機動戦士ガンダム 鉄血のオルフェンズ 第三の牙
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第五話 決意と恐怖
前書き
今回は短めなのん。でも、読んでくれると嬉しいん。感想をくれるともっと嬉しいん!
────ッ。────────ンッ────…────ッッ!?────────────……────ン……────ッ────。
その衝撃は凄まじかった。
躰が……潰れる。息が、出来ない。
目を開けられない。何も見えない。
躰が、重たい。重たい。重たい。
ひ。
か。
り。
「あっ」
見えた。目を閉じていても分かる。
太陽の光────眩しい。
瞼を開く。そして、見えた太陽の光を反射した建物の残骸。
これ、全部。アイツが、やったのか?
ここら一帯は超高層ビルで埋め尽くされていた。なのに、今、俺の視線の先はどうだ。ビルなんて一つもない。有るのは、そびえ立っていた筈の超高層ビルの残骸だけだった。
「…………」
なんとも言えない心情だった。
地上に降下している最中、地面に着地するまで、俺は一度も瞼を閉じず。ただ、その風景を目に焼き付けていた。
ドシンっ!ガンダム・バルバトスは地面に着地した。
「…………」
周囲は建物の残骸で埋め尽くされ、それ以外は何も残っていない。
俺は、その光景を見て「悲しい」とか「怖い」とかは思わなかった。
なのに、俺は瞼を閉じることなく、周囲を見続けていた。悲しくないのに何故?
怖いとも思っていない。てか、怖いとか思ってたら目を背けているだろう。
この景色を見て、どうとも思わない俺って、やっぱりイカレてるのかな。
悲しくも、苦しくも、痛くも、なんにも感じない俺って狂ってるのかな?
数度、自身に自問自答し。答えを導こうと努力する。でも、やっぱり。
「やっぱ、解んないな」
答えは出なかった。
苦しくもなければ悲しくもない。
当然、嬉しいとか楽しいとも思わなかった。
何も感じない。
でも、するべき事は解ってる。
視線の先。今も尚、暴れ続けているモビルアーマーをぶっ壊す。今は、それだけしか頭の中に無かった。
「このッ!このッ!」
グレイズのパイロットは目の前のモビルアーマーに向けてライフルのトリガーを弾く。
その弾丸は全て、モビルアーマーに命中し。モビルアーマーの行動を不能にさせる、筈だった。
「チクショウ!なんで、倒れねぇんだよ!」
奴はノロマで、ライフルの弾丸を避けようとはしない。
だから撃って、撃って、撃って、撃ちまくった。
弾切れを起こせば、リロードして標的を撃つ。それの繰り返しだ。大体のモビルスーツなら、これだけで木っ端微塵に出来るだけの弾丸を放ち続け、遂に。
「弾切れ、だ」
全ての弾丸を使い切った。
嘘だろ?有り得ない。なんで、アイツはあんだけ弾を喰らってピンピンしてやがんだよ?
なんだ?なんなんだ?こりぁ、質のわりぃ夢か?
そうか、それなら納得できる。どこの世界にあんだけの弾をぶち込まれて平気な奴がいんだよ。あ、そりゃ「兵器」だからか。って、今のはちょっと面白いな。
「ジキール!ボサッとするな!」
「は、はい!?」
突然の隊長の声に思わず、声が裏返る。
「これは訓練ではない。実践だ!
戦場で足を止めるな。格好の的だぞ!」
「も、申し訳ありません」
これは、どうやら夢では無いらしい。
なら、どうすればいい?
これは現実で、あのデカブツは化け物だ。近寄ると何をするか解らない。だが、このままだと街を破壊し尽くし、新たな被害を生むだけだ。
止めなければならない。
でも、どうやって止めればいい?
