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グランドソード~巨剣使いの青年~

作者:清弥
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最終章
最終節―全ての救い―
  ”元世界神”の成り立ち

「終わった…か」

 これにて、3年もの人たちにとって長い…世界神()にとっては短い遊戯は終わった。
 残るのは絶望する生命を終わらせるだけの“片付け”のみ。

 ―あまりにあっけないねぇ。

 欲を言えば、もう少し遊んでいたかった。
 けれどあれ以上は待てない、待てば下手をすれば彼は“気付く”だろう。
 もし気付いてしまえば世界神()は、ほぼ確実に負けてしまうのだから、遊ぶのもあそこが限界だったのだ。

「それにしても、“元”世界神も用意周到だよ…本当に」

 二度と“自分と同じ存在”を生まれさせない為とはいえ、ここまで仕込んでいるとは初め僕も思わなかった。

 ―結局、僕がトリップ…いや、“憑依した”彼らに与えた“アレ”は元世界神が用意した枷を視覚化しただけだからね。

 “アレ”がある限り、“世界神に敗北はありえない”。
 そういう風に世界が作られているからだ。
 彼らが本来の意味で“人間の器”に在ることが無い限り神は殺せても世界神()は殺せない。

 ―本当、僕以上に心配性…というよりこれはもう卑怯(チート)だよ。やってて最初は楽しいけどつまらない。

 全能感が楽しめるのは最初だけ、その後に来るのはどう足掻いても自身に追いつく者はいないという“諦め”だけ。
 だからこそ世界神()に追いつきそうな可能性のあるソウヤ君には驚かされたし、予想以上に楽しめることが出来た。
 けど、やっぱり――

「――やっぱり、“アレ”に気付かれるのは不味いからね」
「――“アレ”って何だ…ウィレスクラ?」

 ――――。
 驚いた、まさかまだソウヤ君が生きているなんて。

「まだ生きていたんだね、ソウヤ君。やっぱり身体能力が生物を止めると、生命力も並みじゃない…っていうことかい?」
「あぁ…多分、な」

 僕が血の海で倒れこんでいるソウヤ君に目を移すと、その姿の醜さに吐き気が込み上げてくる。
 四肢を支える骨や筋肉は粉砕しているのか、関節が変な方向を向いているし、両耳は剥がれ両目は潰されていて血しか見えない。

「そんな状態じゃあ、生きているだけ苦しいだろう?」
「いや…そんな、ことない…な。痛み、も…ないし、不幸中の、幸い…で、脳と発音機能は、生きてる、し…な」

 聞くに堪えないほどの震え、途切れ途切れの小さな声に僕でさえ同情を覚える。
 不幸中の幸いで…と言っているが、彼の姿はすでに生物としての形を成していない。
 ただ脳と発音機能のある肉塊であり、生物だと言うのもおこがましいと思えるほどだから、彼の姿は本当に酷かった。

 それでも、彼は笑う。

「本当、幸い…だ、よ。喋れる、てことは…“詠唱”、出来、るって、こと…だから、な」
「“詠唱”…?ソウヤ君それは――」
「――『空間操作』」

 ただの肉塊となったソウヤ君が発するのは、MPが無くなり使えなくなった『空間魔法』を使えるようにランクダウンした能力(スキル)

「やっぱり、キツイ…か。なら…“拒否する”」
「――――」

 この時、僕は気付いた。
 気が付いてしまった…彼が為そうとしていることに。




「無理に決まっている!そうだろう、ソウヤ君!?」

 誰かが叫ぶ声が、ノイズが掛かったようになってソウヤの耳に届く。
 ウィレスクラだと確認するまでもなく分かった。

「駄目、か…“拒否する”」

 現在ソウヤは『空間操作』を“すべてを拒否する力(人間)”で能力の全開を底上げして“あるもの”を探しているが、中々見つからない。
 というより、“見つかる場所まで届かない”と言った方が正しいだろう。

―警告:スキル『空間操作』ではそこまで到達できません。今すぐ止めてください―
「“拒否する”」

 このように少し“世界を超えよう”とするだけで、警告が出てしまうのだ。
 本来なら強制終了させられるのだろうが、そこはソウヤが無理やり“すべてを拒否する力”で起動、再度底上げしている。

