃん。こんな感じ?」
「おぉ。」
雛は石に炎魔法と氷魔法を宿して鉄に近い何かに石を変えていた。これは俺でも想像できなかった結果だ。やっぱり雛には純粋に魔術士の素質がある。あと10年もすれば紗友里よりももっと上等な魔術士になっているに違いない。
「流石だな雛は。」
俺が褒めると雛はキャッキャとばたつきながら喜ぶ。こんな無邪気な顔が見れるのもあと何年先までなんだろうか。数年後には雛に距離を取られることを考えるとなんとなく悲しくなった。
すると誰かがコンコンと俺の部屋のドアをノックする。だがこんな時間に俺の部屋に来る奴は雛を除けば一人しかいない。もう一人の妹の紗友里だ。
「ねぇ誠。私にも代償魔法のやり方を教えなさいよ。私にだってそれくらいの力はあるはずよ。」
「お前には無理だよ。全部の魔法は心の綺麗な人にしか使えねぇーの。お前みたいに性格の悪い奴には無理だろうから諦めるんだな。」
紗友里は雛とは違う。感覚ではなく理論が必要だ。逆で考えればやり方がちゃんと分かっているならば恐らくすべての魔法を使えると俺は思っている。
実際、紗友里が2種類の魔法を同時に使えるようになったのは俺が要領を教えたからだ。それも堅物の紗友里に教えるために俺はあの手この手を尽くして紗友里にコツを教えた。その過程で紗友里に魔法を教えるのは疲れると俺が判断したわけだ。
紗友里の魔法のコントロールは雛よりも秀でている。しかし、魔法に対する適性は雛のほうが圧倒的に高い。雛の魔法適性が紗友里の魔法コントロールとの差を埋めるどころか大きく差をつけてしまっているのだ。
「いつもそうやってはぐらかして.....もういいわ!アンタなんかいなくたって私にもできないわけじゃない。」
紗友里は拗ねてバンとキツくドアを閉めて自分の部屋に帰っていった。それを視線で見送ったあとに雛を見るとやけに顔が膨れていた。雛は怒っているのだ。
「お姉ちゃんをイジメるお兄ちゃんは嫌い!」
「うっ.......。」
雛の「嫌い」が俺の頭の中で録音された音声のように何度も何度もリプレイされる。雛はまだ純粋だ。それ故に善悪の区別が驚くほど単純で、思考としては「悪即斬」の新撰組と同じくらい容赦がない。
雛は一旦怒ると、それが解決するまでそこを動かない。このままだと雛は一晩中、俺の部屋に居座るわけだ。いくら可愛い妹とはいえ一晩中部屋に居座られるのは流石に俺も疲れる。
「分かったよ。紗友里のとこ行ってくるから...な?」
「雛も行く。」
「お....おう。」
かくして俺は正義のヒーローこと雛に、紗友里の部屋へ連行されることになったわけだ。そう、紗友里ならともかく俺は雛に関しては頭が上がらないのだ。
コンコンコンと雛が紗友里の部屋のドアを軽快に叩く。紗友里の部屋からは返事が来ない。しかし、雛からすればそんなことは関係ない。俺の手を掴みながらドアを開けてどんどん突き進んでいく。
まるで勇敢な兵隊が立入禁止の地雷が置かれた戦場に突入するかのような独特の緊張感は雛には一切ない。それを見て俺は「これが...若さか。」と一人でにモノ思いにふける。
部屋に入ると紗友里が着替えているところだった。まさかラノベの定番の展開をこんなに萌えない形で迎えることになるなんて。俺は悶絶した。それから数秒経たないうちに紗友里の理性が働き、雛はともかく俺は部屋の外に締め出された。俺としては、雛にまで牙が向くことがなかったのが幸いだった。
しかし、女子2人の会話も少なからず気になるので俺は部屋の状況を確かめるためといういかにもな理由をつけてドアに耳を当てる。
「雛!ここに来るときはノックぐらいしてよ!」
「したよ?」
「えっ...あっ...そうなの?じゃあせめて誠を入れる前に部屋の中をみてからにして。次からは気を付けるのよ。」
「うん!」
「じゃあお姉ちゃんは外にいる誠に会ってくるから、ここで待ってるのよ。」
「分かった!」
スッスッと足音がドアに迫っているのを理解して俺は少しばかりドアから離れる。ドアはギーッという音を立てながらゆっくり開いていく。既に俺は見の危険を察知しているわけだが、この空気の圧力のせいなのか体が石のように動こうとしない。
「ま・こ・と☆」
「..............はい?」
紗友里がこんな呼び方をするのは今にも爆発しそうな怒りを強制的にセーブしているからに過ぎない。
すると紗友里が召喚魔法の術式を発動する。だがこの術式は普通の召喚魔法ではない。戦闘をするのに相応しいフィールドを召喚する召喚魔法だ。
この「フィールド召喚魔法」は魔術士なら誰もが使える魔法で、魔術士育成中学校にて基礎知識の一環として教えられる。この魔法を使えないとするならばそれは魔力を持たない旧人か俺のように魔法適性の低い魔術士くらいなものだ。
「今からアンタを倒して見せる。そしたら以後、私をアンタと同等の価値がある魔術士として扱い、何でも言うことを聞くことを認めなさい。」
「はぁ.....仕方ねぇの。」
俺の戦闘のスイッチが入る。紗友里が兄として扱うのはこの時の俺だ。俺はスイッチのオンオフが両極端と言ってもいいくらいで、スイッチが入ると二重人格のように変化する。
「仕方ねぇから、久しぶりに稽古をつけてやるよ。」
「えぇ、今度こそ兄さんに勝ってみせるわ!」
紗友里は魔法陣を展開する。俺からすればこれは兄弟喧嘩ではなく1つの稽古に過ぎない。マーリン学園の1年生での序列が3位であろうと、というよりそれ以前から紗友里が一度でも俺に勝ったことはなかった。
こうして何ともくだらない理由から俺たちの勝負が始まってしまった。
後書き
次回はこの小説初の戦闘シーンです。
少し緊張していますが頑張りますので
次回もお楽しみに。
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