弾は尽きた。残ってるのは、接近用のアックスとブレード。撹乱用閃光弾が二つと手榴弾が四つ。閃光弾と手榴弾は街中で使うには危険すぎるため使用は控えてたけど、この状況なら使っても問題ないと判断し。グレイズを操作する。
グレイズの腰にマウントされている手榴弾を一つ持ち、デカブツに投げつけた。
「これでも、喰らえ!」
弾丸の威力とは比較にならない威力を誇る手榴弾はデカブツに直撃し、それは爆発した。
「よしっ!」
直撃した。これなら────。
「止まるな!避けろ!」
隊長の声と同時に、何かが振り落とされた。
「え?」
それは太くて、長くて、まるで生き物の尻尾のようなものだ。それはとてつもない速度で、ジキールに向かって振り落とされる。
あっ。俺、死んだ。
避けられない。油断した。
俺って、馬鹿だな。あんなので倒せるんだったらとっく倒してるだろ。それなのに、手榴弾一発を御見舞した程度で舞い上がるなんてな。
振り落とされ、グレイズに直撃するまでの間が、異様に長く感じた。
止めろよ。早く振り降ろせよ。
なんで、こんなにも遅く振り下ろしてんだよ。早くしろ、死ぬのが怖くなっちまうだろうが。目は閉じられない、体も動かない。なのに、その一瞬をとてつもなく長く感じるなんて拷問過ぎる。余計な事を考えてしまう。あの尾でコックピットごと潰されれば、そんな事を考えられなくて済むのに。
死にたくない。死にたくない。
でも、こんなに遅く見えるのは嫌だ。避けたくても避けられない。軌道は見えてる。体が動かせれば避けられる。でも、肝心の体はピクリとも動かない。
嫌だ。嫌だ。嫌だ。嫌だ。嫌だ。嫌だ。嫌だ。嫌だ。嫌だ。
死にたくない。死にたくない。死にたくない。
駄目だ。考えるな。死を連想するな。
何も、考えるな。
……。
………。
…………。
────────────ガッン!
…………。
………。
……。
死はやって来なかった。
変わりに、何か鈍い音が聴こえてきた。
視界は真っ暗で何も見えない。
「……無事……か?」
弱々しく、かき消されそうな声。
それは隊長の声だった。
「隊……長?」
「お前は……いつも、ノロマだった。何度、言っても……何度、注意しても、そこだけは治らなかった……なぁ」
真っ暗だったグレイズのメインモニターに映像が流れ込んでくる。
そこには、モビルアーマーの鋭い尾にコックピットを貫かれ、宙に浮いているグレイズ・マイン────隊長の乗っている機体があった。
「隊、長?」
「全、小隊に、通達……」
今にも、途切れそうな隊長の声。
「臆すな。戦え……、これ以上……被害を出させるな、」
モビルアーマーはグレイズ・マインのコックピットに貫通した尾を引き抜き、先程と同じように前進した。
モビルアーマーはモビルスーツに目を向けることもなく、進行する。先程からそうだ。あのモビルアーマーはモビルスーツの攻撃を無視し、ただ、ひたすらに進行を続けている。
上官の話によれば、モビルアーマーの攻撃対象は生きた人間とエイハブリアクターを動力に稼働する機械らしい。でも、それならなんでこっちに攻撃をしてこない?
先程の攻撃。
グレイズ・マイン、正確にはジキールの搭乗するグレイズに攻撃をしてきたが、それは人間で例えると自身の周りに飛んでいる蚊を手で追い払うような行為だった。
要するに、攻撃をしてこないのは「攻撃」する必要がないから。先程の攻撃は攻撃ではなく、自身の周囲を飛んでいた虫を追い払おうとしただけ。
そう、それだけなのだ。
それでも、その攻撃を目にしたグレイズのパイロット達はモビルアーマーに恐怖する。モビルスーツはナノラミネートアーマーで覆われている。それを尾の一撃でもっとも分厚いコックピットを貫通し、貫いたのだ。畏怖して当然だ。
「クソォ……なんで、なんで!」
ジキールは、モビルアーマー目掛けて突っ込んだ。
「おい!待て、止まれ!」
「隊長の仇だッ!」
アックスを構え、モビルアーマーに攻撃を加える。
ガンッ。
アックスは弾かれ、グレイズは大きく態勢を崩した。
「この!この!この!」
それでも、グレイズは何度も何度もアックスを振り続けた。
依然とコチラを見ようともしないモビルアーマーはグレイズの攻撃を何事もないように受け続ける。
意味の無い攻撃だ。そんなので倒せるなら当の前に倒せてる。
グレイズはアックスを振り続ける。
振って、振って。
そして────アックスは砕け散った。
攻撃の手段を失った。
だが、彼は諦めなかった。
「この野郎ッ!」
武装を失ったグレイズは拳でモビルアーマーを殴った。
グレイズの拳には何の装備も付けていない。いわば素手の状態だ。それにも関わらず、ジキールはグレイズを操作しモビルアーマーを殴るのだ。
ダメージなんて期待できない。
寧ろ、素手で攻撃しているグレイズの方がダメージを追っていった。
それでも、彼は諦めない。
グレイズの拳が無くなろうと腕で殴る。
グレイズの腕が無くなれば脚で蹴る。
腕も脚も無くなったら頭突きだ。
そういう意気込みで、彼はグレイズを操る。
負けたら終わり。勝てるかなんて解らない。でも、ここで負けたら更に被害が拡大する。それだけは阻止せねばならない。
そして、その羽音(攻撃)を鬱陶しいと感じたのか、モビルアーマーはゆっくりとグレイズの方に振り返る。
「こっちを見やがれ!」
モビルアーマーの攻撃対象が、モビルスーツに移ったのだ。
「各機に通達!