―警告:スキル『空間操作』ではそこまで到達できません。今すぐ止めてください―
「“拒否する”」

―警告!:スキル『空間操作』ではそこまで到達出来ませんでした。―
―    今すぐ強制終了します!               ―
「“拒否する”」

―※警告!:スキル『空間操作』ではそこまで到達出来ませんでした―
―     今すぐ止めなさい!―
「“拒否する”」

―警告!警告!警告!警告!:今すぐ止めてください!―
「“拒否する”…!」
―警告!警告!警告!警告!:今すぐ止めなさい!―
「“拒否”…“拒否する”!」

―今すぐ止めろ!―
「“拒否する” “拒否する” “拒否する” “拒否する” “拒否する” “拒否する” “拒否する” “拒否する” “拒否する” “拒否する” “拒否する” “拒否する” “拒否する” “拒否する” “拒否する” “拒否する” “拒否する” “拒否する” “拒否する” “拒否する” “拒否する” “拒否する” “拒否する” “拒否する” “拒否する” “拒否する” “拒否する” “拒否する” “拒否する” “拒否する” “拒否する” “拒否する” “拒否する” “拒否する” “拒否する” “拒否する” “拒否する”」

 ソウヤの体中に限界を示す負荷が掛かる。
 だが、外的要因(痛み)では止めることはできない。
 ――何故なら、とっくに痛みは感じないのだから。

 ふと、何かの電気コードが切れる音がした。




 ――気付けばそこに居た。
 感じる体温は懐かしく、感じる空気も懐かしい。
 だが、懐かしさもあるがそれ以上に昔との違和感が凄かった。

「そりゃ、当然だよな」
「ソウヤ君…まさか、君は――!」

 目の前に、驚愕で顔を固めたウィレスクラが“見える”。
 この身体の周りを漂う空気を“感じる”。
 声を少し荒げているウィレスクラの声が鮮明に“聞こえる”。
 長年飲み物を口から飲んでいないせいか気持ち悪い“味を知れる”。
 久しぶりに感じる空気の匂いを“嗅げる”。

 あぁ、ようやく――

「――ようやく、初めて“この目”で“この耳”で“この鼻”で“この口”で“この肌”で…“この体”でお前と会えたな、ウィレスクラ」
「“本当の”斑斗蒼也…!」

 神殺しの為の力…“すべてを拒否する力”は種族を人間にするスキルだった。
 “拒否する力”というのは、“人間”になる前提条件にまずは“妖精”であることを“拒否”する必要があったから、得た力だったのである。
 つまり、それは今までのソウヤ…否、蒼也の体は“借り物”だったということ。

「種族が人間になった時から、俺は確かな“違和感”を持っていたんだよ」

 元の人間に戻ったはずなのに、何かが違う。
 元の人間になったはずなのに、何かおかしい。
 ずっと蒼也は感じていた。

「今になってその違和感の理由がわかる」

 当然だ、16年もの間共に生きてきた体の感覚を忘れるわけがない。
 精神的なものでもあったが、それ以上の視覚的なものでも大きな理由があったのに、蒼也は気付けなかった。

 蒼也は手を空に持っていくと、3年間使い続けた単語を唱える。

「“ステータス”」

 しかし、その指先からは何も現れることは無かった。
 それを確認して蒼也は「やっぱりな」と笑う。

「お前の言った“アレ”、ここまで確認してようやくはっきりわかったよ。仮定から確信に変わった…って奴だな」
「…どうして“地球にある身体”と“妖精だった身体”が違うと、わかったんだい?いや、それ以前にどうしてその“選択”が出来る…!」

 ウィレスクラの真剣な表情の問い…というより確認に、蒼也は「なんだ、そんなことか」と両肩を上げる。

「お前にソウヤ()の身体を肉塊にされて、残ったのが脳と発音機能、んで辛うじて機能した聴覚だけだったからな。今まで感じてきた違和感を振り返っていたんだよ」

 そうして、見つけたのが大きく分けて3つの“疑問”だった。
 蒼也はそう付け足すと、人差し指をウィレスクラに向けて見せる。

「1つ目、“何故、人間だけは鎖につながれなかったのか”。世界が大体何百、何千以上とあって地球のある世界だけ、なんで鎖につなげなかった?」
「…試したかったんじゃないのかい?鎖が無ければどこまで成長できるのか」