モビルアーマーの攻撃対象が、モビルスーツに移った。距離を取れ、ここから離脱しろ!」
モビルアーマーは鬱陶しい蝿達(モビルスーツ)を凝視する。そして、モビルアーマーは。
「散開しろ!
殿は俺が────」
務める。そういう前に、モビルアーマーは動き出した。
目の前から、モビルアーマーが、消えた?
ジキールはモビルアーマーから一瞬も目を離さなかった。それなのに、モビルアーマーの姿はない。周囲を見渡し、確認するが、ヤツの姿は見当たらなかった。
「何処だ!?」
あの巨体だ。そんなに速く、動ける訳ない。よく探せ。よく見るんだ。
「────ギャァァァァァァ!?」
仲間の悲鳴。
後方、離脱中のグレイズのパイロットの悲鳴だ。
そこには、グレイズの腕を尾で絡ませたモビルアーマーの姿があった。
「あんな所に!?」
馬鹿な、あの一瞬で?
ここからあのグレイズまでの距離は800m程。モビルスーツのブーストなら一瞬で移動できる距離だ。だが、アレはモビルアーマーだ。その大きさはモビルスーツの比ではない。現状を見る限り、あの巨体を誇るモビルアーマーはモビルスーツと同等、それ以上の推進力を持っていると推測される。
「逃げろ!離れるんだ!」
「だ、駄目だ。機体が、機体が、動かねぇ!」
グレイズの全身はモビルアーマーの尾に絡まれていた。
あのモビルアーマーの尾はモビルアーマーのパワーでも破れないようだ。
「ソイツを離せ!」
撤退中のグレイズ数機はモビルアーマーの尾を引き離そうと接近する。
「お前達は逃げろ!
もう、ろくな武装も残ってないだろ!」
「けっ。仲間を見捨てるくらいなら死んだ方がマシだぜ!」
勇敢なるグレイズのパイロットはモビルアーマーに突貫した。
一機のグレイズはモビルアーマーに飛び移り、モビルアーマーの背中を殴りまくった。
二機のグレイズは拘束された仲間のグレイズを助けようとモビルアーマーの尾を引っ張った。
だが、それでもヤツは動じない。
絡み付く尾の力は段々と強くなっていき、グレイズの装甲はひしゃげていく。それを助けようとしていたグレイズ二機も腕を絡め取られ、身動きを封じられた。
「くっそ!なんて、パワーだ!?」
全身を尾で絡ませたグレイズはメキメキッと嫌な音を立てて変形していく。
「脱出しろ!」
「む、無理だ!。脱出装置が、作動しねぇ!?」
整備不良。いや、モビルアーマーの尾でコックピット付近を締め付けられ、作動出来ないのだろう。
グレイズは更に変形していく。
「ァ”ァ”ァ”ァ”ァ”!?
か、壁が、迫ってくる。嫌だ嫌だ嫌だ!こんな死に方────嫌だ!!!!!!!!」
ブチっ。
その音は、まるで、トマトを握り潰したような音だった。モビルアーマーは見る影も無くなったグレイズを尾で引きちぎる。
いとも容易く。割り箸を折るように。
「こんのォ!!」
腕を絡め取られた二機のグレイズは必死に足掻く。
絡め取られていない片腕で、モビルアーマーの尾を引きちぎろうとするが。
「硬ぇ!」
モビルアーマーの尾はちぎれない。
二機のグレイズの力を持ってしてもモビルアーマーの尾はちぎれないようだ。
「巫山戯やがって!」
モビルアーマーの背中に飛び移った勇敢なパイロットは怒りに任せ、グレイズを操作する。
腰にマウントされているアックスを取り出し、背中に叩き付けた。その一撃は弾かれることなく、モビルアーマーの装甲に傷を付けた。
「背中が、弱点か!」
更に一撃。もう一撃とグレイズはアックスを振るう。
だが、モビルアーマーは自身の背中に乗ったモビルスーツに目を向けることは無かった。
勇敢なグレイズは好機と判断し、更に連撃を重ねる。
しかし、それは勘違いだった。
これは好機でも何でもない。モビルアーマーは攻撃を加えてくるモビルスーツに興味が無いのだ。
離れた距離から見れば解る。
ジキールはそれを見て、あの瞬間を連想した。
このままだと、隊長の二の舞だ!
「離れろ!そのままだと────」
「うるせぇ!これはチャンスだ!
今が、チャンスなんだよ!」
ジキールの忠告を聞き入れず、グレイズはアックスを振り続けた。
「見ろよ。コイツは背面装甲がヤワいんだ。ここを攻撃してりゃあ、コイツを、モビルアーマーを倒せる!」
攻撃が通じるからといって弱点とは限らない。
それでも、背面装甲なら通じる。今まで何処を攻撃しても傷一つ付かなかったモビルアーマーの装甲にダメージを与えられる。
ここを攻撃すれば倒せると。勇敢なグレイズのパイロットは慢心しているのだ。
このままだと取り返しがつかない。
「腕を外せ!
ここから離脱しろ!逃げるんだ!」
モビルアーマーの尾に腕を絡まれていた腕をパージし、グレイズ二機は距離を取る。
「もっと離れろ!逃げるんだよ!」
「でも!今がチャンス────」
「いいから逃げろ!死にたいのか!」
そう言うと、二機のグレイズのパイロットはモビルアーマーに背中を向け、戦闘空域を離脱した。
よし。それでいい。
逃げればなんとなる。まずは生き残る事を考えるんだ。
「そこのグレイズ!お前も早く離れろ!」
「お前じゃねぇ!
グラン・マッカート二尉だ!」
俺より階級、下じゃねぇか!と思いつつも怒りを抑えジキールは。
「私は、ジキール・ストロン少尉だ。グラン二尉!モビルアーマーから離れろ!これは命令だ!」
「んなの知るか!俺は、コイツをぶっ壊すんだよッ!」
グランは完全に我を忘れていた。
ジキールの言葉に耳を傾けず、目は弱点と思われる背面装甲だけを見ていた。
他の部位より、脆い。
攻撃を加えても弾かれず、モビルアーマーは反撃もしてこない。
これは好機。好機なんだ。
グランはそう自分に言い聞かせ、無我夢中にグレイズを操作する。
余計な事は考えるな。ここはヤツの弱点だ。攻撃し続けろ。そうすればコイツをぶっ壊せるんだ。
モビルアーマーは微動だにしない。
攻撃を避けようとせず、自身の背中で暴れ回っている(飛び回っている)蝿を無視した。
「変だ……」
距離を置き、少し離れた地点からモビルアーマーを見ていたジキールは呟いた。
先程まで、モビルアーマーはモビルスーツには興味を示さず、攻撃しても、反撃する事は無かった。だが、攻撃を加え続け、モビルアーマーも流石に鬱陶しいと感じたのか反撃してきた。そしてヤツは攻撃対象をモビルスーツに移した。だが、今のヤツはどうだ。
一方的に攻撃され、反撃することなく、その場に立ち尽くしている。
コイツはどういう仕組みで動いているんだ?
モビルアーマーは殺戮を目的に造られた兵器だ。生きた人間とエイハブリアクターを積んだモビルスーツのみを攻撃対象とする。
話によれば、モビルアーマーの最優先攻撃対象は人間で、モビルスーツは二の次らしい。モビルスーツも攻撃対象に含まれているらしいが、それよりも優先すべき対象は人間。モビルアーマーの狙いは、あくまで人間なのだ。
「まさか、生きた人間を探してるのか……?」
この街の人々も、そろそろ避難を終える頃だ。今、まとまった生きた人間をモビルアーマーが見つければ、どうなる?
考えるまでもない。
モビルアーマーの目はコチラを向いていない。
ということは今の攻撃対象は────。
「グラン二尉!
ソイツをそろから一歩も進ませるな!」
まずい、避難が完了するということは人が密集しているということだ。
もし、そこを発見され狙われれば……。
「ソイツは生きた人間を探している!
反撃してこないのは、それが理由だ!」
モビルアーマーが、避難を終えた人々を見つける前に攻撃対象をコチラに戻す。
「だから────」
「じゃぁ、俺が囮になればいいんだね」
モビルアーマーの遥か頭上。
それは降ってきた。
「────────ッ!?」
白い、モビルスーツだった。
それは地球の日本という国で造られた大刀と似た形状をした剣を下に突き出し、モビルアーマーの装甲を貫通した。
「ねぇ、俺はどうすればいいの?」
後書き
颯爽と現れて、人々の窮地を救う。そんなヒーローになってほしいん。
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