 蒼也の感じた疑問に答えるウィレスクラ。
 そう、誰もが最初はそう結論付ける…否、そう結論付けられていた。

「じゃあなんで“複数の世界”で行わない?アルティマースは言っていた、“地球のある世界の生物だけ”とね」

 だから蒼也は“神殺し”の力として人間になることを選んだ(正確には選んだ…というより割り振られたのが正しいが)。
 その結果、ソウヤの体は確かに神殺しの力を得る。

「2つ目、“何故他の世界には名前があるのに地球のある世界だけないのか”。妖精の世界には名前があった、他の世界にもだ。なら何故“地球のある世界”は無い?」

 その問いに答える術をウィレスクラは持たない…いや、話せない。
 元々その問いを持たせない為に、妖精の世界の住民に“世界の名”を与えなかったのだから。

「というより、なんで地球が中心みたいな呼び方してる?確率論的に考えて、広大な宇宙の中には地球以外にも生命体が住む惑星は多くあるはずだ。当然、人間よりも高いレベルの生物が居たっておかしくない」
「――――」

 答えることが出来ないウィレスクラに蒼也は確信を得たと笑う。

「答えないなら最後、3つ目の疑問だ。“何故全世界の管理を任された神の名は、地球にある神話と同じ名が多いのか”。実質、全世界の管理を行える神の中で、地球の神話と違う名前は、前世界神を喰らったお前だけだよ…“ウィレスクラ”」

 もう、ウィレスクラが答えなくても“答え”は得たも当然だった。
 1つ1つが違う疑問として考えたら、一生答えなんて出なかっただろう。
 けれど、その3つの疑問を1つとして考えたらすぐに答えなんて出てしまったのだ。

「なぁ、ウィレスクラ。“神が地球のある世界を生み出した”んじゃないよな?“世界の中の地球が神を生み出した”んだろ?」
「――――!」

 本来の神話と逆説的な答え。
 地球で出来た信仰によって生まれたのか、それとも別の方法で生まれたのか定かではないが、地球の生命によって“神”は生まれた。

「それが、“元世界神”。地球で一番有名な世界神、最高神…そうなれば答えは誰かはっきり判る。だろ?“デウスを喰らった神”?」
「…あぁ、正解だよ。蒼也君」

 ギリシア神話から生まれ、今や地球で知らぬ人は殆どいないゼウスと同じ語源…『天』の名を持つ神。
 全ての神の終局点であり始局点でもある。
 それが“全て知り全て能う存在(デウス)”。

「そう、元世界神であるデウスは地球で生まれた。“人間”としてね」
「…流石にそこまでは予想出来ないな」

 人間として生まれたデウスは、生まれた瞬間から圧倒的な才能に恵まれた存在だった。
 7歳にして大人でも戦いで敵う者はいなくなり、10歳にして竜を素手で殺した。

 その頃の地球は、“魔力”があり“魔法”があったらしい。
 圧倒的な才能を持つデウスはそこでも天才ぶりを発揮し、5歳で誰も扱えなかった天からの鉄槌…すなわち雷を扱えるようになる。

 他の者とは“格”が違うと言わんばかりの異能っぷりに、人々は彼を“神”と敬うようになった。
 その信仰によって生まれたのが“デウス”、最上位の“天”の位を持つ最高神。

「地球から生まれたんだから、その世界に名前を付ける“権利”が彼には無かった。だから地球のある世界には名前が無い…か」
「あぁ、地球から出来た神だから君たちの神話には残っている」

 そうして地球で成長し地球で成した神だからこそ、地球に“鎖”を結ぶ“権利”がなかった。

「これが彼…“全て知り全て能う存在”と呼ばれた神の成り立ちだよ」

 デウスは人間として生まれ、有り余る才能を十全に使い神となった。
 そして彼は神となった後も何かを成そうと動き出す――。 
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